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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
10章 武道大会

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309話 婚約者

 衝撃の事実は不思議なことにその日のうちに貴族たちに広まって、大騒ぎとなった。


 本当に不思議なことだ。不思議としか言いようがない。


 それから数日後である。

 

 試合前の控室で勝利は正座をしながら、この不思議な現象はどういうことなのだろうかと考えていた。


「聞いたぞ、息子よ。お前は貴族たちのいるレストランで、大声で鷹野のお嬢ちゃんが『マナ』覚醒の回復魔法が使えるようになったと吹聴したらしいな? しかも仲良く聖女様と一緒に」


 殺気が籠もっているのではないかと思うほどに、鋭い眼光で睨んでくるのは、親父の粟国燕楽である。パイプ椅子に座って、口元は笑っているが目はまったく笑っていない。


「えっと、僕は魅音たちと話していただけです。盗み聞きするなんてふざけた奴らですよね。なので、僕は無罪……かもしれないなぁと。思いたいなぁと……」


 弁解しようとするが、親父の眼光がますます鋭くなって突き刺さってくるので、途中から口籠ってしまう。


 額から汗をダラダラと流しながら、レストランで騒いだのは失敗だったと痛感する。貸し切りの個室とかにしておきゃ良かった。


 親父はひとしきり睨んてきたが、軽く息を吐くと睨んでくるのをやめる。


「まぁ、いずれは広まる話だから仕方ねぇか。今は貴族たちは大騒ぎだ。鷹野伯爵と面会をしたい奴らが旅館に並んでいるし、皇帝陛下が事情聴取をしようと使者を送ったが、意識不明だからと断られている」


「武道大会も決勝戦で一番盛り上がるところなのに、酷いですね! アダッ」


「お前がな」


 親父が呆れた顔で頭をポカリと殴ってきた。結構痛い。


「この話はとんでもない。革命的な魔法だ……。まだまだ年若い鷹野伯爵がこの魔法を使えて、いずれ生まれる子供たちもその魔法を使えるとなれば、鷹野家は一生安泰どころか、貴族のトップになることは間違いない」


「あぁ〜、洗礼とかいって、『マナ』覚醒の魔法をかければ良いんですからね。なにか宗教が生まれそうで笑えます」


 鷹野家が神官服を着て、毎年成年式に貴族たちに魔法をかける姿を思い浮かべて笑ってしまう。


 だが、親父は真剣極まる顔だった。顎に手を当てて、獣のように唸る。


「お前の言うとおりだな……。本当に『マナ』覚醒魔法が使えるとなれば、多くの魔法使いが生まれるし、魔道具ももっと需要が増える。遠い未来に宗教化してもおかしくない。いや、宗教とはいかずとも来年からの成年式は大幅にやり方は変わるだろう」


 早くも利益を求めて、考え始める親父。どうやら鷹野家とさらなる親交を深めようと考えているようだ。


「やはり次男を婚約者として送り込むか。アホだが、縁を繋ぐ役には立つだろうからな」


「他の貴族たちも同じことを考えているでしょうね」


「あぁ、そうだな。そういえば、第二夫人として明智魅音だったか、あの少女をお前の婚約者にしておいたからな」


「はぁ、そうですか……。はぁっ? そうなんですか? え? なんで?」


 適当に受け流そうとして、予想外の親父の言葉に椅子から思わず立ち上がってしまう。ガタンと音がしてパイプ椅子が倒れる音が響き、勝利は信じられないと親父を凝視する。


「あの少女のことをお前は気に入っていただろう? 親心ってやつだ、ありがたく思えよ?」


「嘘だよなぁ? 本心は?」


 絶叫する勝利に、片目を細めて飄々とした顔で親父は答える。


「鷹野のお嬢ちゃんに思いがけずに魔法使いとされた少女。多くの貴族たちに狙われることになるからな。捕まって色々と悲惨なことになるかもしれん。ここは気を利かせて粟国家が保護をしたという形を取る」


「鷹野家に恩着せがましい感じで、そう伝えるんですね? 同じように魔法使いとなった他の子供たちは?」


「孤児院は粟国家の経営となった。警備もつけたしな。大学までしっかりと支援する予定だ。親心も少しあるぞ? このままだと拐われなくても、魅音とかいう少女は悪徳貴族の嫁にされてもおかしくないからな。お前のためだ」


 典型的悪徳貴族が目の前でニヤリと笑う。だが、言っていることはわかる。下級貴族などは圧力をかけて魅音たちを妻とかの名目であっという間に連れ去る可能性は極めて高い。


 灰色髪ちゃんは、人の良いことで有名だ。魅音たちを保護したと伝えれば、気にかけるだろうからな。


「だけど、いきなり婚約者ですか……。しかも第二夫人? 第一夫人は?」


「聖奈様に決まってるだろ? お前、ここまで深い付き合いをしておいて、まさか考えていなかったのか?」


「ええっ!? だって深い付き合いとかはしてませんよ……。手を繫ぐこともその……」


 うへへと照れながらも否定をする勝利だが、呆れた顔で親父は告げてくる。


「周りからはもう確定だと思われてる。今回だって控室で二人きりでいちゃいちゃしてるじゃねぇか。この状況で他の婚約者とか作ることは聖奈様はもうできねぇぞ?」 


「えぇぇぇっ! そ、そういえば……。ふ、二人にプロポーズをしないと。指輪、指輪は、アダッ」


「落ち着け。孤児の方は話を知らないだろうし、ゆっくりと行動をとれば良い」


 親父に強めに殴られて涙目になってしまう。というか、魅音は話を知らないのかよ。僕はどんな悪徳貴族なんだよ。


 魅音は怒るだろうなぁ、恨まれるかもしれない。う〜ん、とりあえず婚約者という形をとって、もう少し大人になったら身の振り方を考えようと提案するか。


 緊急避難的なものだと伝えれば、なんとか……許してもらえるといいけど。


 それにしても、聖奈さんとはまさかの既に外堀は埋まっていたらしい。そういや、この世界は10歳で成人だった。いくら子供でも、もはや周りからはそう思われないのだと理解した。


 たしかに、勝利も他人目線で見れば、そう思うだろう。婚約者になっても、前の男が好きなんだろうとか考えてしまうに違いない。


 それにしたって、もう少しロマンチックな状況で婚約者になるべきではなかろうか。少なくとも親父からサラッと伝えられるのは間違っている。


 これもモブだからか。たぶんそうだ。聖奈さんはどう思っているのだろうか。そして、魅音にどんな顔をして会えば良いのだろうか。


「それに聖奈様からは婚約書に既にサインを貰っているぞ? そういや、お前のサインは俺が代筆したんだった」


「うぇぇぇぇっ! なんで代筆するんですか! 貴族ですか、貴族でしたね、でもそんなのあんまりじゃねーか!」


「俺が優しい父親で良かったな」


「くっ、嬉しいけど悲しい……」


 ぽんと肩を叩く親父を怒ってよいのか、感謝をすれば良いのかわからないので、悔しそうに唇を噛むだけに終わる。


 どうりで、聖奈さんが控室に二人きりとなることを躊躇わなかったはずだよ。聖奈さんは既に婚約者となっていたから、気にしなかったんだ。


 メインヒロインが遂に僕の奥さんに………なんだか全然嬉しくない。いや、嬉しいけど、嬉しくないっ!


 貴族的対応すぎる。現実は酷すぎる! 聖奈さん、全くのポーカーフェイスすぎだよ!


「というわけでだ。鷹野家とこれまで以上の付き合いをするためにも、俺は動くからな。お前も注意しろよ?」


「はぁ、何をですか?」


「こういう混乱の時はな、逆転をしようと考える輩が増えるんだ。神無家はもちろんのこと、皇帝陛下にも気をつけろよ? まぁ、お前はまだまだ年若い。そうそう落とし穴はないと思うがな」


「わ、わかりました」


 真剣な顔で忠告してくる親父の言葉に素直に頷く。まぁ、親父が当主だから、大丈夫だろうけど。


「申し訳ありませーん。決勝戦が始まります、勝利様」


 控室のドアがノックされて、係員の声が聞こえてきた。衝撃すぎる話を聞いて、まだまだ消化はできないが、それでも意識を切り替えないといけない。


「おっしゃ。行ってこい。ここで優勝すれば箔がつくってもんだ」


「えぇ、優勝を狙います」


 ニカリと笑い、親父が肩を叩いてくるので、息を吐いて気合を入れて立ち上がる。


 勝利専用新型機『マグナ』がルビーのように美しき紅い装甲をキラリと光らせる。


 『バトルトーナメント』も勝ち進み、並み居る強豪を倒して、今日は決勝戦だ。


 やられ役であった自分が決勝戦に来られるとは……。


 試合場に向かうと、いつもの司会者の声が聞こえてくる。


「おっと、信じられなーい。皆聞いてくれ。なんとフリークラスの『バトルトーナメント』。決勝戦はな、なんとまだ中学生、しかも一年生たちの戦いとなったぁ。二人ともとんでもない実力の持ち主だァァ」


 歓声の中で試合場にゆっくりとあがる。


「勝利さん、頑張ってくださーい」


 婚約者となっているはずなのに、まったくいつもと変わらない美しき聖女の聖奈さんが銀髪をキラキラと靡かせて、可愛らしい笑顔で声援をかけてくれる。


「勝利頑張れ〜」


 婚約者となっているはずなのに、まったくいつもと変わらない元気な様子を見せて、魅音も応援してくれる。やはり、あいつは婚約者関連の話を知らなさそうだ。どうすりゃいいんだ。


「さて、一人は名門神無公爵家の息子、天才神無シンだぁ!」

 

 司会者の声に、対面に立つ男が爽やかな笑みで、観客席に向けて手を振る。いちいち様になっている男だ。


「もう一人もなんと公爵家からだぁ。炎の魔法使い、粟国勝利だぁ!」


 勝利はというと、フッと鼻で笑い肩をすくめるクールな男を演じる。シンと同じことをしたくないと、つまらない対抗心からである。


「まさか、君と決勝戦で戦うとは思わなかったよ。よろしく勝利君」


「あぁ、よろしくなシン。悪いが優勝は僕がもらうぜ」


 邪気のない笑みを向けてくるシンに、勝利は胸をそらしてニヤリと笑い返す。


 これだよ、こういう会話に憧れていたんだよと、内心は狂喜乱舞していた。


 シンは白袴に純白の武者鎧を着込んでおり、長刀と脇差しを腰に下げている。


 白と紅との対比、ライバル同士の宿命付けられたバトルっぽくて、ワクワクと胸を躍らせる勝利。フヘヘと口元が緩み、凛々しい顔になっている。


「それではぁぁぁ、試合開始っ!」


 司会者の言葉に、お互いに剣を抜き放つ。婚約者の件は忘れて、今は試合のことに集中だ。


「ふふん、シン、天才でありSランクの魔法使いである粟国勝利様が勝たせてもらう!」


「君の力は知っているよ。だけども相応しいか、その力を試させてもらう」


「試させてもらう?」


『あぁ、魔神を復活させようとする者たちと戦える仲間に相応しいかをね!』


 思念での通話に切り替えて、シンは刀を手に突進してくる。冷静にシンの刀に剣を合わせて、勝利は攻撃を防ぐ。


『魔神を復活させようとする者たち?』


『これ以上は君の力を確かめさせてもらったあとだっ!』


『なら、見せてやるぜ!』


 なんだか主人公との共闘イベントっぽいと、ワクワクしながら、シンと戦いを始める勝利であった。

モブな主人公。ムゲンライトノベルスから書籍で発売されてまーす。よろしかったら、おひとつ手にして頂けると、みーちゃんは大喜びしちゃいます!

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― 新着の感想 ―
[一言] ただせーちゃんは(みーちゃんが突破口だと半ば確信しているから) 『勝利とみーちゃんとどちらを選ぶ?』と聞かれるとみーちゃんを選びそうな雰囲気もあるんだよな……
[良い点] みいちゃんのモブオーラが徐々に最終ボスオーラへと変貌していく……想像通り、闇の中で足を組んで不気味な笑みを浮かべるフリスカルフの玉座に腰掛けている。彼女の後ろの神々....まじかくいい。。…
[良い点] 勝利「この戦いが終わったら結婚するんだ!」 [気になる点] 試合結果は前回の学園の時から新技増えてなかったら対策されてて勝てませんね。ついでに言うと既にみーちゃんの処刑リストに入っちゃって…
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