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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
11章 侯爵

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343/380

343話 見覚えがある笑顔

 勝利は親父に首根っこを掴まれて、城内をずるずると引きずられるように移動していた。『保存』の魔法が付与された傷一つもない床が目に入る。


 通路には慌ただしく大勢の人々が忙しそうに行き交っている。まるで息を吹き返したドラゴンのように、活気のある騒がしさだ。


「なにか皆忙しそうですね」


 主人公ルートが消えたことと、小遣いが高校まで無しとなったショックから、項垂れていた勝利はなんとか気を取り直すと、自分で歩けるんでと親父の手から逃れる。


「そうだな。見覚えのある文官たちもいる。皇帝陛下が一斉に声をかけたのだろうな。ここ最近離れていった奴らだ」


「皇帝陛下が操られていたって話を聞いて戻ってきたんですよね? …………醜聞になりませんか、この話」


 キョロキョロと周りを窺い、小声でこっそりと尋ねる。国のトップが精神操作されていましたとか、かなりのスキャンダルだ。皇帝の権威が地に落ちるんじゃないか?


「近衛兵が堂々と正面玄関で教えてくれたんだ。隠す気はないんだろうよ。簡単な話だ。現状で離れていった人材を呼び戻すのと天秤にかけたんだろうよ」


 僕たちを皇帝の所まで案内する文官のことを気にすることもなく、肩をすくめて、なんのことはないと親父は声を潜めることもなく教えてくれる。そんなことを言ってよいのかと慌てて周りを窺うが、文官たちはチラッとこちらを見てきて、興味なさげに去っていく。


「精神操作されていたのを隠して呼び戻そうとしても、ここ最近のやらかしで人望ゼロとなっていた皇帝陛下に誰も集まらねぇだろ。俺だって今日の呼び出しを警戒していたからな」


「ははぁ………。地に落ちた権威は後で取り戻そうというやつですか」


「そうだな。これからは鷹野侯爵をトップとした貴族たちとの勢力争いが大変だろうよ。それを考慮に入れても、政治を元に戻そうってんだ。見直したよ」


 相変わらず鋭い考察をする親父である。もう魔法は親父を上回ってはいるだろうが、こういうところはまったく敵う気がしない。


 というか、堂々と皇城でそんなことを口にして良いのだろうか? 不敬罪が適用されないだろうかと、心の底に眠る能力『小物』を覚醒させて、僕は怪しい者ですと、挙動不審な動きをとってしまう。


「この時点で注意をする奴も、顔を顰めて不満そうになる文官もいねぇんだ。これが皇城の現実ってやつだな」


「親父……そういう身体を張った確認方法は止めませんか?」


 やけに堂々としていると思えば、そんなことを考えていたらしい。権謀術数が行き交い、魑魅魍魎が棲息する宮廷で、これから自分もやっていけるのだろうかと、腹がキリキリと痛む。


 原作ではこんなあくどい会話はなかったんだがなぁ。善悪がはっきりしており、勧善懲悪のハーレム物だったのに。


「ならば、私が注意をしよう。粟国公爵、ここは皇帝陛下のお膝元だ。言葉を慎むが良いでしょう」


「ひぃぃぃっ! すみません、すみません。父上は酒を飲んで酔っているところを急遽呼び出されたので、アイタッ」


 後ろから貫禄のある中年男性の低い声が掛けられてきたので、慌てて振り返り言い訳をしようとする。親父のせいで不敬罪とかで家門が潰されるのは困る。


 と思って慌てていたら、親父が容赦なく頭を叩いてきた。かなり痛い。


「これは帝城侯爵ではないか。先程のは推測だ。あまり気にしないでほしい」


「次は見逃さないと答えておこう」


 声をかけてきたのは、帝城侯爵であった。相変わらず厳しい顔つきで、揺るがない岩のような空気を漂わす貫禄のある男だ。きっちりとした紋付袴で正装を着込んでおり、その隣には優男の帝城真白もいる。


「お互いに嫡男を連れて召喚されたみてぇだな。良かったと喜べば良いのか?」


「良い方向に向かっていると信じたいところですな。皇帝陛下が精神操作されていたとは………」


 苦虫を噛んだかのような顔になる帝城侯爵。皇帝に忠誠を誓う者としては、今回の出来事を防ぐことができなかったのは悔しいに違いない。


「では、揃って皇帝陛下に謁見をしようじゃないか」


「うむ」


 前を歩く案内人に従い四人でぞろぞろと歩く。どうやら謁見の間ではないらしい。


 第一執務室と書かれたプレートが掲げられている部屋に到着すると、案内人がドアをノックする。入れと声が返ってきて、僕たちは中に入った。


「よく来てくれました、粟国公爵、帝城侯爵。やけに重武装なのは少し気になるけど理由は予想できるから不問にしておくよ」


 中は執務室とは思えない広さであった。初めて入るが、シックな執務机にパソコンが設置されており、書類が少し積まれている。それだけならば、普通だが応接セットが4セットもあり、ホテルの受付ロビーのように広い。


 執務机の前で仕事をしていた虹色の髪の持ち主、現皇帝の弦神信長が笑顔で歓迎してくれた。


 チラリと部屋内を見ると、愛する婚約者である聖奈さんと、ショートケーキをまぐまぐと食べている灰色髪ちゃんの姿もあった。


「粟国公爵、皇帝陛下のお呼び出しに従い、息子と共に参りました」


「帝城侯爵、皇帝陛下のお呼び出しに従い、息子と共に参りました」


「よく来てくれました。待ってましたよ二人とも。やることはたくさんあります。無駄につぎこんでいる軍事費、元神無家の資産も各貴族に売り払うつもりですし、失った権威の回復と、仕事は山積みです」


 聞くだけで、うわぁと顔を歪める仕事量だった。量もそうだが、その仕事内容も大変だ。


「聞いてはいるとは思いますが、僕は精神操作をされていました。大変申し訳ない。僕に再び力を貸してほしい」


 皇帝陛下が椅子から立ち上がると、親父たちの前に立ち、深々と頭を下げる。皇帝陛下が頭を下げるとはと、驚きを隠せない。皇帝陛下は絶対に頭を下げないものなのに!


「頭をお上げください、陛下。帝城家は陛下の剣にして、絶対の忠誠を捧げております。陛下はご命令をすればよいのです」


「そのとおりですぞ、陛下。粟国家も皇帝陛下の忠実なる臣。お気になさらずに。ですが、なにが起こったのかはご説明をお願いできますでしょうか?」


「もちろんです。では説明をしましょう。とりあえず座ってください」


 ……そうして皇帝が説明した内容は驚くべき内容であった。


 侍女がコーヒーとケーキを置いて、一礼して部屋を出ていくのを見送った後に説明を受けたのだが、全員顔を顰めていた。灰色髪ちゃんだけは、食べないのかなと、チラチラと全員の前に置かれたケーキを気にして顔を顰めていたけど。


「精神操作されていたとは……。防ぐことができずに申し訳ありません、陛下。この王牙一生の不覚です」


「精神操作を感知できる方法はわかったのですか?」


「それがかなり巧妙で複雑だったらしく感知は難しいとか。これは後で方法を考えないといけないでしょう」


 帝城王牙が落ち込み、親父がしかめっ面で聞くが、精神操作されていることを気づくのは至難らしい。


「感知用魔導具は今のところないよ。回復魔法使いの人の揺らぎを見る力がないと無理かな。開発できるかは不明です。それにその魔法は『空間の魔女』でないと使えないだろうって、ししょーが言ってました!」


「私は見れません……。いえ、なんとなくおかしいかなとは思いました。こう……体内のマナの歪みが変というか……頭のマナが変というか。そんな感じはしました。お兄様の頭が変だなぁとは思ってました。頭が変なお兄様を助けなければと思ってました」


「聖奈、そんなに頭が変なと連呼しなくても良いんだよ? でも、鷹野侯爵以外にも感知できる人が身内にいるのは助かるよ」


 聖奈さんの言葉にジト目となる皇帝。なんとなく聖奈さんの様子がおかしいような気がするけど、気のせいだろう。


 それよりも考えなくてはいけないことが多い。皇后が『空間の魔女』? そして、多くの人々を操っていた可能性がある? え、もしかして原作の流れって不老不死を目指す『空間の魔女』の話だったわけ?


 混乱する僕。神としてこの世界を把握していると思ってたけど、そんな設定は見たことも聞いたこともない。


 そうなると、この世界の根本的なストーリーが変わる感じがする。……えぇ、シンってどういう立場になるわけ?


「そういえば、私の愛する婚約者である勝利さんが、最近訓練をしているとか……たしか師匠として『空間の魔女』に……」


 パンと手を打ち、にこやかなる笑みで聖奈さんが僕を見てくる。


「愚息も『空間の魔女』が怪しいと考えて、わざと接近して証拠を探そうとしていたのです、皇女様」


 間髪容れずに、親父は息を吐くように嘘をついた。真剣な表情で、本当に僕がスパイとして近づいていたと思わせる顔だ。


「やっぱりそうだったんですね! 私は勝利さんを信じてました。でも、もしかしたら、私たちを裏切るつもりだったのではと、少しだけ疑ってしまいましたので……お詫びの品として、これをどうぞ」

 

 申し訳なさそうな顔も可愛らしい聖奈さんが、腕輪を渡してくる。小さな宝石のついたミスリル製の腕輪だ。僕が聖奈さんを裏切るわけないじゃないですか、うへへ。


「つけてあげますね、勝利さん」


「ありがとうございます、聖奈さん。これは魔法の腕輪ですか?」


「はい! いつでも連絡が取れるようにって、最高レベルの思念通信魔法が使える腕輪です。勝利さんの場所が正確に探知できるから、思念通信の精度が良いのです。これでいつでも勝利さんと連絡がとれますね」


 頬を赤くして照れる聖奈さん。そんなに僕を愛してくれるのかぁ。いやぁ、照れるなぁ、嬉しいなぁ。


 ぴすぴすと鼻息荒くして、腕輪を付けようと添えられた柔らかい聖奈さんの手のひらに興奮する。


「防水ですし、耐久力も高いので、とても高価なんです。ですので落とさないように私だけが外せるようにしておきますね。良いですよね、勝利さん?」


「もちろんです、聖奈さん」


 気の利く聖奈さんだ。こちらを上目遣いで見つめながら、悪戯そうに手のひらを人差し指でくすぐってくる。こちょこちょ手の甲をくすぐらないでください。いえ、もっとこちょこちょしてください。


「鷹野侯爵、息子は精神操作されていないよな?」


「誰にも精神操作されていないよ!」


 大丈夫、僕は正気だ。親父も心配性だなぁ。なんでそんなに胡乱げな目で見てくるんだよ。


「さて、二人の心温まるやり取りは別として、これからのことを話そう」


 皇帝陛下がなぜか呆れた声音で話し始める。


 ……その内容は驚くべきことだった。ともすれば、シンの話以上に。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初代ドラクエの【おうじょのあい】を思い出しました。 【せいなのあい】もGPSと通信機能付きなんですね… 管理されてるよ!!すぐに行方不明になるペットみたいな扱いですなぁ
[良い点] 勝利君も聖奈からGPS機能の付いた首輪(腕輪)を着けられたし、シンと棺桶ルートから聖奈の犬ルートに変更されて良かったですね。
[一言] 粟国「息子の頭がおかしいのは洗脳か?」 みー「いつも通りだよ」 洗脳されてたほうが良かったという悲報ですね。
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