表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
3章 悪人退治

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/380

34話 本格的にレベルアップするぞっと

 薄暗い空には紫の毒々しい雲が浮かび、地にはヘドロのような色の毒の沼が広がっている。コポリコポリと泡立つと、毒の沼からは身体を蝕む毒の空気が作り出されて、その地を澱んだ瘴気の世界へと変えていっていた。

 

 澱んだ空気により、先を見通せず、視界の悪いその地にて、ヨロヨロとふらつきながら徘徊する人影があった。いや、朧気な瘴気の中で、その人影の体は細すぎて、そして背丈は高すぎた。3メートルはその背丈はあるだろう。


 歩くたびに、ギィギィと軋み音を立てながら、ヨロヨロと体を揺らす。


 澱んだ瘴気が、一陣の風が吹き、流れて散っていく。瘴気の靄が吹き散った後に残るのは枯れ木であった。いや、枯れ木ではない。ただの枯れ木ではあり得ない。


 なぜならば、枯れ木は二股に根を分けて、足の代わりに使いながら、体を傾いで歩いているからだ。魔物という存在がそこにはいた。


 細長い幹には、顔のように節穴が空いており、その枯れた枝には何匹かの紫色の翅をもつ紫の蝶が翅を畳んで、とまっていた。


 ギィギィと軋み音をたてて、毒々しい沼に足跡を残し歩いている。足跡はすぐに泥が入り込み、沈んで消えていった。


 枯れ木は永遠にこの沼地を徘徊すると思われたが、ピタリと動きを止めて、何かに気づいたのか、顔に似た幹の穴をある方向に向けようとする。


 そして、枯れ木の腕を持ち上げて、ゆっくりとなにかを確認するかのように動き


『狐火!』


 何も無い空間から、突如として飛び出すように現れた燃え盛る火炎弾を撃ち込まれて、その身体を燃やされてしまう。


「キカキカキカ」


 燃え盛る炎に覆われた枯れ木の魔物から逃れるために、木に止まっていた蝶たちが羽ばたき、離れていく。不気味なことに、その蝶は細長い胴体が縦に割れて、カチカチと蠢く。口のように開いた胴体には、不揃いに生えた乱杭歯が見えて、舌に似た口吻がベロリと身体を舐める。


「うわぁ〜、不気味だよっ! 『狐火連弾!』」


 火炎弾が放たれた空間に少女が現れる。もふもふな狐耳と尻尾を持つ少女だ。黒色に金のラインが入っている軽装型の『魔導鎧』を着込み、手には大粒のルビーが嵌められた短剣を持っている。


 毒々しい蝶たちが羽ばたき、その胴体が裂かれたように現れた口を見て、顔が引きつり、さらに火炎弾を放った。


 蝶たちの何匹かが燃えていき、ポトリポトリと地へと落ちて、泥に消えると、煙だけがあとに残る。


「下がってください!」


 狐っ娘が、魔導鎧をマナの青白い光で纏わせて、くるりと宙で回転すると後ろに下がる。入れ替わりに、鋭い声をあげて、武装された漆黒のレオタードのような『魔導鎧』を着込む黒髪黒目の少女が、艷やかな黒髪をまとめたおさげを振りながら、突撃していく。


 トンと軽やかに飛び上がると、美しい伸びを見せて、手に持つ刀を振るう。


『飛刀斬撃』


 連続で空間を斬っていくと、その刃から漆黒を塗り固めたような刃がいくつも飛んでいき、空を飛ぶ蝶たちを切り裂く。


 あっという間に、蝶たちは切り裂かれて、炎により焼き尽くされた枯れ木だけが残る。数匹だけ、まだ生き残っていた蝶が二人の少女を追いかけようと、胴体に生える乱杭歯を剥き出しにして羽ばたく。


『光鎖縛!』


 しかし、光でできた鎖が空を飛び、蝶を叩き落とす。泥に潜るように蝶が落ちると、数人の冒険者が現れて、翔ぶことのできない蝶を確認して、顔を見合わせて頷く。


 そうして、後ろへと振り向くと、声をかける。


「さぁ、今です!」


「オー、タオシチャウゾー」


 奥から銀色に見える美しい灰色髪を背中まで流すように伸ばした、まだまだ幼さの残る少女が現れた。


「てい。えい、てい」


 そうして、煌めくアイスブルーの瞳を暗く濁らせて、泥の中で飛び立とうとバタバタと激しく翅を羽ばたかせる蝶を、手に持つメイスで叩き潰していった。


「おめでとうございます、美羽様」


「ワーイ、ウレシイナー」


 冒険者たちが、ぱちぱちと拍手をして褒め称えるのを聞きながら、覇気のない声で答える少女。死んだような空気を纏わせて、ハハと笑う。


「お見事でした、玉藻さん。最初の不意打ちで勝負は決まったようなものです。『彷徨う木』をああも簡単に倒すとは」


「闇夜ちゃんも凄いよ! あれだけいた『毒々蝶』のほとんどを倒すんだもんっ!」


 ハイタッチをして、嬉しそうにお互いを称えるのは、油気玉藻と帝城闇夜だ。上手く連携がいったと嬉しそうに顔を綻ばせている。


 ここはダンジョン『毒の沼地』だ。毒を使う魔物が多く、毒沼も数多いダンジョンである。その和気あいあいとした姿を見て、ぷるぷると肩を震わせるのは、灰色髪の少女、鷹野美羽だ。


 遂に耐えきれなくなり、ウガーっと、美羽は口を開く。地団駄を踏んで、怒りで相貌を真っ赤にさせて怒鳴り散らす。


「接待ゴルフかっ! 接待ゴルフよりひでーよ、これ! 俺にも普通に戦わせろ! つまんねーよっ! 面白くねーよ!」


 と、叫んだ……とは、いかずに不満で頬をフグみたいに膨らませる。


「あの……私も普通に戦いたいんです。この9ヶ月。ほとんどこんな感じで、まともな訓練になってないよ?」


 良い子で、おとなしい美羽なのだ。なので、心の中だけで、ウガーと叫んでおく。


「それは仕方ないですわ、みー様。みー様は回復魔法使い。皆から守られる存在なのですから」


「そうだよ、玉藻たちにお任せっ! エンちゃんは、マナをとっておいて、いざという時に備えてよっ!」


 闇夜が俺の不満に気づき、穏やかな笑みで宥めてくる。玉藻はムフンと胸を張って、親指をグッドと立ててみせた。


「私も戦えるのに。全然強くなっていないよ!」


 いざいざいざいざいざ。いざと言ったぞ。


「美羽様は回復魔法使いとして成長しております。未だに回復魔法使いの師匠が見つからないのは申し訳ありませんが、焦ることはありません」


 教官が落ち着いてと、肩をポンポンと叩くが、回復魔法使いの師匠いらねーから。俺にはいらねーから。勝手にレベルアップもするし、魔法も覚えるからと言いたいが、最優先秘匿事項なので、口にできないもどかしさよ。


 そう、俺たちはダンジョンに鍛えるために来ていた。額冠事件から9ヶ月経過していた。俺の強くなる宣言を受けて、2週間に1回、俺は闇夜たちとダンジョンに入ることにしたのだ。なぜか玉藻も強くなりたいと、一緒に参加して訓練をしていた。


 そこで問題が一つ。訓練をしているのだ。ダンジョンに潜る以外にも、訓練をしている。俺にはあまり意味がない。いや、多少は意味があるが、それよりもダンジョンで魔物を倒しまくるのが、強くなるための、最短ルートなんだよ。


 しかしそれは俺だけの話。ゲーム仕様の俺だけの話。他の人たちは、訓練をして、汗を流し、経験を積み重ねて熟練者となり強くなる。


 俺の場合は魔物を倒して、経験値を貯めて、熟練度を上げて強くなる。不思議なことに、少し日本語が違うだけで、強くなる方法が大きく変わるのだ。日本語って、難しいよな。


 なので、皆にとってはダンジョンは練習の成果を試す本試合のようなもので、それ以上のものではない。そのために、俺は汗を流し苦労をして練習をして、ダンジョンでは回復魔法使いのために大事にされていた。


 困った事態である。俺にとっては、ダンジョンこそが訓練場なのに、まともに戦わせてくれないのだから。


 NPCが敵にダメージを与えると、倒しても経験値が激減するんだよ。ゲームあるあると言えよう。


 大事に大事にされて9ヶ月。俺のレベルはぜーんぜん上がらなかった。本当のことを言えない俺は大切な回復魔法使いとして、これまでの倍の護衛を引き連れて、接待ゴルフよろしく遊んでいた。戦っていたとは言えねーよな。


 闇夜たちは慰めてくれるが、状況は変わらない。


 そして、修行で強くなった二人です。


帝城闇夜 レベル27

油気玉藻 レベル22


 しっかり2人は練習の成果を見せていた。ずるい、俺もパワーアップしたい。というか、この子たちは元から強い。ゲーム仕様の俺とは違うのだ。能力は1からではない。元から高い。


 そんな俺の心を知らずに2人は慰めるために、話を変える。優しい2人だ。優しいから、無理は言えねーんだよな。


「みー様も来月には私たちと一緒に社交界にデビューです。ドレスに合うアクセサリーを帰ったら、決めませんか?」


「そーそー。エンちゃん、楽しみだよね」


 俺の父親は半年前に、急遽子爵になった。俺を守るためなのは、確かだ。家族愛に俺は涙で前が見えないぜ。しかし、そのために10歳になったら、皇城で開かれるパーティーでデビューしないといけないんだと。めんどくせー。


 美羽を可愛らしく着飾るのは好きだけど、その姿を他人に見せるつもりはあまりねーんだよ。


 それに全然力が足りない。まったく足りない。後少し力があれば……。


「あ、また魔物発見したよ〜っ!」


「『ポイズントード』ですわ」


 沼の中から、のそりと1メートル大の蛙が姿を現す。皮膚はぼつぼつだらけで、やはり紫色だ。このダンジョンは、敵の攻撃力は低いが、毒攻撃をしてくるので、極めて厄介な場所だ。しかしながら、油気家が提供してくれた毒防御の結界珠を使用しているので、毒は無効化できている。


 あの蛙も毒を吐き、厄介だが、反対に攻撃力は低いために、それ以上は怖くない。


「私が倒すから、皆は下がってて!」


 意訳、俺にもまともに経験値をくれ。


 おりゃあと、ポイズントードにメイスを振り上げて突進する。『魔導鎧』の力を使い、原付バイクの最高速度程度の速さで間合いを詰める。


 ポイズントードの力を知っている闇夜たちは、生暖かい目で、手出しすることなく見守ってくれる。


「たあっ」


 水鉄砲のように、毒水を吐き出すポイズントードだが、防毒結界が発動し、魔法の光の盾が毒水を弾き、俺はプチリと蛙を潰した。防毒結界って、便利だよな。


 倒した瞬間に、ファンファーレが鳴り響く。


『ポイズントードを殺した! 経験値を130手に入れた。レベルが上がった! 盗賊Ⅱの熟練度が上がった! サブジョブが解放された!』


「ようやくかよ。長かったぜ」


 俺はニヤリと小さく笑みを浮かべる。これを待ってたんだ。経験値が少ないから打開策を考えていたんだ。


鷹野 美羽

レベル15

盗賊Ⅱ:☆☆☆☆☆☆☆☆☆

HP:75

MP:40

力:60

体力:60

素早さ:99

魔力:15

運:45


 実は神官はⅠをマックスにして終わりにした。後は盗賊を上げていたのだ。


 中級武技と、中級盗技を持つ盗賊Ⅱの固有スキルは、『鍵開けⅡ』、『盗むⅡ』、『隠れるⅡ』を持つ。『隠れるⅡ』は敵に出会わないように、マップで使えるスキルなんだ。


 そして、この『隠れる』は、全ての魔法感知、機械的な監視からも隠れることができる。ゲーム仕様って、怖いよな。ふふふふ。


 サブジョブも解放されたのだ。さて、明日から金曜の夜と土曜の夜はレベル上げに行くぞっと。


 ダンジョンを探さないとな。このジョブならあっという間にレベル上げができるはず。


 ……それに、15レベルで解放されたのは、もう一つある。社会人の強い味方。おっさんの心強い力だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
オッサンズが皆涙にして喜ぶ心の友!その名も、ゾウモウザイ!!
[一言] スラッグはナメクジで、蛙はトードではないでしょうか?
[一言] >魔物という存在がそこにはいた この部分に目がいくまでなぜか頭の中で主人公がギィギィ鳴きながら竹馬してる光景が・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ