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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
10章 武道大会

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319話 禁断の魔法なんだぞっと

 トイレから戻ったみーちゃんは、少し目つきが鋭かった。なぜならば、闇夜がピンチと聞いたからだ。


 部屋では、皆がどうしようかと話し合ってはいるが進展はない。このままではバッドエンド確実だ。


「まだ、敵は動きを見せない?」


「うん。睨み合っているだけだよ〜。ぺしって攻撃しても良いかなぁ」


 玉藻が好戦的なことを口にして、外を見る。たしかに少しイライラする状況だ。お昼寝をして、果報は寝て待てとすよすよと布団の中で寝息を立てていても良いかもしれない。


 闇夜が命の危機でなければだけど。


 外を見て、打開策を打つことにする。ちらりと横を見て、トイレのついでに戻ってきたニムエとマツを確認。微かにマツが首肯する。


 準備オーケーということだ。


 スゥと息を吸い、みーちゃんは猛禽のように鋭い目つきへと変わると、意識をパチンと切り換える。みーちゃん、ちょっと本気モードだ。


『フリッグやれ』


『大変な仕事なのよ、お嬢様?』


 からかうように笑うフリッグお姉さんの思念が飛んできて、包囲している兵士の一人がゆらりと不自然に身体を揺らす。


「攻撃を……鷹野家へ攻撃を……」


 虚ろな呟きをあげて、その兵士は杖を掲げるとマナを集め始める。


「な、貴様、何をしているっ!」


「攻撃を開始します……」


火球ファイアボール


 兵士が何をしようとしているか悟り、慌てて隊長が止めようとするが、もう遅い。杖の先端から火球が生み出されると、旅館に向けて発射された。


 軍の魔法使いらしく練度は高く、火球はミサイルのような速度で飛来してきた。しかし旅館前の空間で阻まれて爆発を起こして消滅した。


 威力もあるらしい、さすが軍の魔法使いだ。しかし、この旅館はマツの強力な結界に守られている。単発ではビクともしない。


「攻撃を……攻撃を……」

「旅館を攻撃せよ………」

「先制攻撃をする」


 他の兵士たちの中で、数人が同様に魔法を唱え始める。多脚戦車が戦車砲を向けて発射してきた。


 火球の連弾が飛び、砲弾が結界にぶつかる。ズズンと重低音が響き、砲煙が視界を覆う。


「おのれっ! 攻撃をしてきたか。鷹野家を甘く見るなよ!」


 風道爺さんが憤怒の表情で真っ先に動く。手を翳すとマナの大きさを示すかのように強烈な光が閃き、魔法が発動する。


暴嵐ウィンドストーム


 暴虐の嵐が旅館前に生み出されると、軍へと向かう。地面を削り取りながら、エメラルドのように煌めく風の刃が嵐となって兵士に襲いかかった。


 レベルの高い風道爺さんの風の上級魔法だ。あっさりと兵士たちを切り刻むと思われたが、空中に広大な魔法陣が現れると、壁となり嵐を受け止めてしまう。


 嵐は魔法壁をしばらく押して破壊しようとするが、突き破ることができずに消えてしまった。


「おぉ、あれはなぁに?」


「結界柱専用戦車を利用した大規模魔法障壁『ストーンヘンジ』だな」


 まさか風道爺さんの魔法を受け止めるとは予想外だ。驚きの声をあげちゃうと、オーディーンのおじいちゃんが教えてくれる。


 たしかに不自然に変な場所に、円錐の屋根をした変わった形の多脚戦車が配備されている。あれが支点となっているのかな?


「結界柱を支点とすれば移動用大規模結界も、これまでとは比較にならないほど強固になるからな。多脚戦車に実験的に取り付けたのだ」


「やけに詳しいね?」


「軍に試作品として試験的に納品したのは、琥珀家だからね……。共同開発したのは油気家とウルハラコーポレーションなんだよ」


 油気父が困った顔で話に加わる。なるほどね、試作品を使われたのか。でも、そちらの方が都合が良いかも。


「結界柱如きに防がれるほど、鷹野家の魔法は軟ではない。風の魔法の真骨頂を見せてくれる!」


 いきりたつ風道爺さんが腕を大きく振って、竜巻を連続で巻き起こすと、軍へと放つ。


「ニッシッシ、玉藻も頑張っちゃうよ」


『妖炎蛇』


 扇を開くとニヤリと牙を覗かせて、玉藻は炎の蛇を作り出すと空を奔らせる。魔法障壁にぶつかると、消えることなく炎の蛇は噛みついて破壊しようとする。


「し、仕方ないっ! 全員攻撃せよ!」


 部下の暴走で始まった戦闘に、遂に抑えるのを諦めて、攻撃するようにと命令を出した。


 攻撃魔法の種類は統一されており、練度の高い証拠に息のあった魔法を軍は繰り出してきた。しかし、超高レベルのマツが、ゲーム素材を利用して作った結界符は結界柱とかいう戦車よりも遥かに性能が良い。


 旅館の壁を越えることなく、爆発して阻まれる。


「私たちも攻撃だ〜!」


氷嵐アイスストーム


 ホクちゃんが氷の魔法を放ち、吹き荒ぶ吹雪にて敵を凍らせようとする。


「ん〜……ていっ」


極大雷光プラズマエクストリーム


 セイちゃんが軽く手を振り、空から膨大な雷の奔流を落とす。


「お腹空いちゃうよぉ」


岩牢ストーンプリズン


 ナンちゃんが敵の戦車を岩で閉じ込めようとする。


「負けるなっ!」


火球ファイアボール

火槍ファイアランス

爆裂火球エクスプロージョン


 敵も対抗してきて、魔法のド派手な打ち合いが始まる。敵に比べて、こちらの魔法は上級魔法ばかりで威力は遥かに勝っている。


 しかし、敵は軍用機であり、数の差もあり互角の戦闘となっていた。いや、いずれはマナが尽きてこちらが負けちゃうだろう。


 まぁ、そんなことにはならないんだけどね。


 マツへと視線を向けると、符を取り出してきた。


「『記録符』により、敵の先制攻撃は記録できました」


 さらりとした黒髪の大和撫子はしっかりと仕事をしてくれたらしい。


 なので、ぎゅうと小さな手を握りしめて、みーちゃんは悲し気な顔になる。


「話し合いで解決しようとしたのに……。話し合えばわかるはずなのに……軍の兵隊さん酷いよ!」


 アイスブルーの瞳を潤ませて、みーちゃんは決意した。


「最近練習していた魔法を使うね。それしか方法はないと思うんだ!」


 この争いを納めるためには禁断の魔法を使うしかない。ゲームの時も一回しか使ったことのない悍しい魔法。


 幸いなことに軍隊は攻撃してくれたので、全てが敵扱いとされている。敵として表示されるのが重要だったんだよね。


「みーちゃん、身体は大丈夫なの?」


「うん! この魔法はエムピー消費は少ないの。だから、負担はないよ」


 心配げなママへとニコリと微笑み安心させるみーちゃん。ママはなぜか疑惑の表情も混ざっているが、大丈夫だから。


 窓を越えて屋根に移ると眼前に映る軍隊を前に、胸の前で手を組む。とっても嫌だけど使うしかない。


 かつて自分が封印した禁断の魔法を!


 神の力を見せてはいけないのであれば、他のジョブの力にすれば良い。


 トイレに行くふりをして、みーちゃんは『勇者』に変更してきたのだ。


 『勇者』しか使えない禁断の魔法を喰らうが良い!


「皆さん、戦いをやめてください、みーちゃんは悲しいです!」


『善の光』


 魔法の力により、みーちゃんの身体が光り輝いていく。


 みーちゃんの善の心が光へと変わって、辺りを照らす。その光は不思議なことに強い光であるのに眩しくなく、春に差し込む陽射しのように兵士たちに降り注ぐ。


「なんて暖かな光なんだ……」

「俺たちはなんてことを」

「もう止めよう、こんな戦い」


 兵士たちは涙を流して、武器を落とすと戦いを止めていく。戦車からも兵士が降りてきて、魔導鎧を停止させる者もいた。


 ガシャンガシャンと武器が地面に落ちる音が合唱し、7割くらいの兵士たちは戦意を無くして戦闘を止めるのであった。


 禁断の魔法『善の光』。これは格下の敵を高確率で戦闘を終えさせる恐ろしい魔法である。


 なにせ、経験値もドロップアイテムも落とさないで、『なんとかは笑顔で去っていった』でバトルが終了するからね!


 ゲームでもこの魔法は恐ろしい性能なので、試しに一度しか使わなかった魔法だ。


「何をしているお前ら! 攻撃を再開せよ! 命令だ!」


 大隊長らしきおっさんが、顔を真っ赤にしてがなりたてるが、一度この魔法にかかった敵はみーちゃんの善の心に打たれて、戦闘はしない。効果がどれぐらい続くかはわからないけどね!


「すごーい、エンちゃん。天使様みたいだったよ。とっても綺麗だったよ〜」


「私の争いを嫌がる優しい心が伝わったんだと思う!」


 玉藻にむぎゅうと抱きしめられて、エヘヘと照れる。軍のドロップアイテムは美味しいけど、虐殺するのは我慢したよ。


 残りは3割程度。しかも周りの兵士たちが戦闘をやめてしまったので、気まずそうな顔で魔法にかかっていないのに、同じように攻撃を止めていく。


 わかるわかる。周りと同じように行動をしたくなるよね。


「チャンスです、ご主人様。敵の司令官を捕縛しましょう。これで戦闘は終わりです」


 ニムエが人差し指を、軍隊の後方で怒鳴る大隊長へと向ける。いつものふざけた表情ではなく、その顔は凛々しくかっこいい。


「終わりです」


『氷葬封獄』


 ツイッと軽やかに手を空中に描くように動かすと、氷の魔法陣を描く。


 魔法陣が蒼く光ると同時に、遠く離れた司令官が苦しげな顔になり、蹲る。


「な、なんだ、これは。わ、私の身体から水が!?」


 司令官の身体から水が滲み出てくると、その身体を覆い始める。身体の水分が失われていき、枯れ木のように身体がカラカラと乾いていき、氷の柱に封印されてしまう。


 他にもまだ戦闘をしようとする隊長クラスを同じ魔法でニムエは次々と封印していき、やがて軍は攻撃を完全にやめるのであった。


「己の体内にある水分を利用した魔法なので、魔法障壁は無意味なのです」


 青髪をサラリと靡かせて、ニムエは戦果に喜ぶことなく淡々と呟く。戦闘時だけ別人のようにかっこいいメイドである。


「やったね、ニムエ。これで皇帝へーかを助けに行けるよ! ししょー、他に展開している軍を陽動するためにドラゴンを召喚して、そこらへんを歩かせて!」


「わかった」


『ダイヤモンドドラゴン召喚』


 煌めくダイヤモンドの鱗を持つドラゴンが、巨大な体躯を見せて現れる。囮として充分目立つだろう。


「分散して展開している軍を陽動しろ」


「クォォォン」


 オーディーンのおじいちゃんの指示により、ダイヤモンドドラゴンはひと鳴きすると、ズシンズシンと歩き始める。あれだけ目立てば、他の軍を陽動できるだろう。


 惜しむらくは約一名の仲間が離脱しちゃうことだ。早くもダイヤモンドドラゴンの胴体にしがみついている女兵士は見ないことにして、おててを天に掲げる。


「ぽよりーん!」


「ぽよーっ」


 巨大なプリンのようなぽよりんがドスンと地面に降り立つ。


「ぽよりん。車モード!」


「ぽよっぽよっ」


 身体をふるふると振るわせると、ぽよりんは身体を変形させて、ライトバンに姿を変えた。ガチャリとドアを開けて、運転席に素早く座る。


「皆を助けに行ってくるね!」


「駄目よ、みーちゃん。とっても危険よ!」


 ママが心配そうな顔で止めてくる。でも闇夜を助けるために、その願いは聞けない。


「ごめんなさい、ママ。みーちゃんは多くの人を助けたいの」


「みーちゃん……」


「美羽……」


 パパとママが悲し気な顔になるので、心が苦しい。


「もう自立しないと行けない時が来たと思う……」


 そろそろ親離れをしないと行けない時が来たのかもしれない……。


「みーちゃんは手作りハンバーグを一週間に一度から二週間に一度で我慢します!」


 苦渋の決断だ。でも、親離れをして自分の意思で行動をしないといけない時なんだ。


 オーディーンとヘイムダル、そして玉藻たちが飛び込んできたのを見て、ハンドルを掴む。


「行ってきまーす!」


 別れの言葉を口にすると、みーちゃんはぽよりんカーを発進させるのであった。

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― 新着の感想 ―
部下が勝手に攻撃し始めて仕方なく会戦開始したら、部下が勝手に戦闘放棄しはじめる。うーん……隊長かわいそ。
[気になる点] 敗亡条件に「誰に」の部分が書かれて居ないこと。 また、職業神だけに限定して見られてはいけないと言う条件も今更制限されてると思う程か?と言う疑問。
[良い点] 章をありがとう [一言] 冷たく殺しも厭わないみいちゃんの戦闘モードが欲しい...◉‿◉
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