365話 そろそろ決戦なんだぞっと
「て、敵、射程範囲にあと20分で入ります」
「ブリッジ開放。第5戦闘態勢にしてください」
「了解です。ブリッジ前面オープン。戦闘態勢」
フレイヤの報告に、きりりと顔を引き締めて美羽は指示を出す。
「みー様、第5戦闘態勢とは?」
「なんとなく気分だよ! かっこよい言い回しだよね!」
闇夜がコテリと首を傾げて聞いてくるので、正直な美羽は誤魔化すことなく素直に答えます。
ガコンとブリッジの前面がせり上がり始める。外の世界から風が流れ込み、美羽の灰色髪がパタパタと靡く。
なんでブリッジが開くかというと、甲板に飛び出て戦闘するからです。戦艦砲よりも人間の方が強いからね!
壁面が開き始めると、散歩だねと尻尾をブンブン振って、リルが鼻面を開き始めた壁の隙間に押しつける。外の匂いを感じて、散歩だと大興奮しているらしい。
「ヒャンッヒャンッ」
「わんわんっ」
「わうわうっ」
無理矢理身体を隙間に滑り込ませると、リルがいの一番に外へと出ていった。ゲリとフレキが後に続く。神様どころか、野生の本能すらなくしたいぬたちであった。
その様子を可愛いなぁと見ながらも、美羽は闇夜たちに気になることを問いかける。
「闇夜ちゃんたちは、よくみーちゃんが空中戦艦に乗ることがわかったね?」
「今日遊ぶ約束をしていたじゃないですか。そしたら、門の前で着ぐるみを配っているアリさんがいたんです。それで、お菓子と引き換えに貰えました」
「私もちょうどその場に合流できたので、着ぐるみを貰ったんです」
闇夜がむふんと興奮気味にカメラを連写しながら答えてくれて、聖奈は頬に人差し指をちょこんとつけて、可愛らしい笑みで教えてくれた。
「そういえばそうだった! 遊ぶ約束してたや」
うっかりさんだったと、ポムと手を打つ。忘れてたや。というか、アリさんは簡単に買収されすぎでしょ。
「ところで、この戦いはなんだよ? 説明しろよ。『魔導の夜』にこんなストーリーはなかったぞ?」
声を荒らげて、遂に言ってはいけないことを口にする赤毛の少年。その様子からだいぶ『魔導の夜』に詳しいことがわかる。
「だいたい神ってなんだよ? 闇夜は転生者だから知ってるんだろ。僕にわかるように説明しろよな!」
「転生者? 転生者ってなんでしょうか?」
「な、なんだよ。お前は転生者だろ! お前が灰色髪ちゃんを助けたことから全ては変わったんだぞ?」
不思議そうにコテリと首を傾げる闇夜。遂に言ってはいけないことの二番目を口にするアホの子。混乱してわけがわからなくなっているらしい。判断力はどこに置いてきたのだろうか。
「みー様を助けた?」
「あぁ、幼稚園の時だ! 鷹野美羽は本来は死んでたはず。それをお前が助けたんだろ?」
「………幼稚園の頃と言いますと……。あぁ、みー様が私を命懸けで助けてくれたみー様メモリアルデーの日のことですね」
「は? ……えぇ……お前が助けたんじゃ……え? もしかして灰色髪ちゃん? だって名前すら聞いたことがないぞ?」
ここに来て、闇夜の返答を聞いて勝利は真実に近づいたらしい。ようやく気づいたんだねと答えたいが……。
「転生者って、輪廻転生の転生者? 私は転生者じゃないよ」
「マジかよ! えぇっ? なにがどうなっているんだ? 神たる僕にわからないことがあるのか?」
ケロリとした顔で答えてあげる。嘘はついていない。本当のことだ。全ての記憶を取り戻した今は俺が転生者ではないことを思い出している。
その答えに、もはやなにがなんだかわからないと、混乱する赤毛の少年だが、ペチリと頬を聖奈が叩いた。
「よくわかりませんが、勝利さんが神でないことと、わからないことがたくさんあることは知っています! 今はそれどころではないんですよね、みーちゃん?」
「うん! 皆は危険だから隠れていて……とは言わないよ。簡単に言うと悪い神様を倒す戦いだね! そして、皆にはこれをプレゼント! 3分待って!」
本当はアイテムボックスから取り出したいが、用意すらしてないので、『機工士』の力を使う。ゴゴゴと両手を光らせて、四丁あがり!
「それぞれに魔導鎧を作ったから着替えて! 武器も用意したよ」
「ありがとうございます、みー様!」
「すごーい。こんなに力を感じる魔導鎧は初めてだよ〜」
「国宝級どころか、神話級というやつですね」
「なぁッ! こんな短時間にお前チート持ちだったのか!」
闇夜たちは驚きの表情をしながらも急いで作った魔導鎧に着替える。もちろん玉藻が視界を防ぐ木の葉の壁を作ったよ。それと、勝利うるさい。
皆が着替えている間にこちらも準備だ。
「こいっ! 儂の愛馬『スレイプニル』!」
オーディーンが愛馬を呼び出して飛び乗ると、グングニルを手に持ち外に颯爽と駆け出す。スレイプニルいたのか……。人参さんを今度あげようっと。
「ふふっ、最終決戦なんて楽しそうね。それじゃ私も最終決戦用魔導鎧『黄金宮』を使うとするわ」
パワードスーツのような大型魔導兵器に乗り込みながら、フリッグが楽しそうに笑う。ピンク色の装甲で、サブマシンガンを腰に下げ肩にはキャノンを取り付けてあるパワードスーツである。
スラスターを吹かせて、オーディーンの後にフリッグが続くと、フレイヤも同じような機体をアイテムボックスから呼び出していた。
「そ、それじゃ、私も最終決戦用魔導鎧『ヴァルキリー』で行きますね」
スカートタイプの大型魔導鎧にフレイヤも乗り込む。分厚いタワーシールドを装備しており、かなりの重装甲だ。片手には騎士槍を装備している白銀の鎧であった。
フレイヤが外に飛び出していき、最後はヘイムダルである。
「ねぇ、レディ? なんで皆は最終決戦用兵器を持っているんだい? 僕は用意してないんだけど?」
「グループダインで、それぞれ用意しておいてねと言ったじゃん」
「グループダインなんてあるの!? 僕は知らないよ。そのグループに僕は入ってる?」
「もちろん入れたよ。私、オーディーン、フリッグ、フレイヤ、アリさん、グーちゃん、ぽよりん、いぬ」
「入ってない! 入ってないよ。なんで犬も入れて僕は入れてないわけ!」
あ、入れてないや。失敗失敗。でもなんで入れてないんだっけ、おかしいな……。
「そういえば、思念通信用バングルを買ったら教えてと代金のお金を渡したままだったね」
「ヘイムダル、ここに参る! うぉぉぉぉ!」
ジャージ姿のニートダルは、なぜかジャージ姿で走り出していった。通信バングル代金を使い込んだな、あの駄目ニート。
それじゃ、最後に皆を呼ぼう。
「グーちゃん、外で待機していて!」
「くえーっ」
魔法陣が描かれると、勇壮な姿のグリフォンが姿を見せて、雄々しい鷹の翼を大きく広げて外に向かう。
「アリさん、戦艦の護衛をよろしく!」
「チチチチ」
戦艦の護衛はアリさんだ。『聖騎士』スキルで守ってほしい。
「ぽよりーんっ! 最後は君に決めた!」
「ぽよーっ」
ダイヤモンドの身体を輝かせて、ぽよりんが魔法陣から現れる。すぐに命令を出す。
「ぽよりん、『アースガルド』を装備して!」
「ぽよっぽよっ」
ぽよりんはぽよんと一度跳ねると、身体がどろりと溶けていき、床に染み込んでいき、『アースガルド』と融合していった。あ、装備だよ、装備。
これで『アースガルド』は、ぽよりんのステータスが反映されて、無敵の装甲と、途轍もない火力を持つ戦艦へと早変わりした。
『パーフェクトアースガルド』の完成だ。戦艦を装備できない?
いやいや、ゲームだとマシンとかはなぜかプレイヤーのステータスが反映されるよね。なので問題はありません。問題はダイヤモンドの装甲となったので、齧りつこうとする女神を防ぐだけです。
外に出たオーディーンがダイヤモンドドラゴンや他の属性ドラゴンたちを召喚し、フレイヤが手持ちの飛行タイプの魔物を取り出している。機械人形タイプなので、ロボットに見えるや。
「みー様、お待たせしました!」
てててと闇夜たちが走ってきて、そばに来る。
「ここからは激戦なんだけど……隠れていても良いよ? その魔導鎧なら隠れていたら助かると思う」
「馬鹿なことを言わないでください。みー様を助けて戦うんです。こんなに嬉しいことはありません。これからも一生そばにいますからね?」
「そうそう。置いていかれたら泣いちゃうところだったよ〜」
「今までの恩を返す……いえ、親友を助けるのは当然のことです」
「やれる……僕は今最強になった! 任せておけよ、灰色髪ちゃん!」
「ありがとう皆! この戦いが終わったら、ホーンベアカウをご馳走するね!」
皆が笑顔で頷き、外へと出ていった。自分だけとなり、少し静かとなる。
『射程まであと5分だよ』
『オーケー』
アイテムボックスから、装備を取り出す。蛇腹剣である『神気の剣』、そして無敵の耐久性を持つ『ヤールンクレグイプニル』。
身体に魔法の力を巡らせて、長く深呼吸をする。少しだけ昔のように俺の意識を表層に出す。
『この戦いが終わったら『完全同期』も終わるだろう。やはり鍵は使われるみたいだしな』
あんだけ防いだのに勝利はやってきた。本来ならば気配とかで気づくはずなのに合流してしまった。敵の『運命』はなにがなんでも勝利を使う気らしい。
なので使われた後のことを考えることにする。
『そうだね。私の観測からの未来予測でも使われると予想されているよ』
『だよな。それならば全てが同期できるだろうよ………』
『うん、全てが同期されるよ。でも大丈夫! 人間として生きることを決めたからね!』
システムさんの元気の良い返答に、クスッと笑う。相変わらず元気で良い。
『ならば、この戦いが終わったら、鷹野美羽は巣立ちの時だ。そろそろよちよち歩きの雛から、外に飛び出すときだな』
『……………』
外へと向かい始めながら、思念を送るが返答がなかった。
そのことに苦笑をしながら、ブリッジから外に出る。
薄暗い空はどこまでも続いており、正面遠くには無数の魔物の群れに守られた黄金樹が見える。
皆は美羽へと視線を向けて、合図を待っている。
鷹野美羽としての人生で集めた多くの友人たちだ。それぞれ気負うことなく、戦いに備えている。
よいだろう。これが俺の集大成だ。失敗はできないし、するつもりもない。これが美羽にできる最後の手伝いとなるだろう。
セーブのない世界だが、それこそが現実だ。
「では、戦闘を開始しますっ!」
ちっこい手をあげて宣言する。『終末の日』に勝つのは美羽たちだ。
全ての記憶を取り戻した。なぜ美羽となったかも思い出した。
本物の神様と戦えるなんて、ゲームプログラマーとしてこれだけ嬉しいことはない。
俺の作ったゲーム仕様。原作者よ、たっぷりと味わってくれ。
原作をガン無視したのは伊達じゃないところを見せてやるぜ。




