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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
11章 侯爵

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341話 自己嫌悪に陥るんだぞっと

「信長君は治そうと思います」


「やっぱり気づいていたんですね!」


「うん、ごめんね、せーちゃん。もちろん気づいていたよ」


 皇城の応接室で、みーちゃんは聖奈に気まずそうな顔で謝っています。バンと手でテーブルを叩いて、聖奈が怒ってきた。


「みーちゃんがやったことじゃないし、少し放置しておこうかなって思ってたの」


「今のお兄様は毎日ストップ安で、底が見えないですからね……。みーちゃんに都合の良い状況だとは思ってはいました」


「うん、とっても都合が良かったの。貴族の勢力争いはどうでも良かったんだけどね」


 胡乱げな瞳でため息を吐く聖奈に正直に答える。ママとの会話の後に考え直して反省したのだ。


 ゲームのようにストーリーを進めるのは止めようと。なんのことはない。運命の糸に操られるのは嫌だと言いながら、ゲームストーリーに忠実に動いていたからね!


 この世界に来た時は家族を大事に生きていこうと誓っていた筈なのに、最近は目標をすっかり忘れていたよ。


 原因はわかっている。人間として在ることを再度決めた際に同期をして、前世の記憶は全て取り戻している。こういうことを防ぐためだったのに、すっかり流されてそのことを忘れてしまい、愚かにも神様ムーブをしちゃっていた。


 最初は神様じゃないよと思ってたのになぁ。反省しきりである。


 現実の皆はNPCじゃない。信長君が馬鹿な行動でみーちゃんに攻めてくれば、多くの人々が犠牲になるだろう。


 以前なら、死者がでなければ回復するから良いよねと思ってたけど違うのだ。傷を負えば痛いし、周りも心配する。


 だって人間なのだから。みーちゃんも人間だから、久しぶりにそのことを思い出した。全部ママのお陰だ。パパにも後で謝りに行ったよ。優しく頭を撫でてくれて許してくれた。


 もう犠牲が出て当然の方法はとらないことにする。犠牲が出ない謀略を考えることにすることに決めたのだ。


 謀略はやめないのかって? 当然でしょう。だって高位貴族なのだ。善人の行動をとっていたら、あっという間にライオンたちに食い尽くされちゃうよ。

 

 人間となったからと言って、聖人君子になるわけじゃない。良いことも悪いこともするのが人間だからね!


 とはいえ、全体では優しい選択をとっていこうと考えたので、信長君を治すことに決めて皇城に訪れたのだ。


「なので、信長君に回復魔法をかけたいんだけど、近寄れるかなぁ? みーちゃんを嫌ってるよね?」


「すぐに来てくれると思います。実は頼もうと思っていたので用意していたんですが、あ、来たみたいですね」


 コンコンとドアがノックされると、ドアが開いて……簀巻きを抱える宰相たちが姿を見せた。


「いや〜良かった。陛下を治して頂けるようで。本当に助かります」


 ドスンと簀巻きを放り投げて、物凄く良い笑顔を浮かべる宰相たち。


 簀巻きの中身はもちろん信長君だった。凄腕の魔法使いなのに、よくもまぁ、簀巻きにできたな。


「余が皇帝れーす。アハハハ」


「鷹野侯爵から分けてもらった火炎酒を飲んでもらったのです。あの帝城殿も泥酔する魔法の酒と聞きましてな。わっはっは」


 何ということでしょう。クーデターが起きていたようだよ。それだけ危機感を持っていたのか……。なんかごめんなさい。


神癒ゴッドヒール


 パアッと神秘的な光が信長君を覆う。ミノムシ信長はくねくねと楽しそうにミノムシダンスを踊っていたが、ぴたりと動きを止めた。


「うはぁぁ、もういっぱい酒を。たくさん酒をくれってことだよ……ハッ!」


 酔いも治って素面に戻る信長君を、ゴクリと皆が緊張で唾を呑みこんで注視する。注目を浴びる中で、ミノムシ信長君はコホンと咳払いをした。


「お兄様……。もう大丈夫なのですか? 私への譲位のサインをするつもりになりましたか? 鷹野侯爵に頭を癒やしてもらいました」


「物凄く失礼な言葉に聞こえるのは気のせいかな? 大丈夫、正気に戻ったよ。ありがとう、鷹野侯爵。感謝を。そして誰か縄を解いてくれないか? 不敬罪にはしないからさ」


 冷静に答える信長君を見て、皆がホッと息をつくのであった。


 ………んん? なにか聖奈がらしくないような……。いや、これは元に戻ったのか? ま、まぁ、いっか。原作の運命に縛られることなんてないもんね。


 みーちゃん、そこまで責任は負えないよ。だって人間だもん! 全知全能の神様じゃないからね!


 簀巻きを解かれた信長君はソファに座ると、侍女が持ってきたコーヒーを飲む。みーちゃんにはコーヒーにショートケーキを添えてお願いします。


「状況は理解しておりますか、陛下?」


 宰相が皆の代表となり声をかけると、虹色の髪を手で撫でつけながら信長君は頷く。


「理解しているよ。自分の意思で行動していたからね。その時は操られているとはまったく思わなかったし、今でも思えないが、なぜ以前の僕があんなことをしていたのか信じられない思いはあるよ」


「おぉ、左様ですか。しかし、精神操作が解けても、そう考えるとは恐ろしいものですな」


 宰相がハンカチで額を拭きながら安堵の息を吐く。周りの側近たちもホッとしている様子だった。どうやらとんでもない行状だったらしい。


「お兄様……余って自分のことを言わないのですか? 余って。とってもかっこよかったと思うのですけれども。民の受けも良かったようですし」


 ニコリと慈愛の微笑みを見せる聖奈に、信長君はニコリと笑い返してみーちゃんへと視線を移してきた。


「ありがとう、鷹野侯爵。どうやら聖奈も元通りに戻ったようで安心したよ。いつの間にか素直な良い子になっていて心配していたんだ。トレンド記事も追わないと僕は思われているらしいね」


 トレンド記事? 聖奈が元通り? なんのことかさっぱりわからない。


「『優男の余呼びについて草』ですな」


「この歳で余とか。正直に言うと恥ずかしいからね。僕にしておくよ。それに僕と呼んで弱々しいところを見せて、侮る者たちの脇腹をつけるからね」


「本当に元に戻ったようで、何よりですお兄様」


 にこやかな笑顔で宰相がすぐに教えてくれて、信長君は胡乱げな目で妹を見る。聖奈は明後日の方向を見ながらコーヒーを飲んでいた。仲の良さそうな二人で何よりだ。みーちゃんも空と舞に会いたくなっちゃった。


「さて、では鷹野侯爵には返しきれない恩ができたわけだが、申し訳ないが報奨を出す前に正常な状態にしなくてはならないでしょう。宰相、すぐに帝城侯爵と粟国公爵を呼ぶように。それと離れていった者たちにも声をかけて、呼び戻してください」


「はっ! ご命令どおりに」


 嬉しそうな顔で皆がバタバタと足早に部屋を出ていき、みーちゃんはせっせっと手つかずのショートケーキたちを保護してあげる。なんで飲み会とか、会議では誰も食べ物に手を付けない訳? みーちゃんお化けが勿体ないと化けて出るよ。


 皆が出ていくのを見送って、信長君は真剣な表情でみーちゃんに向き直る。人払いもしてあり、もはや3人以外誰もいない。


 どうやら真剣な話をするようなので、みーちゃんも真剣な表情で生クリームのついた顔で見返す。このショートケーキはたっぷり生クリームで、ほとんどスポンジの使われていないタイプだから仕方ないよね。


「………顔を拭うのを待ちますよ?」


「はぁい」


 お言葉に甘えて、顔を拭って奇麗にして居住まいを正す。残りのショートケーキは空たちへのお土産にしようっと。


「さて、まずは確かめたいのですが……僕が精神操作されているのに気づいていましたね?」


「間違っていると不敬罪になるので、言うのを躊躇ってました! でも、勇気を出してお伝えに来たんです!」


「僕の妹も精神操作されていましたね?」


「間違っていると不敬罪になるので、こっそり治しておきました!」


 偉いでしょと、堂々と胸を張る。こういうのは弱気になったら駄目なんだ。たとえ間違っていても、自信満々にしていれば、3割くらいの確率で誤魔化せる!


 それに聖奈の性格が少し変わったのは、たぶん白金の糸、みーちゃんの世界に属するようになったからだ。彼女はメインヒロイン役として運命に操られていたからね。


 みーちゃんの世界は『運命』という決められた未来の布は織られることはなく、『自由』という名の未来が誰にもわからない毛玉の世界だからね。


「……まぁ、そういうことにしておきましょう。それにこのままであれば皇帝の力は地に落ちて、どこかの家門が圧倒的な勢力となったでしょうから」


「不敬罪って、とっても便利な言葉だと思います!」


「こういう使い方をする人は初めて見ましたよ。……ですが、助けて頂いたのですから、これ以上追及は止めておきましょう」


 苦笑いをしつつ、信長君は手を組んで、目を細める。


「ですが、これだけは聞いておかないといけません。鷹野侯爵、僕たちに精神操作を、しかも魔法感知できないほど巧妙にかけた相手は誰でしょう。知っていますよね?」


「…………ショックを受けないでね? 犯人は元皇后だよ。どうやら不老不死の実験をしているみたい」


 答えを教えるのは心が痛む。だから、もったいぶることなく、あっさりと答えてあげる。神無月のことは黙っておく。ややこしいことになりそうだし。


 だが、その答えは充分に衝撃的な答えだったらしい。信長君も聖奈も驚愕し、ソファから勢いよく立ち上がる。


「母上が!」


「お母様が! そんな馬鹿な!」


 身を乗り出して、みーちゃんへと怒鳴るように聞いてくる。わかるわかる、みーちゃんもママが黒幕だったら、ショックで世界を虚無に返していたからね。


「彼女の正体は『空間の魔女』なんだよ。『ニーズヘッグ』の教祖と組んで、不老不死を研究していたみたい」


「『空間の魔女』ですって! し、しかし不老不死の研究と皇族の力を落とすことに因果関係はないですよ!?」


 たしかにそう見えるだろう。だが、この説明をどうしようかと考えるまでもなく、聖奈が口を挟む。


「………なにか私たちにはわからない思惑があるのだと思います。こういうものは、外から見ても、目的が分からないことが多いですし。繰り返すことによる不老不死……?」


 ごめんね、聖奈。外から見ても、わからないよね。不老不死というのは本当ではあるが、嘘でもある。『空間の魔女』の真の狙いは恐ろしいものだからね。


 でも、これだけは真実は語ることはできない。話しても良いことではないし。でも聖奈にはこっそりと伝えておこうかなぁ。これは後で考えよう。


「………ともかく、それが本当ならば生贄の数も多いはず。もしかしたら生贄をしていたことがばれるのを恐れて、皇帝を挿げ替えようとしていたのかもしれません。なんと言っても『ニーズヘッグ』の教祖は『生贄魔法サクリファイス』の使い手でしたから」


「皇帝を血統ごと入れ替えれば、たしかにどさくさに紛れて歴史の闇に葬れるか……。まさか母上が………。すぐに近衛兵を連れて逮捕に向かう!」


 信長君は急いで部屋を出ていく。これで捕まえることができれば良いけど無駄だろう。


『メインストーリーが壊れちゃった』


 ウィンドウが開いて、不満げなログが表示されるので、クスリと笑ってみせる。


『バレバレの黒幕とかも、斬新なストーリーでしょ?』


 ゲームのように進めるのは止めようって、お話ししたでしょ。この世界を楽しもうよ。


 人間としてさ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この章をありがとう [一言] やべー、完全に混乱してるよ、マジで。
[一言] やはりシステムさんが真の黒幕なのでは?読者は訝しんだ
[気になる点] ずっと気になってたのはシステムさんは何なんだろう?みーちゃんより上位存在の神かと思っていたけれど、もうちょい違う存在のような気がしてきた。
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