238話 見えない攻撃なんだぞっと
身体を強烈なる一撃が襲い、美羽は跳ね飛ばされてしまった。『ウォータン』がバチリと火花を散らし、煙を吹き出す。
見えない攻撃を受けて、激しい衝撃を食らってしまい、空中をすっ飛んでいく。そしてアリさんと同様に、飛んでいく方向から再びなにかが美羽に叩きつけられた。
グシャリとなにかが潰れる嫌な音がして、身体が潰れていく。
『ウォータン』は男の攻撃に耐えられず、火を吹きはじめ、自分の腕がめちゃくちゃに潰れたのを、無感情に冷静なる顔で確認し、嘆息する。
「『ウォータン』だと限界だな」
『聖癒』
小さく呟くと、魔法の力が美羽の身体を純白の光で覆い、一瞬のうちに怪我一つない姿へと戻す。
聖奈と同じ回復魔法だが、その回復力は次元が違う。
常にHPを満タンにするゲーム版『聖女』専用の回復魔法だ。いかなる攻撃も、美羽を殺すことはできない。
『謎の攻撃により、170ダメージを受けた!』
『HP:1987→1817』
『MP:1820→1753』
「なぬっ! MPも減ってる!」
と思って余裕だと考えていたけど、HPだけじゃなくてMPにもダメージを受けたことに驚く。魔力も削っていくのか!
想定外の攻撃だ。今までこんな攻撃をしてくる奴はいなかった。なぜならば大した効果ではないからだ。MP回復だって方法があるし、空になっても死にはしない。
本来ならだ。
だがこの男の攻撃はMPも削ってきた。なぜダメージを受けたのか推測する。
ヤバい感じしかない。ゲームとかでよくあるテンプレ。本体を倒すには魔力を削るとかそんな感じ。
どんなに攻撃を受けても、手を破壊され、足を砕かれても、頭を吹き飛ばされても、HPが残っていれば、美羽の動きは基本的に阻害されずに普通に動く。
即ち、美羽の本体って、魔力で構成されたアストラル体ではないかと推測しているんだよね。肉体にアストラル体が宿っているのだ。
なので、肉体は壊れても、魔力で形成されているアストラル体は傷つかない。それに対抗するための技だ。
これはアストラル体を殺す手段。『神殺し』の技ではないかと推測する。
即ち神殺しスキルをデフォルトで持っている敵なのだろう。肉体が盾になっているために、MPに受けるダメージは減少しているが、肉体が完全に破壊されれば滅ぼされてしまう可能性がある。
そんな予感がビシバシするんだよ。参ったね、これは。
「そういえば、『神』も『旧神』もデフォルトで敵のMPも削る攻撃スキル持ちだった……。MPを削り切る前に倒しちゃうから意味がないスキルだと思っていたけど、こういう意味を持ってたのか」
スキル名は違ったけど、ダメージを与えると同時にMPを削る効果の同じスキルがあったのだ。対神用だったのかと、チッチッと雛のように舌打ちをする。
「手も足もでないか、ちび!」
アリさんへ攻撃したように、見えない攻撃を連打をしてくる男。まるでビル壁にでも衝突したかのように、美羽は身体をひしゃげてピンポン玉のように空中で弾かれてしまう。
『魂覚醒』
『中位MPポーションを使った』
『中位MPポーションを使った』
だが美羽は冷静にして平然とした表情で、敵の攻撃と、こちらの回復力を比較していた。
ぎりぎりだが中位MPポーションなら、回復力が僅かに上だ。まぁ、武技を使われればひっくり返るだろうけど。
「ていっ!」
身体をひねり、遠心力を利用して見えないが迫ってきているだろう攻撃に対抗する。
ポヨポヨの槌が空中で激しい衝撃をたてて、なにかにぶつかった。腕が衝撃により痺れるほどの反発を返してくる。
「イタッ」
レベル97のステータスから繰り出された一撃にもかかわらず、美羽に見えない壁がぶつかり吹き飛ばされてしまう。
可愛らしい悲鳴をあげて、美羽は勢いよく地面に落下すると、クレーターを作り土埃をあげて身体をめり込ませてしまう。
「………なるほど、槌だけじゃ防ぎきれないのか」
土埃の中から回復魔法の白い光を放ち、美羽は姿を現す。
男の攻撃に耐えきれず、金属片と化した魔導鎧が地へと落ちていくのも気にせずに、不敵にフンスと鼻を鳴らす。
「ああんっ? 余裕そうだな、ちび! もう鎧もぶっ壊れちまったじゃねぇか。限界だろ? 泣き喚いても良いんだぜ。まぁ、命乞いをしても無駄だと告げておくがなっ!」
荒々しい口調で、見下すようにせせら笑う男。
だが、ちっこい舌をべーっと見せて、手をゆらゆらと振ってみせてやる。
「目つきがまったくセリフと合ってないよ。なんで攻撃が止まったか、私が気づいたか探っているんでしょ」
「………ほぅ?」
アリさんのように、空中でこっちが死ぬまで攻撃をするつもりだったにもかかわらず、中途半端に攻撃は終わり、美羽を地面に叩きつけるに終わる。
槌での攻撃が効いていたんだ。
それが示す結果は、魔法ではないということだ。
「魔法なら防がれても気にせずに、次の魔法を放てば良い。でも、次の攻撃は繰り出されなかった。即ち……」
アイテムボックスを視線にて、テテテと選択し、紅葉のようなちっこいおててに、新たなる武器を喚びだす。
己の周囲に気配を散らし、全ての流れを警戒する。僅かに空気が揺れて、頭上からなにかが迫ってくるのを感じて、手に持つ武器を振り上げる。
「見えない巨大な鞭。それが正体だぁっ!」
『魂覚醒』
『天国光』
『光輝剣』
『融合しました』
『光輝光龍剣』
振り上げた手には無限なる剣身を持つ鞭ともなる蛇腹剣『光輝の剣+10』。
強化をした手持ちの武器で最強たる剣が一本の光条となって、頭上へと向かう。
空中にて、揺蕩う龍のように剣はくねって、見えないなにかに激突した。
キキィとガラスを引っ掻くような音がして、一本の光条は暴れる龍の如く、空間で跳ねる。
空間が揺らぎ、光の衝撃波がなにかを伝わっていき、そのエネルギーが爆発し、遂に見えない攻撃を弾き返した。
弾かれたなにかが、吹き飛ばされた先にある洞窟の柱を砕き、轟音を響かせて土埃をあげる。
「むうっ、やるじゃねぇか!」
男がにやりと笑ってくるので、フフンと可愛らしい顔をドヤ顔にして笑い返す。
「壁にしか見えなかったけど、巨大な蛇だったんだな!」
光の衝撃波が空間を巡った際に、その姿が見えたのだ。鱗を持った蛇の胴体であった。
あまりにも巨大なために、壁としか見えなかったのだ。
「そのとおり。力が劣化した影とはいえ、俺様の尻尾を跳ね返すとはちび助、お前の力を認めてやるぜ!」
「それはどうも! でも、タネがバレれば手品は終わりだな!」
「姿を消しているだけが、能じゃねえんだよ! さあ、本気でいこうか!」
楽しげに男が笑うと、その身体からテグスのような細い糸が姿を見せる。その糸の先は……。
「俺様こそが、最強! 何者も敵わないんだぜぇいっ!」
「おぉ………何その不思議な身体……」
糸の先は膨れ上がり、巨大な蛇の胴体へと繋がっていた。広大な洞窟の3割を埋める大きさの化け物であった。なんで糸みたいな細さで操れるわけ? 魔法の力ってやつか。
空中を埋めるように巨大な蛇の胴体は蠢き、天井を支える柱に身体を擦りつけて、天井を削り破片がパラパラと落ちてくる。
「おらぁっ!」
尻尾を振るうと同時に地を蹴り、美羽へと拳を握り締めて襲いかかってきた。
『シュトロームパイク』
魔法の力を拳に宿し、繰り出してくる一撃。拳を覆ったオーラが槍のように尖り、ドリルのように回転して肉薄する。
『パリィウィップ』
対して、美羽も光輝の剣を振るい、迫る拳に輝く光条を巻きつけると、クイと手首を返す。
パシィと光の衝撃波が波紋のように広がり、男の拳は弾かれて身体を泳がせる。
追撃は入れずに、身体をくるりと横回転させると、美羽はもう片方に持つ槌を振るう。
『魂覚醒』
『重圧龍Ⅰ』
『ロケットハンマー』
『融合しました』
『超重圧槌』
「どっせい!」
超重力により黒く染まった槌が、迫る巨大な蛇の胴体にめり込み、その効果を発揮する。
その力とは後衛に押し下げるノックバック効果だ。魔物の身体であれば、その効果から逃れることはできない。
数十倍の重力により、恐ろしい重量となったハンマーが激突したことにより、ビル壁よりも大きな蛇の胴体は揺らいで押し下げられる。
「なにっ! 俺様の尻尾を弾き返した!」
目を剥いて驚愕する男へと、フンスと薄く笑いを見せて、美羽は舞うように身体を回転させる。
「ネタバレすれば、こんなもんだ! 装備変更!」
パアッと美羽の身体が輝くと、新たなる魔導鎧が姿を現す。
半透明なその鎧は、美しく煌めきダイヤモンドのようだ。その煌めきは膨大な魔法の力を宿しており、人がその鎧を目にしたら、身体を震わせて平伏してしまうだろう。
「新型魔導鎧『ヤールングレイプル』。お披露目しちゃうよ!」
『ヤールングレイプル:レベル95、物理耐性、攻撃力+50%アップ』
薄手のスーツを覆うクリスタルの鎧は、薄っすらと精緻なる意匠が施されており、流線型の滑らかな装甲だ。背中には妖精の羽根がついており、キラキラと蒼い粒子を生み出している。
装備したことにより、身体能力が跳ね上がり、魔法の力が膨れ上がる。
フンフンと興奮気味に花咲くような笑みを見せて、男へと立ち向かう。
「それっ!」
光輝の剣を伸ばして、男の周りを包囲するようにフープを作る。
『ウィップフープ』
男の周りを光輝の剣は回転して、その身体を切り刻むべく、瞬時に包囲を縮める。
ガリガリと男を削ろうとする光輝の剣。猛回転して襲いかかるが
「その程度の攻撃が効くかぁっ!」
男は咆哮し、己の身体から魔法の力を解き放ち爆発させる。光輝の剣はその威力に耐えきれずに吹き飛ばされて、武技が解除されてしまう。
「俺様の番だな!」
『奈落の牙』
両腕を上下から合わせるように組み合わせると、美羽の頭上と足下から、ゾロリと生える牙が現れて、噛み砕こうと迫ってきた。
『幻影歩法Ⅱ』
素早く身体を揺らして残像を作り、空を蹴ると美羽は迫るアギトから素早く脱出する。
「遅いっ!」
『縮地法』
地を蹴り加速して、その姿を消すかのように男の懐に潜り込むと、槌を振るう。
ノックバック効果のある武技を叩きつけたために、蛇の胴体を盾にするべく男は引き戻すことはできない。
『ヘキサゴンクラッシュ』
「甘く見るなよ、ちび!」
『蛇神螺旋掌』
瞬時に放たれる美羽の6連撃。
対して、男は鉤爪のように手をまげると、回転させるように腕をゆらりと振るう。
美羽の6連撃は、男の手のひらにぶつかり弾かれて、全てを受け流されてしまう。
「このこのっ!」
「おもしれぇっ!」
クンと手首を返して槌を引き戻し、光輝の剣を直剣へと戻して斬りかかる。
男も楽しそうに口から牙を覗かせて、嗤いながら拳を繰り出す。
二人の激闘により、衝撃波が周囲へと波紋のように広がり、打ち合う余波で洞窟が地震にでもあったかのように震動する。
お互いに引かず、さらなる戦いが続くのであった。




