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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
12章 世界

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354/380

354話 魔神との決戦なんだぞっと

 魔神『アシュタロト』は自身に眠る魔力を一気に解放した。ビリビリと黒曜石で作られた玄室が震動し、パラパラと天井から石片が落ちてくる。


「よくわからぬ存在よ。このアシュタロトの力により死ぬが良い!」


 魂を凍らせる地獄から響かせるような悍しい声を放ち、アシュタロトは四本の腕を構えて、美羽へと襲いかかる。


「よくわからないなんて、見る目がないね! みーちゃんはこーんなに可愛らしいのにさ」


 タンと床を軽く踏み横にステップをすると、その瞬間今まで立っていた場所が爆発した。


 突風の如き速さで、アシュタロトが攻撃をしたのだ。美羽の胴体よりも太い腕が床に突き刺さっており、ガラガラと黒曜石の破片を撒き散らしながら、腕を引き戻す。


「『旧神』を名乗る者を、よくわからない存在と言って、何が悪い? 油断はせぬ!」


『四元素魔神腕』


 マンモスのような牙を剝いて、魔神はせせら笑いながら腕に魔法の力を集め始める。


 四本の腕は、魔法の力により変容を始めていく。


 一本はマグマのように灼熱に輝く焔の腕に。


 一本は透き通る硝子のように透明な水の腕に。


 一本は薄緑の風となり逆巻く竜巻の腕に。


 一本は眩しき光を放つ、超高熱の雷の腕に。


 それぞれが元素の塊となった腕に変容したのだ。


「『付与魔法』ではなく、腕自体を元素に変えたね?」


「そのとおりだ! そして、この腕は真なる元素。その威力は――」


「『貫通』能力があるから、属性無効や吸収が意味を成さないんだろ。知ってる知ってる」


 わざわざ説明をしてくれるアシュタロトだけど、途中で口を挟んじゃう。その能力はゲームで知ってるもんね。


 現実でも同等の力をもっているならば、全耐性持ちの『旧神』の方が使いやすい。ダメージ軽減スキルが最終的に有効なんだ。


「人が説明している最中に口を挟んだらいけませんと、両親に教わらなかったか?」


「うん。素直なみーちゃんはパパとママの話に口を挟んだことないからね! そもそもそういうのって教えるタイミングある?」


 コテリと小首を傾げて不思議そうに尋ねると、アシュタロトは頷き返す。


「たしかにないな。相手の話に口を挟む時ぐらいだものな……。なら、冥土の土産に覚えておけ。人の話に口を挟むのはいけませんと!」


「魔神なら良いんだよね。わかったよ!」


「……もはや話は無用! この我の力を知れ!」


『元素体変容』


 なぜかアシュタロトは美羽との話を諦めると、自身の身体に魔法を巡らせていく。魔神の身体はあらゆる元素の力をかき混ぜてより合わせたエネルギー体へと変わっていった。


 変容したアシュタロトの存在はただそこにいるだけで凶悪な力を放ち、空間を歪めて超高熱のエネルギーにより床を溶かし、天井を微細に砕いていく。


 物質体ではなく、膨大なエネルギー体へとアシュタロトは姿を変えたのだ。


「『最終形態』たる我の――」


「ダメージを与えると、攻撃した側も傷つく。ゲームのように変身をしていくんじゃなくて、最初から最終形態となるのか。油断しない魔神さんだこと」


「そのとおりだっ!」


 なぜか不機嫌になるアシュタロト。さてと、からかうのは止めて美羽も本気になるかな。


 カァとカラスの鳴き声がどこからか聞こえてくると、目の前に解析結果が映し出される。


『真なるアシュタロト:レベル185、全耐性』


 いいね。これこそが裏ボスというものだ。戦い甲斐があるというものだよ。


「それじゃみーちゃんの真なる姿も見せちゃおうかな」


『旧神体』


 最終形態となったアシュタロトを前に、ムフンと胸を張って、目を瞑り魔法の力を身体に巡らせていく。


 指先から足の爪先、髪の一本に至るまで、冷たく無を感じさせる力が流れていき、静かなる力が身体に宿る。


 爆発的なオーラを放つこともなく、その姿も変わることはない。


 だが、美羽は先程とは明らかに変わっていた。床からふわりと僅かに浮くと、変身を完了させる。


 スゥッと目を開くと、穏やかなアイスブルーの瞳がアシュタロトを映す。


「完全同期となる前の、私の変身体第二段階だよ」


「………な、なぜ、空間を、空間を消滅させている? そなたの力は……」


「『旧神体』は少しばかり、使い勝手が悪いんだよね。なにせパッシブで周囲にダメージを与えていくから。ゲームでは『混沌』と記載されていたよ。パーティーにも影響が出るからソロでしか使えない弱点があるんだけどね」


 怯えて後ろに下がるアシュタロトへと、静かで穏やかな声音で告げる。


 これこそがソロが最強たる意味なのだ。パーティーは意味を成さず、全ては一人で賄える。それが『旧神』というものなのである。


 美羽の周りは全て空間に消えるかのように消滅し始めていた。立つ床も天井も最初から存在しないかのように、砂埃すら存在せず、なにも無くなっていく。


 美羽の周りは球体状に全て消え去っていた。


 今の美羽のステータスは既に人を超えて、こんな感じだ。旧神は☆マークすらない。


鷹野美羽

メインジョブ:旧神

セカンドジョブ:神☆☆☆☆☆☆☆☆☆

サブジョブ:盗賊☆☆☆☆

レベル173

HP:52896

MP:69728

力:7094

体力:8041

素早さ:11784

魔力:12947

運:999

固有スキル:神、旧神、混沌、全吸収、全耐性

スキル:全てマスター


「全てが統合されて、寂しい表記になったけど、シンプルで良いよね」


 ごちゃごちゃ記載されても困るし、最終的な表記がシンプルなのは本当の強者になったようでゲームでは嬉しく思ったものだよ。


 ぽてぽてと空間を歩いていくたびに、その先にある物質が消滅していく。何もない空間を美羽は歩きながら、後退るアシュタロトへとニコリと微笑む。


「『旧神』というものかっ……。しかし我は負けぬ! 我に巡る膨大なるエネルギーで消滅させられる前に倒してくれるわっ!」


「やってみろ。私は10ターンで倒すことを目指すよ!」


 自身を鼓舞するために、アシュタロトは力を込めて咆哮する。アシュタロトを中心にエネルギーの波紋が広がっていき、全てが微細なる破片へと砕けていく。


 だが、美羽にはその程度の威力では届かない。エネルギーの波紋は消滅して、髪の一筋すら揺らすこともなかった。


「ゆくぞぉぉぉぉっ!」


 アシュタロトが弾かれたかのように、美羽へと突進してくる。


「むんっ!」


『炎神炎腕撃』


 ごぅっと炎を逆巻き、灼熱の腕が繰り出される。


 パッシブスキルでは消滅できない膨大なエネルギーの塊だ。


「こちらもいくよっ!」


『神気氷龍剣』


 手元をクイッと動かして、神気の剣をシャラリと鞭モードに変化させると、魔法の力を使う。


 神気の剣に氷が宿り、蛇が跳ねるように動くと肉薄する炎の腕を迎え撃つ。


「ぬうっ!」


「てい」


 ぶつかりあった二つのエネルギーは爆発するかのように衝撃波を撒き散らしながら、鍔迫り合いをする。


「一つの属性剣で耐えられるものか!」


『氷神氷腕撃』

『風神風腕撃』

『雷神雷腕撃』


 アシュタロトは鍔迫り合いをしながらも、ニヤリと嗤い他の腕で攻撃をしてくる。


 たしかにこちらの剣は一本。属性剣は氷だけとなるように見えるだろう。


「私を甘く見ないでほしいよ!」


『魂覚醒』

『旧神覚醒』

『神意』

『神気炎神剣』

『神気風神剣』

『神気地神剣』


『融合しました』


『神気流体剣』


 神気の剣が四つの元素を宿し、混沌たる漆黒の剣へと色を変える。


 そして、空間を泳ぐかのように神気の剣は舞い踊り、アシュタロトの炎の腕を凍らせて、水の腕を蒸発させ、風の腕を撒き散らし、雷の腕は吸収した。


 あらゆる属性を持つ神秘の剣。それが『神気流体剣』だ。


「ぬぉぉぉっ!?」


 必殺の四本の腕を壊されて、驚愕の表情となり苦悶の声をあげてアシュタロトは仰け反る。


「最大五回行動となる『旧神』の力を味わってよ!」


『神気帝龍剣』


 ヒュンと腕を振ると、黒曜石にて形成された玄室を神気の剣は縦横無尽に奔っていく。


 アシュタロトのエネルギー体は神気の剣に触れると抉られるように切り刻まれて、大きくエネルギーを減少させていった。


「ぬぅっ! まだまだ小手調べよ!」


完全回復パーフェクトヒール


 傷を負いながらも、アシュタロトは直に立ち直ると、魔法の力にて自身の身体を癒やす。瞬時に破壊された四本の腕は生えて元に戻り、大きく抉られたエネルギー体の傷は塞がっていく。


「むんっ! この身体は完全無敵。貴様の消滅の力よりも速く回復するっ!」


 胸を張って腕を構え直すアシュタロト。知ってる、知ってる。短期間で倒すための一番厄介なスキルだ。運が絡むのが、アシュタロト戦で一番厄介な点なんだよね。


「ここからが本番だ!」


真烈火フレア


 元に戻った炎の腕を突きつけてきて、アシュタロトは純白の火球を生み出す。完全に炎を掌握しているために、周囲に熱気は発生せずに、球体内部に全てのエネルギーを内包させている。


「この炎を防げるかっ!」


「『貫通』持ちなんだから、躱すに決まっているだろ!」


『虚空歩法』


 火球を放ってくるので、『旧神』の歩法を使う。迫る火球の前に、フッと美羽の姿はかききえて、一瞬のうちにアシュタロトの横へと姿を現す。


 火球は抵抗する物などないかのように、あっさりと床を溶かして、地面へと潜っていった。


「今の速さは?」


『真豪雷槍雨』


 美羽の移動する姿が視認できなかったのだろう。戸惑いながらも、今度は無数の雷の槍を空中に生み出すと、美羽へと向けてくる。


 豪雨の雨粒を雷槍に変えたかのように、その無数の雷槍は躱す隙間もない程に数が多い。


 しかし、慌てることもなく、目を細めてふふっと口元を笑みに変えると美羽は足を踏み出す。


『虚空歩法』


 再び、美羽の姿がかき消えて、雷槍の豪雨は虚しく通り過ぎていき、後ろの床を吹き飛ばしていく。


「そう何度も見失うか! 次元の狭間を移動しているな! 空間に揺らぎがあるわっ!」


『氷神氷腕』


 だが、今度はアシュタロトは反応をして、あらぬ方向に向き直ると、超低温の水の腕を振るう。


 空気が凍りつき、雹が生み出されて、霜が降りる。


「おっと。バレちゃったか」


『絶歩』


 腕の振るう先に姿を現した美羽は冷静に次なる歩法で対抗する。触れるだけで一瞬のうちに凍りつく超低温の水の腕に爪先を向けて踏み込むと、そのままタタッと腕を滑るように走る。


 足は僅かに凍るが『ヤールングレイプル』の魔導鎧のブーツまでで、皮膚まで届く前に突き進む。


「逃すか!」


『真風神爪』


 風の爪を作り出すと、アシュタロトは空間を割って、美羽へと斬りかかる。嵐が巻き起こり、ミシミシと空間が無理矢理圧縮されて軋みをあげる。


「といや」


『神気雷神剣』


 迫る風の爪を、雷を纏った神気の剣で弾く。ギィンとガラスを引っ掻く音がして、風の爪が粉々になるのを横目に、タンッと足を踏み込むとアシュタロトの眼前へと美羽は迫る。


「セカンドアタックだ!」


新星爆発ノヴァ


 アシュタロトの顔の前にちっこい手を翳すと、全てを消し去る強烈な閃光を放つ。新星が爆発したかのようなエネルギーにアシュタロトは巻き込まれて、大きく後ろへと吹き飛んでいく。


 アシュタロトの周囲が魔法の力で消滅し、天井が消え去ると、夜空が覗く。


「……貴様は何者だ」


 身体を回復させながら、アシュタロトが睨みつけながら尋ねてくるので、悪戯っぽく笑い返してあげる。


「私は鷹野美羽。事故で学院が消滅するから、仕方なく冒険者になる美少女だよ」


 三ターンは経過したかな。なかなか強いけど、最短ターンを目指して頑張るからね!

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― 新着の感想 ―
[良い点] (*´ω`*)(*´ω`*)(*´ω`*) [一言] この章をありがとう
[良い点] 裏ボスがベ○マ使うとか許されない 瞑想までなら我慢する
[一言] これでまだ最終形態ではない…
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