表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
8章 中学生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

240/380

240話 モブの勝敗はイベントに関係ないんだぞっと

2023/02/25、2話更新です。これは2話目ですのでご注意を。

 ヨルムンガンドは『雷霆槌ミョルニル』を頭に受けた。今までのように防御壁は発生せずに、プラズマで形成された槌はヨルムンガンドの身体を超高熱で覆っていく。


「ぬぉぉぉっ!」


 全てを埋め尽くすかのように、白き閃光が辺りを輝かせて地面を溶かし、硝子質へと変えていく。空気が焼けて洞窟が震動し壁や柱にヒビが入っていった。


 ヨルムンガンドは咆哮して耐えようとするが、美羽の繰り出した『雷霆槌ミョルニル』により、遂に膝をついた。


「やっぱり『雷霆槌ミョルニル』が弱点だったんだな!」


「ぐぬぅぅ」


 呻き声をあげて動きをとれないヨルムンガンドへと、くるりと宙で回転すると、ポヨポヨの槌に魔法の力を再び送り込む。


「追撃だっ、フリッグ!」


「了解よ、お嬢様」


 ふふっと微笑み、フリッグお姉さんが銃口を美羽に向けて引き金を引く。銃口の先に魔法陣が描かれて、支援の光弾が放たれる。


『攻撃3倍化』


 プラズマが膨れ上がり、さらなる力が美羽の身体を駆け巡る。


「とりゃぁー!」


雷霆槌ミョルニル


 ポヨポヨの槌を大きく振り上げると、美羽は雄叫びをあげてヨルムンガンドの頭に叩き込むのであった。


 2連続の『雷霆槌ミョルニル』を受けて、洞窟でさらなる大爆発が巻き起こる。爆風が全ての柱を砕き、斃れている『霜巨人フロストジャイアント』の死体を燃やし、高熱で全てが溶けていく。


 洞窟を埋め尽くすかのようなヨルムンガンドの胴体は紙切れのようにバラバラとなって、肉塊となって地へと落ちる。


 そうして、爆風がおさまり、プラズマの輝きが消えていく中で、スタッと美羽は地に降り立った。


 巨大なクレーターが眼前には作り出されて、その中心には闇の塊となっている朧げな姿のヨルムンガンドがいた。


 ゆらゆらと闇の塊は揺れて、ヨルムンガンドは楽しそうな声を出す。


「やるじゃねぇか。紛い物の『トール』かと思ってたが、『トール』よりも強いんじゃねぇか? よく俺様の名前がわかったな?」


「古の書『ギレンたぶらかし』に曰く。ヨルムンガンドはミッドランドを3周するほどに巨大な蛇であり、トールのミョルニルにより殺されたんだ。ただ、毒の息でトールを殺したから相討ちだったんだよね」


 きりりと凛々しくぷにぷにほっぺを引き締めて、フンフンと鼻息荒く得意げに自分の知識を披露する。


 『ヨルムンガンド』は『ラグナロク』にて、最強のアースガルド神である『トール』と相討ちとなった蛇である。


 その特徴はとにかく巨大なこと。自身を脅かすと考えて、オーディーンが海にポイ捨てした蛇なのだ。


 この教訓は、ペットのポイ捨てはいけませんというところだよね。


「お嬢様、ギレンじゃないわよ。それだと宇宙戦争になるわ。『ギュルヴィたぶらかし』よ」


「戦争に関係しているから問題ないと思う!」


 フリッグお姉さんのツッコミに、自信満々に泰然とした様子を見せる。こういうのは、狼狽えたら駄目なんだ。間違っていても、堂々としていれば問題なし!


「とにかく馬鹿みたいに巨大な胴体の蛇と、ミョルニルを弱点とする敵なんて、ヨルムンガンドしかいないからね!」


「ブワァッハッハッ! 面白え奴だな。てめぇが誰だかはわからねぇが、そのとおり。俺様の名は『ヨルムンガンド』。まぁ、影なんだがな」


 楽しそうに笑うヨルムンガンドは、徐々にその身体を薄れさせていく。


「私は『ロキ』! トリックスターたる可愛らしいみーちゃんです!」


 一応名乗りをあげておこう。なにせ、敵は『ヨルムンガンド』だからね。戦いの美学にして、主人公のイベントっぽい感じするから。


「『ロキ』? ……いや、てめぇの気配は……。まぁ、良い。俺様の本体は未だに眠りについている。今度戦う時には本体で戦えることを祈っているぜ」


 ほとんどの闇が消えていき、僅かに残る小さな塊から最後の言葉が告げられる。


「それじゃあ、またな。ちびガキ」


 そうして完全にヨルムンガンドの影は消え去るのであった。


 コロンと『クロウリーの箱』が地面に落ちて、エーギルの残滓なのか、頭蓋骨がぽつんと残る。


『ヨルムンガンドの影を殺した!』


 ログが表示されて、莫大な経験値と、様々なドロップアイテムがズラズラと表示されていく。


「え? なにこれ? ページ表示が10ページ近くあるんだけど……?」


 影の牙や鱗、魔法の武器もあるな。宝石やら鉱石に、素材も大量だ。レベルも98に上がった。


「それは後で確認しなさい。それよりも影とはいえ、ヨルムンガンドたちの死体を残すのは危険よ」


 ポンと肩を叩かれるので頷き返す。確かに素材を人間たちに回収されるのはまずい。


 ……まずい?


「ねぇ、死体が全て宝石やら黄金に変わっているよ?」


「『フリッグたぶらかし』曰く。魔力の塊である影の死体は宝石とかになるのよ」


 これまでに見たことがないほどに、鬼気迫る表情でガクガクと肩を揺さぶってきた。


 たしかにフリッグお姉さんはたぶらかされているね。


 ああ、なるほど。魔石になるようなものか。影たちは莫大な魔力の塊だから魔石を超えて、魔法宝石や魔法の鉱石に変わったと。


「早く回収しないと、洞窟が崩壊するわっ! 急ぎましょう!」


 ゴゴゴと洞窟が震動し、立っていられないほどだ。どうやらヨルムンガンドとの戦闘は激しすぎたらしい。


「でも、ヨルムンガンドの死体も宝石とかになってるよ? 莫大な量だよ?」


「ぜ・ん・ぶ、回収するのよ!」


 ゴゴゴとフリッグお姉さんが般若の顔になり、みーちゃんは怖くて震えちゃう。どうやらフリッグお姉さんには、目の前の光景は猛毒だったらしい。


 ヨルムンガンドの死体は山となった宝石やら黄金になっている。これを全部回収するのは大変そうというか、無理なんじゃないかな?


 『戦う』もできないみーちゃんだと、ポテポテと歩いて集めるしかないんだけど?


「そこのアリも集めなさい! 崩壊したら次元の彼方に消えるのよ? そうなったら次元の狭間に探しに向かうからね、お嬢様?」


 本気っぽいフリッグお姉さんの様子にため息をつきつつ、秘策を使うことにする。そうしないと、フリッグお姉さんは洞窟諸共次元の彼方に消えそうだ。


「てってれー、ちょこれーとぱふぇ〜」


 アイテムボックスから、美味しそうなチョコパフェを取り出すと『戦う』ことにする。


 なぜかパフェなら、『戦う』を選択できるのだ。たぶんみーちゃんの宿命の相手なんだね。


「それじゃあ集めまーす!」


「小粒金一つ残しちゃだめよ?」


 そんな無茶な。


 崩壊する洞窟内で、美少女がパクパクとちょこれーとぱふぇを食べながら、散らばっている宝石を集めるシュールな光景が生まれるのであった。


 結局、小粒金一つ逃さないフリッグアイにより、ぎりぎりまで財宝を回収した後に、ほうほうのていでみーちゃんは洞窟を脱出した。


 天井が崩れ落ちて、山のような瓦礫の塊が落ちてきたり、柱が倒れてきたり、通路の所々が落盤し塞がる中で、テテテと疾走しなんとか脱出できたのだ。


「あぁ〜、外の光が見えるよ」


 ダンジョンには人気はなく、皆は脱出済みなんだろう。寂しくモブなみーちゃんは脱出しました。


「それじゃあ、私は行くわ」


「はーい。また後でね」


 『隠れる』を使用して、フリッグお姉さんが姿を消す。


「チチチチ」


 アリさんも、また後でねと送還しておく。


「我も帰るとしよう」


「待て」


 頭蓋骨がぴょんぴょんと跳ねながら、逃げようとするので、むんずと掴む。


「おまえ、逃げられるとでも思ってるの? てか、なんで生きてるの? いや、この場合死んでるんだけど」


「贄とされる瞬間、我の魂を頭蓋骨に分けておいたのだ。こういう魂分割などの技が得意なのが魔骸リッチなのだよ。だが、お陰でもはや我にはほとんど力がない。見逃すのだ。化け物同士の戦いに加わるつもりもないし、もうこりごりだ。誰にもお前の正体は口にしないと誓おう」


「駄目。だってお前散々悪いことしてきたでしょ? 全ての情報を聞いたあとに破壊するから」


「その話を聞いたあとにペラペラ喋ると考えているのかっ? とうっ!」


『炎』


 ぼうっと炎を吹き出すので、思わず落としちゃうと、カラカラとエーギルは笑う。


「クカカカ! 貴様に会うことはもはや絶対にないと告げておこう! さらばだ!」


瞬間移動テレポート


「あっ! 待てこら!」


 マナを残しておいたのだろう。高笑いをしてエーギルはその姿を消すのであった。


 チッ、逃したか。……まぁ、レベルが1になってたし、放置しておくか。また出会ったら滅ぼせば良いだろう。


 肩を竦めて洞窟を脱出する。


 眩しい太陽の光に目を眇めつつ、トテチタと外に出ると、闇夜たちが心配そうな顔で待っていた。


「みー様、大丈夫でしたか?」


「心配したよ〜。助けに行こうか、今話し合ってたんだよね〜」


 ムギュウと闇夜に強く抱きしめられて、玉藻が頭を撫でてくる。ホクちゃんたちも集まって安堵の表情を浮かべる。


 心配かけちゃったようだ。ごめんね。


「ごめんごめん。皆は無事だった? あれからどうなったの?」


 謝りながら、周りを観察すると生徒たちがシンを囲んで、ワイワイと楽しそうに話をしていた。


「シンさんの活躍により、敵は撃退できました。ですが追撃を防ぐためにダンジョンを崩壊させたようなのです」


「僕たちの活躍もあったんだけどな。残念だがアンナルたちは逃しちまった」


 聖奈が難しい顔で教えてくれて、ふんぞり返って偉そうな勝利がドヤ顔で告げてくる。


「ふーん……。シン君のお陰だったんだ?」


「はい。みー様がエーギルを追いかけていき、迷子になってから、神無シンが見たことのない強力な魔法を使い、大人顔負けの体術で敵のほとんどを倒したんです」


「なるほど!」


 みーちゃんはエーギルを追って迷子扱いになったらしい。空気なみーちゃんなので仕方ないかな。


「シン! やるじゃん、強すぎるだろ!」

「お兄ちゃんが強いことを理解しましたか?」

「まぁ、わたくしの婚約者ですものね」


「そんなことはないよ。皆と力を合わせたお陰さ」


 爽やかな笑みで、謙虚な言葉を返すシン。その態度を見て、クラスメイトたちは好感度をあげるようだった。


 メインストーリーを確認すると、クリア扱いになっていた。ただ一言『クリア済み』とだけ書いてある。


 これはどんな意味を持つのだろう。聖奈側のストーリーに見える。明らかにシンを主人公にしてはいない。


 それなのにクリア扱いになり、シンは人気者になっている。でもね、クリアしたことにより、目には見えない影響が出ているとは思うんだよね。


 この分岐点を改竄しようとする意思を感じるんだ。


 『空間の魔女』が変更不可と言っていた大きな分岐点。それすらも変えようとする力が働いている感じがヒシヒシとする。


 4巻との複合ストーリーならば、一年生のほとんどがシンに感謝を送り、好感を持つんだ。


 流れが変わるというやつだろう。でも、このまま上手くはいかせないつもりだ。


 みーちゃんのやったことは少なくとも影響は出ている。


「なぁ、瑪瑙家の技術は使い物にならないんだな」

「だな。父上にすぐに株を手放すように伝えないと」

「どうなるんだ、この先……」


 少ないながらも生徒たちの一部がヒソヒソと話をしている。みーちゃんを迷子扱いにしても、瑪瑙家の革新的と思われた粒子を無効化した光景は記憶に残っているようだ。


 多分その場にしか影響がないことは記憶を歪めることができるが、後々まで影響が出ることに対しては、記憶を歪めることはできないのだろう。


 ならば少なくない影響が出るだろう。


 さて、これからどうしようかなと考えながら、みーちゃんは帰途につくのであった。


 なにか忘れているような気がするけど、気のせいかなぁ。まぁ、今は『運命』とやらを破壊する方法を見つけないといけないだろう。


 たぶん『運命』は人のマネー良心ぶりょくで解決できると思うんだ。もっと脚本に落書きをしちゃうから覚悟してろよ。


 みーちゃんは『運命』がよくわからないからね。ジャジャジャジャーンしか知らないんだ。



 後日、どこかの誰かのおうち。


「ガラシャ、そのインテリアは趣味が悪いぞ……」


「気に入ったのじゃ! 叩くと良い音がするのじゃ!」


 どこかの幼女が、犬が咥えていた頭蓋骨タイプのインテリアを手に入れたとか。

モブな主人公について、活動報告にて記載してます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] モブでも忘れるのか。どんな因果なんだ?この伏線は気になって仕方がない。
[一言] 佐久間家にどんどん化け物が集まっていきそう
[一言] てめえの気配は……って言ってるけど、 「お前人間だろうが」ってリアクションじゃないなぁ そうするとみーちゃん自身にも自分で知らない要素が混じってる可能性? ヨルムンガンドの反応を見るに「違う…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ