255話 メガクイーン対クイーンみーちゃんなんだぞっと
メガクイーンアントとは、縁があるというか、お決まりのテンプレというか……。
目の前に立ちはだかる魔導兵器『クイーンアント』を半眼で見ながら美羽は嘆息する。
灰色髪をサラリとかきあげて、アイスブルーのくりくりおめめを僅かに細めて眺める。
「その魔導兵器が確たる証拠だね。どうやって作ったのか教えてほしいんだけど」
紅きルビーのような外骨格を持ち、その装甲は分厚く硬そうだ。蟻の顎は美羽など簡単に引きちぎることのできる凶悪なる刃となっている。
以前倒した『クイーンアント』とは違い、産卵用の細長い腹はなく、身体は細めで引き締まり、翅が生えていた。
威嚇するかのように、構えられている前脚の爪は宝石のような輝きと、いかなる物も切り裂く鋭さを見せている。
身体のあちこちにはミサイルポッドや機関砲が取り付けられているのが、魔導兵器だということを教えてくれる。
『メガクイーン:レベル82、弱点雷』
カァとカラスの鳴き声がどこからか聞こえてきて、敵の解析をして、目の前に表示してくれた。
そのレベルは今までの人間の強さとは格が違う。たしかに威張るだけはあるね。
「かなり高いレベル。何分持つのかなぁ」
「ははっ! お、俺の人魔一体は魔石の消費も軽減させる。小娘一人殺す程度の時間は持つぞ!」
「乙女の呟きに返すのは紳士としてなっていないと思うんだけど?」
美羽の呟きを聞き、マイク越しにフェンがせせら笑う。少しだけ声が震えているけど、武者震いかな。
「なら、私の魔法を受けられるか、試してみせてよ」
今の美羽のジョブ構成はメインジョブに『大魔道士』、セカンドジョブに『忍者』、サブジョブに『聖女』を付けている。
そうなのだ。遂に『大魔道士』を手に入れたのである。オーディーンのお爺ちゃんと同じジョブになったのだ。
「小娘一人の魔法程度で!」
メガクイーンが咆哮するかのように顎を広げて、前脚での攻撃を繰り出してくる。
「せっかちさんは嫌われるよ!」
目前まで迫る前脚を気にせずに、光輝の剣を横に軽く振る。光の軌跡が後に残り魔法陣を形成させた。
『天地雷鳴』
キンとガラスを叩くかのような音がして、メガクイーンの頭上と足元から莫大な熱量を持つ雷が柱となって降り注ぎ、聳え立つ。
周囲を激しく照らして、魔法の雷は天を穿ち、地を溶かす威力を見せる。
「なっ! なんだ、なんだこの威力はっ」
メガクイーンの外骨格は雷に貫かれて溶け始め、その機械の身体は放電し、ぐらりと揺れる。フェンの驚愕の叫び声が聞こえてくる。
この魔法の一撃で大破かなと、美羽はその様子を平然と眺めるが、そう簡単にはいかないようだった。
『魔法破壊』
『メガクイーン』の胴体が蜃気楼のように揺らぐと、『大魔道士』の魔法が瞬時に消えてしまう。
「おぉ………。シンの魔法かぁ。わかりやすいほどにわかりやすいけど……反対に怪しいね」
私はシンだと告げてくるような魔法だ。原作ではシン以外には使えない魔法だったからね。
だからこそ怪しいんだけどさ。
「ふ、ふはは! 驚かせおって。魔法を使えない魔法使いなどゴミ猫同然。相手にならぬ!」
「物凄いテンプレな悪人のセリフをありがとう。でも、たった一瞬でもかなりのダメージを……おぉ……再生してる」
『メガクイーン』の装甲は溶けており、内部が見えそうになっていたのに、まるでスライムのように装甲が蠢き、あっという間に修復されていった。
「フハハハ、この『クイーンアント』は、元の魔物の能力である自己再生能力もある! そしてぇ、この力もあるのだぁっ!」
『インペリアルアント召喚』
『メガクイーン』の周囲の地面に魔法陣が描かれて、懐かしのインペリアルアントたちがぞろぞろと姿を現す。
その全てが槍と大盾を持っており、横並びに整列する。その数は100体はいるだろう。
「……考えたね。タンクタイプのアリさんたちにダメージを身代わりにさせるつもりだな」
「そのとおりっ! これならば装甲を貫くような致命的な攻撃も受け止められる」
調子に乗った様子のフェン。インペリアルアントたちは盾を掲げると、武技を使用する。
『聖騎士の誇り』
パアッと神秘的な光が大盾に宿り、仲間を守るスキルが発動した。
「これにより、クイーンアントへのダメージはゼロ。そして、魔物と一番違う最大のところがこれだあっ!」
『属性剣創造』
4本の前爪がマナの力で輝くと、爪先に魔法の短剣が生み出されて、取り付けられる。
燃え盛る炎、冷気を纏わせる氷、空気を焦がす雷、吹き荒れる風の剣だ。
剣といっても、『メガクイーン』の巨大な前爪に取り付けられた剣は槍のように長い。
剣というだけあって、使い回しは良さそうで格闘戦が得意そう。
「フハハハ、無敵っ、無敵の陣形っ!」
「無敵の陣形ねぇ。てやっ」
身体をひねり、手に力を込めると光輝の剣を横薙ぎに振るう。
シャラリと鈴のような綺麗な音色が奏でられて、蛇腹剣は鞭へと剣身を変えて、『メガクイーン』に向かう。
「剣の腕をも持つのだよ!」
撓りながら光の鞭が迫ってくるのを見て、『メガクイーン』は剣を振るってくる。
左前下脚の剣で撓る鞭の半ばへと叩き込み弾く。それでも止まらぬ鞭の先端を左前上脚で受け止めると、右脚で横から攻撃を繰り出す。
「むっ」
弾かれてしまった光の鞭を手首を返し引き戻す。意外と滑らかで鋭い攻撃に、僅かに目を細める。なるほど、フェンは剣を使えるのか。
「むんっ!」
空いた残りの前脚で攻撃を仕掛けてくる。燃え盛る炎の剣が迫るので、冷静にトンと地面を蹴って横へとずれる。
「とやっ」
『雷鳴龍Ⅲ』
微動だにしないインペリアルアントを横目で見ながら、雷の龍を呼び出す。
紫電を発し輝くプラズマのドラゴンが『メガクイーン』に迫る。
バチリと外骨格が弾けて、雷がその外骨格を溶かそうとするが、インペリアルアントの数匹がダメージを肩代わりし弾けて燃え尽きた。
『魔法破壊』
あっさりと魔法はかき消えて、『メガクイーン』はその隙を狙い大きく身体を前傾姿勢にしてタックルを仕掛けてきた。
ズドドと砂煙を吹き上げて、その巨大な体躯での突進は、美羽の身体を吹き飛ばそうとする。
『縮地法』
タンと地を蹴るとその場からかき消えるように、超加速して駆けてゆく。
「この小娘っ! 速度にも対応しているのだっ」
『爆炎撚糸』
『メガクイーン』が開いた顎から、蜘蛛糸が吹き出す。美羽の走る先を予想しての攻撃だ。
空中にて蜘蛛糸は燃え盛る糸へと姿を変えて、美羽を捕らえようとする。炎を付与させた蜘蛛糸とはなかなか凝っているな。
「感心するよ。色々持ってるんだね!」
『石火』
迫りくる炎の蜘蛛糸に手裏剣を投擲する。蜘蛛糸の先端が爆発して、弛んで空中に広がる。
「ほいさ」
『竜巻の術』
指を組み合わせると、風の忍術を放つ。竜巻が吹き荒れて弛んだ蜘蛛糸を吹き飛ばし、『メガクイーン』へと命中する。
ミシリと『メガクイーン』の身体が軋み、竜巻により引き裂かれようとするが、またもや霧散してしまう。
「その魔法って、魔導兵器に搭乗していると、意外と便利だよね」
「隙はないと言った!」
『雷火襲剣』
マナを宿した雷と炎の剣を振るってくる『メガクイーン』。横薙ぎに振るわれる灼熱の炎を纏わせた剣を前に、空中を蹴ると回避する。
雷の剣が振り下ろさせてくるので、くるりと身体をひねり放電する剣を躱す。
しかしながら、纏わせた炎や雷は完全に躱すことができずに、僅かにダメージを負う。
「逃すか!」
『氷風襲剣』
氷と風の剣を振るい、十字の軌道で切り裂こうとしてくる。
風の力が合わされて、氷の結晶が舞い上がりながら美羽を凍らせんとしてきた。
『縮地法』
前傾姿勢となり、十字に迫る剣が振り下ろされる前に、『メガクイーン』へと突進する。
「なかなかやるけど、私も攻撃できるんだよ!」
『光蛇乱打』
氷風が鋭い刃となって、美羽の肌を切り裂き鮮血が吹き出すが、痛痒を感じないように楽しそうに微笑み、美羽は光輝の剣を振るう。
光輝の剣が撓り、『メガクイーン』の機体を叩く。
ガツンガツンと『メガアント』の機体から金属音が響いて揺らぐが、金属の外骨格は歪むこともなく、その代わりにインペリアルアントの数匹が砕け散る。
「これは面倒くさいなぁ」
砕け散るインペリアルアントを見て、嫌いな野菜を食べたかのように、顔を苦々しく顰める。
ゲームでは、『聖騎士の誇り』を使うインペリアルは一匹か二匹。サクサクと倒せば、そこまで邪魔にはならない。
でも、現実では100匹全部とか……。運営に文句をつけてもおかしくないよね。
インペリアルのレベルは40程度。一撃で倒せる雑魚だけど『防御姿勢』をとられると、二撃か三撃は耐えるんだよなぁ。
「しかも再召喚できるでしょ!」
繰り出させる前脚を、立体機動にて躱しながら剣を振るう。『メガクイーン』も対抗して迎え撃つ。
「そのとおりだっ! 魔法が封じられる貴様はじわじわと削られていく。いくらトリックを以てしても、敵うことはないっ!」
「トリックってなんのことかわからないけど、たしかに普通なら詰むかもね」
これは最強系統の戦法だ。カードゲームなら公式で禁止、マルチプレイなら掲示板で叩かれまくることは間違いない。
「そのトリックも破ってみせるわっ! イミールッ!」
『魔法破壊』
空間が歪むと美羽の身体をなにかが通り過ぎていく。そのたびに多少身体がふらつく。
そして世界が軋む音がしてくるが、フェンたちはさっぱり気にしていないのか、たぶん気づいていない。
「私にその魔法をかけない方が良いと思うんだけど?」
「フハハハ、もう一歩なのだろう! あと一歩だ! そのトリックを打ち破る!」
『メガクイーン』と激しく剣を打ち合い、激闘を繰り広げる。髪を靡かせながら空を駆けて、フェンたちに忠告をするが、反対にチャンスだと嬉しそうに哄笑の声を上げていた。
美羽の体に『魔法破壊』を使うと、なにかが壊れていく感じがする。
まぁ、別に気にしないで良い感じもするけどね。
でも、この反動がどのような結果を及ぼすかわからないから、そろそろ反撃に移るか。
「だいまどーしの力をおみせしちゃうよ」
ニヤリと口元を笑みに変えて、美羽は『メガクイーン』の眼前で手を複雑に振るう。
『三連続魔』
『太陽炎』
『太陽炎』
『太陽炎』
巨大な魔法陣が重なるように作り上げられて、世界が太陽の炎で埋め尽くされる。
輝く灼熱の炎の世界へと変わって、ムフンと笑みを見せる美羽。
「この魔法を消すのは大変だよ。すぐに消せるかな?」
大魔道士の炎魔法を発動させて、悪戯そうに笑う美羽であった。




