329話 ようやく黒幕がわかったんだぞっと
叙爵式が終わり、その後盛大に鷹野家一門で宴会を一週間続けたあとである。
皆がへべれけになって、二日酔い。呻き苦しむ人たちは放置して、みーちゃんは『マイルーム』で、恒例の作戦会議を行なっていた。
メンバーはみーちゃん、オーディーンのおじいちゃん、フリッグお姉さん、フレイヤ、ヘイムダル、アリさんとリルだ。アリさんは豆腐のように大きな角砂糖をカジカジ食べていて、リルはお腹を見せてすよすよと寝ているけど。
「うぅ、頭が痛い……。おかしい、こんな人間のお酒で酔うなんて………」
約一名、顔色が元々悪い不健康な青年が、ますます顔色を青白くさせて頭を押さえているが気にしない。
「仙酒を作ってみたけど、販売しない方が良いね。説明書きに一週間酔うことができる絶品とあったんだけど」
「だから、皆苦しんでいるのか………。え、もしかして二日酔いならぬ一週間酔い?」
「このレシピは封印しとくよ! レシピで大丈夫そうなものだけ売りに出すね」
「え、もしかして、実験体に使われている?」
ヘイムダルが顔を引きつらせるが、気のせいだよ。ただ、新たなる業務として聖花や魔法花以外に、泥酔米や火炎豆など、他の作物も作って売りに出したい。
そのためにゲームレシピで料理を色々と作っているんだ。食べても大丈夫だよ、説明書きには毒とは書いていないからね。
「それに、一週間酔いで動けないパパたちの代わりにお仕事してるもん。偉いでしょ!」
ふんすふんすと鼻を鳴らし、みーちゃんは胸を張って得意げな顔になっちゃう。
「あ、あのぅ、仕事って?」
「移住承認のハンコをペッタラペッタラ押してるよ! 引越し先用に建物もドッカンドッカン建てているし」
シュパッと手をあげて、頑張ってるよとフレイヤに元気な笑みを見せる。山積みの申請書も電子での申請も許可許可許可、たまに不許可と高速で片付けている。みーちゃんの頑張りは読んでいないのではと思えるほどの速さなんだ。
なにせ鑑定すれば、怪しい相手かはわかるからね。
………みーちゃんはそこまでの次元に達したのだ。『フリズスキャールブの王座』は良い仕事をしてくれている。
「ふふっ、本来は数カ月はかかる申請を数日で片付けるなんて、酷いお嬢様ね」
「そこまでの力を手に入れたということだな?」
妖艶なる笑みでフリッグお姉さんがみーちゃんを見てきて、難しそうな顔のオーディーンのおじいちゃんが隻眼を光らせる。
オーディーンのおじいちゃんは相変わらず鋭いね。
「まぁ、人間としての仕事はこれぐらいかな。それじゃあヘイムダル、指定の人物がどこにいるか調べてくれない?」
『神癒』
うめき声をあげて、床にのたうち回るヘイムダルを回復させる。そろそろ本題に移ろう。お遊びはここまでだ。
「助かったよ、早く回復してくれれば良いのに。それじゃあ、その人間を探せば良いんだね。お任せをレディ」
ブツクサと文句を口にしながら、体調が回復したヘイムダルがすくっと立ち上がると、気取った礼を見せて魔法の力を発動する。
「僕の瞳に映らぬものはなし!」
『千里眼』
ピカーンと目を光らせる訳のわからない演出をして、ヘイムダルが周りを見渡すようにキョロキョロと顔を動かす。
しばらく見ていると、光は収まりヘイムダルはフッと髪をかきあげて、みーちゃんへとニカリと笑ってみせる。
「見えなかった」
「てい」
キングホーンベアカウジャーキーをヘイムダルのボサボサ頭に投げた。役立たずじゃん、このニートダル。
「ヒャンヒャンッ」
「ギャッ! この駄犬、ふざけんなよ、こら髪ごと食べようとするんじゃないっ! いて、イデーッ」
ジャーキーに反応して、寝ていたはずなのにすぐに起き上がり飛び跳ねると、ヘイムダルの髪に猛然と噛みつくポメラニアン。
物凄い興奮のしようで、尻尾をふりふり鼻息荒くジャーキーは私の物だよと髪ごとジャーキーに噛み付いている。うんうん、わかるわかる。ポメラニアンって凶暴なんだよね。
「ちょ、おかしいって。いないんだよ。たぶん検索条件がおかしいんだ。イテッ、離せよこの駄犬!」
「ふむ……。名前じゃ駄目かぁ。それじゃあ抽象的な言葉でいこう」
検索条件に名前は駄目だったか。もっと簡単にしようかな。
「それじゃあ『神無公爵の養女のおうち』で検索してみて」
「りょ、了解レディ。では、もう一回」
『千里眼』
「見えてきた……見えてきたぞ……建物、しっかりとした建物……城? これは皇帝の城だ……皇后の部屋らし――」
なんとかリルを引き離したヘイムダルが、再び目を光らせて……バシンと目が吹き飛んだ。血が吹き出して、ヘイムダルはもんどりうって倒れ込む。
「グワーッ、目が目が〜」
「そういうの良いから」
『神癒』
そのネタはもう使い回されてつまらないよと、回復させる。すぐに吹き飛んだ目玉は元に戻り、ヘイムダルは不満そうに立ち上がった。
「人間じゃないじゃん! あれは神だろ! なんの防御魔法もかけさせないで『千里眼』を使わせないでくれよ!」
「対探知魔法は即死するほどの威力はだせないから大丈夫だよ、ヘイムダル」
場所がわかっただけでも儲けものだ。それにこれで大体の流れはわかったぞ。
「ふん、神無公爵の養女の名前は神無月であったな。最初からヒントを与えてきていたとは、儂らは舐められていたものだ」
軽く息を吐き、オーディーンのおじいちゃんはソファによりかかる。たしかに最初からヒントはあったんだ。それもわかってみればとってもわかりやすい。
神無月。神のいない世界をもじっていたのだろう。弟に太陽とか名付けていたから、すっかり騙された。ミスリードされていたんだ。
「まぁ、儂は日本の独特の月の言い回しは知らなかったからな。無理もないが」
「自己弁護しても私たちが間抜けだったのは変わりないわ、オーディーン。神のいない世界、即ちそのことを自分は知っていると見せていたのよ? お嬢様は気づいて良かったんじゃないかしら?」
たしかにフリッグお姉さんの言うとおりだ。これが推理小説なら気づいていただろう。真犯人を本の半分も読まずに当てるのが得意だからね。
「でもなぁ……。義妹だよ? お兄ちゃんお兄ちゃん言ってた全肯定のヒロインだったんだよ? 黒幕だって思う、普通?」
灯台下暗し。ここに来て姿を消したヒロイン『神無月』が最終ラスボスだった模様。
あんなテンプレ義妹が黒幕だと思うか普通?
「たしかにおかしいところはあったんだよ。なんで公爵が養女にするかが一番疑問だったんだ。原作のイメージに引きずられていたんだ。原作がなければ気づいていたと思う」
現実にあんな義妹はいない。しかもお兄ちゃん大好き全肯定娘なんてね。でも、あの演技をし続けていたとは……恐るべしラスボス神無月。
いや、もう神無月という名前ではないのだろう。みーちゃんたち以外は神無月という少女が存在していたことすら忘れているようだし。
「わ、わかっちゃいました。きっとその正体は死んだ皇帝の皇后ですよね? 全ての中心で操っていたんだと思います。だって関係者全員に会えますもん」
「フレイヤの言うとおりだな。神無公爵も作られた存在だとすれば……いや、最初は人間だったに違いない。皇后の立場を利用して最初の接触から神無公爵を操った。そやつが全ての流れを作っていたのだとすれば話はわかる」
さすがの推理力をフレイヤがしてくる。たしかに豪華な城に住んでおり、まだみーちゃんが見たことのない重要人物といえば、皇后しかいない。
とすると気になることがあるな……。
「ヘイムダル、『空間の魔女のおうち』で検索してみて?」
「うん、なにそれ? まぁ、良いけどさ。……あれ、さっきと同じ光景……グワァッ、目が目が〜」
天丼をするヘイムダルを回復させて、むぅと顔を顰めちゃう。
「まさかと思ったけど、『空間の魔女』も神無月だったのか。どうりで住居が原作で出てこないわけだよ! 何役やっていたわけ? 義妹として一番そばにいて神無公爵やシンを操っていたんだな!」
「あぁ〜、あの継ぎ接ぎだらけの魂と肉体を持っていた生命体のこと? あれは不気味だったねぇ」
ヘイムダルがウゲェと気持ち悪そうに舌を出す。
そうなのだ。ヘイムダルの目には神無公爵は人の形をしていなかったらしい。いくつもの魂と肉体を無理矢理結合させた化け物だったそうな。
「でも、人間の皇帝を作るためじゃないわよね? 自身が神になるためでしょ? なんで新生命体を作るような回りくどいことをしているのかしら?」
ティアラワッフルを食べながらフリッグお姉さんが言う。そのティアラは誰の?
「以前に告げたとおりだな。争いをループして繰り返すことには世界を壊すという意味があった。そして新生命体を作るにも、世界を破壊すること以外に、儂らの知らぬ思惑が隠れているのだ」
「そ、それじゃあ……きっとヘルヘイムが生きていたんですね。滅ぼすことができなかったんですよぉ。『魂分与』をしていたと思います。最終目標はこの世界の神だと思いますよ?」
オーディーンのおじいちゃんの言葉に、フレイヤがさらなる推理をする。
「それはないよ。ヘルヘイムは滅んでいる」
でも、間違っている。ヘルヘイムは完全に滅んでいるんだ。だってシステムさんが確約してくれたからね。間違いはない。
「でもこのやり口はヘルヘイムですよぉ。間違いはないと思うよ、みーたん?」
フレイヤは譲ることなく反論してくるが、たしかにそうかもしれない。
死の女神ヘルヘイムならば『魂分与』も得意だろうし、生き残ることは可能だ。
しかし、それは可能性の話でシステムさんが滅んだと告げてきているのだから、滅んでいるんだよ。
「私の攻撃によりヘルヘイムは滅んだんだ。その魂はたとえ分与していても影響を受ける。たとえどんなに離れていても、滅びは訪れるんだ。私の『神殺し』はそういう権能なんだよね」
「それがたしかなら恐ろしい権能だが……ならば、何者が蠢いている? 全く儂らの知らない存在か? しかしここに来てまったく儂らの知らない者がいるとでも言うのか?」
呻くように疑問を口にするオーディーンのおじいちゃん。わからない。これ以上黒幕はノーサンキューなんだけど。
でも対応策はある。簡単な対応策がね。
「ヘイムダル、倒した神無公爵の魂は何個結合していたの?」
ここのつの意味。たぶん9個の魂を使った実験のような気がするんだ。
「何個か? ううーん……たぶん3……いや、4個かな?」
あの時は『神』ではなく『勇者』だったからね。しかもオーディーンのおじいちゃんが倒したんだ。だからあの時に戦った神無公爵の魂以外は滅ぼせていない。シナリオも滅ぼせではなくて、撃破だったし。
「それじゃあ、9つの魂は残り5個なんだね。補充をできないことが前提だけど、残りの魂を使って、もう一人新生命体を作っているんじゃないかな? それを邪魔すればとりあえず問題はないんだと思う。皇后に謁見を……」
皇后と謁見して病死してもらうか、怪しげな研究所を見つけて破壊しようと口を開いて、宙空に浮かんだボードを見て口を噤む。
『メインストーリー:敵は全ての準備を整えようとしている。聖奈は束の間の平和を享受しつつ嫌な予感を拭いきれないのであった』
『クリア条件:敵が行動するまでに『フリズスキャールブの王座』で準備をしよう』
『敗北条件:敵が準備を整える前に滅ぼすこと』
「………やめておこっか。もうみーちゃんたちは充分に強いと思うけど、東京開発を進めてレベルアップをしておこう!」
仕方ない。システムさんが駄目と言うなら行動するのはやめておこうかな。
さて、いよいよ『フリズスキャールブの王座』を改造する時か。ワクワクしちゃうね。




