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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
2章 小学生時代

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27話 マイルームの定義とはっと

 玉藻の部屋は広かった。さすがは豪邸だ。俺の部屋の数倍はある。毛足の長い絨毯が敷き詰められて、ドデンとキングサイズのベッド、学習机と椅子が隅に置かれ、中心にはテーブルとクッション。隣の部屋がクローゼット。本棚もある。そして、たくさんのぬいぐるみがそこかしこに置いてあり、内装はファンシーな感じだ。実に玉藻らしい。


 子供らしいと、大人な俺は温かい目で部屋を眺める。俺にも無邪気な頃があったな。


「エンちゃん、ぬいぐるみ気に入ったね〜」


「このライオンさん可愛いね!」


 身体が勝手にぬいぐるみを抱きしめちゃうんだ。ムギュウってな。だって、このぬいぐるみもふもふな上に大きい。2メートルはあるぜ。こんなぬいぐるみを見たら抱きしめないといけないだろ?


 灰色髪の美少女はライオンのぬいぐるみの懐に入って抱きしめちゃう。ライオンの手を抱きしめてくれるように後ろに回し、もふもふだよと顔をぐりぐりと押し付けて、目を瞑り、ぎゅうと抱きしめる。このぬいぐるみ最高だ。俺の部屋には大きすぎて置けないなぁ。


 玉藻も玉藻もと、楽しそうに隣に玉藻も入ってきて、2人でぬいぐるみを堪能すること暫し。ほんわか空気の中で、出来立てのチョコクッキーを食べて、ミルクをコクコクと飲む。もちろん夕飯は食べれるように、クッキーは2枚程度にしておいたぜ。


 しばらくテレビの話とか、友だちの話をしてから、やるべきことを思い出した。面倒くさいことは先にしておこうかねっと。


「玉藻ちゃん、私、でんぐり返しの奥義のれんしゅーをしようと思うんだ。10分ぐらい一人にしてくれる?」


 お願いと両手を合わせて、お願いする。一子相伝の奥義なんだ。見られたら、こちょこちょの刑にしないといけないんだ。


「おぉ………。一子相伝! うん、わかった! それじゃあ玉藻はお部屋から出て待ってるね!」


 目を輝かせて、鼻をふんふんと鳴らしながら、とてとてと玉藻は部屋から出ていってくれた。ありがとう、玉藻。でも、ドアを細く開けて覗き見しようとしてもバレバレだぞ。


「さて、そんじゃあ、サブイベントやっとくか」


 錆びた額冠に連なるイベントを記憶の中からほじくり返す。たしかスラム街にこのアイテムはあったはず。どのような経緯でスラム街に渡ったかはわからないが、大体想像できる。それを防ぐのが、俺のモブな主人公の役目だろう。


 本来はスラム街で回収するんだが、守っていた奴は盗賊の親分で、名前もなかったから、全カットでも問題ないだろ。


 俺はスッと目を閉じると、ぽそりと呟く。


『マイルーム』


 その言葉に従い、空間がふわりと波立つ。そうして、目を開くと俺は別の部屋にいた。玉藻のファンシーな部屋はどこにもなく、吹き抜けの2階建ての家にいた。


 こぢんまりとしており、キッチン、居間、リビングルーム、寝室が全て一つの部屋に纏められている。2階は吹き抜けのために、壁際に申し訳程度のロフトが付いている感じだ。天井は日本の家とは違い、かなり高い。窓からは外の様子が見えるが、外は小さい庭と家庭菜園が見えた。外にはもう一つ倉庫のような納屋があり、ドアは開いており、機械工具が並んでいるのが見える。


 『マイルーム』だ。ジョブチェンジや、アイテム製作が可能な別次元の部屋。ここに来る条件は、ホテルや自宅に限る。ゲームでは、便利な『マイルーム』だ。よくあるパターンだよな。


 ちなみに『マイルーム』に移動している時は姿が消えていることが、以前『マイルーム』のベッドで寝ていたら、両親が誘拐されたのかと焦っていたので、判明している。使う時には気をつけないといけないぜ。


「さて、急がないとなっと」


 ステータスボードを開いて、ポチポチと画面を遷移させる。と、ジョブチェンジの項目に移る。


「今回は生産ジョブだな」


 生産ジョブ。名前のとおりにアイテムをクラフトできるジョブだ。


『機工師』固有スキル 兵器生産可能

『錬金術師』固有スキル アイテム生産可能

『料理人』固有スキル 料理生産可能

『鑑定士』固有スキル 鑑定可能


 この4つが生産ジョブ。熟練度は全てレシピ解放となっている。鑑定士だけは、少し特殊で、採掘、採取時に取得アイテム量やレアアイテム取得率アップとなっている。


「それじゃあ『機工師』っとな」


 ポチリと押すと、銀のフラフープが現れる。俺の身体を頭から足元まで銀のフラフープがスキャンするように降りていき、シュワンと音がすると、神官Ⅰから、機工師にジョブチェンジされた。ステータスが再計算されて、低下したために身体が重く感じる。いつものことだが、へんてこな感じだ。


「ジョブチェンジしても髪の色は変わらないんだよな」


 毛先をツンとつつくが、灰色髪の色は変わっていない。髪の色は固定らしい。キャラメイクで灰色の髪にした覚えはないけど、コロコロ色が変わるのは困るから、これで良いと思う。


 手をわきわきと動かす。あんまりよく違いはわからないが、ジョブチェンジ完了だ。


 『機工師』は武具生産のジョブだ。武器から『魔導鎧』、アクセサリーまでを網羅している。熟練度は1だ。レベル10以下の装備のレシピが解放されており、今回欲しい装備は、そのレシピの中にあるので問題ない。


 まぁ、イベント用のアイテムだから、熟練度1で作れるように救済されていたんだけどな。


 ポチポチとクラフトする装備を一覧から選ぶと選択する。今回はこれだ。


『魔石15、鉱石2、宝石1』


 製作に必要な素材が表示される。宝石……宝石かぁ………。


「大地のトパーズを使うのは、もったいないが……仕方ねぇな」


 ゲームではどんな物でも良かった。魔石は最低ランク、鉱石も宝石も屑アイテムでも良かった。救済措置だったのは明らかだ。しかし、屑アイテムを持っていない俺は困る。……困るが仕方ないか。


「男はきっぷの良さ! 女もきっぷの良さだ!」


 度胸や愛嬌はいらん。ポチッとな。


 美羽が製作ボタンを押すと、ぽてんと腰を降ろす。そのまま小さな手を前ならえの格好になり、クラフトを開始する。


 目の前に光の球体が浮かび上がり、少女の顔を照らしていく。犬歯を口元からチロッと出して、美羽はクラフトを続ける。


 光の球体はスライムのように蠕き、30秒程経つと、球体は弾けて、キラキラと金粉のように宙に舞った。


 そうして、アイテムボックスに、クラフトを終えたアイテムが入った。


 作ったアイテムはこれだ。


『錆びた額冠(偽):1日に3回、『防壁プロテクションⅠ』を使える。マナを注ぐと、反応して光り輝く』


 予定通りだ。イベント用のアイテム『錆びた額冠(偽)』


「上手く行ったな。あとは予定通りに行動しようかなっと」


 『マイルーム』から退室する。また目を瞑ると、空間がふわりと波立ち、元の玉藻の部屋に戻っていた。


「あ〜。エンちゃんが消えていたよ?」


 カチャリとドアを開けて、玉藻が飛び込んでくる。やはり覗いていたらしい。金色のサイドテールをふりふりと振って、好奇心に満ち溢れた瞳で、俺に聞いてくる。やはり、他人がいる所では使えないな。今回は緊急事態だったから、仕方ないけどさ。


 肩に乗っている子狐も首をコテンコテンと傾げて不思議そうだ。だが、この展開は予想済みだ。天才美少女美羽は常に完璧な行動をとるんだぜ。


 俺はまだまだ発展途上の胸を張って、えっへんと答える。


「でんぐり返しの奥義だよ」


 完全なる理論であった。最初から奥義を使うと言ってただろ。


「玉藻も、玉藻も奥義使いたい! ねぇ、教えてー!」


「一子相伝の技なの。だから、この技は秘密〜」


「教えてよ〜」


 9歳ならではの誤魔化し方をして、暫く俺は、玉藻にお強請りされて、コンちゃんに顔をペロペロと舐められるのであった。


 そうして、暫く遊んだ後に、玉藻母がご飯ですよと呼んでくれたので、わーいとリビングルームに向かう。良い子な美羽は、可愛らしい演技が必要なんだ。玉藻と2人、手を繋いでリビングルームに到着すると、コンロの上に、グツグツ煮えているすき焼き鍋。


 関東風で煮ながら食べる方式らしい。意外なことに母親もいた。どうやら話し込んでいたらしい。春もおり、玉藻の父もいた。帰ってきたらしい。


 魔道具作りの玉藻父は離れの工房で魔道具を作っているから、いつでも帰れるホワイトな職人だ。羨ましい。弟子たちもいるが、他の食堂で食べているとのこと。


 魔道具の製作の練習とかどうやってやるんだろうな。俺、生活魔法以外に習ったことないしなぁ。


「今度、病院で検査を受けないとわからないが、春は美羽ちゃんの回復魔法を受けたあと、身体の調子が良いらしい。ありがとう」


「本当にありがとう、美羽ちゃん」


 玉藻夫婦がニコニコと言ってくる。母親もニコニコと笑みを浮かべているが、少し陰がある。どうも俺が使った魔法はまずかったらしい。


 よく考えると『エリクシール』が必要と思われる病気だもんな。でも病気Ⅰと表示されていたから完治させるのは簡単なはずなんだよな。


 ………そういえば、小説では主人公の風邪で、ヒロインが看護を争って行うベタベタテンプレイベントがあった。


 だが、これって少し変だよな? ヒロインの中には回復魔法使いもいたんだ。回復魔法で治癒してもおかしくない。小説だからといえば、その通りだが……。もしかして状態異常を治す魔法はレアなのか?


 俺ってば、なんかやっちゃった? いや、ふざけている場合じゃないな。だが、この話は少し置いておこう。


 満面の笑みで、玉藻両親はお礼を言ってくる。


「何でも言ってね。お礼を何でもするから」


「そうだね。なんでも言ってくれ」


「えーと、それなら魔道具見せてください! それと『エリクシール』が欲しいんです!」


 『エリクシール』。興味があるが、それ以上に必要なイベントがある。


「たしか、魔道具と交換に貰えるんですよね? 錆びた額冠と交換しませんか?」


 もじもじと指を絡めてお願いをする。


「うーん、『エリクシール』か。……『ユグドラシル』に隙を見せたくないんだが……もう必要はないし、以前から怪しいとは思っていたんだ。証拠として、回収しておこうか」


 顎に手を添えて、躊躇う玉藻父だが頷く。まぁ、今まで断ってきたんだもんな。無理もない。ここで交換したら、俺が治した意味がないように見える。でも、別の使いみちを考えたらしい。


 良かった、意味はあるんだよ。錆びた額冠は手放さないといけない。


 ゲームでは未来においてスラム街の盗賊が持っていたんだ。なにやら、嫌な予感するよな? 


 だから、ジョーカーは手放さないといけない。


 過去において、未来のイベントは改変といこうじゃないか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 成るほど、本筋もゲームも時間的にはプレイアブルがもう少し大人になってからの話だからサブイベントもイベント前の状況なんですね、面白いです。
[一言] でんぐり返しすげー! そしてこのマイルームの仕様はコンハザ思い出しますな。 1つ前の作品だとさくっと本拠地が人間だらけになってましたが、初作は本拠地ずっと神の庭みたいで終わったっけ。
[良い点]  外部からの観察不可能な異界への扉“マイルーム”(´⊙ω⊙`)ごっついチートがお出ましだー! [気になる点]  やはりこの世界の治癒魔法の程度、30人しかいない希少性に加えてみーちゃんさま…
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