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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
3章 悪人退治

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33話 修行する闇夜

 帝城闇夜は、刀を振るい、素早く踏み込んで移動する。途上にある案山子が切り裂かれて落ちていく。9歳にして、天才的な刀技を見せる闇夜。その姿は闇の中に照らされる星の光のように美しかった。


『連斬』


 その刀はマナの光を宿しており、闇夜が振るう刀の速さは人の限界を明らかに超えていた。まるで一瞬の煌めきのようであり、視認も難しい剣撃は酷く美しくもあった。


「お見事です、闇夜様。単純な『連斬』とはいえ、そこまで綺麗に速く振るうことは難しい」


「ありがとうございます、教官」


 ぱちりと刀を鞘に納めると、残心を解き、闇夜は笑顔になる。メイドが冷やしたタオルを持ってくるので、軽く顔を拭き、おさげをふわりとかきあげる。


 今、闇夜がいる所は帝城家の訓練場だ。しっかりと整備された更地で、訓練場を囲む壁は強固な結界魔法がかけられており、外に流れ弾が飛ぶ可能性を低くしている。


 9歳にして、大人顔負けの訓練を闇夜は重ねていた。既に一端の剣士であり、闇夜は平均的な武士を倒せる腕前だ。


「闇夜お嬢様。失礼ながら訓練のしすぎかと。美羽お嬢様とお遊びになった方が良いですよ?」


 最近訓練一辺倒になっている闇夜を心配して、教官が遊ぶように勧める。子供には友人たちとの遊びは必要なものだ。遊ぶのだけにかまけるのも良くはないが、遊びは必要だ。


 特に高位貴族はコミュニケーション能力が高くなくてはいけない。相手に合わせた遊び、話し方など、勉強だけでは手に入れることができないものは多々あるのだ。特にお茶会、夜会での根回しする前準備の交流会との代名詞もある。


 ムスッとした顔で、クールを気取る者は、他人を気にする必要がない圧倒的な力を持つ者だけだ。そして、そんなことをしても、得になることなど何も無い。なので、皆は最近の闇夜を心配していた。


「わかっています。ですが、私はみー様を守れる力が欲しいのです」


 闇夜もそこはかとなく言われたことは理解している。なんのかんの言っても、まだ9歳。遊び盛りの歳なのだから。


 だが、ストーンゴーレムとの戦闘時、ほとんど役に立てなかった。なんとか一撃は与えることができて、みー様は危なかったからありがとうと、世界一可愛らしい笑顔でお礼を言ってくれたので嬉しかったが、たった一撃だ。情けないにもほどがある。


 なので、闇夜は同じことがあった際に、ストーンゴーレムを倒せる力が欲しかった。なので、みー様と一緒に遊ぶのを断腸の思いで断り、訓練をしていた。


「闇夜、お前は視野狭窄がすぎるな」


 教官たちが、頑固な闇夜をどう説得するか困り果てていると、後ろから威厳のある重々しい声音で声がかけられた。聞き覚えのありすぎる声に闇夜が振り向くと、予想通り着物を着て、ゆっくりと父親が歩いてきていた。


「お父様。それはどのような意味でしょうか?」


 自分のやっていることが否定されたような気がして、頬を膨らませて子供っぽい姿を闇夜は見せる。


 その様子を見て、王牙はまだまだ子供だなと苦笑しながらも、現状を打開する簡単な方法を娘に伝えることにする。


「武器だ。闇夜が使っているのは、量産型『魔導鎧虎徹22式』だな?」


「ええ、最新型です。これ以上となると専用機となりますが、私はまだまだ成長しますし、さすがにいくらお金があるとはいえ、もったいないです」


 静かな物腰で自身の装備している魔導鎧を見る闇夜。確かにそのとおりだ。虎徹22式も闇夜のサイズに改装したのである。専用機など、さすがに大金がかかるものを9歳のために作ることはできない。最低でも12歳からだ。


 しかしながら、それは『魔導鎧』に限ることと言えよう。


「武器ならば問題はあるまい。これを使え」


 くいと顎を動かすと、秘書が桐の長細い箱を闇夜に手渡す。桐の箱には何枚もの封印の護符が貼られており、強い闇の力が中から感じられる。


「お父様、これは?」


 なにか強力な力が宿った物が箱に入っていると感じ、闇夜は怪訝な表情となり尋ねるが、箱を開けるように王牙は促す。


 桐の箱を封印している符を剥がし、紐を解いてそっと開けると、黒塗りの鞘に納まった一本の刀があった。見るだけで凄まじい力を感じ取れる。


「その刀の銘は『夜天』。古くから我が家に伝わる魔道具の一つだ」


「『夜天』……。なんて美しい刀身」


 スラリと抜くと、刀身は星の光が闇に光るような輝きを思わせる。闇のオーラが刀を覆い、その力の強大さが闇夜にはわかった。


 なにしろ刀を抜いただけで、肌が震えるようで、持ち手からマナが吸い取られていくようだった。いや、実際にマナが吸い取られていく。


「くっ。お父様、こ、これは?」


「未だに、そなたが未熟な証だな。その刀はマナを吸収する。防ぐには完全にマナを操作して、吸収されないようにするしかない」


 クラクラと頭がふらつき、膝を突きそうになる。歯を食いしばり、闇夜は耐えるが直にマナが尽きてしまうだろう。


 その様子を見ても、王牙は平然としており、予想通りだという顔をしていた。当然だ。夜天はそれだけの力を持つ刀。持ち主を選ぶ我が家の家宝の一つだ。生半可な腕の者では扱うどころか、持つこともできない。


「闇夜のマナ量であれば、現状でも数分は戦えるであろう。ストーンゴーレムの手足の1本や2本は斬れるであろう」


「……それは素晴らしいです。ありがとうございます、お父様」


 闇夜にはこの刀の利点がすぐにいくつも浮かんだ。いざという時に使えること、普段訓練で使えばマナの操作の練習となること。そして、普段の訓練ペースに戻せるため、みー様と遊べることだ。


 しかし、お父様はそれ以上の内容を教えてくれた。


「侯爵家には財力も権力もある。無論、武力もだ。今回は手っ取り早く力を得る方法として、家宝を渡したが……それ以上は言わなくともわかるな?」


 厳しい目つきで見てくるお父様の瞳の奥に優しさを感じて、コクリと頷く。だいぶスパルタなお父様だが、それでも、まだ優しい。


「刀1本で守れる範囲は狭い。それに武力で守れることなど、本当に僅かです。政界で根回しを。強い護衛を雇い、周りに牽制をする、味方を増やすために、人脈を増やす、ですか?」


「そのとおりだ。侯爵家の跡継ぎが刀を振るうだけで、何もかも守れると勘違いしてもらっては困る」


 確かにそのとおりだ。努力の方向を闇夜は間違えていた。これが普通の出自の者ならば良い。しかし、自分は侯爵家の者。他にも多様な手段を取れるし、取らなくてはならないのだ。


「むぅ……厳しいお言葉ですわね。それではおすすめに従い、明日からはみー様と遊ぶ時間を作りますわ」


 平静な顔で答えるが、闇夜は内心で喜びの踊りをしていた。明日はみー様の大好きなおやつを持っていこう。チョコレートが良いかしら?


 見抜かれているのか、苦笑をして王牙はまだ話があると闇夜を誘う。


 今度こそ、闇夜は訓練を止めると、王牙へとついていくのであった。



 居間に戻り、テーブルを挟んで対面に座る。なにか重要なことを話すつもりだと、闇夜は背筋を伸ばす。


 侍女がテーブルにコーヒーを置いて、一礼して去るのを確認し、王牙はコーヒーカップを持ち上げて一口飲む。闇夜のはホーンラビットカウのアイスミルクでハニービーの蜂蜜が垂らされており、冷たさの中に優しい甘さがありホッとする。


「実は鷹野芳烈殿の爵位の授与が決まった」


「男爵ですわね。遂にみー様のお父様は決意致しましたか」


 その話は闇夜も耳に入れている。みー様を守るためにも必要なことだ。まだ9歳の子供でも理解できる話だ。平民では回復魔法使いのみー様を守ることは不可能だ。


「いや、子爵となった。陛下に奏上して、認められた」


「子爵ですの? それは……なにか理由が?」


 予想外の言葉に、闇夜は驚きを隠せない。男爵はそれこそ、石を投げれば当たるほどに、多くいる。貴族と言っても名誉だけ。一応貴族なので、他の貴族もあまり強引なことはできない。


 しかし、子爵からは話が違う。本物の貴族は子爵家からとも呼ばれているのだ。誰も彼もがなにかの会社の社長をしているし、財力がある。中世時代と違い、領地などはないが、その分税などの優遇を受けている。


 これは金を稼げば稼ぐほどに優遇されるので、貴族と平民の格差を広げる原因の一つとなっていた。


 だからこそ、子爵になるのは大変だ。100家程度しかいないのが子爵なのである。元伯爵家の次男と言えど、平民であり、失礼だがろくに資産もないみー様の父親では無理だと思う。


 それが子爵家とは、なにかがあったに違いない。それはみー様のことしかない。


「実は美羽ちゃんが『魔力症』を癒やした」


 その一言で理解した。みー様を守るためにも、闇夜は回復魔法使いの現状を必死になって調べていたのである。美羽も同様に調べることは可能であったが、美羽はゲームの知識が反対に邪魔をしていたので、調べることはしなかったのである。


「『魔力症』は癒せる回復魔法使いは今は10人しかおりませんわね?」


「そうだ」


「わかりましたわ、今のみー様は9歳。『魔力症』を今の時点で癒せるとなると、将来的には欠損すら治してしまいますね」


 みー様は天才だ。確実に治せるようになるに違いない。と、すると先行投資というわけですか。ますます私がそばにいて、守らないといけないでしょう。


「子爵家となれば、陞爵も簡単であるし、高位貴族との婚約も」


「え?」


「こほん、とりあえずはそのような形だ。守ってやるのだな。あの子は戦闘力は低い。典型的な回復魔法使いだ」


 なにか幻聴が聞こえた気がしましたが、気のせいだったみたいです。良かった。なぜかコホンと咳をするお父様。風邪かしら、梅雨に入るから気をつけないといけないわ。


「確かに。わかりました。私が一生を守ることを誓います」


 この『夜天』に誓って。


 みー様は回復魔法使い。戦闘力と財力と権力のある私が守らないといけない。


 闇夜は強く決意をして、『夜天』を高々と掲げるのであった。


 小説の闇夜と大きく乖離した今の闇夜。原作のストーリーにどう影響があるかは、神ですらわからないであろう。


 ただ、闇夜は親友のために、また一歩成長したのであった。


 少なくとも、羽虫がみー様に近づける可能性はなくなったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「そのとおりだ。侯爵家の跡継ぎが刀を振るうだけで、何もかも守れると勘違いしてもらっては困る」 真白が跡継ぎなのでは?
[良い点] ここまでとても面白く読ませてもらいました。 [気になる点] 百合やガールズラブのお話が駄目なので、この1話でちょっと闇夜さんの言動が「もしや?」と思わせる感じで心配になりました。 (そう言…
[一言] (ただしゴーレムは破壊する)
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