356話 エピローグ?なんだぞっと
「美羽様、朝ですよ」
ゆさゆさと身体を揺すられて、ふわぁとみーちゃんは目を覚ました。自室のキングサイズベッドにて、みーちゃんはすやすや寝ていたのだが、起こされたみたい。
「おはよ〜、蘭子さん」
目の前にはメイド服をかっちりと着込んだ蘭子さんがベッドを覗き込んでいた。こしこしと目を擦って、みーちゃんは素直にお布団から抜け出そうとする。
でも、みーちゃんを止めるものがいた。
「たいへん! うさぎさんやライオンさんがみーちゃんをお布団から出そうとしないよ!」
うさぎさんがスンスンと鼻を鳴らしてしがみついてきて、ライオンさんが袖を甘噛みして止めてくるのだ。なので、出られない!
仕方ないので、もふもふのぬいぐるみを抱き寄せて、みーちゃんはお布団に潜り込みます。おやすみなさーい。
「それは夢ですよ。駄目です美羽様。春休みとはいえ、しっかりとした生活サイクルでないといけません」
容赦なく蘭子さんが、掛け布団を剥ぎ取ろうとしてくるので、必死になってしがみつく。うう〜、まだ眠いよ。
「夜ふかししてたのですか?」
「早寝してたよ。たしか20時には寝たと思う」
何か夢を見たような気もするけど、気のせいだろう。きっと子供がよく見る自分が主人公になって大活躍する夢だ。
大活躍といっても、夢なのであまり覚えていない。最後はでんぐり返し大会をしていたような気がするよ。
「朝ご飯ができておりますので、早く起きないと私が食べられませんよ、御主人様」
図太くなった青髪のメイドが、掛け布団の端を掴む。主人たちが食べ終わった後に朝ご飯になるから、早く食べ終わってほしいらしい。
「はいっ!」
「きゃー!」
ニムエは掛け布団を勢いよく剥ぎ取って、みーちゃんはコロコロ転がって床に落ちそうになった。すぐに蘭子さんが受け止めてくれたので、落ちたのはぬいぐるみさんたちだけでおさまる。
頭から床に勢いよく落ちたアリさんのぬいぐるみは痛がって頭を押さえているけど、我慢して動かないようにお願いします。ぬいぐるみでしょ。
「さぁ、美羽様。お着替えをいたしましょう」
「はぁい」
素直に万歳をすると、他のメイドさんたちもわらわらと集まってきて、たくさんの洋服を押し付けてきた。
「女王陛下にはこのドレスが良いかと」
「普段使いなのですから、これなら?」
「春らしくこれが良い〜」
「朝食用のドレスにして、お食事が終わったら、また着替えるというのは?」
それだと、メイドさんたちはニコリと笑顔で頷き合い、みーちゃんはめでたくお着替え人形となったのでした。
そろそろ陽射しも暖かくなっているなぁと、窓の外を眺めつつ、お着替え人形に徹する。木の枝には小鳥がとまっており、ピィピィと唄っている。
心地良い小鳥さんの歌を聞いて、うつらうつらとしながら着替えを終える。なんだか知らないけど、メイドさんがたくさん増えたんだよ。
ニムエがドアを開けてくれて、ぽてぽてと部屋から出る。王城はまだまだ建設中なので、住んでいる場所は変わらず帝都の伯爵家だ。
王城はお金に糸目をつけずに建設しているから、かなり広大なのだ。燃やそうとすれば30日は燃え続ける広大な宮殿を目指してます。
「それじゃ、今日も頑張ろー!」
『神癒』
今日も頑張ってと、メイドさんの中でも12歳くらいの子供たちに回復魔法をかけてあげる。なぜか両親に連れられて、ちっこい子供たちがやってくるのだ。たぶん社会科見学だろう。
「おかぁさん、マナを感じるよ! この温かい力がマナなんだね!」
「良かったわ、本当に良かったわ!」
「僕もマナの世界が見える! 新たなる世界が開けたみたいだ!」
「メイド服を着るのは今日だけですからね!」
手を取り合って喜ぶ姿を見せるメイドさんたち。その幸せそうな顔を見て、ニコリと微笑みながらも廊下を歩く。
平和だなぁ。世は平和で事もなしとか言うんだっけ。
「おはよーございます」
「おはよう、みーちゃん」
「おはよう、よく寝れた?」
「みぃねぇ、ここに座って、ここ〜」
「みぃねーたん、あたちたちの間に座ろ?」
家族専用の畳敷きのお部屋に到着して、元気よくニパッと笑顔で挨拶する。
既に皆は集まっており、みーちゃんが最後だった。もちろん、舞と空の間に座るよ。
「きゃー! みーおねーちゃんは、間に座るね!」
朝から幸せいっぱいで、とうっとでんぐり返しで空と舞の間に転がると、見事座布団の上にソフトランディング。みーちゃんのでんぐり返しも極められてきたものだ。
「きゃー、舞も、舞もでんぐり返しすりゅ!」
真似っ子したいお年頃の妹が、キャッキャッと笑って両手を畳について、ていやとでんぐり返しをする。
芸術点は10点満点。がちゃんとテーブルを揺らす難易度の高いウルトラCも見せてくれた。
「てへへ。ちょっと失敗」
「きゃー! 舞は将来はオリンピック選手に決定だね! 新体操でオリハルコンメダルを獲得できるよ」
頭をかきかき照れる舞をぎゅうぎゅうと抱きしめて、褒めてあげる。舞のむにむにほっぺが柔らかい。
空はというと、おとなしい子なのでそっぽを向いていた。でんぐり返しをしたいならみーちゃんが教えるのに、なんでそっぽを向いているのかな? もしかしてみーちゃんは嫌われている?
「みーちゃん〜、まーい、ご飯の前にでんぐり返しは禁止」
違った。ゴゴゴと恐ろしい存在がみーちゃんたちを怒ってきたからだった。ガタガタとみーちゃんたちの身体は震えて怯えちゃう。
「ごめんなさい。ついつい練習どおりに身体が動いちゃった」
「ごめんちゃい。ついついれんしゅーからだだ?」
舞と一緒にママに謝る。覚えたよ、朝食前にでんぐり返しは禁止。
「まったくもぅ。みーちゃんはお姉さんなんだから、弟妹の模範になるようにしないといけないわよ」
「うん! みーちゃんは常に空と舞の模範になるように頑張ってます! 今度『浮遊板』でかっこいい走りを見せる予定!」
『魔王』走法を超えた『大魔王』走法を見せる予定だ。まずスタートは逆走するのがコツです。
なぜか疑わしい表情で、ママがみーちゃんの目を見てくるけど、素直な良い子のみーちゃんだから安心してほしい。
「ほらほら、そろそろ朝食にしようじゃないか。蘭子さん、ニムエさん、用意をお願いします」
パパが笑いながら、手を叩く。口を尖らせて、ママが不満そうに自分の席に戻ってくれた。良かった、地獄の扉は封印されたよ。
「も〜、みーちゃんはちゃんと見ておかないと大変なことをするから油断できないのよ?」
なんだかみーちゃんのイメージが変なことになってる! 風評被害というものかな? 誰だ、みーちゃんのイメージを悪くしようとする敵は! 『ニーズヘッグ』か、『ニーズヘッグ』だな! おのれみーちゃんは絶対に許さない!
うぬぬと、まだ見ぬ敵へと敵意を高めつつ、みーちゃんもご飯を食べることにする。今日は何にしようかなぁ。
「和食セットは白米かお粥、洋食セットは食パン、クロワッサン、パンケーキと揃えております。メガステーキセットは白米とパンのどちらでも大丈夫です。朝なのでヒレステーキにしておきました」
ニムエが頭を下げて教えてくれる。最近のみーちゃんの家は様々なお料理が用意されているのだ。残った物は召使いたちで食べるらしい。
「私は和食セットのお粥で。最近お腹の具合が」
『神癒』
「悪くなりそうな時があるから備えておかないといけないんだよ」
良かった。パパは具合が悪いわけではないんだね。思わず回復魔法を使っちゃったよ。
「ママも和食セットでお粥でお願い。ダイエットをする必要が」
『神癒』
「みーちゃん、ちょっとしたことで、あまり回復魔法を使わないの。最近は使いすぎよ?」
「はぁい」
まぶしーと、キャッキャッと空と舞がおててで顔を覆い楽しそうにしているが、ママはあまり回復魔法に頼りたくないらしい。さすが、ママだ。回復魔法に頼らないその姿に尊敬しちゃう。
「僕はよーしょく! パンケーキ!」
「舞も! 舞も! パンケーキ!」
子供の二人はパンケーキ一筋。子供ならパンケーキ一択だよね、わかるわかる。
「みーちゃんは白米で、和食セット」
パンケーキも良いけど、今日は和食の気分なみーちゃんなのだ。少し大人になったんだと思う。背も一センチぐらい伸びたし。
「わかりました、それではメガステーキセットは片付けます」
ニムエは深々とお辞儀をすると、スキップして厨房に去っていった。みーちゃんたちの朝食の準備は?
蘭子さんが頭痛を堪えるように、額に手を当ててため息を吐くと、朝食の準備を始める。後でどこからかニムエの悲鳴が響いてくるのは決定だろう。
カチャリとテーブルの上にほかほかの朝食が置かれる。米粒が立っていて、とっても美味しそうな白米に、湯気を立たせる豆腐とワカメのお味噌汁、ふんわりと柔らかく甘い卵焼きに海苔と焼き魚。
純和風の朝食で美味しそうだよ。みーちゃん、甘い卵焼きだーいすき。
「いただきまーす」
「はい、いただきます」
皆でワイワイとご飯を食べ始める。うんうん、白米はほんのり甘くて、これだけで三杯食べられるよ。
テーブルの上にホログラムが映し出されてニュースが始まる。この世界の良いところはホログラム技術が発達しているところだと、いつも思う。
それとってと、お醤油に手を伸ばすパパ。今日のお粥にはなにを入れようかしらとママが悩んで、空と舞はイチゴジャムをパンケーキにせっせと塗っている。
とっても平和な家族の光景がここにはある。みーちゃんが守った光景だ。胸がほんのりと暖かくなり、嬉しく思う。
みーちゃんは幸せいっぱいだ。この光景を守るために、これからも頑張ろうと心に誓いながら微笑む。
もはやループすることはない。魔神は滅び、メビウスの輪は解かれた。
世界は新たなる夜明けが訪れて、永遠ともいえる魔導の夜は終わりを告げたのだった。
『緊急ニュースです! 第三魔導学院が消滅しました! ご覧ください、この光景を! 栄えある日本魔導帝国のトップにあった学院が跡形もありません!』
ホログラムに映るアナウンサーが、驚愕の表情で指差す。そこには多くの武士団や、警察が集まっており、野次馬も多数いた。
そして、人々の前には綺麗な半球状のクレーターができている。なにかあったらしい。
さっぱりわからないけど、朝食の方が大事だよね!




