368話 ラストバトルは終わるのかなっと
爆発するユグドラモスマン。腐食の力を備える棘によりその身体は溶けていき、爆発の能力も隠していた棘が爆発すると四散していく。
だが、ミサイルの雨となっていた棘群も迎撃されたことにより、ほとんどが消えていく。
「といやー」
美羽は気合いの声をあげて、ユグドラシルバグへと突撃する。爆炎と爆煙、四散したユグドラモスマンの肉片が散らばる中で、神気の剣を構える。
爆煙の中を通過すると、大口を開けて黄金の光を放ち始めるユグドラシルバグが目に入る。どうやら息吹を吐こうとしている模様。
神無月はユグドラシルバグの後ろへと回り込んでいる。盾にでもするつもりなんだろうけど無駄だ。
「ギミックは破壊して突き進むっ!」
『一閃』
手元を捻り、神気の剣を空へと伸ばすと、閃光の一撃を放つ。全長500メートルの巨体に縦に光が奔っていく。
「ウォォ……」
ユグドラシルバグの身体はズルリとずれて、血を流すこともなく、綺麗な断面を見せて二つに分かれていった。
二つに分かれていくユグドラシルバグの隙間へと飛び込み、神無月を追う。真っ二つにされた虫の中を飛ぶが、虫の内臓は気持ち悪いなぁ。なんかうねうねしてるよ?
「ととっ」
魔法の力をユグドラシルバグの身体の向こうから感じて、木の葉のようにふわりと身体をずらす。
『烈火豪撃』
ユグドラシルバグの身体が真っ赤になると、内部から破裂するように、巨人をも覆い尽くすであろう太さの炎が突き破ってきた。超高熱の炎はユグドラシルバグの身体を突き破っても威力を減衰させることなく、空間を貫いていく。
美羽の場所が見えているのか、炎の火線は移動した先にあるユグドラシルバグの胴体をも突き破って飛んでくる。
何本もの炎の柱が火線となって襲いくる。反対側から神無月が炎を放っているのだ。
「反撃されないと思ったら、大間違いだよ!」
巨体を盾に貫通攻撃とは、少しは考えているが甘い。人差し指をユグドラシルバグへと向けると魔法の力を瞬時に集めて解き放つ。
『神氷』
チラチラと淡雪が人差し指から放たれると、ユグドラシルバグへと飛んでいく。触れれば溶けてしまう小さな雪の結晶。
だが、ユグドラシルバグは触れた箇所から凍っていった。たった一粒の雪の結晶により、その身体は氷塊へと変貌するのであった。
神無月の炎は凍りついたユグドラシルバグを貫くことはできないのだろう。炎がユグドラシルバグを貫くことはなくなる。
「これで終わりじゃないぜ! ゲーム仕様の美羽の力を思いしってね!」
凍りついたユグドラシルバグへと、ちっこい手をつけると、ふぅと息を吐く。
「といやー」
『石火』
軽くユグドラシルバグを押すと、その巨体は残像すら残さずに飛んでいった。そして、反対側にいる神無月に命中する。
「グヘェ」
豚のような悲鳴がユグドラシルバグの向こうから聞こえてきた。
「ふふん、『石火』は忍者の初期投擲技だけど、ゲームバランスブレイカーだったんだ。なにしろなんでも投げることができる武技だったからね!」
自分のステータスが加わる投擲攻撃。しかも一見弱いアイテムでも大ダメージを与えることができる武技だったのだ。
レベルがカンストしたら、豆腐を投げても敵を倒せたんだ。発売後の攻略サイトにこのことが載って気づいた。あ、これ設定ミスったよと。
まぁ、皆楽しんでいたから、別に良いよねと気にしなかったけど。レプリカ神槍『クングニル』で9999ダメージも出るのだ。まぁ、作れないから希少な所は本物と変わらなかったけどね。
『爆炎』
神無月の声が聞こえると、ユグドラシルバグが炎にまかれて爆発する。
轟音が響く中で、炎の中から般若のように顔を歪めた神無月が現れて、美羽を睨んでくる。
「この、このちびがっ! 胸もないし、背も低い。特殊性癖を持つやつにしか好かれないブスがぁっ!」
「まだ中学二年だからね。成長期はもう少し先なんだよ!」
「はっ、雑魚の言い分ごくろーさん。それじゃ私はどうなの? 女の成長期はもう終わりなの。周りを見たことあるぅ〜? ザーコザーコ」
「違うもん。明日辺りから誰もが見惚れる美女になるんだもん!」
わざとらしく胸を押し上げて、嫌味に言ってくる神無月に、俺の意識を突き飛ばして、みーちゃんの意識が文句を言う。
ぷんすこ怒って、口を尖らせて地団駄を踏んじゃう。なんて失礼な娘なんだ。みーちゃんはとっても怒ります。
『こら! 戦闘中だ、あれは挑発だって!』
『明日から毎日エンシェントカウのミルクを飲みます!』
『牛乳を飲めば胸が大きくなるのは迷信だ』
『ガーン』
ショックを受けるみーちゃんの意識を奥底に仕舞って、気を落ち着ける。
「しょうもない悪口しか言うことはできないのか、神無月?」
『魂覚醒』
『神意』
『太陽炎』
『太陽炎』
『融合しました』
『太陽龍』
左手をくるりと翻して、バッと掌を向ける。魔法陣が描かれると光り輝く炎の龍が神無月へと放たれる。
空間は超高熱により燃えだして、途上のユグドラシルバグの破片は触れてもいないのに灰となっていく。
「クソガキッ! 舐めないでよねっ!」
『獄氷蔦』
神無月も対抗して、氷の蔦を生み出す。禍々しい漆黒の氷は『太陽龍』の前に広がりその炎を受け止める。
炎と氷がぶつかり合い、水蒸気が発生し視界が霧で覆われる。魔力が宙に撒き散らされて、敵の魔力も気配も感じられなくなり、お互いに姿を見れないが問題はない。
ゲームでは、霧の中でも命中率がダウンするだけで、敵はターゲットとして三角印でマークされているのだ。ゲームシステムサイコー。
「見えているぜ、神無月!」
神気の剣を引き戻し直剣へと戻すと、空を蹴って神無月へと向かう。
「てーい」
「ガァッ」
霧の中にいる神無月へと袈裟斬りの一撃を叩き込む。神無月の肩から鮮血が吹き出し、苦悶の顔で身体を仰け反らせる。
「お、オーディーンの後ろに隠れる鳥のような雑魚のくせにっ!」
「ぴよぴよっ!」
悔しげに顔を歪ませて、神無月が刀を振るってくる。
『乱刃』
ヒゥと風切り音をたてて、神無月は連撃を繰り出してくる。光の軌跡が奔り、美羽を切り刻もうとしてくるが、その技への対抗策は知っている。
『光剣展開』
神気の剣を光らせて、迫る神無月の刀に合わせる。刀の先端に剣をちょんと合わせて軌道をずらす。神無月は僅かに体勢を崩すが、気にせずに次々に攻撃を続けてきた。
その全ての攻撃を前に、美羽は剣を合わせる。刀の先端にちょんちょんと剣をぶつけて、段々と神無月の体勢をずらしていき、遂にその攻撃をあらぬ方向に向けさせた。
美羽を前に、まったく違う方向に刀を振って、神無月は顔を引きつらせる。そうだろう。驚いたよね。『光剣展開』は物理多段攻撃を受け流す武技なんだ。
「ア、アタシの武技がっ」
「その攻撃で三者三振スリーアウトだ! そんでこれは返礼だあっ!」
『神気乱刃』
体勢を完全に崩した神無月へと、お返しに乱撃で返してやる。キキキィンと金属音が響き、神無月の纏う魔導鎧の装甲を切り裂いていく。
鮮血が噴き出し、血の霧が舞う中で苦しげに神無月は後ろへと下がる。
「く、クソガキッ、雑魚があっ! アタシの最強魔法で死になっ!」
宙にて止まると、怒りへと顔を変えて神無月は全身に魔法の力を巡らせる。周囲の空間に瘴気を発生させて、己の力を両手に集めていく。
「人間如きがっ! ただのアタシの道具。消耗品の癖にっ! 死の国の女神の力を受けなさいっ!」
『死者世界』
神無月が魔法を発動させる。瘴気の世界が神無月を中心に広がっていく。周りにいたユグドラシルバグやユグドラモスマンたちは、その瘴気に触れると瞬時に老化して身体が崩れていった。
触れるだけで即死する奥義。ヘルヘイムの死者のみしか存在できない神域『ニブルヘイム』だ。
「死ねえっ!」
得意げに吠える神無月。たしかにたいした威力の魔法だ。感心しちゃうよ。
「でも、美羽とは相性が悪い!」
神気の剣を空へと放り投げると、か細い両腕を水平に広げる。
「死をも喰う鳥さんの力を見せちゃうよ!」
ヒュウと呼気を吐き、魔法の力を身体に巡らせる。己の中心にある力を引き出して、ふんふんと鼻を鳴らす。
「ぴよぴよっ!」
『フレースヴェルクの風』
かっこいい鳥さんの鳴き声をして、両腕をパタパタと振るう。白金の粒子がキラキラと舞う風が巻き起こる。そよ風のようにそよそよと風が吹き、『ニブルヘイム』の瘴気へと触れる。
瘴気は風に触れると消えていき、相殺することもできずに浄化されていった。
そうして、神無月へと『フレースヴェルクの風』は吹いていき、その身体を通り過ぎていく。
「ご、ギャァァァ!」
神無月の身体は浄化の風に触れると燃え上がり、悲鳴をあげて苦しみもがく。
「な、なんで? なんでアタシの力が! 絶対の死の力がァァっ!」
「勉強不足だな、神無月! フレースヴェルクは死を呑み込む鳥さんだ。すなわち!」
落下してきた神気の剣を受け止めると、大きく振り上げて、力を込める。
「死の魔法を使うお前では勝ち目はないんだ!」
『神気の剣撃』
振るった一撃に、慌てて神無月は刀を構えて受け止めようとする。だが、刀の耐久力じゃ『神気の剣撃』は防げない。せめて盾でないとね!
神気のオーラを纏う剣を受け止める神無月の刀。だが、ガラス細工のように刀を砕いて、左肩を大きく切り裂く。
「追撃だっ!」
くるりんと体を回転させると、腹に蹴りをたたきこむ。くの字に折れた神無月の頭に、脚を引き戻してからの踵落としを喰らわす。
「ギャァァァ」
悲鳴をあげながら、神無月は落下していき、『アースガルド』の甲板へと激突し、身体を跳ねながらゴロゴロと転がり地に伏せる。
いつの間にか『アースガルド』の前まで移動していたらしい。神無月はピクピクと身体を痙攣させて蹲っている。
『……予想よりも弱いな』
『過大評価していたみたい』
相性の問題もあるが、神無月は弱かった。力はたしかにあるが、技も戦闘センスもない。
『これなら鍵を使われる前に倒せるか』
『そうだね! えっと、いべんとてんてん神無月をたおしおう』
『俺の作ったシステム補正をかけろって。それよりもここで倒して終わると、鍵は使われずに『完全同期』にも支障があるな』
『巣の中でぬくぬくするから大丈夫! 倒しちゃおう! いべんとてんてんえんでぃんぐへむかおう』
ウキウキした声で答えてくるので苦笑してしまう。困った甘えん坊だ。俺と別れたくないんだな。
だが、敵の正体がわからなくても別に良いか。もう少し一緒にいても良いだろう。
「それじゃトドメだよ」
神気の剣を天へと振り上げて魔法の力を巡らせる。もはや対抗する力はあるまい。
「ひっさーつ、神気ちょーりゅー」
最大奥義で倒そうと振りかぶるが
「ま、待ってくれ。待てよ灰色髪ちゃん!」
倒れ伏す神無月の前に勝利が庇うように立ちはだかった。
「ほら、神無月はヒロインだぜ? きっと操られているんだ。もうこの辺で良いだろ? 助けてやろうぜ」
マジかよ。こういう展開は望んでなかったよ。




