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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
10章 武道大会

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313話 宝物は番犬が守るものなんだぞっと

 やけに広い空中城の隠し通路を、みーちゃん一行はぽてぽてと散歩、いや探索をしていた。


「また大扉があるよ」


「任せてくれ、レディ」


 みーちゃんが指差す先には、巨大な金属扉があった。すぐにヘイムダルが『千里眼』を使い、罠の有無を調べる。


「この大扉の向こうには、金のリビングメイルたちが待機している。でも、この壁をずらすと………ほらね」


 大扉から少し離れた場所の壁を触るヘイムダル。壁がスライドして隠し通路が姿を現す。


「どうだい、これなら敵とエンカウントせずに進めるよ」


「そうね、なかなかやるじゃない、ヘイムダル」


 フリッグお姉さんがヘイムダルを褒めながら、大扉を開けていく。言動と行動がまったく合わない美女である。


「まぁ、隠し通路を見つけても意味はないと思ってたよ。アハハハ」


 諦めの表情で空笑いするヘイムダル。流石に可哀想なので、みーちゃんとフレイヤが慰めの言葉をかけてあげた。


「中ボスを倒さずに行くという選択肢はないからね!」


「か、隠し宝物庫なら良かったと思いますよ?」


 一応慰めているつもりの二人である。


 みーちゃんたちもフリッグお姉さんの後に続こうと、ぽてぽてと追いかけると、玄室が用意されていた。


「敵は逃げてしまったわ。残念ね、お嬢様」


 中にいたはずの黄金のリビングメイルたちは影も形もなく、フリッグお姉さんが良い顔で出迎えてくれた。


「えっ、僕たちが少し話している間に倒したのかい? そんなにフリッグって強かったっけ?」


「逃げたのよ」


「そこの通風孔に逃げたのかい?」


 ドン引きのヘイムダルが目敏く部屋のある部分を指差す。


「あら、本当だわ。知性がないから穴に入ろうとして、身体が潰れても気にしなかったのね」


 空気穴が天井隅にあり、そこにはぐしゃぐしゃとなった黄金の鎧が詰められていた。雑な隠し方をする何者かがいた模様。


 犯人は不明。迷宮入りは確定だ。フリッグお姉さんは貴金属への特効能力持ちだったっけ?


「預かっててあげるよ、フリッグお姉さん。倒したのはフリッグお姉さんだし。引き取りに来るの大変でしょ」


「お嬢様は優しいわね。気の利かないヘイムダルとは大違い」


 アイアンクローを気の利かないヘイムダルに噛ましていたフリッグお姉さんが、ポイとヘイムダルを投げ捨てて、いそいそと通風孔からリビングメイルを引っ張り出す。


「うぅ、このダンジョンの攻略推奨レベルを大幅に超えていて、私の活躍ないんですけどぉ?」


「敵が全て雑魚だもんなぁ」


 細っこい腕を後ろ手にして、みーちゃんは苦笑しちゃう。フリッグお姉さんだけで、この城の攻略は問題なかったかもしれない。


 その場合、一切のアイテムは手に入らなかったかもだけど。


「にしても、謁見の間に隠されていた階段から侵入したけど、やけに未来的だよね」


 通路は金属製、罠も魔法を駆使しているとはいえ、感圧式とか熱感知式とか、大昔に作られたとは思えない。


「厨二病的なSF要素。信長はどの時代の転生者の魂だったか、この光景を見ればわかるわ」


 みーちゃんがリビングメイルを仕舞ったことに満足して、フリッグお姉さんが話に加わる。たしかに数百年前の建造物とは思えない。


「これねぇ、皇族がいないと開けられないドアとか、延々と転移される迷宮とかあったから、普通は攻略不可能だったんだよ、きっと」


「フリッグお姉さんの『消失イレイサー』があれば魔法罠は無意味だからなぁ」


 あらゆる魔法を打ち消すフリッグお姉さんの『消失イレイサー』は、この城との相性最高であった。みーちゃんだけなら、壁を壊しながら進んでいたはず。


「これで破壊した玄室は12室目かしら? そろそろ宝物庫についてもよくない?」


「あぁ、表の宝物庫はろくな物がなかったもんな。隠し迷宮の宝物庫はこの先、『フリズスキャールブの王座』があるけど、その部屋にある扉が宝物庫だ」


「それじゃ、さっさと行くわよ!」


 ヘイムダルが頷くと、フリッグお姉さんが意気揚々と笑顔で駆け出す。もはや宝物庫にしか意識は向かっていない模様。


 あれから、みーちゃんたちは空中城の隠されし階段から、隠し迷宮に侵入。愛と勇気と友情の力で攻略してきたのだ。


 迷宮は面倒くさいと、隠されていたセキュリティコアを無効化し隔壁を全て開けて進み、皇族の血を持つ者しか開けられない扉は、魔法のシステムを消して開けていった。


 そして、最後に延々と続いた中ボスのいる玄室は、逐一倒して攻略していったのである。


 カネ勇気マネー友情キキンゾクがなければ、攻略できなかったのは間違いない。


「リビングメイルと罠だけに頼るなんて、残念迷宮だよね」


「う〜ん……本来は人間も常駐していたようだよ。それらしい部屋もあった。きっと経費削減とかで、置かなくなって、そうして存在自体忘れられていったんだろう」


「ありそうな話だなぁ。空中城は日常生活で使いにくいし」


 ヘイムダルの言葉には説得力がありすぎる。不必要と思っちゃうとどんどん予算削減して、最後には消えちゃうんだよね。わかるわかる。


「これだと『フリズスキャールブの王座』を手に入れるのは楽勝だね!」


「お嬢様は強敵と出会いたいのかしら?」


「これをフラグと気付くのはお姉さんぐらいだよ。……ここが最奥?」


 軽口を叩きつつ先に進むと、これまでの金属製のSFチックな光景が終わり、石造りの部屋が見えてきた。


「石造り?」


「見かけは原始的に戻ったけど、ここに来るまでの魔法金属よりも硬いみたいだな。中にはお待ちかねの『フリズスキャールブの王座』があるよ」


 ヘイムダルが扉の前で教えてくれる。ふむふむ、ようやくか。


「今は2時かぁ。ママにバレる前に帰れるかな」


 ステータスボードに表示されている時間を見て、ほっと胸を撫で下ろす。もっと苦労するかと思ったけど、大丈夫そうだ。


「それじゃ開けるね! オープン入り胡麻〜」


「あ、ちょっとま――」


 ヘイムダルが止めようとするが、ご機嫌みーちゃんは扉に手をかけた。


 その瞬間、天井から光の柱が降り立ってみーちゃんを包む。空気が熱されて扉もその高熱で歪む。地面がドロリと溶けて、溶けた石床が周りへと流れてきた。


「おぉ〜、最後の部屋っぽい!」


 みーちゃんはケロリとした顔で、服に焦げ一つなく光の柱からぽてぽてと抜け出すと、中を覗いて目を輝かしちゃう。


「僕のきた意味ってある? この魔法ってたぶん人間が使用できる最強の魔法じゃないかなぁ」


「神が侵入するのは想定していなかったんでしょ」


「た、たしかに威力はありそうですね。でも、神に対しては威力はないですよぉ。よいせっ」


 光の柱は消えることなく、扉を塞ぐ形で発生している。普通の人間なら触るだけで消滅してしまう威力だと思われた。


 しかし、フレイヤはタワーシールドを傘みたいに頭の上に掲げて光の柱の中へと進む。フリッグお姉さんもヘイムダルもシールドの中に一緒に入って潜り抜けちゃうのであった。


「こういう罠って、解除するためにキーを探すのがゲームの流れじゃないかな?」


「皇族の血が必要だって言ってたじゃないですか」


 ヘイムダルが呆れたように白けた顔で、フレイヤは特に思うことはないようで、平然とした表情である。フレイヤはみーちゃんのやることに慣れたとも言う。


 部屋はだだっ広く、100メートルは奥行きがあり、天井までは20メートルはあるだろう。壁には壁画があり、古い壁画に見えるので学術的価値がありそうだ。


 赤い絨毯が敷き詰められており、劣化していないところを見ると、魔法が付与されているのだろう。


 奥は壇上で少し小高くなっており、階段が続いている。


 そして神秘の光を纏う黄金で作られた王座が置かれていた。誰も座っていないのに、威圧感があり、みーちゃんの目にもはっきりと強力な魔法が宿っていることがわかる。


「『フリズスキャールブの王座』だ。あれを手に入れればミッションコンプリートかな」


「奥の壁にある扉の先が宝物庫のようね」


 ふんすふんすと、みーちゃんは王座を手に入れようと進もうとする。フリッグお姉さんもギラギラと目を輝かせて、餌を前にした肉食動物のようになる。


 もはや目的の物しか目に入らない二人だが、フレイヤとヘイムダルが慌てて止めてきた。なにかな? もう王座は目の前じゃん。チャンピオンみーちゃんの誕生だよ?


「いやいやいや、王座の前に鎮座している狼の骨! あからさまに怪しいと思わないのかい?」


「餌がなくって、餓死しちゃった可哀想な番犬でしょ?」


 ヘイムダルが指差す先には、4メートル程度の犬の骨があった。ちょうど行く手を阻むように階段前にスフィンクス座りで鎮座していた。


 まぁ、骨しかないんだけどね。たぶん餌を与えられなくなって、餓死しちゃったんだろう。ペットを餓死させるとか、飼い主は天罰が必要だよね。


「いや、あれからは不吉なる魔法を感じるよ?」


「不死犬なら、みーちゃんの相手じゃないよ。『ターンアンデッドⅡ』で一発浄化でしょ」


 コテリと小首を傾げて、ヘイムダルに答える。アンデッドって、弱点多すぎだから神聖系統の魔法を修めていれば相手ではないんだ。


 たしかにそうかと、ヘイムダルが頷こうとする時だった。


『ふむふむ……久しぶりの匂いだ。懐かしいな、まさかお前らと再び出会う日がくるとは』


 強力な思念がみーちゃんの頭に流れ込んでくる。皆も同じだったらしく、素早く骨へと顔を向ける。


「これは……。聞いたことがあるな」


 ヘイムダルが真剣な顔になり、フレイヤの後ろに隠れながら言う。


「あぁ……なんでこんなところにいるのかしら? ケルベロスやオルトロスだと思って、気にしなかったのに」


 髪をかきあげて、僅かに目を細め、フリッグお姉さんが嘆息する。


『くくくく、私が番犬をしているのに驚いているようだな、フリッグ。そしてヘイムダル』


 犬の骨がカタカタと動き始めて、立ち上がる。ゆらりと闇のオーラが骨から漂い始め、空気が重くなっていく。


「ほ、骨ではもはや相手ではないもん。神聖剣技でサクッと討伐しちゃうから!」


『わうわう、たしかにこの身体ではな。フレイヤにも勝てぬだろう』


 骨の顎をカタカタと震わせて、楽しそうに言う犬さん。剥き出しの牙が不気味で噛まれたら痛そうだ。


『死して、暇潰しにヘルヘイムの話に乗ったが……まさか力を取り戻せる日が来るとはな』


 犬さんは四肢を踏ん張ると、魔法の力を周囲へと吹き出す。魔法の力は瞬時に犬さんへと戻っていき、内臓となり、筋肉組織が張られて皮膚で覆われると、蒼き毛皮が包み込んだ。


「瞬時に肉体を再生させただとっ!」


 犬さんから放たれる力により暴風が吹き荒れて、ヘイムダルが驚きの声をあげる。フレイヤは盾を構えて、フリッグお姉さんは無視して宝物庫に向かおうとする。


「ふふふ、ははは、久しぶりの肉体の感覚だ。ヘルヘイムは上手くこの世界を破壊しているようだな。世界の歪みから我の力もだいぶ戻ってきた」


 蒼い毛皮に、金色の瞳の犬さんは、口を歪めて嬉しそうにする。


「さて、まずは約束通りこの王座を狙う泥棒を殺すとするか」


 犬さんは口内に闇の炎を溜めていく。


「皆さん、私の後ろへ!」


 タワーシールドを構えて、フレイヤが叫ぶ。


「我の名前はフェンリル! 久しぶりの挨拶をしよう!」


『極滅の息吹』


 犬さんの口から、光すらも吸い込む闇の息吹が放たれて、みーちゃんたちを襲うのであった。

モブな主人公。ムゲンライトノベルスから書籍で発売されてまーす。よろしかったら、おひとつ手にして頂けると、みーちゃんは大喜びしちゃいます!

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― 新着の感想 ―
フェンリル(本物)の登場だ! 大抵のフィクションでは、フェンリルの異名を持つ魔獣だったり、種族名がフェンリルなだけだったり、個体名がフェンリルというだけの神獣だったりするんですよね。それでも、北欧神話…
[一言] 一貫して犬さん呼びなのでフェンリルはきっとみーちゃん一家の番犬()になってくれるのでしょう( ´▽`)
[一言] 玉座はオーディンのものだから盗人はそっち。
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