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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
2章 小学生時代

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28話 お互いさまなんだなっと

 ホーンベアカウのすき焼きを食べる。なんだろう、このお肉。霜降り肉なのは確かだ。しかし、口の中で溶けるような感触もするが、しっかりとした赤身の味わいが口に残る。どんな魔物かは考えないでおこうかな。


 こんなお肉食べたことがない。霜降りと赤身が絶妙のバランスで存在するのだ。前世では、俺は100グラム1500円とかの牛肉よりも、600円ぐらいの牛肉が好きだった。高価すぎると、口の中が脂っこくなって、たくさん食べれねーんだ。600円の肉だって、極稀に食べていた感じで、金持ちだったってわけじゃないけどな?


「みーねーちゃん、どーぞ」


 おずおずとおとなしい顔を笑みに変えて、春が俺の小皿に肉を大量に入れようとするが、幼いので落としそうだ。高級肉なのに、落としたらもったいない。


 仕方ないので、小皿に入れてもらう。落としたらもったいないからな。肉、野菜、野菜、豆腐、肉のローテーションが変わるけど、これは仕方ないと言えるだろう。


「エンちゃん、これも食べて食べて〜」


 玉藻も肉を俺の小皿に乗せてくる。小皿に乗せられたら食べるしかない。マナーとして当然のことだ。お残しは許されない。俺は良い子だからな。


 アチアチ、ハクハクと、俺は肉を食べる。頬張りたいが、美羽のお口は小さいので、ちまちま食べなくてはいけないのが呪わしい。ローテーションに白米を入れるのを忘れてた! 一大事だ。お代わりください。


「デザートにメロンもあるわ」


 やっぱりお代わりはいらないや。女の子のデザートは別腹理論。嘘だと俺は知っているからな。女になって驚愕したよ。いくらでも食べれると思っていたからな。学会で発表しなくちゃ。それともこれは女性だけの内緒なのかな。


 そうして美羽はたっぷりと謎肉を食べて、デザートのメロンをお腹に入れて、夕食を終えるのであった。大満足である。


 ポンポコリンのお腹になった美羽は、執事さんに案内されて、てこてこと魔道具の保管倉庫に案内されていた。途中で父親も訪問してきて、どうもこんばんはとお酒をお土産に持ってたよ。ウイスキーかな? なにやら、話し合いをする模様。俺のせいじゃないからな。たぶん、友好を深めたいに違いない。


 玉藻と一緒に、保管庫に辿り着く。分厚い魔法金属の金庫扉に、魔法付与されているらしい壁の保管庫だ。かなり厳重そうな扉だ。簡単に開けられそうにない。元金庫開けの名人じゃないよな、執事さん?


 信頼されているのだろう。ピピっと指紋認証、生体認証、魔力認証を終えて、カードを通すとゴウンゴウンと扉は開き始める。


「凄いね、玉藻ちゃん!」


「玉藻もこの扉が開くの滅多に見たことないよっ!」


 分厚い金属製の丸扉が開くのを見るだけでも興奮しちゃうぜ。一般人なら映画の中でしか見たことのない光景だもんな。


 そして、さらに中を見てびっくりする。


 ガラスケースに入っているずらっと並んだ剣や杖。貸し金庫のように金属の戸棚があり、そこには魔道具が入っていそうだ。


 この世界、昔に作られた今では製法の失われた強力な武具やアクセサリーがあるんだよ。はいはい、テンプレだよな、わかります。


 俺は玉藻と手を繋ぎ、物珍しそうに目を輝かせて辺りを見渡す。玉藻も入ったことがないのか、キラキラと顔を輝かせていた。


 玉藻の家系は魔法使いなだけはあるな。なんで貴族にならないんだろ。金はあるし、魔力もあるのに不思議だな。なにか理由があるのか? いや、俺が聞いていないだけだ。もしかして貴族? 気にしなくても良いことか。スルーしよっと。


「美羽様。危険ですので、マナを魔道具に流すのはお止めください。それ以外は触っても良いと旦那様から許可を頂いております」


「はい! わかりました!」


 手をあげて、元気に答える。ようは『アイテム』に対して『使う』を選ばなければ良いんだろ。マナを流し込む? 俺の脳内では『アイテム』を『使う』んだ。マナなんか流しこめません。


「エンちゃん、この宝石きれーだよ」


「わぁ、ほんとだ〜。でも手袋しよっか」


 棚を開けて、むんずと宝石を無造作に掴んでみせる玉藻。指の脂は宝石の輝きに天敵なんだ。手袋手袋。手袋をしよう?


 はぁいと、玉藻が宝石を棚に戻すのを横目に見ながら、辺りを注意して観察し、スッと目を細める。


「あった。あれだな」


 ゲームでも見覚えのある魔道具。錆びた額冠が棚に置かれていた。他の宝石や魔道具に比べると、数段落ちて、価値は低そうに見える。


 錆びきった汚い額冠だ。申し訳程度に額冠の真ん中に小さな宝石が輝いている。


「あれを見ていーですか?」


 執事に聞くと、頷いて許可してくれる。


「旦那様からは、どんな魔道具も見せて良いと許可を頂いております。それはかなり古い物でして、土塊の額冠と言います。マナもほとんど残っておりません。他を用意いたします」


「ふーん、確かに少し汚いですね。これと交換してほしーんですね!」

 

 錆びた額冠を手にして、ニコリと微笑む。ついでにポチリとアイテムボックスの錆びた額冠(偽)とも交換しておく。


 一瞬だけ、錆びた額冠の姿が揺らぐが、執事は気がつかなかった。そりゃそうだ。まさか目の前でスる奴がいるとは思わないだろう。


 執事さんは俺に宝石を中心に、多くの魔道具をその後見せてくれたが、俺は目標達成したので、コクリコクリと船を漕ぎ始めちゃうのだった。少し食べすぎたかな。


 おねむとなった俺は、玉藻と一緒にお風呂に入ったあとに、一緒のベッドで寝るのであった。おやすみなさい。今日はたくさん遊んで疲れちゃったんだ。お風呂は普通に背中の流しっこをしてから入ったよ。紳士なら血涙を流すかもな。


 次の日である。俺は少し遅く目が覚めた。もう8時だ。気づいたら、キングサイズのべッドで、玉藻と春と川の字になって寝てた。


「おあよ〜、玉藻ちゃん、春ちゃん」


「おは〜、エンちゃん」


「お、おはよ〜」


 お互い、目をこしこしと擦りながら、あくびをしてフラフラと起きる。メイドさんが俺たちを抱っこして、洗面台まで運んでくれる。美羽は背が低くて可愛らしいから、ぬいぐるみのように簡単に運ばれちゃうんだ。


 洗顔しやすいように、ぬるま湯となっており、パシャパシャと顔を洗うと、歯磨きを終えて、髪の毛を整える。世界一可愛らしい美少女は努力のもとで作られるのだ。寝癖はない? 髪はとかした? 目やにとかないよな。服装も綺麗なシワのないものを選ぶ。もちろん、服装にも気を使うぞ。

 

「エンちゃん、きれーだね」


「身だしなみには気をつけているの。玉藻ちゃんも可愛いね!」


 枝毛がないか確認し、鏡を前に、ニコリと笑みを浮かべて、クルリンと回転する。美少女の道は1日にしてならずなんだぜ。毛先もちゃんと跳ねていないか確認だ。


 てこてこと、玉藻と春と一緒にリビングルームに向かう。おはようございますと、元気に挨拶をしようとして気づく。


「パパ、ママ!」


 油気夫妻と共に、俺の両親たちが椅子に座って談笑していた。一緒にお泊りしたらしい。


 てててと走って、笑顔で父親にジャンプで飛び込む。愛情表現は家族に必要なんだ。スキンシップ大事。


「甘えん坊だなぁ、みーちゃんは」


 嬉しそうに頭を撫でてくる父親。俺は口を尖らせて、答えようとして、鼻をヒクヒクと動かす。


「びっくりしたんだもん! ……お酒くさい!」


 風呂に入って、歯磨きしても拭いきれない酒の匂いを感じとり、バッと離れる。スキンシップ終了。幼い少女に、お酒臭い息はNGだぜ。


「あらあら、あなた。だから、お酒の飲み過ぎだって言ったでしょ」


「参ったなぁ」


 頭をかきかきショックを受けて、しょんぼりとする父親、玉藻の父も同じように酒臭いと玉藻たちが離れていったので、どうやらかなり飲んだらしい。ちゃんぽんすると悪酔いするぜ。二日酔いは決定だ。


 だが、ほのぼのとした空気はそこで終わりだった。執事が厳しい顔で入ってきたのだ。


「旦那様。『ユグドラシル』の皆様方がいらっしゃいました」


「………わかった。しかし私が行くわけにはいかない。悪いが土塊の額冠と『エリクシール』を交換してもらってくれ」


 玉藻父がちらりとうちの両親と顔を見合わせて、微かに頷く。どうやらなにかを決めたらしい。大体想像はつく。


 畏まりましたと、執事は小脇に箱を抱えると外に行く。俺はこっそりと覗きに行きたいが、我慢をする。ここで俺がいたと知られるわけにはいかない。後で調べられてバレるならともかくとして、自分の行動でバレるとまずいと思い直したからだ。


 だって、回復魔法使いは希少ではないのだろうかとの疑いが、俺の頭にもたげ始めているからである。


 たぶん父親は『魔力症』を俺が治したから、話し合いに来たんだ。さすがに気づかないほど、能天気じゃねーよ? 母親の態度といい、『エリクシール』の話といい、おかしな所が多い。


 しまったなと、舌打ちするぐらいだ。錬金術師の館とかあるのが当然だと思ってた。冒険者ギルドにはゴロゴロ回復魔法使いがいると考えていたんだ。魔道具を使ったスポーツとかは普通にあるから、ゲームの設定が反映されているとばかり思ってたぜ。


 だが、小説の設定。即ち、主人公が風邪になって看病を受けたりする設定が世界に反映されていたら? おいそれと病気を回復できないぐらいに回復魔法使いは少ないか、状態異常を治せる回復魔法使いが少ない。


 そして、これが一番問題なんだが……もしかして『錬金術師』っていねーんじゃねぇの? 似たような職についている人はいるだろうけど……『錬金術師』いなくない? ゲームの設定、レベル制とジョブ制は俺にしか反映されていない。


 と、するとだ。『錬金術師』はいない。そして、ポーションを日常的に作れる職人はいない。もしくは効果が微々たるもので、まともに『エリクシール』を作れる人はほとんどいないと。その可能性に行き着いたんだ。迂闊だったぜ。


 執事が箱に入れた物を持って、戻ってきた。意外と早い。


「それが何でも治す『エリクシール』ですか?」


「はい。こちらになります。旦那様からはお渡しするようにと言いつかっております。どうぞ」


「ありがとうございます!」


 クリスタルのガラス瓶に入った金色の液体を執事は渡してくれる。執事はそのまま、付き合いはこれまでだと『ユグドラシル』に伝えたところ、あっさりと帰りましたと、玉藻父に報告をしていた。


 だろうな。錆びた額冠が欲しかったんだから、当たり前だ。もうまとわりつかれることはないだろう。下手に渡さなかったら、強盗に見せかけて殺されていたかもしれん。


 それだけの価値があるのだから。


 まぁ、偽物だとは絶対に気づかれないだろう。


 さて、こちらはと。


『鑑定』


 目を光らせて、スキルを使用して、『エリクシール』を見つめる。『鑑定士』の固有スキルを使いたかったから、前もってジョブチェンジしておいたんだ。

 

『魔力緩和薬:飲んだ者の魔力暴走を一時的に緩和する。効果は240時間』


 ちくしょうめ。やはり本物の『エリクシール』じゃなかったか。


 まぁ、俺の渡したのも偽物だ。覚醒させるために毎日マナを注ぎ込むが良い。光るだけの玩具だけどな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユグドラシル「マナをこめて……よし、光った!この調子だ!」 [一言] Win-Winですね!
[一言] 『錬金術師』はいない。そして、ポーションを日常的に作れる職人はいない。もしくは効果が微々たるもので、まともに『エリクシール』を作れる人はほとんどいないと。その可能性に行き着いたんだ。迂闊だっ…
[一言] >女の子のデザートは別腹理論。嘘だと俺は知っているからな。  大分前に検査機まで使ってやってた(という触れ込みの)テレビの内容が正しいならばですが。  どうやら胃を無理矢理動かして、内容物…
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