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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
11章 侯爵

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337話 雑草はちゃんと根っこから引き抜くんだぞっと

 不気味なる蔦たちは、一斉に襲いかかってきた。音速には至らずともかなりの速さだ。


 だが、闇夜たちはレベルアップしている。この程度の速さならば、簡単に躱せるだろうとみーちゃんは自分に迫りくる蔦だけに対処する。


「てい」


 槍のように先端を尖らせて迫る蔦を、横からペシリとはたき落とし、後ろから狙ってくるのを僅かに身体をずらし回避する。掬い上げるように手を振って、束ねて襲いかかる蔦を纏めて軌道を変えてしまう。


 数は多くとも、みーちゃんたちの敵ではない。余裕綽々でそう思っていたら、皆から悲鳴が聞こえてきた。


「くっ、身体の動きが鈍いです」


「なんだか重りをつけられているみたいだよ〜」


「あいてっ、いてて」


「わわっ、防御魔法が発動しないよぅ」


「どうなっているのでしょう」


 闇夜たちの動きはとても鈍く、まるで重力が違う惑星にいるかのように遅かった。いつもどおりの動きなのはニムエとセイちゃんだけだ。


 魔導鎧が魔法障壁を発動させて、なんとかダメージを負ってはいないが、次々に蔦は命中していっているので、いずれ打ち破られるだろう。


 一体全体なにが起こっているのだろう。デバフをかけられた様子はないのだ。


「これが呪い……?」


 聖奈が顔を歪めて呟く。なるほど、そう言われると呪いの効果に見える。でも見えるだけで、呪いではないのは解析でわかっているのだ。


「……皆が変」


「どうやらお守りする必要があるようです」 


 ニムエとセイちゃんだけはいつもどおりで、他の皆はおかしい。なにが違うのかと、眉を顰めて考えるが、みーちゃんよりも驚いた者が存在していた。


「な、なぜ貴公らは普通に動けるのだ? いや、他の者たちも鈍いとはいえ何故動ける?」


 平将門が驚愕していたのだ。そのセリフの意味は本来ならば動けなかったとの意味が含まれていることに気づく。


 今までの英雄たちは身動きもとれなかったと。そして、みーちゃんたちは動ける。この違いはなにか? デバフではない。かけられたらシステムさんがすぐに教えてくれるはず。


 ……ニムエとセイちゃんが阻害されておらず、他の皆は動きが鈍い。そして、みーちゃんも動きを全く阻害されてはいない。


 違いは明らかだ。ニムエは眷属でセイちゃんはいち早く白金の糸に全ての構成を変えていた。


 即ち、みーちゃんの世界に二人はいるのだ。この世界の運命にもはや縛られていない。


 セイちゃん……謎のスキルを持っているよね。いつも抱っこをせがんできたから、一番接触が多かったとはいえ……みーちゃんの使徒『勇者』枠なのかな?


 そして、他の皆はまだこの世界の運命に縛られている。自身を構成している黄金の糸が動きを阻害していた。


 『動くな』と黄金の糸に平将門が命令をしているのだ。それは絶対的な運命となって皆を縛っていた。


 本来は金縛りのように動けなくなるのだろう。だが、白金の糸に半分以上構成を変えている闇夜たちは動きが鈍くなるだけで済んでいる。


 なんというチート。もしも黄金の糸だけのままであったら、どんなに強くとも動けなくなり倒されていたのだ。


 なるほど、始源の力を支配しているとの平将門の言い分は正しい。凄まじいチートなスキルだった。


「くっ、それならばこれでどうですか!」


『ターンアンデッド』


 聖奈が苦悶の表情で、逆転を狙い聖なる光を放つ。さっきまではこれで闇のオーラは剥ぎ取れたのだが………。


「なっ! 効果がありません!」


 光に照らされても、蔦から闇のオーラは剥ぎ取れず、聖奈は驚愕する。


「愚か者が! 外にいた者たちは生者への憎しみが凝り集まった闇のオーラ。この部屋の闇のオーラは我の意思が始源の力と混ざったために作られた者たち! そのような攻撃が効くものか!」


 完全に敵となった平将門はせせら笑う。救いはなく永遠を生きている英雄はすっかり性格がネジ曲がったようだ。


「幼子たちよ、我と共に永遠を生きよ!」


闇蔦ダークアイビー


 本気となったのか、平将門は部屋に広がる蔦にマナを流し込む。先程までも充分に速かった闇の蔦が、さらに硬度を増して切れ味を付与されて瞬きの間にみーちゃんたちを貫こうとしてくる。


 豪雨のように数多く闇の蔦は全方向から迫ってきた。


「させません」


『絶氷壁』


 青髪を靡かせて、宙に飛んだニムエがパチリと指を鳴らす。瞬時に全員を包む極低温の氷がドーム状に生まれて、闇の蔦を阻む。


 だが突き刺さった箇所から氷にヒビが入り、パラパラと崩れてゆく。


「くっ、だから植物は嫌いなのです」


 本来ならば絶対の防御壁となる氷の壁だが、植物とは相性が悪すぎるようで、氷は吸収されていく。


「………氷に雷を流し込む」


『豪雷』


 セイちゃんが氷の壁に手を付けると、雷を生み出す。氷の壁に雷は這っていき、突き刺さっている闇の蔦を焼き尽くしていった。


 だが、その衝撃により氷の壁は砕けてしまい、皆は地上へと降り立つ。


「まいります!」


『闇剣二式 影斬り』


「とやーっ! いっけぇぇ!」


『妖狐襲牙』


 闇夜が前傾姿勢となり、滑るように平将門へとの間合いを詰めて、闇を凝縮させた夜天で切り裂かんとする。


 玉藻が闇夜の攻撃に合わせて、自身を見上げるほどに巨大な九尾の狐に変化させると、平将門に牙を剥いて噛みつこうとする。


「精彩の欠けたそのような攻撃で、我に傷をつけられるとでも思うてか!」


 蔦の塊の中で、花弁のように身体を突き出している平将門は、つまらなそうに手を振る。闇のマナを含んだ突風が巻き起こり、周囲へと広がっていく。


「キャッ」


「クウッ」


 ただ腕を振っただけなのに、その威力は恐ろしく強力で、闇夜たちは抵抗することもできずに吹き飛ばされてしまう。


 あっさりと奥義が破られた二人が地に伏すのを見て、平将門はさらに追撃をしてくる。


『羅生の腕』


 手を振り上げると、ボコボコと皮膚が波打ち膨れ上がる。それは真っ赤な肌の鬼の手であった。針金のように剛毛が生えており、いかなる攻撃も防ぐ強固なる肌、魔法障壁ごと敵を切り裂く爪がギラリと光る。


「そして地力も違う! 神へと歩んでいた我の力を見よ!」


『紅き剛爪』


 爪が紅き光りを宿し、闇夜たちへと振り下ろされる。紅き閃光が軌道に残り、動きの取れない二人に肉薄する。


 カァァン


 だが、乾いた金属音がすると鬼の爪は反り返るほどの勢いで弾かれた。


「そうはさせないよ!」


 みーちゃんが横から入り、ポヨポヨの鎚で受け止めたのだ。


「うぬっ! なぜ貴公らは動ける?」


「幼子代表だからじゃないか?」


 猛禽のように目を鋭くさせて、ニヤリと笑ってみせる。平将門は怒ったのか、顔を歪めて鬼の爪を連続で繰り出してきた。


 空間を切り裂き、何本、何十本と爪痕を残してみーちゃんへと竜巻のように襲いかかる。


「とやとや」


 ポヨポヨの鎚を軽く握ると、みーちゃんは爪へと合わせて弾いていく。まるで爆竹のようにみーちゃんの周りで火花が発生し、激しい打ち合いとなる。

 

 高速の爪撃はいつ終わるとも知れず、みーちゃんの防御を抜いて、何本かが身体を削っていった。


「むむ?」


「ふははは、どうした幼子代表! 我の動きについてこれないではないか」


 サタンコスがボロボロになっていき、小悪魔の翼や尻尾が引きちぎられていく。鮮血が舞い散り、肉が抉られる。


「やっぱり魔導鎧を着ていないと敵わないか」


「みー様!」


「エンちゃん!」


 失敗、失敗とぺろりと舌を出して反省する。闇夜たちが悲鳴を上げて助けに来ようとするが、大丈夫だから見ててね。


 カァとカラスの鳴き声がして、平将門のレベルが表示される。


『平将門:レベル150、全耐性』


 やりこみダンジョンのラスボスだけはある。みーちゃんでも素でのステータスは敵わない。


「ここで我と共に永遠を生きようぞ!」


『剛鬼落掌』


 もう片方の腕も鬼の腕に変えると、握り締めるように両手を繰り出す。マナの真っ赤な光が眩しいほどで、その威力は喰らえば致命的な技だ。


 ゲームで喰らったから知っている。敵のHPを固定で一桁に減らす厄介な技なんだよね。


 ズシンと音がして、みーちゃんは鬼の手にぺしゃんこにされた。グシャリと音がして、肉が潰れる嫌な音が響く。


「ふはは、やった!」


 哄笑する平将門。鬼の手の間から血が川のように流れてきて、血溜まりを作る。


「幼子にプロポーズをするのは違法だよ、平将門」


「むっ? まだ息があるのか?」


 鬼の手に潰されたはずの少女から声が聞こえてきて、平将門は驚きで目を見張る。


「そりゃ、生きてるよ。だって反対をいえば必ず一桁はHPが残るということだもんね」


「??? なにを言っている?」


 みーちゃんの言っている意味がわからないのだろう。平将門は戸惑いの声をあげる。


 頭が潰されても、腕が引きちぎられても、HPが残れば問題はないんだ。


「お前は弱いってことだよ」


神癒ゴッドヒール


 鬼の手の隙間から眩い白金の光が漏れてきて、辺りを照らす。


「むっ! 貴公、回復魔法使いであったか!」


「平将門、お前は強い。だが、その無駄口こそが弱点だ」


 意識を切り替えて、美羽にバトンタッチする。たしかに平将門は強いが、ゲームならば黙々と攻撃をしてきた。


 やったか、などと喜びの声をあげて、攻撃の手を止めたことなんかない。


 即ち、現実の平将門は自我があり、感情を持っているからこそ、それが隙となり弱くなっていた。


『神気断絶剣』


 ピシリと鬼の手に何本もの軌跡が奔る。そうして、鬼の手は細切れとなって、ボトボトと地へと落ちていく。


「うおぉぉっ! ば、馬鹿な! 我の鬼の手はヒヒイロカネよりも硬いはず!」


 両手を切られて苦痛で身体を捩らせる平将門。


「それが隙なんだぜ!」


 シュルリと自分の周囲に蛇のように神気の剣を漂わせて、美羽は肉塊となった鬼の手から歩み出る。


「今度は本気で相手をするから楽しんでね、平将門さん」


 既に装備もヤールングレイプルに着替えを終えており、準備万端だ。


「おのれっ! だが、無駄な足掻きよ!」


 平将門は斬られた腕をすぐに再生する。植物が成長するかのように、あっという間に元へと戻っていった。


「我の眷属たちよ! 起きてこの不遜な者たちを滅せよ!」


 そうして、さらに声をあげると、壁からうめき声をあげて、なり損ないたちがぞろぞろと姿を現す。


「久しぶりに本気を出しちゃうよ!」


 美羽は不敵な笑みを浮かべて、神気の剣を構えるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この章をありがとう [気になる点] みーちゃんの友達が心臓発作を起こしそうだ [一言] >「今度は本気で相手をするから楽しんでね、平将門さん」 ハハハハハハハハハ 遊びわおわりだ
[良い点] 四天王のゲルズがやってたことと媒体は違えどほとんど同じと考えると、奴は凄かったんだなぁって
[良い点]  世界のことわり(黄金と白金)がせめぎあっていたことを今話で金具素屯もようやく理解完了(´ω`) [気になる点]  みーちゃんさまの身近にいて幼稚園からの仲良しトリオだった闇夜ちゃんと玉藻…
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