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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
10章 武道大会

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317話 失墜の日

 砲撃音が響き、部屋が揺れる。どのような攻撃にも耐えうる魔法的にも物理的にも強靭な構造となっている部屋が揺れるとは、敵の攻撃はかなりのものなのだろう。


「皮肉なものだねぇ。事前に調査もして罠もなく防御的にも完璧だと思われた部屋が余を閉じ込める部屋になっているなんて」


 やれやれと、弦神刀弥は肩をすくめて嘆息する。日本魔導帝国の頂点、最高の権力者である皇帝は再び揺れる部屋にしかめっ面となって、再びため息を吐いた。


 その姿は既に魔導鎧を着込んでおり、刀を腰に下げて、戦闘態勢をとっている。


 ホテルの1フロアを丸ごと使った皇帝専用の特別VIPルーム。贅を凝らした内装は一流で、家具なども厳選されたものばかり。護衛の近衛兵たちも最高クラスの腕を持つ精鋭。


 なにより魔法金属であるオリハルコンやアダマンタイト、ミスリルを惜しげもなく使って、魔法使いたちが何年もかけて防御魔法をかけて作り上げた部屋は下手なシェルターよりも強固だ。


 皇帝が宿泊するのに相応しい部屋であり、神無家と勢力争いはしていても、問題はないと判断した。


 実に甘い選択だったと言わざるを得ない。罠がないのが、罠であったのだ。


 まさかクーデターを仕掛けてくるほどに、神無公爵が自暴自棄になるとは思いもしなかった。


 壁を破壊して脱出しようにも、結界が重ねがけされているようで、攻撃をしてヒビが入っても、すぐに修復する始末だ。


 ソファに座る刀弥は周りに立つ人たちを見て、ヘラリと笑う。護衛はもちろんのこと、息子である信長と娘の聖奈もいる。帝城王牙とその娘の闇夜もだ。


「完全に包囲されているのかな?」


 もう一人、床に座っている男へと声をかける。


 護衛に身体を拘束されている年若いまだまだ子供の男の子だ。


「はい、陛下。僕は父上の会話を偶然にも聞いて、お伝えしに来ましたが……。父上のやることです、恐らくは完全に包囲されているかと」


「であるか……」


 男の子は神無大和の息子である神無シンであった。朝早く伝えたいことがあると、切羽詰まった顔で自分に会いに来たのだ。


 恐らくは決闘のことであろうと、少し待たせておき、空中城の対応をしていたが、ようやく話を聞けたときには全てが遅かった。


 空中城を破壊した残党が再びテロを起こす可能性があると、神無家の息のかかった軍がホテルを包囲し終わると、クーデターを宣言したのである。


 もう少し早くシンの話を聞いていれば、せめて手持ちの近衛兵や武士団を空中城に向かわせなかったのだが、移動させた後で守りは手薄となっていた。


「外とは連絡をとれないのか?」


 気を取り直して、王牙へと尋ねるが、寡黙な忠臣はコクリと頷き口を開く。


「はい、陛下。ジャミングが激しく通信は不可能です。粟国は息子を連れて空中城へと向かいましたし、息子たちも同様に向かいました。事態に気づくのはかなり遅れるかと。鷹野家はどうやら同様に反乱軍に包囲されているようです」


 厳しい顔をした王牙は、ギリリと歯を食いしばると唸るように話を続ける。優れた者たちを空中城に向かわせたのは失策だったと後悔しているのだ。


「しかも龍水公爵の家門も反乱軍に加わっております。陛下、どうやら完全に仕組まれていたようです。龍水公爵が死んだ後に、神無公爵は龍水家をいち早く掌握したようですな」


「そうか。どこまで神無公爵の企みであったかはわからぬが、敵として天晴だと褒めるしかない。さすがは余の地位を狙う男よ」


 くだらない切っ掛けからの決闘。あの時に不自然に思うべきだった。しかし、自分は見誤っていた。あの時は膨れ上がる鷹野家を牽制できる手段になるのではと考えるばかりで、神無公爵の裏の思惑を考えることもしなかった。


 反乱を起こす準備をしていたとは……空中城が墜落したタイミングもまずかった。せめて武道大会中でなければ……。


 『ニーズヘッグ』とグルなのだろうか? いや、それにしてはタイミングがおかしい。手を組んでいるのならば、もう少し良いタイミングを狙っていただろう。


 なにせ、まだ決闘は始まっていない。ベストなタイミングは全員が合流した決闘前日とかのはず。その点、神無公爵は抜かりはないからだ。


 『ニーズヘッグ』のテロと絡むとは、お互いに運が悪いとしか言いようがない。


「陛下っ! 僕はここに来る際に神無家の秘宝である『転移の石』を2個持ち出してきました。陛下がお使いになればと思います」


「……であるか」


 シンが懐に手を入れて、近衛兵たちに押さえつけられる。だが、面白いことを口にしてきたので、近衛兵にシンの持っているものを確認するように指示を出す。


 近衛兵はシンの懐から、水晶を2個取り出して見せてきた。マナの輝きで水晶内は輝いており、たしかに強力そうな魔道具だ。


「それは決めてある地点に転移ができます。これで陛下たちが脱出できれば、……父上の野望も打ち砕けるでしょう!」


「それはおおいに助かる。だが、余がここから一人で逃げるわけにはいかぬ。反乱軍を前に尻尾を巻いて逃げたとあれば、栄えある弦神家の名に泥を塗る行為だ。ご先祖様にも申し訳が立たぬ」


 冷静な表情でシンを見下ろしながら、建前を口にする。


 正直、このタイミングで『転移の石』など、罠にしか思えない。使った途端に敵のど真ん中に転移する可能性が高いのだ。


 罠ではない場合は………。ここにも神無大和の謀略を感じ取れる。もしも反乱が失敗した場合に、シンだけは反乱に反対したために、罪を免れて生き残らせようということだろう。


 シンの魔力から考えて、平民として放逐するわけにもいかず、皇帝を助けるために『転移の石』を持ってきたとあれば、財産のほとんどを没収して子爵程度に降爵する程度に終わるだろう。


 失敗する場合……。神無公爵の考えがわからない。たんに息子を助けたいだけだろうか。なにか、他にも思惑が隠れている感じがするが、今の自分では予想もつけられない。


 というか、現状を打破できなければそのような予想をしても無意味だ。


 だが、『転移の石』を使わないという選択肢もない。こちらも皇族が生き残る選択肢をするべきだろう。

 

「聖奈よ。余が命じる。神無シンと共に『転移の石』を使って脱出せよ」


「私がですかっ! そんなことはできません。私もここで共に戦います。一人で逃げることなど、いえ、そもそもシンはまったく信用できないですっ!」


 自分の言葉に驚き、真っ向から反対してくる娘は、歯に衣着せず、シンへと嫌悪の表情を向ける。どうもシンのことをだいぶ嫌っているようだ。


 親として、そこまでシンを嫌っていたことは知らなかったなと苦笑しながらも、説得をする。


「聞け、聖奈よ。このクーデターは前々から仕組まれていたことだ。皇族が全員死ぬことは許されぬ。そなただけでも生き残る必要がある」


「それでは、信長お兄様が脱出すれば良いと思いますっ! 回復魔法を使える私はお役に立てるでしょう」


 胸に手を当てて、必死になって反論する娘。たしかにそのとおりだ。だが、この『転移の石』が罠であれば、聖奈ならばシンの妻として皇帝へと道具として使われる。


 狡猾な聖奈ならば、それを利用して再び皇族の力を取り戻せる可能性はある。まだまだ粟国家や鷹野家は残っているのだ。


「無事に逃げることができたら、粟国家を頼るが良い。あの者ならばそなたを匿うことに利益を見出すだろうからな」


 信長が逃げても、罠であれば殺される。選択肢としては聖奈を逃がす一択なのだ。


「聖奈。私からもお願いするよ。どうか逃げてほしい。兄としての願いでもある」


 信長も聖奈の肩へと手を乗せて、説得にかかる。こちらをちらりと見て、僅かに頷くのでこちらの考えを理解している様子だ。


 聖奈も理解しているのだろう。悔しげに唇を噛んで、渋々頷く。


「すぐに援軍を呼んできます。それまでお父様も死なないでください」


「余は死なぬから安心せよ。ここには優れた魔法使いが揃っておる。そうそう簡単にはやられはせぬ」


「……わかりました。それではシンさん、『転移の石』を使用してください。こうなれば急いで援軍を求めに行きます」


「わかりました、聖奈さん。それでは」


 『転移の石』を返してもらったシンが使用するべくマナをこめ始める。


 魔法陣が床に描かれて、マナの光が辺りを照らしていく。


 余は最後となるだろう別れを前に、立ち上がり聖奈の頭をそっと撫でながら、優しげな目を向ける。


「息災でな、余の娘よ。皇族としての誇りを常に持ち行動せよ……。と言うのが正しい皇帝の姿だろうが、おっさんも皇帝の前に父親だからね。まぁ、気楽に生きてくれ。そなたなら、うまく立ち回れるだろう」


「お父様……もう少し感動的なお別れにしてくださいませ。ふふっ」


 寂しげな顔になるが、それでもクスリと微笑む娘の心の強さに安心する。これならば大丈夫であろう。


「では、さらばだ、我が娘よ」


「気をつけてね、可愛い妹なのだから」


「お父様、お兄様、すぐに帰ってきます」


 そうして、別れの言葉をかけると、聖奈はシンと共に転移が行われて、その姿を消すのであった。


 もはや会うことはあるまいと、マナの残滓を眺めて寂しく思い、息を吐く。


 皇帝としての自分へ気を切り替えると、鋭い目で周りを見渡して告げる。


「ここに籠もり、座して死ぬわけにはいかぬ! 皇帝としての余の力を見せようぞ!」


「血路を開く! 者共ついてこいっ!」


「はっ! お供いたします」


 刀を抜き放ち周りへと告げると、王牙たちも同様に刀を抜き放つと、鬨の声をあげる。もはや退路はなく、前進あるのみ。


「陛下、火をつけられたようです!」


 扉から入ってきた近衛兵が報告をしてくる。その後ろから煙が漂ってきたので、神無公爵も詰めに入ったのだろう。


「炎の中とは、始祖と同じか。本能寺を脱出した始祖のように、我らも必ず脱出するのだ」


 扉の先へと刀を向けて、轟くように叫ぶ。


「突撃だ!」


 皆がその指示に従い、扉を潜り抜けていく。


「やれやれ、おっさんの時代でこんなことになるとはね。始祖には地獄で謝るとするか」


 ポツリと呟き苦笑すると、刀弥も皆に続いて突撃する。


 すぐに魔法の爆発音と刀を打ち合う金属音が響き、戦闘が開始されるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 皇帝も信用はできても信頼はできないタイプだけど、 神無一族をぐにゃらせるのには死なれちゃ困るからなー
[気になる点] 原作の展開をインスタントにした感じなんかな?(;^ω^) 皇帝たちや聖奈さんが妙に不用心なムーブしてるのも強制力を受けてそうで納得できるし。 それはそれとして皇帝日和見であまあまでは…
[気になる点] 側近一人だけ送って援軍が確認出来たら身内を転送すれば良かったのでは [一言] 神降臨出来るまでに世界の糸が緩んでるんだから もうループを止めるために聖奈の処理はマスト お友達が居なくな…
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