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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
9章 レース

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257話 お仕置きなんだぞっと

 蒼き氷の軌跡が『メガクイーン』の胴体に奔る。外骨格の切り傷からじわじわと凍り始めて、高速機動をしていた動きが少しずつ鈍くなっていく。


「ググッ、そ、そんなバカなっ、この高熱の地獄で凍りつくというのかぁっ! トリックだな、トリックッ!」


「魔法の氷だからね! 凍らせちゃうんだよ」


 『冥王の舞』は『凍結』効果があるゲーム仕様なんだよと、フンスフンスと得意げに告げる。


「ググッ、小娘一人に負けるかぁっ!」


 表皮が凍り始めて、じわじわと氷が羽根まで侵食していく中で、『メガクイーン』は自らの炎の剣を自身に突き立てた。


 ゴウッと炎が巻き起こり、装甲を凍りつかせていた氷の侵食は止まる。


「再生能力があるからこその選択、なかなかやるね。でもこの攻撃は終わりではないんだ!」


 まだ光輝の剣に付与されている氷魔法は生きているのだ。


「ていていてい」


 可愛らしい掛け声で、可愛らしくない威力の攻撃を美羽は繰り出す。


 氷を纏いし、光の蛇腹剣はうねりながら『メガクイーン』に斬りかかり、『メガクイーン』は4本の前脚で剣を振るい、剣の残像を残して高速で迎え撃つ。


 再び剣撃が響き、ぶつかり合う際に発生する衝撃波は周囲の溶けたる瓦礫も熱も吹き飛ばす。


 しかし、先程と同じ繰り返しかと思いきや違った。


 右上から迫る光輝の剣を払いのけようと迎え撃つが、『メガクイーン』の剣が防ぐ前に胴体に切り込まれる。


 光条は半ばが撓り、左脇に刃がせまるので剣を横にしてガードをするが、抑えきれず剣ごと押し込まれて刃が左脇に食い込む。


 よろけて体勢が崩れてしまう『メガクイーン』。その隙を逃さずに、跳ねるようにピシリピシリと蛇腹剣で連続攻撃を繰り出してきた。


 外骨格に傷が入っていき、徐々にその切り傷は深くなっていく。再生が段々と追いつかなくなり、装甲を破壊されるのも時間の問題となってしまう。


「な、なぜだ? 速さも力も負けて、負けているっ! なんだ、なぜだあっ? そんなはずはない。そんなはずはない〜。イカサマ、不条理、トリック!」


 『メガクイーン』に比べるとアリさんのように小さな美羽なのに、ステータスで負けているのが信じられないのだろう。


 フェンは絶叫して、なんとか主導権を取り戻そうと、『メガクイーン』の機体から紅きオーラを吹き出して武技を使ってきた。


「ぐぬぉぉぉぉ!」


『雷火襲剣』

『氷風襲剣』


 相性の良い属性剣を組み合わせた連撃を放ってくる。


 燃え盛る炎に雷を融合させた一撃に、暴風が吹き荒れる吹雪の剣。


 どれも強力な一撃であることは間違いない。たしかに人間相手なら勝てるだろう。


「だけど、私はみーちゃんなんだよ!」


 誰でもない。私は鷹野美羽なのだ。その程度では倒すことは無理なのだ。


『魂覚醒』

『天地雷鳴』

『光輝の剣』


『融合しました』


『光輝雷龍剣』


 細い糸にしか見えなかった光輝の剣が魔法の雷を宿らせて、その剣身を膨れ上げる。


 10センチ程度の太さであったのが、10メートルはある雷龍と化す。


 灼熱の世界に雷が奔る。豪雷が空間を埋め尽くし、無限の射程を持つ光輝の剣が天空を支配する龍となる。


「とやっ」


 巨大な雷龍の剣を肉薄する『メガクイーン』へと美羽は振り下ろす。


「そ、そんな龍なんているわけがないっ。そ、そんな馬鹿げた威力の魔法を使える人間などいるわけがないっ。むがァァァ、トリーック!」


 属性剣を振るい迫る巨大な雷龍に斬りかかる『メガクイーン』。


 先程とは反対の立場だ。糸のような細い剣を振るう美羽に対して丸太のような大きさの剣を繰り出していた『メガクイーン』。


 今は巨大な剣を振るう美羽に対して、マッチ棒のような剣にて対抗する『メガクイーン』。


 美羽は対抗できたが、反対の立場となった『メガクイーン』は……。


 ガギギィンと金属が歪む音がして、『メガクイーン』の剣はひしゃげて砕け散っていった。


 『メガクイーン』の前脚すらもそのまま雷龍の剣に喰われるように放電すると爆発する。


「お、俺のクイーンアントがぁぁっ」


 4本の前脚は粉々に砕け、胴体も高熱の雷龍に斬られて力を失い、紅きオーラがかき消えていった。


魔法破壊マジックブレイク


 『メガクイーン』からイミルの魔法が放たれて、美羽の身体を通り過ぎる。雷龍は打ち消されて元の剣に戻っちゃう。


 だが、『メガクイーン』へと一撃は入ったので、ご満悦な少女はむふーっと息を吐く。


 装甲は砕かれて、内部の機械まで斬撃は食い込んでいる。機体は火花を散らして、当初のスピードもパワーも見えない。


「なせだ? なぜその魔導鎧は魔法が消えない? その剣すらも、そして君自身の身体能力すら『魔法破壊マジックブレイク』を受けて消えない?」


「乙女のナイショ!」


 当惑するイミルの声が『メガクイーン』から聞こえてくる。たしかにこの世界の人間なら、疑問に思っちゃうだろう。


 でもゲームなら『魔法解除ディスペルマジック』を受けても、付与魔法が消えるだけなんだ。


 魔導鎧や魔法剣が力を失うようなクソゲー仕様ではなかったんだよ。同じ効果を持つ『魔法破壊マジックブレイク』も同様の結果にしかならない。


 そんな仕様のゲームは見たことないしね。武器破壊や防具破壊はあったけど、あれは別の効果だし。


 イミルから見たら不思議で仕方ないんだろう。美羽としては『魔法破壊マジックブレイク』を受けるたびにピシリピシリと響く世界の破壊音が気になるんだけど。


 まぁ、美羽にとっては気にすることではない。


「てーい」


「グハッ」


 光輝の剣を繰り出して、『メガクイーン』を叩き落とす。ペチリと音がして、命中した箇所の装甲が爆発するように吹き飛んで、マグマと化している地面にフェンの悲鳴がして『メガクイーン』は落下した。


 グラグラと煮立つマグマの上に、美羽もスタッと舞い降りると、手首を返して光輝の剣を手元に戻し直剣に戻す。


 ギギィと壊れかけている金属音をたてて、『メガクイーン』は立ち上がろうとするが魔力満ちたるマグマに沈み込み、ドロドロと脚が溶けていく。


「もう戦えないよね。それじゃ質問タイムで良いかな?」


 とてとてとマグマの上を平然な顔で歩いて、『メガクイーン』のそばに近寄りながら質問をする。


 美羽の足はマグマに沈み込むこともなく、その熱気に燃えることもない。なぜならばこの灼熱地獄は美羽の魔力により作られているからだ。


「クッ、まだ戦えるわぁっ!」


 砕けて半ばから折れている前脚を振り上げて、足掻こうとする『メガクイーン』。


「無駄だよ」


 冷ややかな顔で軽く横薙ぎに光輝の剣を振るうと、前脚は輪切りにされて、マグマへと破片となって溶けて沈み込んでいく。


 もうマナも尽きかけている『メガクイーン』には、さっきまでの力はない。美羽を傷つけることは不可能だ。


「で、質問です。どうして私を殺そうとしたんですか? しかも娘を犠牲にして」


「お、俺の家門を潰そうとするからだ」


「瑪瑙家は圧倒的な資産を持っているよね。まだまだ復活はできるはず。こんな馬鹿げた魔導兵器を作って資産を食い潰すことなんかしなくてよかったと思うんだけど?」


 『メガクイーン』は馬鹿げた資金がかかっているはず。もしかしたら何兆もの開発費がかかっていても驚くことはない。


 たぶん瑪瑙家の持っていた秘宝や希少な鉱石の全てを使い果たしている予感がするんだ。不自然すぎる対応だ。


 貴族らしく、今回の出来事は悔しがっても、いつかは復活をと雌伏するのが普通の選択だと思う。特に謀略に長けた侯爵家なんだからね。


「邪魔なのだ。貴様が存在していたら困るのだよ。そ、そう言われててててて」


 口調がなにかおかしいことに気づき、ピクリと眉を顰めさせる。様子がおかしいな……。


「最後の質問だ。その『メガクイーン』に使われている魔石は、以前に皇帝に捧げられたクイーンアントの魔石だよね。皇城の宝物庫に大事に納められていたはず」


 ふぅと可愛く息を吐くと、キリリと呟いて言葉を紡ぐ。


「誰が魔石を持ち出した? 皇帝たちではあり得ない。そこまでして美羽を消す必要もないし、敵対する瑪瑙家とそこまで強力なコネクションもあるわけがない」


 疑問だったんだ。以前から疑問だったんだ。


「誰がお前を唆した? いや、誰に操られている?」


 なぜか原作では皇族が次々と簡単に殺されていく。反逆や襲撃にて減らされていく。


 これって、皇族が馬鹿なんだろうと思ってたけど、謁見した時に出会ったおっさん皇帝は頭が良さそうだった。ある程度は切れ者であったのだ。


 原作のように、コロコロと神無公爵の手のひらに転がされる暗愚な皇帝ではなかったのだ。


 だからこそ違和感があり、どうして神無公爵の目論見が上手く行っているかの理由にも疑問を抱いていたんだ。


 そして、その答えに辿り着いたようだ。


「答えなくても良いよ。皇帝の最も信頼している側近が裏切っているでしょ? 表にほとんど出てこない人がさ」


 皇帝の最側近のはずなのに、表にほとんど出てこない人には一人心当たりがある。


 あの人ならば可能だ。


 皇帝の威信のかかる元服パーティーで警備を薄くしたり。


 『神鎧』を持ち、チートじみた力を持つのにコンプレックスをなぜか持っている長政が裏切るように唆し、近衛兵を裏切らせる。


 聖奈の行動を把握しており、近衛兵たちを罠にかけたり。


 未来にて間違った情報を齎して、魔物に信長を襲わせる。

 

 同じく不意打ちにより皇帝も弑逆させてしまう。

 

 そうしてシンを皇帝にするのだ。


 誰も注目していないあの人なら可能な話なのだ。


 裏で密かに動けるあの人ならば、誰にも気づかれずに行動できるのである。


「誰が教えるかあっ! 死ねぇぇ、鷹野美羽!」


 気が狂ったかのように絶叫するフェン。そして『メガクイーン』の胸が開くと、魔法を宿したルビーで構成された魔法陣が現れる。


劫火イニシエイト


 マナが爆発するように閃光を発生させると、焔が光線のように放たれる。


 地面を吹き上げて、空間を削り取り、灼熱の劫火が迫ってきた。


 どうやら最後の切り札を隠し持っていたらしい。


「だいまどーしの最強のまほーを魅せちゃうよ」


 だが、美羽はそのアイスブルーの瞳に深淵の闇を宿して、紅葉のように小さな手を迫る劫火へと翳す。


『魂覚醒』

『三連続魔』

『三連続魔』


『絶対零度』

『絶対零度』

『絶対零度』

『絶対零度』

『絶対零度』

『絶対零度』


『融合しました』


世界凍結ワールドフリーズ


 美羽の手のひらから蒼き光が放たれて、周囲を照らす。


 蒼き光は美羽の魔法の力であり、氷の世界へと変貌させる恐るべき威力であった。


 蒼き光に照らされた世界が音を立てて凍りつき停止した。灼熱地獄は蒼き世界へと変貌し、ハラハラと粉雪が空を舞う。


 劫火はその炎の形を留めたままで、氷の柱となって凍りついてしまう。


 そして『メガクイーン』は煌めく氷像へと姿を変えていた。


 もはや身動き一つ取れず、その身体は単なる氷のオブジェと化している。


「最後の切り札は、みーちゃんの方が威力があったみたいだね!」


 静寂の世界にて、美羽の声が響く。


 そうして『メガクイーン』はザザッと氷粒となって崩れ落ちていくのであった。


『メガクイーンを破壊した。瑪瑙フェンを殺した。ココノツを破壊した』


 ログが表示されて、冷たい風が美羽の頬を撫でる。

 

 風で乱れる髪を押さえて、コテリと小首を傾げてしまう。


 ココノツってなぁに? ココナッツの魔物がイミルの正体だったのかなぁ?


 ムニンがイミルを解析できなかったのは、どうやら名前から察するに生命体じゃなかったから。なるほどねぇ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲームログの美しい表現方法にちょっと位は苦労しているのかもしれないと感じた。
[一言] ミスターサタン思い出した
[一言] イミルじゃなくてココノツ?システムさんネタバレですよ!(
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