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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
9章 レース

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248話 決闘の前準備なんだぞっと

 ガガガと金属を削る音が響く『ウルハラ』カンパニーの研究所の一室。


 様々な工具が乱雑に置かれており、テーブルには作りかけの様々な魔道具が食べかけのサンドイッチと共に置いてあり、壁には設計図が貼られている。


 いかにもずぼらな研究員の一室と、部屋の混沌とした様子を見れば誰もが思うだろう。


 そこに加えて、ゴーグルを付けた鳥の巣のようにボサボサ頭の白衣を着た少女がいれば完璧だ。


 なにが完璧かはわからないが、なんとなく完璧だ。


 完璧の意味を自分の辞書に書き間違いをしているみーちゃんは、そう思っていた。なんか白衣の少女って、良いよね。


 みーちゃんを馬鹿にしたように睨んでこなければ、もっと良かったのに。


「あぁ〜ん? お前馬鹿なの?」

 

 椅子に座って、みーちゃんを責めるように尋ねてくるのは、天才魔導科学者にして、元『ニーズヘッグ』幹部の『スルト』にして、現在『ルグ・ドーヴェル』と名乗る少女だ。


 燃えるような強気な瞳を向けてきて、ケッと鼻を鳴らす。


「『浮遊板フロートボード』で勝負だぁ。なんでそんなことをするんだよ。メンドクセー。普通に決闘で良いだろうが」


「ルグちゃんと練習試合をして鍛えるから?」


 小馬鹿にしてくるルグへと、ニッコリと優しく微笑んであげる。たしかにここは友だちとの修行をして鍛えるパターンだもんね。


「『浮遊板フロートボード』って、良いアイデアだよな。わかった天才ルグちゃんが特別に作ってやるよ」


 サッと目をそらして、デスクの上に置いてある作りかけの『浮遊板フロートボード』を手に持つ。


 いたいけな少女を痛めつける修行は嫌だったのだろう。気持ちはわかるよ。でも、私は回復魔法を使えるから、たとえ死んでも10分以内なら蘇生できるから安心して。


「バラバラになっても回復できると思うんだ!」


 あ、心の声をつい口にしちゃった。でも、ゲームなら相手を粉々にしても、練習試合なら相手は死ななかったんだ。だから、大丈夫だよね。


「さぁーってと。ルグちゃん頑張っちゃうぞ〜」


 腕まくりをして、『浮遊板フロートボード』を組み立て始めるルグ。なんだかんだ言って、頑張ってくれる優しい少女だね。


 なにやら殺気に近い物凄い気合も感じるし、心強い。


「まったく………。呆れたやり取りねっ」


「ハートフルなやりとりだよね!」


 三角帽子をかぶって、黒ローブを羽織る魔法使いの少女、ニニーがジト目でツッコミを入れてくる。腕を組んで、重装甲なところをアピールするピンク髪の天才魔法使いだ。


「ハートフルね……まぁ、良いわっ。天才魔法使いアンブローズ・ニニーがアンブローズ家のオリジナル『飛行』魔法を付与してあげるわっ」


 常に箒に乗って移動しているニニーは、『飛行』魔法を得意とする。『鏡渡り』を使うことからわかるとおり、移動系統の魔法を得意とする家門なのだ。


「お願いするね! 今回は無差別級だから、レギュレーションは最高だよ」


 エリザベートとの決闘に選んだのは『浮遊板フロートボード』。しかも、制限がほとんどない大人たちのクラスのルールにしたのである。


「琵琶湖を一周。『霧のダンジョン』も通る武道大会と同じルールなのね。あんた瑪瑙家のことを知っていて、この勝負をもちかけたわけっ?」


「あんだよ、瑪瑙家ってなんかあんのか?」


 呆れた目で見てくるニニーに、みーちゃんではなくルグが『浮遊板フロートボード』から手を放すと不思議そうに聞き返す。


「瑪瑙家って、『浮遊板フロートボード』レースを得意とするのっ! 私だって知っている話なのに、知らないわけ?」


「ルグちゃんは世俗のことは気にしない天才なんだよ。天才の頭脳は魔道具に全てが注がれているんだぜ」


 ケッと憎らしげに口を歪める態度の悪いルグに、ニニーが睨みつける。


「偉そうに言うけど、『浮遊板フロートボード』作りなんて、たいしたことのない技師なんでしょ? ルグだっけ? 天才の私とは違い、名前も聞いたことないしねっ」


「あぁ〜ん? これから名前が売れるんだよ! あと数年すれば、ルグちゃんの名前はだれしもが知ることになるんだぜ!」


「あ〜、はいはい。希望に満ち溢れる夢の言葉はよく聞くわっ」


 肩をすくめて、へっと馬鹿にしたように笑うニニー、顔を真っ赤にして怒気を纏い激昂するルグ。


「ぬぉぉぉ! なんてムカつく巨乳だ! その乳袋はマナを込めて誤魔化してるんだろ」


「ムキャー! あんたこそ、ムカつく貧乳ねっ! 舌から生まれてきたんでしょっ」


 二人が額をグリグリと突き合わせて、犬歯を剥き出しにガルルと睨み合う。この二人は仲が良いなぁ。キャラがかぶっているからかな。


 まるでフェレットがシャーと牽制し合うようなほのぼのとした光景だねと、ニコニコと眺めているみーちゃんだが、重々しい声が口を挟む。


「お遊びに付き合うつもりで来たわけではないのだが? 考えがあって決闘を持ちかけたのだろう?」


「うん。もちろん瑪瑙家が得意とする『浮遊板フロートボード』レースなら断ることはないと思ったからだよ」


 振り向いて、椅子に座る老魔道士へと答える。相変わらずのボロいコートに、ボロい帽子。隻眼の老魔道士であるオーディーンのお爺ちゃんだ。


 分厚い魔導書を読んでいたが、遊ぶだけでまったく話を進めない3人に苛立った模様。


 まぁ、ルグとニニーはさっき顔を合わせたばかりだったからね。じゃれ合うのも仲良くなるスキンシップの一つだよ。


「なにを賭けたのだ? 面白いものを選んだのだろう?」


「エリザベートは勝ったら、鷹野家の独立をするようにと言ってきたよ。皇帝の持つ企業にも手を出して、敵対する意思もあるんだぞと、アピールしろって」


「それはそれで、面白いことになりそうだな」


「皇帝と敵対すると、闇夜ちゃんたちが困るからやらないよ。私が勝った場合は秘密。勝ったら教えてあげるよ」


 人差し指を口に添えて、シーッと可愛く笑うみーちゃんだ。特に追及することもなく、お爺ちゃんは肩をすくめるだけにとどまる。


「それならば勝たなくてはなるまい。さっさと『浮遊板フロートボード』を作るのだ、ルグ」


「わーってるよ。えーと、レギュレーションではマナドライブの出力はかなりのもんだから、魔石をこんだけ搭載しておけば良いだろ」


 燃料とする魔石をテーブルにザラリと並べると、テキパキと入れていく。設計は終わっているので、後は制作するだけなのである。


「ちょっ、ちょっと待ってよ! え? こんな高品質の魔石を使うわけ?」


「魔石に糸目はつけるなって、社長のご命令だかんな」


「だ、だって、この魔石って滅多に見たことのないレベルの高品質よ? 一個30億円……いえ、50億円はするわよっ? 大型魔導兵器に使う代物よっ! 戦艦にも使えるのよっ!」


 20個はある魔石の一つを掴んで、信じられないと血相を変えるニニー。みーちゃんにはわからないが、小さな魔石に凝縮されたマナが内包しているようだ。


 混乱するニニーをジト目で見て、嘆息するルグ。


「だってさ、社長? ルグちゃんは慣れたけど、これおかしいようだぞ」


「魔石なんかいくらでも集めれば良いよね。全部使っていいよ!」


 レベル50程度の魔石なら、いくらでも集められる。何個使っても問題はないよ。


 高位魔骸ハイリッチの魔石はジャラジャラあるからね。フリッグお姉さんは魔石に興味はないから、全部を一掴みの宝石と交換してくれたんだ。


 ちなみにフリッグお姉さんの一掴みは、目に見えない手で掴んだから、一山持っていったよ。


「あいあい。それじゃあ、魔石は常に全開でマナドライブにマナを送り込むことにするぜ。魔石を搭載する容量はルールにないかんな」


 ふふーんと鼻歌を歌いながら、魔石をどんどん搭載させていくルグ。ニニーはそれを見ながらみーちゃんへと視線を向けて良いのかと恐ろしいものを見るかのように確かめてくるが、問題はない。


「ほらほら、ニニーちゃんも魔法を付与して?」


「はぁ……。お金の使い道がおかしいと思うのだけど……まぁ、良いわっ」


 板に手を添えると、スッと目を細めて真剣な表情となるニニー。息を軽く吸うと、魔法を発動させる。


『水面浮遊』

『空中機動』

『地上走破』

『速度上昇』

『風圧軽減』

『高速飛行』


 次々と魔法を発動させていき、板はパッと光が瞬く。連続して流れるように使う姿は天才という相応しい手際だ。さすがはニニー。


「ルールに従うならこんなものでしょ」


「おぉ、もうルールを読み込んだんだ。さすがはニニーちゃん」


 すごいすごいと、ぱちぱち拍手をして笑顔で褒め称える。


「当たり前でしょう。私だって武道大会に出るつもりなんだからねっ」


 ふふーんと胸をそらすニニー。褒められるのが大好きな娘だよね。でも、みーちゃんだってルールは読み込んだのだ。


「私もルールは読み込んだよ! 審判を買収するのは禁止。相手のメカニックを買収するのは禁止。事前に様々な魔法を相手にかけるのは禁止」


「ねぇ、私と貴女が読み込んだルールブックは別の本だったのかしら?」


「これからわかるのはバレなけば良いということだよね! バレなければ良いと思うのは禁止って書いてないし!」


「物凄い曲解っ!」


 なにやらニニーが叫んでくるけど、ルールには従うよ。みーちゃんは良い子だからね。


「お嬢ならいつものことだ。退け」


「む? まだ魔法を付与するつもりですの? 天才たる私が限界まで付与したから無理よっ」


 のそりと椅子から立ち上がり、板に指をつけるオーディーンのお爺ちゃんに、ニニーが自慢げにフンスと息を吐く。


「たしかに限界まで付与されてるぜ、ししょー。それ以上付与したら、壊れちまう」


 ルグが注意をしてくるが、身を乗り出して、その瞳は好奇心で爛々と輝いている。無理だと言いながらも、オーディーンのお爺ちゃんがすることに興味津々な模様。


「ふん、無駄かどうか試してみよう」


 ツイッと指を板の上に滑らせる。複雑な模様が描かれていき、光り輝く。


「『鷹のルーン』。空を飛ぶ王者の力を宿す」


 端的に呟き、最後にトンと板を叩くと、眩しい程に板は輝くのであった。


「なんだ? 今の魔法はなんだよ? ししょー、ルグちゃんに教えてくれて良いんだぜ」


「これは『ルーン』? でもマナを感じないのに、力は感じる……ど、どうなってるのよっ! 私にも教えてほしいわっ!」


 光を腕で防ぎながらルグとニニーが興奮して、オーディーンのお爺ちゃんに詰め寄る。


 たしかに『ルーン』の力は凄まじい。戦闘中では、攻撃、支援などで強力な効果を発したものだ。


 だが、みーちゃんはその光景に驚いていた。なぜかというと……。


 なんで生産に使えるの? 戦闘中にしか『ルーン』魔法は使えなかったはずなのに。


 いつもどおり魔法陣を設計して手伝ってくれるとばかり思ってたのに『ルーン』?


 みーちゃんがコテリと小首を傾げて、怪訝な顔になっているのに気づいたのだろう。


『ヨルムンガンドの影を倒したあとから、儂ら神々の力が戻ってきているのだ』


 隻眼を光らせて、衝撃の言葉を思念にて送ってくる。


 ふむぅ……マジかよ。本来の神様の力を取り戻しつつあるの?

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― 新着の感想 ―
[一言] ルーン・・・? あー・・・?ルーン・・・ね? あー大丈夫大丈夫!るんるんってことでしょ!おkわかった!ルーンるーン!!
[一言]  独立しないのかぁ。真田幸村と真田信之みたいに皇帝派と独立派で分かれるのもありかなぁと。皇帝は割るつもりなわけだし
[一言] 魔導の「夜」って言うのは神々の「黄昏」の後の世界だったっていう衝撃よ なるほどな~
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