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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
2章 小学生時代

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29話 悲劇の未来を変えようぜっと

 この一連の内容のネタバラシをしよう。まぁ、簡単なイベントだったけどな。


 土塊の額冠は、『マナ』を物凄く大量に込めると覚醒し、神器『イージスの額冠』に変わる。その神器は魔神『アシュタロト』を封じている神器の一つだ。


 即ち、小説の中の重要アイテムの一つということなのだ。早くも一つ手に入れることができたのは良かった良かった。


 この神器。アニメでもゲームでも、スラム街のむさ苦しい盗賊団の親分が持っていた。小説は知らんけど、たぶん同じだろ。中盤辺りのイベントだったから、10巻より先の話だったんだろうなぁ。


 小説版は知らんけど、ゲームでもアニメでも、『ニーズヘッグ』の幹部が、土塊の額冠を奪いに現れる。盗賊団の連中は皆殺しにされて、土塊の額冠の真の姿『イージスの額冠』に戻した敵うんたーらかんたーらは、神器の力を使い主人公と戦うわけだ。え、敵の幹部の名前? そんなん覚えているわけ無いだろ。


 主人公はなんとか倒すんだけど、結局『イージスの額冠』は突如として現れた黒幕に奪われて逃げられるわけ。幹部との戦いで疲れ切っていた主人公はみすみす逃してしまうわけ。


 ゲームでも展開は同じだ。プレイヤーが2ターンで倒しても、主人公たちは疲れ切っており、額冠を盗まれて逃げられてしまう。ねぇ、君たちなんかした? 俺の体力もMPも満タンだよ? 追いかけようぜと心で思っても、ガン無視されたのは言うまでもないことだろう。


 盗賊団がなぜ土塊の額冠を持っているかというとだ。……アニメでもゲームでも、盗品の一つとして存在していた。なんの背景もなかったのだ。


 でだ、考えていたんだ。なんで盗賊団が持っていたかを。もしかして今日が分岐点だったんじゃないか? 油気家は土塊の額冠を『ユグドラシル』に渡さなかった。なので、奪おうとした『ユグドラシル』に皆殺しにされた。しかし、土塊の額冠を回収できずにいたと。テンプレだよな。


 それが未来だ。起こりえた未来。たぶん玉藻たちは皆殺しにされたんだろう。なんで盗賊団に魔道具が流れたのかはよくわからないが、小説的ご都合主義というやつだろう。


 俺は玉藻たちが殺されるであろう強盗事件を防ぐために行動した。どうやったかは、偽物を渡す。ただそれだけだ。


 ただし、そんじょそこらの偽物じゃあない。ゲームの力を使った偽物だ。覚醒前の特殊能力も同じだし、ピカピカと玩具の変身ベルトのように今にも覚醒しそうに光るのも同じ。敵の幹部にはいつか特撮ヒーローに変身できると夢を見ていてほしいものである。


 見破ることは不可能だ。なにせ、ゲームでも敵に見破られることなく、持ち帰ってくれた。そして、俺が隠しルートをクリアするまで気づかれなかったんだ。


 実はゲーム版は裏ルートがあるんだ。敵が手に入れるはずの魔神が封印された神器をプレイヤーが集めちまうってやつだ。全て集めると、もれなく魔神『アシュタロト』を完全復活できるんだよな。普通には無理だ。


 で、額冠を手に入れる方法は簡単。『ニーズヘッグ』が盗賊団を襲撃する前に、こっそりと偽物と交換しておくわけ。その際に作った偽物アイテムを今回使用したわけだ。


 誰か、俺を褒めてもいいぜ。天才的な発想だからな。


 残る神器はあと5個。全て偽物レシピがあるので、強くなったら交換しに行こう。今回みたいにゲームと配置されている場所が違うと困るが、原作開始まであと6年あるんだ。なんとかなるだろうと、楽観的に考えておくぜ。


 今回の報酬は、バトルなしで良い報酬となった。『イージスの額冠』の性能は良いからな。覚醒に結構多くのMPが必要だけど、レベルが上がれば問題ないだろう。


 『魔力緩和薬』はアイテムボックスの肥やしにしておく。これ、ゲームでは見たことないアイテムなんだ。何かに使えれば良いけど、そのまま肥やしになる予感しかしない。まぁ、ゴミアイテムがイベント報酬で手に入るのは、ゲームあるあるだよな。


 というわけで、玉藻の家のお泊りは良い結果となって終わりを告げた。


 で、俺は今自宅のリビングルームで、難しい顔をしている両親と対面している。


 怒られるわけではないのは空気でわかる。かなり重いんだ。離婚するよと告げられたら、子供の俺はカスガイになる予定だが、そういった内容でもないらしい。


「みーちゃん。実はみーちゃんにお話があるんだ。重要なお話だよ」


「重要なお話?」


 真剣な表情で、父親が口を開くので、無邪気な風を装って俺は不思議そうな顔で問い返す。


「そうなんだ。みーちゃん、実はね回復魔法使いはほとんどいないんだ」


 へー、回復魔法使いはほとんどいないのか。予想通りだよ。何千人? 5000人ぐらいか? ネトゲーでも白魔道士って成り手が少なかったからなぁ。わかるわかる。地味だしな。


「この日本にはみーちゃんを入れて31人しかいないんだ」


「へー、31人しかいないんだ。………さ、さんじゅういち?」


 わかっていなかった。


 桁がまったく違った。さんじゅういち? マジかよ。


 灰色髪の幼気な少女が、驚きすぎてぽかんと口を開けて呆けるのを見て、父親である芳烈は眉を顰めて頷き返す。誇らしいという気持ちと、そのために苦労をするだろう愛しい娘を思って、複雑な気持ちとなってしまう。


 妻の美麗も同じ気持ちだ。しかも、美羽は『魔力症』を治したのだから。そっと優しく美羽の灰色の髪を撫でて、美麗も口を開く。


「みーちゃんは『魔力症』を治したでしょ? 治せるのは10人しかいないの」


「え? だって簡単に治せたよ、ママ?」


 病気Ⅰだったのだ。最低ランクの状態異常だ。駆け出し神官でも簡単に治せる病気だった。美羽としては大混乱である。ホワイ?


 戸惑いながら、どういうことかと尋ねる娘の才能の大きさに苦笑をしてしまう。娘にとっては簡単なことだったのだと、その表情が嘘を言っていないことがわかった。


「病を治すのは怪我を治すよりも断然難しいんだよ。怪我は自己治癒に似た力を付与すれば良いと言われているけど、病だとウイルスを活性化させてしまう可能性があって、回復魔法は効きにくいとされている。なので、病を治せるのは日本でも、たったの10人。みーちゃんを入れて11人だね」


 美羽は頭がクラクラしてきた。マジかよ。それは少なすぎだろ。………そうか、そうだったのか。俺はあることに気づいて、唇を噛み締める。迂闊だった。


 闇夜を助けた時の話まで戻る。あの時は不思議に思わなかったが、あれはおかしかったんだ。


 なぜ病院にVIPルームなんて、あったんだ? あれこそが回復魔法使いが少ない証拠だったんだ。普通の病室なら、おかしくない。回復魔法使いの手が回らないんだろうと思うだけだ。


 だが、金も権力もある人間なら、すぐに回復魔法使いに治してもらえるはず。VIPルームなんか作る意味はない。政治家は仮病で入院することはないからだ。回復魔法を使ってもらえと言われるだけだからな。


 その答えは一つだったんだ。即ち、金も権力もあっても、回復魔法を受けられない可能性が大きいために、VIPルームはあったわけだ。前世基準で考えたから、疑問に思わなかったんだ、ちくしょう。


 思わぬところで、前世の常識が邪魔をしていたな。ゲームの知識も邪魔していたか。


 これ、もしかして作者が風邪を引いた主人公を看病するためのシーンを書いたから、整合性をつけるためにこんな結果になったんじゃねーだろうな。


 ……あ、ありえる。あの小説はそういった人気テンプレシーンを外さなかった。


 だって、回復魔法で簡単に誰も彼もが回復できるとしよう。


 回復できない場合はだ。自分を助けて、敵を倒して傷ついた主人公。ヒロインは「バカね……」とか、言って膝枕をして頭を撫でたり、入院した主人公を健気に看病する。風邪などのパターンもあるとする。


 と、テンプレウフフキャッキャッイベントがあっても、そこらじゅうに回復魔法使いがいると、「ほい『治癒ヒール』ほら、治っただろ、はいはい授業に間に合うわよ」とか、そこでイベントは終わり。つまらないパターンになることが考えられる。


 盛り上がらないこと、この上ない。バトルの合間に、ヒロインとのラブコメ。人気を常に考える作者が、これを外す訳がないのである。


 その結果が、これなのだ。ほら、いざという時に回復魔法使いがいるといないでは、ストーリー展開の楽さに違いがあるからな。主人公たちに致命的な重傷を負わせても回復できるなら、作者は遠慮なくピンチを演出できる。


 だから、いつもは回復できなくても、本当に困った時は、回復魔法使いに回復を頼める設定にするわけだ。


 主人公、もしくはヒロインが大怪我して、希少な回復魔法使いにお願いに行くストーリーも作れるしな。


 ヤバい。考えれば考えるほど、この仮説は合っているような気がする。ラブコメのために、危機に陥るモブ主人公な俺。ふざけんなよ『魔導の夜』の作者め。


 ゲームでは、回復魔法使いがいないとRPGとして大変だから、普通にいたんだ。現実的に考えると、プレイヤーの周りにだけ、局所的に回復魔法使いたちが集まっていたということになる。


「で、でもポーションあるんだよね、パパ」


 ガタンと立ち上がって、一縷の思いを込めて尋ねる。ほら、認可制とか言ってたもんな。俺はこれまで病気にかかったことがないから、気にしなかったけど。だって9歳の美少女が薬屋に用事もないのに行くか? ここに風邪薬ありますかと買いに行くか? 普通は親が行くよな?


 なので、この世界のことをあまり知らなかった。いや、ゲームの仕様と、『魔導の夜』の世界設定は10巻までで語られていたから、知っているつもりだったこともある。知っているつもりだったから、わざわざ調べることをしなかったんだ。痛恨のミスだぜ。


「ポーションはね、普通はそれぞれの病気に合わせた薬の効果をアップさせるだけなんだ。毒もそう。怪我も自己治癒力を高めるだけなんだよ」


 はい、絶望的な返答きました。マジかよ。パパさん、そんな現実的な設定は聞きたくなかったぜ。


「本当に怪我を治すポーションは、貴重な魔物の素材を使われるし、その際に回復魔法使いの助力も必要なんだ。そうだな……月に2、3本出回れば良いかな? それも貴族が買い占めるけどね」


 ため息混じりに、父親は教えてくれる。なるほど貴族らしい行動だこと。


「未認可のポーションは、ジュースとして配られるわ。この間の『ユグドラシル』みたいに、なにかと交換、信者へのプレゼントという形で売るの。お布施という形で返してもらうのよ」


 母親の言葉に納得する。そして、この世界に『錬金術師』はいないことが理解できた。いても、数少ないに違いない。


 ならば、回復魔法使いは恐ろしく貴重だ。それならば、俺はかなり危ない立場にあることが理解できた。もう少し早くに教えてほしかったよ。


「ごめんな、みーちゃん。みーちゃんはパパたちが必ず守るから安心してね」


「どーんと任せてね。ママたちは強いんだから」


 両親は慈しみの笑顔で俺を安心させようとする。その言葉に俺は愛を感じ、そして両親の危険を理解した。


 俺は比較的大丈夫だ。命を奪われることはないだろうし、悪くて誘拐だろう。取り込もうとする謀略はあるだろうが。


 両親は殺されてもおかしくない。俺が天涯孤独になって、引き取ろうとする善人が現れるだろうからな。人質になる可能性もある。


「帝城家の護衛もいるからね。みーちゃんは安心してね」


 まったく安心できない。父親と母親には護衛はついているのだろうか?


 美羽はゴクリと息を呑むと真剣な表情になり、両親を強い意思を持って見つめると、口を開く。


「パパ、ママ、私強く寝る!」


「お昼寝?」


「間違えちゃった。私、強くなる!」


 そろそろ能動的に動かなければならないだろう。美羽は強く宣言するのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そんな細かい事を作者が設定したというより、矛盾に対して世界が補完した感がありますね。知識があるほど惑わされそう。
[一言] 入れたいシーンの都合で矛盾解消のための新設定が生えて来る。 長期連載作品あるあるですね!
[良い点] ( ˘ω˘)スヤァ!!
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