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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
10章 武道大会

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297話 脱出するんだぞっと

「すごーい! エンちゃん、そんな魔法も使えるんだ!」


 興奮した玉藻ちゃんが抱きついてくるので、笑って誤魔化す。


「えへへ。ししょーに教わった秘奥魔法だよ。アイテムを狭間の世界に格納できるんだ」


「そっちじゃなくて、カードにした魔法。アイテムを仕舞う魔法も凄いけど」


 頬を赤らめて、くねくねと体を揺らせて照れちゃうけど、誤魔化されはしてくれなかった。


「儀式魔法で品物に封印する魔法はあるけど、一人で封印魔法を使えるなんて、さすがは美羽ちゃん。ここでは治せない毒だったんだね?」


「うん。かなり危険で複雑な魔法の毒と呪いその他諸々だったから、安全な場所で慎重に対処したいんだ!」


 目敏い油気父だけど、そこまで不審には思わなかったみたい。そういえば封印魔法は結構あるんだった。『アシュタロト』も神器に封印されていたし、誤魔化さなくても良かったか。


「それじゃ、脱出かしら? あのゲートを潜れば脱出できるみたいだけど、通り方がまだわからないの」


「それは大丈夫。結界破りの執事人形ヘタレンがいるからね」


「僕は執事じゃムグゥ」


 喜んで執事に就任してくれることになったヘイムダルの口を塞ぎつつ、ステータスボードを開く。


鷹野美羽

メインジョブ:神☆

セカンドジョブ:大魔道士マスター

サブジョブ:聖女☆☆☆☆

レベル100

HP:9000

MP:9000

力:3000

体力:3000

素早さ:5000

魔力:3000

運:300

固有スキル:全超強化 万能以外吸収、神意、神殺し、神の封息、三連続魔、魂覚醒、創造

スキル:神技、神術


 遂にソロ専用のキャラに育成が完了した。『旧神』をセカンドに入れれば、もはや隙はない。


 ステータスも武技も魔法もスキルすら、みーちゃんの手にはある。


『フルングニルの魂を使用して、ゲートを破壊しますか?』


『オーケーだ』


 ふわりと浮いているフルングニルの魂。油気家には見えていないが、みーちゃんには見えている。


『チュートリアル:『創造』を使い、『魔法の鍵』を作ろう!』


『りょうかーい』


 システムさんの指示に戸惑いなく頷く。ゲームでも使用していた『創造』スキル。


 その効果は『錬金術』や『機工術』、『料理』スキルを内包し、しかも成功すれば最高品質になるクラフト系スキルである。


 まぁ、素材は必要なんだけど。あと、毎回最高品質になるのも困る場合もあるけどね。低品質を組み合わせて作るアイテムも結構あるんだよ。


 ていっと、空中に浮く魂をむんずと掴む。フルングニルは敵だったから問題はないよね。


「玉藻ちゃん、少し離れていて。クラフト魔法を使うから」


「うん、わかったよ。エンちゃんの魔法をジッと見ているね!」


 ダミーとして床に転がっているガラスの破片を拾って、魔法を使用する。


 ぽてんと床にあぐらをかいてお座りすると、両手を前に伸ばして、魔法の力を体内から生み出す。


 少し真剣な表情でスキルを使用する。横でワクワクとした顔で、狐っ娘がもふもふな尻尾を振っていて、とても可愛らしい。あとでもふもふさせてもらおうっと。


 雑念ばかりだけど、ゲーム仕様のみーちゃんの魔法は確実に発動するのだ。


『創造』


 ホタルのような魂と適当に拾ったガラス片を組み合わせる。魂だけが必要だから、ガラスの破片は意味がないんだけどね。


 白金の光が両手からサラサラと砂金のように生まれて、空中に寄り集まっていくと球体となる。


 フルングニルの魂とガラスの破片。ヘイムダルも入れてみようと思ったけど、肩にしがみついて離れないので諦めることにする。


「わぁ〜、とっても綺麗だね、写真撮っても良い? 闇夜ちゃんにもあげるから」


「うん、良いよ。てやー」


 写真写りが良いように、頭をぶんぶん振って灰色髪を靡かせて、サファイアよりも深い蒼き瞳を輝かす。


 玉藻ちゃんがみーちゃんの周りを回って、パシャパシャ撮影する。


 二人の他愛もないやり取りとは別にスキルはしっかりと鍵を作成してくれる。


 球体がグニャグニャと蠢くと、弾け飛ぶ。あとに残ったのは、水晶のように綺麗な小さな鍵だった。神秘的な光をキラキラと輝かせて、みーちゃんの顔を照らす。


『魔法の鍵を作った』

 

「かんせーい!」


『魔法の鍵:鍵のかかっているものを開ける使い捨ての魔法の鍵』


 なんだか勇者がぼったくられそうな鍵の完成である。魔法の強い力を感じるので、役に立ってくれるだろう。


 ラッキーだったね、フルングニルの魂よ。使えば元の魂に戻れるようだ。


「たしかに素晴らしく綺麗だけど、力を感じないな」


「とっても綺麗だけどね」


「彫られている意匠も凝っているよ。エンちゃんの横顔だよ〜」


 床に落ちた鍵をしげしげと眺めて、不思議そうな顔となる油気家族。


 こんなに物凄い力を宿しているのにわからないの? と一瞬思ったけど、理解した。


 あぁ、なるほど。マナは一切宿っていないからね。純粋な魔法の力だけが、この鍵には宿っているんだ。


 だから、いつもと反対となる。マナを感じ取れないみーちゃん、魔法の力を感じ取れない人間ということだね。


「ついでに装備も作っておこうっと」


『魔導鎧ヤールングレイプルと神器ヤールングレイプルを融合』


 エフェクトはオフ。クラフトを連続で続けるのにエフェクトありは面倒くさい。


 なにもない空中に、謎の両手わきわきをするみーちゃん。


『神鎧ヤールングレイプルを作った』


『神鎧ヤールングレイプル:レベル150、物理耐性、状態異常無効』


 油気家族が鍵を観察している間に、ササッとな。


『光輝の剣と神器ミョルニルを融合』


 さらにゴゴゴ〜。すまないトール、ミョルニル使っちゃうね。ドロップしたアイテムはみーちゃんの物なんだ。


『神気の剣を作った』


『神気の剣:レベル150、万能属性付与、敵の防御力50%無効、距離制限なし、特殊武技使用可能』


 よしよし。続いてフルングニルを倒した際に手に入れたウェハースも使おうかな。もう使わないだろうし。


『ウェハースを20個使用』


『みーちゃんの服を作った』


『みーちゃんの服:レベル255、自動再生(1ターンHP1回復)、防御力1。みーちゃん専用』


 レオタードのようにぴっちりとした薄手の服だ。但し防御力1。再生もしょぼい。


 でも、ピンときたよ。これはみーちゃんが真っ裸にならないための服だ。激戦でも服は常に回復して、謎の光はいらないということだろう。


 とっても便利だ。どこからか紳士諸君たちの怨嗟の声が聞こえるかもしれないが、みーちゃんももう中学生だからね。神装備と言えるだろう。


 ボロボロの端切れの布を纏っているみーちゃんなので、ポチリと装備を変更しておく。パパっと服が変わり、その上に神鎧ヤールングレイプルを着込む。


 白金の鎧だ。身体全体を軽装甲で包んでおり、エッチさがないけど、かっこよさはあると思う。


 鳥をイメージした神秘的な意匠、薄くともオリハルコンよりも硬い装甲。宿した魔法の力が装甲の表面を砂金のように仄かに光らせており、各所に散りばめられて魔法宝石からエネルギーが装甲へと巡っている。


 魔法の力が分かるものならば、その内包する力に恐れ慄き、平伏するだろう。まさしく神が装備する鎧だ。


 神気の剣は後で呼び出すことで良いかな。


 神鎧ヤールングレイプルを装備して、みーちゃん自身も神秘的な美しさを魅せちゃう。誰もが見惚れる絶世の美女鷹野美羽がこの世界に顕現した。


「エンちゃんが装備を変えたよ! 可愛い〜〜〜」


「に、似合ってます、胸元のひよこの意匠がとっても可愛らしいです!」


 玉藻ちゃんと春君が感極まった様に、目を潤ませて褒めてくれる。良いんだよ、正直に見たこともない絶世の美女だって褒めてくれて。


「ひよこの鎧?」


「これはたぶん鷹だよ……」


 システムさんの絵心がないことも判明しました。胸元の装甲に彫られている鳥さん。ふっくらと体を羽毛で膨らませており、つぶらな瞳がとっても可愛らしい。


 この鎧はゲームになかったからなぁ………仕方ないか。

 

 こっそりと悲しく思ってため息をつく。胸元の装甲はもっと厚くしてくれても良かったんだよ?


 気を取り直して、鍵を観察している油気父からヒョイと取る。


「美羽ちゃん、その服は? やっぱりマナの力を感じられないけど?」


「隠蔽を付与しているんです。それじゃ準備はできたから、脱出しますか?」


「あ、あぁ。符を再度展開させておくよ。封印しておいた身代わりの符も解除して、新しく装備しておいた」


 そんな裏技がと感心した。たしかに何枚装備しても身代わりの符はいっぺんに発動してしまうから、装備するだけ無駄だ。でも封印しておけば、切り替えることはできるわけだ。なるほどねぇ。


 油気家族は準備万端な模様。


「それじゃ、敵が待ち構えている可能性もあるので皆気をつけてね!」


 魔法の鍵をゲートに突きつけて、真剣な表情へと変える。


「オープンサラミ!」


 テンプレなセリフを口にして、魔法の鍵をカチャリと回す。たしかサラミだったはず。


 歪んでいた空間が急速に形を成して、金属製の大扉と変わった。


 ここに来る前にスルーした扉そっくりだ。とするとオーディーンのお爺ちゃんの待っているお部屋かなと思ったけど……。


「あぁ、やっぱりこっちか」


 大扉が開いた先には、森林内の開けた空き地だった。


 そして、原作でよく見た黒いローブを着込んだ人間が大勢集まっていた。フードをかぶって、その顔は全く見えない。


 いや、一番前にいる女性は、フードを脱いでおり、美しい顔立ちを驚きの表情へと変えている。


 その隣に立つ侍のように羽織を着ている美女と、太っちょの小悪党っぽい中年のおっさんだけは黒ローブを着込んでいない。


 地面には魔法陣が描かれており、周りには青白い炎が燃えている篝火がいくつも配置されていた。


「な、なぜ? 侵入された気配はなかったはず!」


 原作で見たことのある黒ローブの美女だ。動揺を露わにしているけど、こっそりと入ったんだよ。


「クククク、ぷわっはっはっ! だから言ったろう? この小娘は小ずるいから絶対に侵入しているってね! 引き篭もっているから、勘が働かないのさ」


 美しき黒髪を背中まで伸ばした、凛とした綺麗な顔立ちの羽織姿の美女が大笑いする。


「いったいどうやって……」


 後退る黒ローブの女性。そうか、こいつが玉藻ちゃんたちを捕まえて、暗躍していたのか。


「さて…………スカジ、小娘はここで殺しておく。構わないね?」


「……わかりました。任せましょう」


 スカジと呼ばれた女性は後ろに下がり、凛々しい女侍が前に出てくる。ニヤニヤと笑ってくるが、誰この人?


「誰だか、わからないって顔をしているね。まぁ、そうだろうよ、ようやくのこと、この姿に戻れたからね」


 楽しそうな笑顔で、みーちゃんたちの前に立ちはだかると、美女は名乗りをあげてきた。


「私の名前は龍水巴。公爵ってやつをやっている」


「……巴おばあちゃん!? 若くない?」


 え、なんで若返ってるの? 20代前半に見えるよ?


 驚くみーちゃんたちを見て、楽しそうに笑い続ける龍水公爵。


「そうさ。ようやく研究が上手く行ってね。若返ることができたわけだ」


 ヒュウと息を吸い込むと、さらに話を続ける。


「そして、この狂った組織『ニーズヘッグ』のスポンサーをしているのさ」


「スポンサー?」


「あぁ、そのためにはいくら金があっても足りなくてね。気づかれないように行動をしていたんだけど、誰かさんの働きで最近懐が厳しくなってきた」


 肩をコキリと回すと、鋭い眼光を放ってくる。


「次は不老を研究しないといけないんでね。邪魔なあんたは退場してもらうよ」


 龍水公爵からそよ風が流れてきて、周りの草木がサワサワと音を立て始める。


「龍の加護。『ニーズヘッグの加護』を受けし、あたしの力を存分に味わってくれないとね」


 得意げな顔の龍水公爵。『ニーズヘッグの加護』?


「ぷわっはっはっ! あたしが全てを操っていたのさ。言ったろう、鷹野伯爵。高転びに気をつけなってさ」


 そう言って、みーちゃんたちを睥睨しせせら笑う龍水公爵であった。

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[一言] >『チュートリアル:『創造』を使い、『魔法の鍵』を作ろう!』  旧神の方で鍵を作ろうとしたら、銀の鍵がつくれてたかもですねえ。
[良い点] 鷹の雛の写真を思わず検索。
[良い点] ヘイムダルさんがナチュラルに素材にされそうになってて笑った
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