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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
8章 中学生

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232話 シンの活躍イベントだぞっと

 広間に突如として現れた魔法陣から放たれる紫色の輝きがみーちゃんたちを照らす。


「こ、これは?」


「ち、力が抜けていくよ〜」


「マナが吸収されてるみたいよっ!」


 なにか身体から抜けていっているのだろう。闇夜たちが膝をつき、苦悶の表情となる。


 クラスメイトたちも、同様に耐えきれないかのように地面に倒れていく。


「くっ、これは……」


 みーちゃんも周りを見て、マナが吸い取られていると感じ取り、ガクリと膝をついてしまう。


「や、闇属性の儀式魔法『魔力吸収陣マナドレインフィールド』です! でも、これだけ強力な効果は見たことがあ、ありません」


 闇夜がこの魔法陣の効果を教えてくれる。マナが急速に吸い取られているために、身体強化魔法も解除されてしまい、身体に力が入らない。


「クカカカ。また会ったな、鷹野美羽。貴様のマナは数分で空になる。以前のように神聖魔法を使えるかな?」


「『死海のエーギル』!」


 洞窟の奥からカチャカチャと骨の鳴る音が聞こえてきて、ローブを羽織ったスケルトンが姿を現した。


 頬骨に腐った筋肉組織がへばりついており、青白い炎が眼窩に宿っている。骨の手には神器である『クロウリーの箱』を持っていた。


 死者を操り、死を振りまく不死の王『死海のエーギル』がそこにはいた。


「も、もしかして罠だった?」


 みーちゃんも力を失い倒れそうになる中で、なんとか声を絞り出す。


「そのとおり。貴様らは誘導されていることにも気づかずご苦労なことだったな」


「だ、誰がこのようなことを」


 刀を杖代わりにして震える体を叱咤し、闇夜がなんとか立ち上がろうとする。


「あー、ごめんっす。それは俺っちすね」


 倒れ込んでいるクラスメイトの男子の一人が平気そうな顔で、スタスタとエーギルの隣に立つ。


 平凡そうな顔の男子で名前は知らないが、ニヤリと笑うとその身体が真っ黒に代わり溶けていき、その中から男が姿を現した。


「アンナルだったのかよ……。て、てめぇ!」


 勝利は相手の正体を知っているのだろう。膝をついて倒れそうな勝利が憎々しげに叫ぶ。


「め、瑪瑙家の新型魔導兵器を強奪したのも貴方たちでしたか」


 這いつくばっているエリザベートがなにか変なことを口にする。新型魔導兵器? この魔法陣が?


「ふ、一瞬でスクラップにされたゴミのことを言うならそのとおりだ。小手調べに使うつもりだったが、まったく役に立たないゴミだったな」


「ご、ゴミでは………いくらかかっていると……」


 なんだか、あそこに転がっているスクラップのことだったらしい。みーちゃんの記憶になかったけど、どうやら中ボスだったようだ。


 瑪瑙家は魔導兵器を奪われていたのか。なるほどねぇ。


「クカカカ、そろそろマナも尽きたであろう」


「ま、まずい……」


 みーちゃんも力が抜けて、地面に倒れてしまう。


 残りマナはどれぐらいか、ステータスボードを確認する。


『MP2101』


 恐ろしい速さでMPが減っていっているよ。


「フハハ! このチャンスを一日千秋の思いで待っていたわ!」


「くっ!」


『MP2101』


 駄目だ、残りマナがほとんどない。


「念の為に用意してきたもう一つは必要なかったようだな」


「なんとか魔法を……」


 グッと力を入れて、立ち上がろうとするみーちゃん。


『MP2106』


 あ、寝転んだから休息扱いになって、グーちゃん召喚に使った分が少し回復した。


 駄目だ、これ。まったく影響受けてないや。薄々思っていたけど、MPはマナポイントじゃなくて、マジックポイントだ。


 悲報、みーちゃんはこの世界のマナすら使ってなかった模様。


 でも、空気を読まないといけないだろう。みーちゃんは空気を読める良い子なのだ。


 とりあえずイベントなのだろうと、クッと言って苦しんでいる表情を浮べれば良いだろう。名少女優賞のみーちゃんなら大丈夫。


「一撃でも……」


 震えるおててで、エーギルへと魔法を放つ。なんか一矢を報いたいモブキャラを演じるのだ。


天国光ヘブンズビーム


「ゲッハァ」


 人差し指程度の細さの純白のレーザーがエーギルの身体を貫く。神聖魔法の『天国光ヘブンズビーム』。アンデッドへの特効魔法である。


「グァァァ! か、身体が灼けるっ! なんという威力。おのれっ!」

 

 地面にもんどりうって倒れると、悲鳴をあげるエーギル。


 ごめんなさい。少しダメージが大きかったかな。


 すぐに立ち上がり、警戒を露わに腰に下げていた袋から拳大の魔石を取り出す。


「ほとんどマナも残っていないはずなのに、これだけの威力の神聖魔法を使うとは……やはり侮れん! これも喰らえっ!」


神聖無効領域展開レジストホーリーフィールド


 宝石を割ると、闇の粒子がエーギルの周囲に展開されていく。どうやら神聖魔法を無効化にする技術のようだ。


 というか、これはシンが使っていた技術だよね?


 神聖魔法を封印する領域が展開されて、エーギルは満足げだ。


「瑪瑙家の研究所を襲撃した挙げ句に、悪用をするとは許しませんわっ!」


 苦しみながらも、エリザベートはエーギルを非難する。


 説明ありがとうございます、エリザベートさん。


 あぁ、小説とかのイベントが目の前で展開すると………展開すると……不自然極まりないなぁ。


「クカカカ。なんとでも言うが良い。貴様らの苦悶と絶望の表情こそが甘美なる美酒である」


「クッ、まずい……」


 地面はゴツゴツして硬くて寝にくいので、とりあえず体育座りにして、イベントを眺めることにする。


 とりあえずフリッグお姉さんにも連絡だ。


「うぅ、ここで死ぬの?」

「マナさえあれば……」

「先生たちはどこに?」


「安心せよ。そなたたちは実験材料として丁重に扱ってくれるわ」


 さらなる絶望を味わわせようと、エーギルは哄笑する。


 そろそろ出番だよね、何もないならそろそろみーちゃんが主人公っぽい活躍を見せちゃうよ。


 シンへと視線を向けると、魔導鎧が輝きを放っており、立ち上がろうとするところだった。


「やれやれ……こんなところで使うことになるとは思ってもいなかったけど、仕方ないな」


 クールな顔つきになって、シンは静かな闘志を燃え上がらせて、エーギルへと不敵な笑みを浮かべる。


 主人公、主人公が活躍するところだよと、みーちゃんはワクワクとその光景を眺める。


 エーギルはシンへと哄笑を返して……返して……。


 なぜかみーちゃんをジッと穴が開くように見てきていた。


 ちょっと主人公のイベントなんだから、みーちゃんを見てこないでよ。ほら、あっちあっち。


 追い払うように、シッシッと小さなオテテで手を振る。


「貴様……。なにか変ではないか? 様子が?」


 ポテチも食べていないし、サイダーも飲んでないよ。普通だよ、普通のモブな美少女だから。こっちみんな。


「僕の力をここで見せるつもりはなかったんだけどね……。でも仕方ないか」


 なにかセリフを口にしているよ。ほら、主人公に集中してよ。なんでエーギルはみーちゃんを認識しているんだよ。


 顔を俯けて、苦しんでいるアピールで、でんぐり返しをしておく。コロリンと転がっておけば、苦しんでいるように見えるはず。


「き、貴様……まさか効いていないのか?」


 震える指を向けてきて、エーギルが動揺した声をあげる。やばい、なんでバレたんだろ。


 みーちゃんは動けないよと、ますます身体を縮こませてコロリンと転がっておく。


 エーギルがさらに声をあげようと口を開き


「うぉぉぉ! これが僕の魔法だっ、エーギル!」


 エーギルのおかしな態度をまったく無視して、シンは片手を掲げて、マナを凝縮させる。


 シンのイベントだ。一巻ではこんなイベントなかったから、エーギルとの初めての戦闘イベントとの複合イベントっぽい。


 でも、エーギルとのイベント戦なんかあったっけ? ゲームでは記憶がまったくないなぁ。


 エーギルが疑わしい顔でみーちゃんを見つめて、他の皆はシンに注視している中で、シンが魔法を放つ。


魔法破壊マジックブレイク


 原作ではシンだけが使える唯一無二の『虚空』魔法が放たれて、地面で光っている魔法陣へと向かう。


「ハッ! ま、待て! こいつの様子が変だ。やめろぉ〜!」


 シンが『魔法破壊マジックブレイク』を放とうとするのに気づいて、エーギルが慌てて止めようとする。


「もう遅いっ!」


 なんだかエーギルのセリフが変だが、気にせずにシンは魔法陣を破壊しようと力を込める。


 魔法陣が『魔法破壊マジックブレイク』により遂にガラスが割れるような音と共に破壊され、残滓のマナが空中を舞う。


「やった!」


 魔法陣が破壊されたことにより、身体強化魔法を使えるようになった玉藻が立ち上がり、扇を構える。


「助かりました」


 闇夜たちも次々と起き上がるが、僅かに身体が揺らいでいるので、吸収されたマナは元に戻っていないようだ。


「マナは戻っていません。皆さん、気をつけてください」


 なんとか立ち上がった聖奈が皆へと忠告する。


「私達はまだまだマナが残っていますわ。新型魔導鎧は魔法耐性を一時的に高める『耐性強化領域システム』を搭載していますからっ!」


 胸を張って、エリザベートが得意げにする。


 ちょっと『犬の子犬』製の魔導鎧推しすぎないだろうか?


「あぁ、僕たちなら戦えるっ! 月、エリザベート!」


「任せてお兄ちゃん」


「了解ですわっ」


 シンの掛け声に合わせて、月とエリザベートがそれぞれ武器を構えて、凛々しい笑みを返す。


 3人とエーギルとの戦闘イベントだ。


「みんなっ! ここはシン君たちに任せよう。私たちはこっちに!」


 ここから激闘が始まるのだろう。皆で壁際に移動して応援しよう。ポテチもサイダーもあるよ。


 ワクワクして戦闘を眺める。ちょっと不謹慎だけど、原作イベントが目の前で展開されるのはワクワクしちゃうよね。


 まずはエーギルが先手をとる。


「ク、クカカカ、また会おう! なにか嫌な予感がするのでな!」


 ローブを翻して、哄笑し戦闘を開始……ではなく、早くも逃げようとするエーギル。こいつ骨のくせに危機感知能力が高すぎるぞ。


瞬間移動テレポート


『フリッグの御手』


「な、なにが? 我の魔法が打ち消されただとっ!」


 瞬間移動の魔法は発動せずに、かき消える。


 どうやらフリッグお姉さんは間に合ったようだ。良かった良かった。


 逃がすわけないでしょ、エーギルさん。


「行くぞ、エーギルっ!」


 刀を構えて、シンたちがエーギルへと攻撃を仕掛ける。


「ちいっ! だが神聖魔法が使えなければ、我の負けはないっ!」


 エーギルも迎え撃つべく、骨の杖を翳す。


『フレッシュゴーレム召喚』


 その杖からマナが放たれて魔法陣を描くと、オークのようにでっぷりとした体のアンデッドが現れる。皮膚は乱暴に縫い合わされており、継ぎ接ぎだらけの身体に、ネジやらホースやらが付いている。


 その数は10体。フランケンシュタインとかいうやつに見える。


「魔導兵器と組み合わせた新たなる我の軍団。魔骸リッチより耐久性もあり、怪力であるフレッシュゴーレムの力を見せてやろう」


 どうやら新型を作ったらしい。


『フレッシュゴーレム:レベル50、物理耐性、弱点雷』


 かなりの強さだ。これが召喚獣とはなかなかやるね。


『エェェェッ! 魔骸リッチを召喚しないわけ! 大変よ、お嬢様、バグよっ! ちょっと叩いて直してよ』


 どこからか、訳のわからない悲鳴が聞こえてくるが、とりあえずエーギルは古いテレビじゃないと思うよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うわーなんてことだー、みーちゃんのマナがすいとられるー
[一言] このまま表向きは観戦で終わるとシェアを奪われちゃうかもだから、今回は暗躍ではなく表から潰すのかな?
[一言] みーちゃんが新しいジャンルのくっこれを披露する話w
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