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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
9章 レース

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264話 ほのぼのパーティーなんだぞっと

 みーちゃんはそわそわわくわくと身体を落ち着かなげに揺すっていた。


 今いるのはちょっと簡素なお部屋だ。畳敷きで久しぶりに見る懐かしき障子の戸で仕切られており、お客様用なのか、立派な黒壇のテーブルにお茶とお饅頭が置いてある。


 壁際には日本絵が飾られており、花瓶に美しく花が飾られていた。お華の心得がある人が飾ったに違いない。


 全体的に渋い内装のお部屋だ。みーちゃんとママはそこで正座で待っていた。


「落ち着かない、みーちゃん?」


「うん……ちょっと緊張している……」


「あら、いつも物怖じしないのに、今日はどうしたのかな〜」


 うりうりとからかうように頭を撫でてくれるので、嬉しくてはにかみながら答える。


「あの障子って、簡単に穴が空くのかなぁって緊張してるの」


「空けたら駄目よ? ママとの約束よ?」


「うん、家に帰ったらニムエに用意してもらうから大丈夫!」


 穴あけ用の障子を用意してもらうのだと、つつく真似をしてフンスと胸をそらす。


「全然大丈夫じゃありません。穴を空けるのは障子の張り替えの時だけなの。穴あけ用の障子なんか用意したら、障子職人さんが泣いちゃうわ」


「はぁい、今日張り替えないかなぁ」


「パーティーの日に大掃除をする家はないと思うわ」


 残念としょんぼりみーちゃんになるが、ママの言うとおり。今日はママのお父さんのお家に訪問しているのだ。


 毎年夏休みに遊びに来てるんだけどね。毎年夏休みに遊びに来てるんだけどね。大事なことなので、2回言いました。


 ちょっと田舎のお家で、一面畑が広がり綺麗な小川が流れて、遠くには緑生い茂る山脈が見える。村の中心には結界石がドテンと聳え立っているのがファンタジーだとおもわせる光景だった。


 それと、村外れには冒険者ギルドもあるのだが、役場を兼ねているので、ギルドはまったくファンタジーには見えない。


 とはいえ限界集落のように、お年寄りばかりで子供が少ないなんてことはない。


 畑を作るには条件がある。


 第一に周辺の魔物が弱いこと。


 第二に周辺の魔物が弱いこと。


 第三、第四がなくて、第五が畑を作る平野が広いこと。


 そう、前世と違い、この世界では魔物から土地を守らなくてはいけないので、必然的に畑を作れる土地は貴重なのだ。


 なので、この村は結構なお金持ちの多い、前世の農家が聞いたら転生をしたいと願うほどに恵まれていた人たちが住んでいた。


 減反政策などとんでもない。農家は儲かるお仕事なのだ。


 そして、この村の農作物を取り扱う商会の当主が、ママのお父さん。即ちみーちゃんのおじいちゃんだ。


「おじいちゃんがパーティーなんて、珍しいね?」


 コテリと小首を傾げて尋ねると、ママは苦笑気味に口を開く。


「そうね。ここの地主さんが開くパーティーらしいわよ」


「貴族じゃなくて?」


「いいえ、たしか男爵と言っていたわね……ママから見たら昔は偉い人だったの」


 あまり思い出はないようで、ママは顎に人差し指をつけて微妙な顔で告げてくる。昔と今では立場が変わったと考えているんだろうね。


 まぁ、貴族とホイホイ会えるような商会じゃなかったようだし。パパと出会えたのは凄く幸運だったと思う。


「男爵さんかぁ。パーティーを開くなんて、とっても良い人なんだね! 私、久しぶりのパーティーだよ!」


「もっと色々なパーティーに出席しないといけないのだけど、みーちゃんはまだまだ幼いから、ママたちが止めているのよ」


「私、もう大人だもん」


 みーちゃんのほっぺをつんつんとつついて、可笑しそうに笑いながらからかってくるママ。


「この間のパーティーは絵本の真似をして、物凄く大きなホットケーキを焼こうとしなかった?」


「絵本では森の皆と食べていたから、私もお友だちと一緒に食べたかったの」


 ちなみに失敗したけど。10畳はある大きなホットケーキは無理だった。焦げちゃったのだ。


 余ったホットケーキは、後でスタッフのアリさんが巨大化して美味しく食べました。


「もぉ〜、あんまり食べ物を無駄にしては駄目よ?」


「乗せる予定だった生クリームは皆で食べたよ」


 ちなみに芋煮会用の大鍋いっぱいに生クリームは作りました。分離せずに作れたので、皆で食べたのだ。とっても美味しくて、泣いちゃった。やっぱり甘い物は別次元のお腹に収められると発見したよ。


 もぅ、と苦笑をしつつも優しく撫でてくれるママ。エヘヘと目を瞑って撫でられていると、近づく足音がして障子の前で人影が止まる。


「美麗、美羽ちゃん。開けてもいいかい?」


「お父さん、良いわよ」


 ママの返事を聞いて、障子戸がスラリと開く。そうして入ってきたのは老齢にそろそろ入る男性だった。

 

 まだ60歳にも届いていない初老というより、中年の域にいるナイスミドルのおっさんで、ママの親と言われて納得できる人の良さそうな顔をしている。


 その後ろから、同じく人の良さそうな中年の女性がニコニコと笑顔で顔を見せてきた。


「飛田おじいちゃん、おばあちゃん!」


 勢い良く立ち上がり、とてとてと近づくと両手を広げて満面の笑みで抱きついちゃう。


「おっとっと、相変わらず元気だな美羽ちゃんは」


「本当にねぇ。元気いっぱいで私まで元気になっちゃうわ」


「えへへ、元気を分けてあげるね!」


快癒キュアⅣ』


「もう一回」


快癒キュアⅣ』


「こら、今日は2回目でしょ」


 おじいちゃんおばあちゃんが光に包まれるのを見て、ママが注意をしてくる。何回唱えても大丈夫、まだMPはたくさんあるのだ。えへん。


「はっはっは、良いよ美麗。孫の可愛らしい魔法じゃないか。ハゲも治ったし」


「そうね、私も身体のだるさとかがなくなったわ。ありがとう美羽ちゃん」


 抱きしめてくれて、ナデナデしてくれるので、目を瞑って子猫のように嬉しそうにする。


 おじいちゃん、おばあちゃんも大好きなみーちゃんです。尊敬もしているんだよ。


 なにせ、鷹野家の助力があれば何倍もの規模の会社にできるのに、きっぱりと断ったからね。


 自分の力で会社経営をしていこうと考える立派な人なんだ。投資に対する先見の明もあり、安定した経営をしている。


 なので支援といえば、『ガルド農園』からダンジョンの土を安く譲っている程度だ。


「そういえば『ガルド農園』から買った土が素晴らしい効能なんだよ。勧めてくれた芳烈君に伝えてくれないか、美羽ちゃん?」


「えへへ、美味しい野菜できた?」


「あぁ、売ったお客様からいちごが僅か7時間で実ったことに驚愕の連絡が来てね。じっくりと話し合いたいんだ」


「パパニツタエテオクネ」


 そっと目をそらして元気にお返事を返しておく。やばい、『植物成長薬Ⅴ』入りの土は少しだけ効果が高すぎたみたい。


 まぁ、身内は贔屓したいよね。次回からは『植物成長薬Ⅳ』にしておこうかな。


「美羽ちゃん、そろそろパーティーだけど、準備は良いかな?」


「うん、蘭子さんとニムエに髪をセットしてもらったし、一張羅も着てきたよ!」


 ちょっとお高めのワンピースコーデなみーちゃんだ。ぐるりと回転して花のようにスカートをふわりと翻す。


「可愛らしいです、お嬢様」


「本当に女神が降臨したと思ってしまいました。そのお饅頭食べないんですか?」


 おじいちゃんたちの後ろから蘭子さんたちが入ってきて褒めてくれる。ニムエはテーブルに置いてある饅頭を少し気にして、蘭子さんに足を踏まれていた。


「男爵のパーティーだけど、パーティー会場はうちの庭だからあまり緊張しないでいいからね、美羽ちゃん」


 おじいちゃんが優しい目で安心するように頭を撫でてくれるので、もじもじと指を絡めて、上目遣いで不安げな顔で返す。


「うん、皆にちゃんとご挨拶できるかなぁ」


 みーちゃんはおとなしくって、人見知りだから不安です。


「大丈夫よ、男爵様たちも皆良い人たちばかりだから」


「そうよ、みーちゃん。今日はおとなしくって人見知りで良い子でいきましょうね」


 やけに注文の多いママである。まったくいつもみーちゃんはおとなしいでしょう。


「はっはっは、子供は少し元気な方が良いんだぞ?」


「そうよ、美麗。美羽ちゃんはスイカ一つ持てないじゃない。もう少し活発さが必要よ」


 夏休みにスイカを収穫しようとして、持てなかったことを思い出す飛田おばあちゃん。みーちゃんは非力なんだよね。


「お父さんたちは、みーちゃんのはしゃぎっぷりを甘く見てるのよ」


 なぜか半眼になるママ。とりあえずおとなしくうるうるおめめでもじもじしていようかな。


 だが、飛田おじいちゃんたちはあっはっはと笑い飛ばしてくれる。


「いやいや、それは都会だからだろう? 田舎だと美羽ちゃんのはしゃぎっぷりは、おとなしいレベルだ」


 そうそう、もっと言って。最近、みーちゃん素直で良い子なんだけど、予想外のことをするからと警戒する時が多いんだもん。こんなにみーちゃんはおとなしいのに。


「本当にねぇ。田舎の子はもっと凄いいたずらとかするのに忘れたの? ほら、お饅頭を遠慮なく食べてもいいのよ」


「わかりました、お祖母様。では遠慮なく」


 お饅頭をすすめる飛田おばあちゃんに対して、なぜかニムエが深く頷き、お饅頭を頬張り始める。さすがはニムエ。どこにいても行動が変わらない人類最強のメイドさんである。蘭子さんが他人の家なので殴るのを我慢しているけど、ニムエは気にしていない。後で怖そう。


「覚えているわよ。……まぁ、今日はおとなしくしてくれると信じてるわよ?」


「はぁい、おとなしくもじもじしてるね」


 おとなしくしているのは得意だもん。指を絡めて、俯き顔でしずしずと歩けば、おとなしみーちゃんの出来上がり。


「美羽ちゃんはまだまだ小さいなぁ。おじいちゃん、抱っこできちゃうよ」


「さぁ、パーティー会場にいきましょうね」


「うん! 美味しいものあるかなぁ」


 嬉しそうな飛田おじいちゃんに片手で抱きあげられて、みーちゃんは運ばれる。どんなパーティーなのかなぁ。


 楽しみに思いながら家を出て、庭に出ると驚いて目を丸くしちゃう。


 庭といっても、垣根のないどこまで庭かわからない空き地に大勢の人が集まっていたのだが……。


『歓迎鷹野美羽ちゃん。郷土の誇り鷹野美麗さん』


 横断幕が掲げられていた。


「おぉ〜、我らが郷土の誇りが来てくれたぞ〜!」


 紋付袴を着た、ひげもじゃで大柄な山賊みたいなおっさんが両手をあげて歓迎の声をあげる。


「お〜、鷹野美羽ちゃーん」


「よっ、我らが誇り!」


「美味しい食べ物がたくさんあるわよ〜」


 皆も笑顔で歓迎してくれる。


 わかるわかる。こういうお祝いってあるよね。親戚一同が集まって応援してくれる歓迎会。


 料理は素朴な煮物や、唐揚げが大皿に盛られていたりと、よくある家のご馳走料理が並んでおり、人々はちょっとお高い一張羅だ。


 気さくな様子の皆にわくわくしちゃう。こういう雰囲気って好きだよ。


 それにあのお神輿なんだろう、わくわく。

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― 新着の感想 ―
[一言] 御神輿?!♪!!ヾ(*´∀`*)ノ ワッショイヽ( ´∀`)ノワッショイ♡!♪!!
[一言] ちょっと快癒Ⅳかけてもらっていいですかね
[一言] アリさんのあつかわれかたがひどいw ……まあかわいいからいっか。
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