表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
9章 レース

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

271/380

271話 魔導の夜の意味なんだぞっと

 『終末の日』。それは北欧神話での神々の黄昏を示す。オーディーンたちが最終戦争にて滅んでしまう最後の日だ。


 ヘイムダルが戦争が始まるよとギャラルホルンを吹き、アースガルドの神々と英霊たちが、ムスペルの子ら巨人の軍勢と争う。


 フェンリルやヨルムンガンドが大暴れして、オーディーンたちは敗れて、当時世界樹『ユグドラシル』の周囲に存在していた9つの世界全ては壊れてしまうという懐かしいお話だ。


 皆が死んで、世界が平穏なる静寂の世界へと変わった一幕だ。


 『ミーミルの首』はなんでも知っている元はミーミルという老人だった。オーディーンが首だけ切ってアドバイザー神器に変えたんだよね。


 なんでも知っているのなら、切られる前に逃げろよとか思うけど。


 とはいえ、万里万象を知っていると呼ばれている『ミーミルの首』であれば、たしかに世界を紡ぎ直すための記憶も所有しているだろうね。


「犯人は誰なの?」


「わからぬ。いや、想像はつくがな。恐らくは遠大な計画であったのだろう。延々と人間に世界を繰り返させる。黄金の糸が傷つき脆くなるその日まで。正直、何千、何万年かかるか分からぬ無謀とも言える計画だな」


「うへぇ〜、みーちゃんには無理だなぁ。すぐにお昼寝して飽きちゃうよ」


 さて、寝ようかな。もう夜中だしグエッ。


 ぐいと荒々しく首を掴まれて、オーディーンにギロリと睨まれちゃう。だって、もう元の世界は夜中だよ? 話が長くなりそうだし、みーちゃんは寝たい。


「マイペースなのはお嬢の良いところだが、『魔導の夜』の意味はわかったか?」


「精緻なる魔導を駆使して、決められた世界を繰り返す明けぬ夜を作り上げたから、『魔導の夜』でしょ?」


「察しが良いところも、お嬢の良いところだが、それだけではない」


「む? 他に何か意味があるの?」


 題名から推察して、それしかないと思うんだけど?


「あ、わかりました。その『魔導の夜』の物語がなぜ多元世界に伝わっているか、ですね?」


 おずおずと口を挟むフレイヤに、なるほどとポムと手を打つ。


「あぁ、そういえばそうだね。なんでだろ?」


 なんでこの世界の歴史が他の世界に伝わっているわけ?


 面白そうな表情で、オーディーンのおじいちゃんが話を続けてくれる。どうやらその理由も推察できているらしい。


「この世界の神話に限らず、神々の話は多元世界に出回るのだ。それだけ神々の話は力を持っているということだな」


 情報とは力を持ち、世界を渡るらしい。神の名前自体に力が籠もっているために、そうして様々な神話が多くの世界に伝わるとか。ふーん、そういうシステムなのか。


「ふむ……それじゃ、繰り返しループすることにより『魔導の夜』も神話へと変わった?」


 まぁ、何万回と同じストーリーを流せば、少しはそのストーリーを受信する多元世界もあらわれるのだろう。


「そうだな。そして、ここが肝心なところなのだが、なぜ伝えたか、そこに理由があるのだ」


「ウ~ン、電波を受信して、なにか人間に起こるの?」


「その神に崇拝ともいっていい思いを持つものは、神々の世界に魂として渡ってこれる可能性がある。英霊エインヘリヤルが『ヴァルハラ』に来るようにだ」


 ピピピと神話を受信した人間が魂となって転生してくるわけかぁ。なるほどね。


「でも信長は? 信長も『魔導の夜』のファンだった?」


 信長はファンじゃないよね? チートな力を持っていたらしいけど、『魔導の夜』は読んでないんじゃないかなぁ。


「そこがもう一つの問題だ。恐らくは最初は神の降臨、いや、恐らくは自分を召喚させようと人間を利用して、『生命の実』にて、神の降臨を繰り返させていたに違いない」


「自分を召喚させようとしていたの? たしかに邪神が使徒を使って降臨を目論むとかテンプレだよね」


 我を召喚せよ〜とか、使徒を操るんだよね。わかるわかる。そういうお話たくさんあったし。


「そのとおりだ。そしてこの世界の多くの人間をそやつは『生贄サクリファイス』として、自身を降臨させるように試していたはずだ」


「ふむ? それが教団『ニーズヘッグ』なんだ」


 みーちゃんは目を鋭くさせて、話の流れを理解する。『ニーズヘッグ』がここで絡んできているのは間違いない。


 そうしてキリリと顔を引き締めて伝える。


「お家に帰って、お話ししよう? 疲れちゃった」


「はぁ……わかった」


 オーディーンのおじいちゃんがため息を吐くけど、疲れたんだもん。


 話が長くなりそうだしとおうちに戻る。フレイヤがコーヒーを淹れてくれてインターバル。


 その間にオーディーンのおじいちゃんが教えてくれた内容に考えを巡らせる。


「フレイヤ。わたしはアイスココアに変えて〜」


「は、はい。持ってきますね」


 よく考えた結果、みーちゃんはコーヒーが苦手だと悟りました。ココアを飲みたいです。


「緊張状態が続かない娘ねぇ」


 フリッグお姉さんが呆れた顔になるけど、仕方ないでしょ。


「みーちゃんはまだ中学一年だからね! それに推測できたよ!」


 ココアのお茶請けにクッキーを持ってきてと言いながら、オーディーンのおじいちゃんへと得意顔を向ける。


「で、話を続けると強固なこの世界では、神の力を降ろすことはできなかったんだ。でも、その代わりに偶然に信長の魂を召喚できたんだね?」


「そうだ。そこでそやつは強固なはずのこの世界にあっさりと入っていった人間の魂を見て、その方法を利用することを思いついたに違いない」


「に、人間の魂って転生する際に世界を渡ることがあるって、昔に聞いたことがあります」


「テンプレだよね。なるほどテンプレ展開を利用したのかぁ、でも『ミーミルの首』はどうやってこの世界に入れたの?」


 転生者の魂を利用するには、『魔導の夜』を作らないといけない。繰り返される世界を作るには、『ミーミルの首』が必要。


 どこで、『ミーミルの首』をこの世界に持ち込んだの?


 オーディーン先生は説明が楽しいのか、コホンと咳払いをすると、答えを纏めてくれる。


「そやつがやったことはこうだ。まずこの世界へと入り込むために、人間に様々な加護を与えて信者を作ると、降臨の儀式をさせていた。その程度の力は送ることができたのであろうよ。だが、これは失敗して代わりに信長の魂が降臨されてしまった」


「ふんふん。そうだね。それで?」


 人差し指を立てて、オーディーンのおじいちゃんは隻眼に鋭い眼光を宿らせる。


「だが、そこで僅かながら世界に穴ができたに違いない。そやつはそこですぐに決断した。恐らくは……自分の住む世界が限界に達していたのだろう。大部分の力を捨てて、その小さな穴に飛び込んでこの世界に来たはずだ。その際に儂らの神器も持ち込んだのであろう」


「わかったわ、オーディーン。そいつ私たちの神器をパクってこの世界に降りたのね!」


 ガタンと立ち上がり、憤怒の表情になるフリッグお姉さんへとジト目で突っ込むオーディーンのおじいちゃん。


「貴様の持つ神器などないだろうが。黄金宮は『終末の日』に破壊されたしな」


「黄金の腕輪『ドラウプニル』があるじゃない!」


「あれは儂のだ」


「夫の物は妻の物でしょう? 9日間ごとに同じ重さの黄金のドーナツを8個生み出す夢の神器……。毎日一個ずつ大事に食べようと思って、いつも8日間我慢してたのに!」


 ドーナツを作り出す神器なんかあったっけ? それに計算おかしくない?


「一つずつ食べれば、一日我慢するだけじゃないの?」


「我慢できずに、最初の日に全部食べちゃうに決まっているでしょ」


 真剣な表情で答えるフリッグお姉さん。ふざけている様子はゼロだよ、この女神。


「うん、たしかにフリッグお姉さんならそうするよね」


「は、話が進みませんよぉ〜」


 漫才を始めるフリッグお姉さんに、困った声でフレイヤが口を挟む。たしかにまったく話が進まないね。


「お茶請けを置いておくね」


「この話は後にするわ」


 ザラザラと宝石をお皿に盛っておくと、ようやくおとなしくなるフリッグお姉さんである。


「話を戻すぞ。人間の魂が通れる程度の小さな穴では、力ある神はとてもではないが通り抜けることは不可能。神の力を捨ててこの世界に来たのは良いものの、神としての力を失ったので取り戻そうと考えた。併せて、この世界に意思ある管理者がいないことに気づき、支配しようと計画したのだ」


「そこで、『ミーミルの首』を利用して、糸を紡ぎ直してボロボロにする。次元を超える転生者の魂を利用して、ボロボロとなった世界に大穴を開けるんだね」


「転生者の魂は、この世界から見ると異物だからな。歩くだけで黄金の糸を引きちぎっていく。ボロボロとなった世界ならば簡単だろう。その魂を利用して神の降臨を行えば次元の穴は簡単に開く」


「なるほどね〜。だから繰り返される世界のことを神話だか小説だかにして、他の世界に流したわけかぁ。成功するかわからないのに」


 ぽふんとソファに寝っ転がり、フワァとあくびをする。あれだ、地球から宇宙に向けて、宇宙人来てくださいと電波を送るのと同じぐらい絶望的な作戦だよ。


「同感だ。正直、とてもではないが成功するとは思えぬ作戦とも言えぬ作戦だな。だがそやつには選択肢はなく、そして奇跡的にこの作戦は成功した」


「しょ、小説として、受信した世界で『魔導の夜』に強い憧れを持つ人間が現れたんですね」


「………そいつ、粟国勝利って、言うんじゃないかな?」


「可能性は高いな。そう簡単にこの世界に次元を超えた転生者の魂が来れるはずはない」


 そうか、あいつがあのエスカレーターの男だったのか。さようなら勝利君。後で身長を教えてもらおうかな。

 

 ………? おかしなところがあるぞ?


「ねぇ、私は? 私はやり込んではいたけど、そこまで『魔導の夜』のファンじゃなかったよ? しかも私はゲーム仕様だし」


「………巻き込まれて、この世界にやって来たのだ」


「マジか……そこで既にみーちゃんはモブだったのね………」


 ガーン、産まれる前からモブだと決まっていたのか、ちょっとショック。


「で、ゲーム仕様の理由は? それにゲーム仕様も敵は知っていると思う?」


「………お嬢がゲーム仕様の理由はそれはまだ推測にすぎぬ。そして相手はゲーム仕様も知っていると考えたほうが良い。儂の神器を持っているとすれば、知られていてもおかしくないからな。それよりも、これからのことを考えねばならぬ。予想では世界が繰り返されるのは『アシュタロト』が滅ぼされたすぐ後だ」


「『魔導の夜』の結末から、世界が繰り返されていると考えるのが普通だもんね」


「出来過ぎた物語のような歴史だ。その者は恐らくは神話になりやすいように、ストーリー性を持たせた歴史に変えた。………他にも理由があるかもしれぬが、それは不明だ」


 なんか、今オーディーンのおじいちゃんは話を誤魔化さなかった? ま、いっか。それよりもこれからのことを考えなくちゃね。


「私たちが『アシュタロト』をシンがいない状態で倒すには完全復活ルートのみ。それじゃ最後の神器『レーヴァテイン』を手に入れる方法を考えるか〜」


「そうだな。それ以外の方法をとれば、必ずシンがその戦闘に加わるに違いない。黄金の糸が運命を修正しようとそうさせるはずだ」


 今は『レーヴァテイン』は誰が持っているんだろ。

 

 ゲーム仕様のみーちゃんが、小説みたいな世界を作った敵なんか倒しちゃうからね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 頭の良い読者なら『お、黒幕はあいつかな?』みたいに何かを受信しているんでしょうね~。 モチロンボクモデスヨ(´ω`)
[一言] 前世の恨みがあるとはいえ勝利をヤッちゃうのは立場的にも法律上もまずいから、 勝利の息子?をバスターしてお返しするとか?
[一言] ゲーム仕様の理由は何処ぞの大樹な女神様が友達のみーちゃんを神様にするのに丁度よいよねと攻略本代わりの悪霊と一緒に付けたに違い無い、もしくはゲーム仕様も勝利の物だったのがぶつかった拍子に掻っ攫…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ