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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
10章 武道大会

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287話 最強の神と戦っちゃうぞっと

 あまりにも強力な咆哮に、ビリビリと美羽の身体が痺れる。まだトールは視界にも入っていないのに、たいした威力だ。


「トールはただのゾンビじゃないの?」


「彼は元々強いからね。『黄金の力』で受肉した際も他の神よりも強い肉体を作れたんだ」


「う〜ん、でも自我はないんでしょ?」


「あぁ、ただ自分の復活を求めて彷徨う哀れなる存在さ」


 ヘイムダルが肩をすくめて哀しそうな顔になる。仲間がゾンビに変わってしまいショックなんだろう。


「ヂガラァァァ」


「グヘッ」


 遠吠えが奥から聞こえてきて、身体が浮くほどの衝撃を受ける。ヘイムダルはショックで床へと叩き落とされた。


「……馬鹿な脳筋なんだ。どうせ魂は不滅。さっさと倒そう」


 痛そうに頭を擦りながら立ち上がり、ヘイムダルは話を続ける。


 先程までの哀しい顔はどこへやら、怒りの表情を浮かべてあっさりと仲間を切り捨てた。神ってだいたいこんな自己中の奴らばかりだよね。


 歩みを止めることなく、磨き抜かれた黒曜石の床を踏み歩き続ける。すぐに遠吠えの元だと思われる場所に辿り着いた。


 黒曜石でできた悪魔の口かと思われるようなバカでかい入口があり、いかにもボス部屋といった感じの場所だ。


「扉が壊れてるよ?」


 分厚い金属製の扉がひしゃげて、壁に突き刺さっている。高さにして10メートルはあるのに、どんだけ怪力なのかな?


「生きていた頃から、ノックも知らない男だったんだ。脳が腐った今は驚くに値しないね」


「脳筋の神って、本当に厄介だよ、まったくもぉ〜」


 抜き足、差し足、みーちゃん歩法と、壁に背を当ててそろそろと静かに中を覗き見る。


 中は広々とした広間で奥が階段状となっており、長方形の石造りの祭壇が置かれており、壁には紋章に見える魔法陣が刻まれていた。祭壇の間ということだろう。


 そして、広間をウロウロと歩く大男の姿もあった。


 身長は三メートル程度。筋肉でパンパンに膨らんだトーガの上に革の鎧を着込み、ザンバラ髪を振り乱して徘徊している。


「生前は凛々しい顔だったんだろうね」


「僕程ではないけれども、モテていたよ」


「面影がわかるって、反対に哀しいなぁ」


 ちらりと見えたその顔は皮膚がなく、筋肉組織が剥き出しで、乱杭歯が覗いている。白目がギョロギョロと周りを見ており、鼻の頭がないのに匂いでも嗅ごうというのか鼻元を動かしていた。


「見かけはゾンビのように見えるけど………違うんだろうなぁ」


「見給え、レディ。トールの歩いた跡を。魔法も付与されて強化されているはずの黒曜石の床が粉々だ」


 大男とはいえ、たかが三メートルの背丈。体重はたいしたことはないはずなのに、トールの歩いた跡は砕けてぼろぼろの破片と変わっている。


「トールゾンビは特殊なんだね。たしかに強そうだよ」


 実にゲームっぽい。次のエリアに向かうための障害としては充分だ。


 すぅはぁと深呼吸をして気を落ち着ける。今の美羽は弱い。トールゾンビと戦闘をしても一瞬で倒されてしまう予感がする。


「どうするんだい? あそこまで強いのは予想外だった。ここは隠れながら祭壇の上に向かうとしようか」


「………ううん、倒しておくよ。ここでトールゾンビを倒す価値はあるみたいだからね」


『さぶいべんと:邪魔な守護者トールゾンビを倒しておこう。潜入されたことを連絡させないようにしてください』


 守護者か……。どうやらヘイムダルは間違っているようだ。この神域を作り上げた何者かは、どうやらトールの支配は終えているらしい。


 たった一人の防衛戦力か。作りかけのアミューズメントパークでも一応戦力は残しておいたと。頭の悪そうな、いや腐っている守護者だけど。


『ウェハース残り112個』


 ボードに映る『ウェハース』。『太陽炎プロミネンス』で世界を焼き尽くした成果にしては少ない。


『レベルの1割を解除:ウェハース10個』

『ウェハースを使用しますか?』


「もちろん『イエス』だ」


 特殊コマンド『ウェハース』により、白金のオーラが美羽の体をふわりと包み込む。制限されていたレベルが少しだけ解放されて身体能力が上がる。


 グーパーと手のひらを握りしめて、むふんと笑みを浮かべる。


「よし。これならいけるね」


「いけるね? いやいやいや、僕の『千里眼』は直接視認できれば敵の強さも見抜ける。レディの魔力は今のトールには敵わない。トールの魔力は君の数倍はあるんだよ! いや、10倍はある!」


 なんだか妖精さんが耳元で怒鳴るので、マスコット人形は壁際にそっと置いておく。


「私はイベントやクエストは絶対に受けるんだ。そしてイベントやクエストは必ずクリアできるようになっている」


 入口の真ん中に立ち、身構える。アイスブルーの瞳は冷静にして無感情な瞳へと変わっていく。


 トールゾンビが美羽に気づいて、身体を向けてくる。


「それじゃ、ダンスの時間だね。皆が感心しちゃう踊りを魅せちゃうよ!」


 鋭く足を踏み込み、トールゾンビへとダッシュする。


 タタタと軽い足音を残し、一気に間合いを詰めていく。


「デ、デギィ!」


 トールゾンビも迎え撃つべく身構えると、よだれを垂らして乱杭歯を剥き出しにして咆哮し腕を掲げる。


 魔法の力が腕に集まり、紫電が発すると無骨な鉄色の手甲が現れて、腕を覆う。


 そして手のひらには柄が短いハンマーが現れた。ハンマーは雷と暴風を巻き起こす。


「なぬ、もしかして『ヤールングレイプル』と『ミョルニル』?」


「そのようだ! どうやらトールは死しても神器を手放さなかったようだね!」


 有名すぎる神器を見て、美羽は僅かに驚きの表情を浮かべる。置いていった扉奥からヘイムダルが見当はずれの推測を叫ぶ。


 ヘイムダルはなまじ『千里眼』なんて、全てを見れる便利な能力を持っているから、推理力がカスな模様。


 どう見ても『終末の日』で放置された神器をパクった奴がトールゾンビに渡したに決まっているじゃん。


「まぁ、倒した後の良いボーナスと思っておくけどね!」


 ニカリと笑い、足に力を込めて、さらに加速してトールゾンビへと肉薄する。


「ウゴァァ!」


 トールゾンビは眼前に迫る美羽に、ミョルニルを振りかぶる。雷がミョルニルを覆い、莫大なエネルギーで太陽のように輝かせて振り下ろされた。


 こちらの速度を予測して、正確な一撃が頭上に迫ってきたので、感心しちゃう。


「白目で脳みそが腐っているわりには、狙いがいいね!」


 右足を強く踏み込み、体を傾けると斜めに跳ぶ。ミョルニルが床を叩き砕く。そしてミョルニルは一際光り輝くと、超高熱の雷を辺りへ地上を這って広げていく。


 床が超高熱で溶けていき、膨大なエネルギーが美羽へと迫る。


 だが、ミョルニルの効果はゲームで知っている。


「その効果は予想済みっ!」


 フフンと可愛らしい笑みを浮かべ両足を揃えると、宙へと飛ぶ。


 そしてミョルニルを繰り出して腰を屈めていたトールゾンビの背中にヒラリと飛び乗った。


 雷撃はトールゾンビを迂回して辺りへと広がったので、トールゾンビの背中に乗った美羽はまったくダメージを負わなかった。


 トールゾンビ自身には、ミョルニルによる雷の効果はおよばないのだ。それを逆手にとったのである。


「ウゴォ」


 トールゾンビは背中に乗られたのが気に入らないのか、激しく体を揺すって落とそうとする。


 残念、全て予想済みだ。


「達人に力で対抗するのはお薦めしないよ!」


 ふわりと浮いて、身体をひねると遠心力を足に込めて、首元に槍の如き蹴りを一撃入れる。


 だが渾身の一撃は筋肉の鎧に阻まれて、骨を砕くどころか、傷一つ入れられない。


「硬いな」


 両手を水平にして、トールゾンビが猛回転をしてくる。まるで扇風機のように回転するトールゾンビに舌打ちして、蹴りを入れて反動で後ろに下がって間合いをとる。


「ほらぁっ! 敵わないよ、諦めて逃げる方法を考えようレディ」


 なんと弱気な男だね。ギャラルホルンをさっさと鳴らした弱気な性格がわかるというものだ。


 だが、弱気になるには早すぎるだろ。今の一手でトールゾンビを倒す方法がわかったのにね。


「大丈夫、ハリボテではみーちゃんには勝てないことを教えてあげるよ!」


 ヘイムダルへと教えながら、トールゾンビへと再び向かう。トールゾンビは回転を止めると、肩を前にして突撃してきた。


 ドカドカと床を砕きながら、まるで猪のように美羽へと猛然と向かって、その身体を粉々にしようとする。


 その様子を見て、鋭い目つきとなり美羽は宙に向けて叫ぶ。


「ウェハース!」


幻影歩法ファントムステップⅢ:ウェハース10個』


『オーケーだよ!』


 腰を僅かに屈めると、複雑なステップを踏み、スキルを発動させる。美羽が一歩踏み込むたびに残像が生まれて、その姿を捉えさせないようにした。


「ヌォォォ!」


「とやっ」


 なにも考えずに突撃してくるトールゾンビを、横にステップをして回避する。残像を貫きトールゾンビは突き進み、壁際に立つ柱へとめり込む。


 そしてトールゾンビは柱が崩れて、瓦礫に埋まってしまう。


「無駄だっ。瓦礫に埋まった程度ではトールゾンビはビクともしないっ!」


「ヘイムダルが敵に見えてきたよ?」


 完全に敵のセリフを吐くヘイムダルに呆れながら、駆け出してジャンプする。瓦礫に埋まるトールゾンビがミョルニルを振り、這い出そうとしてきた。


「とやぁっ!」


 美羽は自らの魔法の力を全て爪先に集中させて、トールゾンビを蹴り抜く。

 

 ミョルニルを持っている手のひらに向かって、全力で叩き込んだのだ。


「グオッ」


 ゴキンと骨の折れる音がして、トールゾンビは悲鳴をあげてミョルニルを取り落としてしまう。


「いただきっ!」


 くるりと体を回転させて、床に落ちるミョルニルを受け止める。そのまま身体を更に回転させて叫ぶ。


「ラストだっ!」


『石火:ウェハース10個』


『オーケーだっ』


 ぐるぐると身体を回転させて、遠心力の全てを腕に送り込むと、魔法の力を上乗せしてミョルニルを投擲する。


『石火』


 美羽の意思により、ミョルニルは正確にその力を発動させて、莫大なエネルギーで光り輝く。


 投擲されたミョルニルは隕石の如き威力と速さで空中を飛んでいき、瓦礫から這い出てきたトールゾンビの頭へと命中した。


 メキョリとトールゾンビの頭がひしゃげて、超高熱の雷撃がその身体を奔り、一瞬で燃やしつくす。


「アァァァ」


 断末魔の悲鳴をあげながら、最強と言われた雷神トールは、自らの神器によって倒されて灰になるのであった。


「ほら、簡単に倒せたでしょ? ミョルニルは強力すぎるんだ。脳みそが腐っている奴に持たせたらだめな神器だよね」


 フフンと得意げにヘイムダルに教えてあげる。クエストは必ずクリアできるように出来ているんだよ。


「………レディ以外には使えない攻撃だと思うけどね……」


 てこてこと小さな足を動かして、仰向けに斃れている美羽を呆れと畏れを持って覗き込んでくるヘイムダル。


「痛くないのかい?」


「あぁ、これ? うん、痛いよ」


 ちょっぴり身体が黒焦げで、手足が燃え尽きたけど問題ない。強力極まる『ミョルニル』だが、強力すぎて使うには本来は反作用を防ぐ手甲『ヤールングレイプル』が必要なのだ。


 ゲームでは装備しないと振るうたびに、『ミョルニル』から雷が伝わってきて、HPに100ダメージ受けたものである。


 なので素手で振るった結果なので仕方ない。


 激痛が走っても、身体が砕けても勝てれば良いのだ。


 さて、次は身体を回復させるかな。トールゾンビのドロップは期待して良いのかなぁ。楽しみだね。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] でも残念、 そんなルール にわ通用しないと私わみ いちゃんよ、ヘイムダル|www 章をありがとう
[一言] レベルの1割の解除したみーちゃんの十倍強いトール… つまり普段はトールと同格…
[一言] みーちゃんの勝ち 美羽「やはり腕の差だね」 ヘイムダル「触って見てもそんなに強いと 思えないんだが…胸筋も薄いし…」 美羽「ウェハース100枚の太陽炎逝く?」 ヘイムダル(土下座)
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