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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
12章 世界

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355/380

355話 ストーリーは終わりを告げるんだぞっと

 かなりの強さを誇るアシュタロト。もしかしたら、美羽を上回る力をも持っていたかもしれない。


 でも、今までしっかりとレベルアップして、自身の力を高めていたのだ。負けるわけにはいかない。


『世界崩壊まで7ターンとなりました。アシュタロトを中心に世界の3割が崩壊します』


 システムさんが、かなり重要な情報を告げてくる。ねぇ、なんでこういう情報をサラッと伝えてくるの? オロオロしちゃうでしょ!

 

 口を尖らせながら、目を見開く。旧神の眼を通して世界を観測する。


「そうか……しっかりとブービートラップは仕掛けてあったのか」


 目の前にいるアシュタロトは、自身を構成する黄金の糸を回路として、周囲のエネルギーを急速に集めている。その早さは異常で黄金の糸が切れてゆくが、まったく気にしていない模様。


 ちくしょー。完全体として復活させる者がいたら、アシュタロトは自爆するように仕掛けておいたんだな! 強敵は必要が無くなったアシュタロトと一緒に葬るつもりか。


「エネルギーを集めすぎだよ、アシュタロト! そのままだと世界はループすることはなく、崩壊すると思うよ」


「ほざけ! ループとやらはわからぬが、貴様を倒すには必要なエネルギーだ!」


「ループの記憶は封印されていると。厄介だなぁ」


『神魔爆裂』


 激昂するアシュタロトが再び魔法を使ってくる。万能属性の爆裂魔法だ。


 身体をずらし、ひらりと空中をでんぐり返しして移動し回避をする。高速でんぐり返しの後を花火のように爆発が起こり、美羽を爆裂が追いかけてくる。


「ぬぉぉぉっ!」


 裏ボスにあるまじき気合いの入った叫びで、アシュタロトは四本の腕を振るって、『神魔爆裂』を連続で放ってきて、空間が震動し世界が軋みをあげ始めた。


「みーちゃんのターンに移動させてもらう!」


『幻影石火散華』


 瞬速の動きで手を振るうと、幻影のダガーが放たれて、アシュタロトの四本の手のひらに正確に命中する。


 ドカンドカンと轟音を響かせて、手のひらが爆発して砕けていく。


「無駄な足掻きだ!」


『棘獄の尻尾』


「むむっ!」


 手を砕かれたにもかかわらず、一切の痛覚がないかのように、淀みのない動きでアシュタロトは反撃をしてきた。


 こちらの動きが僅かに停止した瞬間を狙い、アシュタロトは棘の生えた尻尾を振るってくる。風圧の壁を突き破り、巨木の如き太さの尻尾が美羽の身体に激突する。


 ミシリと骨が折れる音がして、激痛が襲ってくる。大きく吹き飛ばされて、床へとぶつかる瞬間に手を伸ばしてでんぐり返しで受け身を取る。


 アシュタロトが顔を大きく歪めて、美羽の隙を突こうと口を大きく開く。


「貰ったぞ、訳のわからぬ小娘!」


『元素の息吹』


「みーちゃんは我慢できる娘っ!」


『虚龍解放』


 アシュタロトが純白の息吹を口から吐く。美羽が次元の狭間から、深淵の闇で形成された虚ろなる龍を喚びだして対抗する。


 正のエネルギーの塊と、虚のエネルギーの塊が激突する。異なるエネルギーがぶつかり合い、世界を崩壊させていく。


 戦場は虚空の世界へと変わっていき、両者は宙に浮いて対峙する。


完全回復パーフェクトヒール


 アシュタロトはすぐに手を生やすと、腕の筋肉を膨張させていくと、魔法の力を高めていく。


『神魔四元素爆裂』


 焔が、水が、風が、雷が四本の腕から放たれて、美羽へと襲いかかる。


 いずれも必殺の威力まで高めてある魔法だ。


「うにゅう!」


 だが、ここで倒れるわけにはいかない。無駄なターンはないのだ。


 爪先を空中にタタンと踏み込ませると、複雑なステップをしながら身体を踊らせる。


幻影歩法ファントムステップⅢ』


 ゆらゆらと美羽の身体が揺れるごとに、複数の残像が生まれていく。フワリと体を翻すと、迫る魔法へと美羽は突き進んだ。


「うぉぉぉぉ!」


 ひよこの鳴くような咆哮をあげながら、焔の中に突進した美羽がかき消える。同じように氷や風、雷に突進する美羽たち。


 だが、その全てが消えていき、本物の美羽はどこにもいなかった。


「いったいどこに!?」


「足元がお留守だぜ!」


 アシュタロトが動揺の声をあげるのを聞きながら、美羽はその足元に姿を現した。


 『幻影歩法ファントムステップⅢ』。ゲームを超えた新スキルだ。『絶歩』と『幻影歩法』、そして『分身』を兼ね備えた武技である。


 だからこそ、アシュタロトに通用する。


 ズザザと足元の空間を削りながら、美羽は神気の剣を横薙ぎに振るう。


『神気神龍剣』


 ピシリと空間を割いて、アシュタロトの二本の脚に軌跡を奔らせる。アシュタロトは脚を分断されて、ぐらりと身体を傾げながら、美羽を憎々しげに睨みつけてくる。


『神魔怪腕』


 ボコボコと筋肉を膨らませて、腕をハンマーのように変容させると、拳撃を連続で繰り出してきた。


 ゆらりと身体を揺らして、その攻撃を見極めて、ぎりぎりで美羽は躱していく。


 躱しながらも、手元を曲げて神気の剣を振るい反撃する。


「ぐおぉぉ!」


「うぉぉぉ!」


 四本の腕に軌跡を奔らせて分断させていくが、アシュタロトは回復しながら攻撃を続けてくる。幻影による回避も完璧じゃない。時折身体を掠ってきて、かなり痛いから止めてほしいんだけど。


 痛みで動きを鈍らせないなんて、なんてチートな奴だ。運営に文句を言ってもいいと思う。


神癒ゴッドヒール


 身体を回復させつつ、さらなる魔法を使う。


『神炎』


 ついっと指を振るい、アシュタロトの焔の腕に火花のような焰を撃ち込む。焰の腕は美羽の焔に巻かれると食われるように消えて消滅していく。


「ほ、焰を焰で燃やすのか!」


 驚愕するアシュタロト。瞬間、身体を仰け反らせて隙を見せてくる。


「隙ありだっ!」


『絶歩』


 空間を蹴り、アシュタロトの懐に入り込むと神気の剣を直剣へと戻し、魔法の力を打ち込み、小さな犬歯を剝いて武技を放つ。


幻影舞踊ファントムダンスⅡ』


 妖精のようにダンスを踊りながら、神気の剣を疾風のように振るう。一撃一撃がアシュタロトの身体を分断させて、小さな肉片へと変えていく。


 普通の敵ならば、ここで終わりだがアシュタロトは普通ではなかった。


「こ、この程度で魔神を倒せるとでも思ってもらったら困るなっ!」

 

 クワッと目を見開くと血を吐くかのような力を込めて咆哮する。


『存在封印』


 切り飛ばした腕が浮遊して、勢いよく飛んでくると手を広げて美羽の身体を掴んできた。


 ぎゅうぎゅうと掴まれて、結構痛い。そういえばこんな技を持ってたな。


「ようやく捉えたかっ! 我が封印されていたように、貴様も存在ごと封印してくれるわ!」


 哄笑するアシュタロト。勝ちを確信しているのだろう。たしかにこの技は厄介だなぁ。あらゆるスキル、魔法を封印する技なのだ。


 現実では存在ごと封印する技になるらしい。美羽は大魔王とか魔神扱いである。美少女を封印すると、紳士諸君が黙っていないと思うよ。


 『エリクサー』でゲームでは治せる技だったけど、一ターンを無駄に使っちゃうんだよね。というか、現実だと身動きすらできない。地味にピンチかな?


『残り四ターンだよ!』


 存在を封印されちゃう前に世界が崩壊するまで残り少ない模様。


 やっぱり準備をしてきて良かった良かった。


 それじゃ切り札を使うとするか。使いたくはなかったけど仕方ない。


『一瞬だけ使うよ! 世界が崩壊しない程度で!』


『了解』


 スゥッと息を吸うと、力を抜いて心を空っぽにする。魔法の力を次元の狭間へと流していくと目をゆっくりと閉じる。


『完全同期』


 そして、切り札を使った。世界が崩壊するかもしれないから使いたくなかったんだけど………仕方ない。


 パアッと美羽の身体が輝いていく。少女を覆った四本の手のひらから、白金の光が漏れ始めるのを見て、アシュタロトは僅かに眉を顰める。


「なんだこの光は……。こやつの魔法の力? い、いや、この力はなんだ!?」


 覆っていた手のひらがゆらりとその存在を消滅させられていくのを感じて、アシュタロトは消滅を防ぐためにさらなるエネルギーを注ぎ込む。


 だが、無駄な足掻きであった。四本の腕は空間ごと歪んでゆくと、その存在が最初から無かったかのように消えていってしまった。


「エネルギーを集めなければ! 消されていく、いやこれは……?」


 自身の力でも見抜けない少女の力に動揺し、目を疑うように睨みつける。


「無駄だよ、アシュタロト。いくらエネルギーを集めてもお終いなんだよ。だって観測は終わっている。アシュタロトの力は全て理解したんだ」


 ゆっくりと目を見開き、穏やかな声音でアシュタロトに告げる。


 白金となった髪の毛がふわりと宙へと靡き、その身体も眩しい程に白金色に輝いていた。


「『旧神』? 馬鹿を言え、貴様、貴様はっ!」


『神魔爆裂』


 対抗するために、いかなる敵をも倒す爆裂を放つ。白金の少女の前で爆発が起こり……そして、氷のように爆発も轟音すらも停止して、空間に音もなく消えていった。


「ぬぐぐっ」


『神魔四元素爆裂』


 再び魔法を放とうとするが、今度は発動すらできない。そのことに信じられないと驚愕で目を見開き、ヨロヨロとアシュタロトは後退る。


「な、なぜ? なぜだぁっ!」


「わからないよね。でも、これだけはわかると思う」


 すうっと人差し指を突きつけて、私は薄く微笑む。


「アシュタロトの役は終わりだよ」


 キィンと音がして、衝撃波が人差し指から放たれる。空間が震動し、世界が揺れる。


「この世界パフェはぜーんぶ私の物なんだ。ぜーんぶ私が食べちゃうんだよ」


 酷薄なる笑みを見せて、白金に染まった瞳にアシュタロトを、世界を見据える。


 観測は終わっている。黄金の糸が何兆本あっても、宇宙に存在する全ての星の軌道のように複雑に動いていても、私は全て見終わっている。


 全部私の物なんだ。誰にも渡さない。


「さようなら、アシュタロト」


世界消滅ロストワールド


 私は白金の糸を流していく。全ての黄金の糸に触れると同時に侵食していき、全てを食べていく。


 世界は消滅し、最初から何もないかのように虚空の世界へと変わっていく。


 魔法障壁を生み出して、アシュタロトは防ごうとするが無駄だよ。全ての理は見えている。観測を終えている。


 アシュタロトという存在も、魔法障壁も、そこらへんの石ころも全ては私にとっては同じ物だ。

 

 全ての存在は消えていき、私は満足する。


「全て……」


『だめー! 世界を消滅させたら許さないからね!』


「アイタッ。ごめんなさい、夢中になっちゃった」


 ペチリと額を叩かれた感じがして、ハッと気を取り戻す。そうだった。最初はそう考えていたけど止めたんだった。


 キョロキョロと辺りを見渡して、美羽はたらりと額から冷や汗を流す。


「学院が消滅しちゃった」


 黒曜石の玄室どころか、その上に建てられていた学院すら無くなっている。


 えぐり取られたように真円につるりとした断面で、地面が建物ごと削り取られている。


 だから、この切り札は使いたくなかったんだ。不完全な力だからね。完全同期が不完全だから、フォローができない。だから絶対にこうなると思ったんだよ!


 周りを見渡すと、深いクレーターの中心にアシュタロトの首だけが転がっていた。良かった、ギリで消滅させないようにしていたか。


 空を仰ぐと、夜空に広がる満天の星が美しい。


 アシュタロトの首がみーちゃんの手に入った今、もはややり直しをしようと願うことはできない。これで、世界はループを終えるだろう。


 でも、学院が消滅しちゃった。……でも、本当にみーちゃんのせいだろうか?


 ふと気づく。みーちゃんがこんな力を持っているはずがない。もっと現実的な思考にしよう。


 ……この悲惨な状況にあうのは……。


「ガス爆発って、とっても怖いね」


 たぶんガス爆発だろう。良かったよ、誰も学院にいない時で。ガス爆発ガス爆発。間違いなくガス爆発。


 それに現実的にこんなことが起こるはずもない!


 なので、素早く『瞬間移動テレポート』でみーちゃんはその場を脱出する。きっとみーちゃんはベッドでオネムのはず! これはきっと悪夢だよね。


 早くぬくぬくお布団の中で目覚めなきゃ!


 すたこらとみーちゃんは逃げ出して、後には何も存在せず、涼しい風が吹くのみだった。


 そして夜は明ける。長い長い夜は終わり、日が昇るのであった。

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― 新着の感想 ―
また責任転嫁してる……。
何ページか忘れたけど、このシーンの前にも夜は明ける(文字が全部同じなのかは忘れた)的な表現が書いてあった。 長編小説でこの表現なしってのも難しいから贅沢なこと言うけど、ここで初出だったらもっと良かった…
[良い点] けけけけけみいちゃんまじでかわいい(*´ω`*) [一言] この章をありがとう
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