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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
9章 レース

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259話 決着するレースなんだぞっと

 第4、5チェックポイントは、肩透かしも良いほどに何もなかった。


 本来は荒れ地となっている地域にて、岩に擬態する『岩百足』や、近づくと爆発する『火薬岩』などがいて、爆発音を聞いて敵が集まってくるという厄介なことで有名であり、慎重に進まないといけない第4チェックポイント。


 なぜか『火薬岩』が全て爆発したようで、絨毯爆撃でも受けたかのように、クレーターだらけとなって、死屍累々と屍が転がる静かな世界になっていた。


 第5チェックポイントは、毒沼となっており、飛沫一つで毒となる危険なチェックポイントだ。毒系を使う魔物も多いから、毒耐性を装備して進まなければならない危険な地域だ。


 だけど、なぜか紫色の毒々しい沼はどこにもなく、せせらぎがサラサラと聞こえる美しい清水が湧き、花が咲き乱れる地域に変貌していた。


 不思議なこともあるものだ。誰かが世界を変えたのかもしれない。まぁ、そんなことはあるわけないんだけどね。


 一つ言えることは、地面から生えている物はあんまり食べちゃいけませんよということである。深い意味はないよ?


 なので、みーちゃんとエリザベートは順調に進んでいた。


 邪魔するものは何もないので、もはや己の腕前だけが物を言う。


 『浮遊板フロートボード』も無改造の市販品。どちらが勝つかは、誰にもわからない。


「たとえエリザベートちゃんが天才レーサーでも、同じく天災レーサーなみーちゃんは負けないもん!」


「それって、コースを破壊していく天災レーサーなのかしら?」


「黙秘します!」


 響きの違いがよくわかったなぁと、みーちゃんは顔を背けて『浮遊板フロートボード』を軽く蹴る。


 ギュンと加速して、水面の上を水飛沫を吹き上げて、突き進む。

 

「先には行かせませんっ!」


「障害物のないコースなら、『魔王』タイプが圧倒的に有利!」


 砂浜と水面の境目を疾走しているために、障害物もなく気持ちよく走れる。


 なのであとは性能のみでの勝負。それならば最大速度が最低の『姫』タイプでは『魔王』には敵わないのだ。


 と、そう思っていた時もありました。


「むぅぅ、じゃまー!」


「オーホホホ、ディフェンスもレーサーの腕前の一つですわ」


 追い抜こうとしても、巧みにエリザベートはこちらの車線に入ってきてガードしてくるのだ。


 尻尾ディフェンスではない。本当のディフェンスだ。高笑いをしながら、みーちゃんの車線の前に出てきて、追い抜かれるのを防いでいた。


 ここまでの間で、同じことの繰り返しをしていた。結局エリザベートに一時的に離されても、最大速度の高い『魔王』タイプに乗るみーちゃんは直線距離で詰めることができるので、エリザベートは防ぐことをメインにしてきたのだ。


「ふざけている場合じゃないかな」


 当初の予定とは大幅に変わっちゃった。本来ならば第三の秘策、『浮遊板フロートボード鷹変化』を使用して、鷹に乗ってゴールするつもりだったのだ。

 

 ルールブックには、『浮遊板フロートボード』を動物に変化させてはいけませんと書いていなかったから、チャンスと思ったんだけどね。


 正攻法でレースに勝つしかないと、真面目な表情で前傾姿勢をとる。


「エリザベートちゃん、私のレーステクニックを見るがいいよ!」


「瑪瑙家に伝わるレーステクニックをとくとご覧あれ!」


 お互いが好敵手だと顔を見合わせて、不敵に笑い合う。


 エリザベートは足を移動させ、板の重心を後部へと移す。


『ウィンディリーフ!』


 強い力を込めて叫ぶと、エリザベートは水面に板の後部を僅かにつけると、波立たせてみーちゃんへと大量の水飛沫を向けてきた。


 そのままパラレルにて右へ左へと移動して、ザッザッと水を壁のように蹴り上げてくる。


「わぶっ、水での妨害が瑪瑙家のテクニック? ちょっとセコいよ!」


「おーほっほっほ、それはたんなる副産物。ここからが本番ですの」


 水飛沫をかぶって、びちゃびちゃなみーちゃんへと、エリザベートは高笑いをしつつ、板を強く踏むと空高く舞い上がった。


 そうして、なんと驚く行動に出た。


 吹き上がった水が大波となって、エリザベートの板を押し上げていったのだ。


「おーほっほっほ。見ましたか? これぞわたくしの秘奥義『木の葉と化して、波に乗る』ですわ! 水だけでなく、風も大地も波へと変える瑪瑙家の特殊魔法ご覧になりまして?」


「意味がわからない! むむむ、そんな魔法が使えるなら優勝を重ねるのも納得だよ」


「あら、他のレーサーも様々な魔法を使いますわ。勉強不足じゃなくて?」


 プンスコと手を振って抗議をするけど、意に介すことなく、手を口元に添えて高笑いを続けて調子に乗るエリザベート。


 父親のことは完全に気にしていない模様。いや、レーサーとしての矜持が強いのかもしれない。


 波による後押しで、限界を超えた速度を出してエリザベートはゴールへと向かう。


「このままでは負けちゃうね……なら、こちらも本気でいくよ!」


 レースモードでしか使えない魔法。切り札たる力だ。


「アイコンを選んで………『キクラゲ』を選択!」


 眼前に映るステータスボードをペチリと叩く。その瞬間、みーちゃんの身体が光り、レース用魔法が発動した。


「うぉぉぉ!」


 『浮遊板フロートボード』がグンと加速する。今までの『魔王』の最高速度を大きく超えて、砲弾のように水面を突き進む。


「な! 貴女も切り札を持ってらしたのですね!」


「強すぎる魔法だから、使うのを躊躇ってたんだけどね」


 ゲームではフリークラスだと決められた魔法を使えるようになる。『ヒトデ』や『アルマジロ』魔法などをレース前に選択できる。その中で『キクラゲ』魔法を使うと、超加速できるのだ。


 クールタイムが短く、一気に相手との距離を詰められるので、ゲームでは好んで使っていたんだよ。


 キクラゲなら特に問題はないだろうという運営のセコい思考がよくわかる。でも『ヒトデ』は流石にまずいと思うんだけどなぁ。


「これで加速力では負けないよっ! 速度も上回っているみたいだね!」


「クッ、単純な魔法ですが、たしかに信じられない加速力ですわ!」


 驚愕の表情のエリザベートへと、超加速で追い抜くと、フッとニヒルに笑って髪をかきあげて告げる。


 ゴールは目の前だ。観覧席で観客がエールを送ってきて、メタボなおっさんがビールを飲みすぎて寝ているのが見える。


「みー様、頑張って〜」

「あと少しだよ〜、エンちゃん」

「エリザベート、最後のひと踏ん張りだ!」

「気合ですよっ、エリザベートさんっ!」


 皆が興奮して、みーちゃんたちを注目する。


 みーちゃんは大きく口を開けると、咆哮をあげちゃう。


 目の前には、水面の上に突き出す岩礁地帯がある。


 ここを華麗に通って、ゴールだ!


「私の勝ちだあっ! アイテッ、アダダ」


 華麗に岩山にぶつかり、ガツンガツンとビクトリーの音を立てながらピンボールのように跳ねて突き進み、くるくると回転してゴールテープへと突進した。


「ウヒャァ〜………」


 目をぐるぐると回して、くるくると回って壁に激突したみーちゃんである。


 超加速の間は操作が難しいのだ。直線でしか使えない弱点をすっかり忘れていたよ。


「…………」


 観衆はみーちゃんがダイナミックなゴールをしたことに、ぽかんと口を開けて唖然としていた。


 皆はみーちゃんの通った後の岩礁地帯へと顔を向ける。


 わざわざレースのために作り上げた岩礁地帯は、突進したみーちゃんのパワーで粉々に砕けていた。


「………」


 再びみーちゃんへと顔を向ける。未だにくるくると回転している美少女は、あぅぅとうめき声をあげているが、傷一つその身体にはないピチピチなお肌だった。


 その後に呆然とした表情で、エリザベートがゴールを通過してきた。


 どうするんだこの流れと、お互いに顔を見合わせて、困惑する観衆。


 皆が黙り込み、静寂が生み出されるが


「おお〜っ! ヒック、終わったのか? 優勝は鷹野美羽? おめでとう、うぉぉぉ〜」


 メタボなおっさん佐久間が、缶ビールを片手に持って、真っ赤な顔でやんややんやと騒ぎ立てる。けしからんことに酒を売っている屋台があった模様。


 その一言がきっかけになり、観衆は一斉に拍手をして、歓声をあげる。


「おめでとう〜、みー様!」

「びくとり〜、エンちゃん、やったね!」

「さすがだよ! おめでとう〜!」


「わーい! ありがとうございます、ありがとうございます。みーちゃんは勝ちました!」


 ようやく回転が止まって、みーちゃんは満面の笑みで手をぶんぶんと振って、観衆に答えちゃう。


 なんか色々あったけど、勝つことができた。ゲーム仕様でも次に勝てるかわからない。エリザベートはそれだけ強かった。


「さすがは伝説のガツンガツン走法の鷹野美羽。伝説を見させてもらったよ」

「まさか岩山を砕いて突き進むとは!」

「これだけの技を見ることができて感動しましたよ」

「うぇーい、おめでとう〜」


 審判のおっさんたちも褒め称えてくれる。


 その様子からは『霧のダンジョン』が真の姿『氷のダンジョン』になったことは知られていない模様。


 まぁ、霧深きダンジョンだったからね。中心で騒ぎを起こしてもバレなかったのだろう。わざと人払いもしていたしね。


「はぁ〜………最後の追い上げ……まさに脳筋でしたが、負けました。わたくしの負けですわ」


 何かを諦めたかのように嘆息しつつ、エリザベートが『浮遊板フロートボード』から降りると手を差し出してくるので、ガッチリと握手をする。


「良い勝負だったよ、エリザベートちゃん」


「まぁ、そういうことにしておきますわ。フリークラスなら、負けはないと思ったのですが……甘く見てましたわね」


 金髪ドリルをかきあげて、ツンとした表情でエリザベートも手を握り返してくれる。


「これから大変だと思うけど、私も声をかけてもらえれば、エリザベートちゃんのために力を貸すからね」


「それは今はお断りしておきますわ。なにか怖いです。このあとの相続やらなにやらでわたくしはしばらく忙しそうですし、しばらくは会うこともないでしょう」


 まぁ、父親を殺されているからね。平気な態度に見えるから、エリザベートはなかなか強い心を持っているよ。感心しちゃう。


「それじゃ、勝った報酬はよろしくね」


「えぇ、この状況ならすんなりと行くでしょう。……それではまたいつかお会いしましょう、鷹野美羽」


 ニコリと強気な笑みで見返してくると、エリザベートは身体を翻して泰然とした優雅な態度で去っていく。


 その後ろ姿は貴族らしく高貴な美しい姿であった。


「エリザベートちゃん、コートが捲れ上がらないように気をつけてね!」


「キャー! 忘れていましたわ、き、着替えてきますっ」


 ロングコートとはいえ、下は真っ裸ということを思い出したのだろう。裾を押さえてエリザベートは顔を真っ赤にして走っていった。


 去っていくエリザベートを横目に、ふぅと息を吐く。


 今日の出来事は色々と考えさせる内容だった。特に黄金の糸は気になるけど……しばらくはあの世界には入れなさそうだ。残念。


「私も帰るかな。ハンバーグが待ってるしね」


 闇夜たちが駆け寄ってくるので、手を振って花咲くような笑みを浮かべるみーちゃんだった。


 黄金の糸も美味しかったけど、やっぱりママの作ったハンバーグが私たちは一番好きなんだもん。




「おとーさん、くじ引きでプーエス5を手に入れたのじゃ。くじを買い占めたら賞品でもらえたのじゃぞ、くじの中に当たりがなかったのは、よく意味がわからんかったが」


 空の財布を振って、小脇にゲーム機を抱えた幼女が笑顔で酔いつぶれたおっさんに成果を報告していたが、祭りでよくある光景だろう。


 そして、佐久間がゲストに呼ばれることが二度とないことも間違いない。

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― 新着の感想 ―
ドラゴンファンタジー転生のアトリエカート あとどれぐらい増えるんだろw
[一言] つまりみーちゃん様の周囲に黄金の糸が無いのは、ワールドフリーズのよって世界を書き換えたから? そして「直接食べちゃうからだよ」はつまり、変えてもいいけれど、食べちゃダメ? てっきり別の方…
[一言] 周囲が食べた分の影響を受けたのか…これはシステムに"めっ"もされる せめて世界のどの部分の糸なのか分かれば敵への攻撃にも使えそうなんだけどなぁ
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