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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
8章 中学生

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231話 久しぶりの鉱山ダンジョンだぞっと

 鉱山ダンジョンは久しぶりだ。しかも強い魔物が多くて、採算がとれないために廃坑となったダンジョンに入るのは初めてなので、ワクワクとアイスブルーの瞳を期待で光らせるみーちゃんです。


 ぐっすりと旅館で寝て英気を養った面々は、朝早くから森林の奥深く、山脈の麓に辿り着いていた。


 草木が生い茂り、廃墟となった倉庫などが自然の脅威に負けて緑に覆われている。


 眼前にはゴールドゴーレムが出現するという鉱山ダンジョンの入り口がぽっかりと空いている。鉱山タイプであり、環境型の『魔導の夜』のダンジョンの中では珍しい、入り組んだ坑道で作られている迷宮タイプだ。


 鉱山ダンジョンの入り口にはコボルドたちが住み着いていたが、一年生軍団の力を前にたいした抵抗もできずに殲滅されている。


 ボスのわんちゃんキングも倒したしね。統率をとるリーダーがいなければ、野良犬の群れでしかない。


「それじゃあ、私たちが一番に入ってよろしいでしょうか?」


 濡れた烏羽のような美しい黒髪をサラリとかきあげて、闇夜が目を僅かに細めて、周りへと確認する。


 まだ中学一年生なのに、妖艶な感じを醸し出す闇夜の言葉に皆は顔を見合わせて、自然と溢れ出す美しさに気圧されたのか了承の頷きを返す。


「まぁ……旅館使わせてもらったし」

「それぐらいは当然だよな」

「それじゃあ入る順番決めようよ」


 皆が同意する中でシンはというと、ガルルと唸るエリザベートの肩をポンポンと軽く叩いて宥めている。


「生徒会長の贔屓が……贔屓が……。お金を使いすぎですわっ!」


 どう考えても、生徒会長の贔屓とイチャモンをつけることができないと悟ったエリザベートは、責める矛の方向を変えてきたが、残念ながら周りは特に気にしていなかった。


「先に行くからといっても、良い魔石を手に入れることができるとはかぎらないよ。僕たちは僕たちで頑張ろう」


 本来の原作では、生徒会長の贔屓がすぎますわと、文句を口にするエリザベート。そして、生徒会長が権力と力、金の力が一番なのだとせせら笑うシーンだと思う。


 原作どおりのセリフを言おうとしたけど、どこかの美少女が、生徒会長の用意したテントやら食事ではなく、旅館を建てたりカレーを作ったりしたのでセリフが変わっちゃったらしい。


 みーちゃんのせいじゃないよと、顔を背けながらも、シンの様子が昨日から変わっていないことを確認しておく。


 あの様子を見るに、お人好しの優しい主人公のままである。


 どうやらポンポンと性格を変えることはできないようだね……。なにか、条件があるのだろうか?


「な、なんかおかしいな……。シンの仲間ルートになったんだよな……。勝ち確ルートに入ったはず……」


 困惑げに勝利がエリザベートとシンの様子を見て、変なことを呟いていた。シンの仲間になりたかったのかな。


 残念ながら、勝ち確、激熱、銀行レースは信用しないほうが良いんだよ。まぁ、教えることないし、粟国家のことだから、適度な距離をとっているだろうからね。


「それじゃあ、中に入りまーす」


 本日のみーちゃんはミニグーちゃんに乗って、掛け声をかけて、ダンジョンへと侵入するのであった。


 ミニグーちゃんとの名の通り、グーちゃんは二人乗りの虎レベルの体格に変わっている。これはゲーム仕様だからだ。


 どんな細道や、狭い小部屋でも召喚獣は使役できるのがゲーム仕様だ。なので、現実に反映されると、その体格はある程度大きさを変えられるというわけ。


 ドラゴンだって、小鳥のように大きさを変えられるんだよ。ドラゴン持ってないけど。


 『戦う』を選択したバトルモードでないと、身体強化ができないみーちゃんは足手まといになるからグーちゃんライダーになるのは仕方ないのだ。


「……むぅ、ふかふか〜」


 闇夜たちが先頭となって進む中で、セイちゃんだけは掛け布団をマント代わりに羽織ってグーちゃんに一緒に乗っているけどね。乗っているというか、すよすよと寝ているんだけど。


 坑道は高さ8メートル程、横幅10メートル程でかなり広い。ゴーレムが動きやすいように作られているのは間違いない。


 ゴツゴツとした岩壁に光苔が繁殖しており周囲を仄かに照らしている。天井からはぴちょんぴちょんと水滴が雨垂れのように時折落ちてくる。

 

 坑道のそこかしこには、放置された錆びたマトックや、壊れて横倒しになっているトロッコがある。


 横道が数多くあり、このダンジョンを攻略するのはかなり大変そうだ。


 光苔だけでは、前方の様子はよく見えず、岩や崩れた土砂の陰に何かがいるような不気味な気配もしてくる。


「ゴールドゴーレムが出現するのに、放棄しちゃったんだね〜」


 後ろ手にしながら、狐耳をピクピク動かし警戒している玉藻が残念そうに言う。


「たしかにもったいないけど、ここは『鉱山』じゃなくて『鉱山ダンジョン』だからね。強い魔物がポップするダンジョンの場合は採算が取れなかったら放棄しちゃうよ」


「みー様の言うとおりです。月に10億の黄金を採れても、凄腕の冒険者を10億円以上で雇っていたら赤字ですし」


 闇夜が追随してくれるが、そのとおり。ダンジョンでも採れる黄金や宝石の価値は前世よりも低いし、一般人でも採掘できる『鉱山』と違い『鉱山ダンジョン』は、そのダンジョンに出現する魔物の種類と強さ、金になるかで対応は変わる。


 このダンジョンは金にならないと判断されて、放棄されたのだろう。


「そうなると、ここの魔物は凶悪か、お金にならない厄介な魔物が多いってことだよ! 気をつけよう!」


「うん、そのためには朝ご飯をたくさん食べないと力がでないよぉ〜」


 ホクちゃんがぴょんと飛び跳ねて、ナンちゃんがリュックサックからおにぎりを取り出して、モキュモキュと食べる。そのリュックサックは魔法の鞄なのかな?


 そうして、皆でダンジョンを進むこと10分は経過しただろうか。


 前方からズシンズシンと重量のある足音が聞こえてきた。


「足音から……ゴーレムだと思うよ。ドスンドスンゴーレムだよ〜」


 狐耳をピクリと動かして、鋭い目つきとなる。


 皆はその声に反応して、それぞれ武器を構えて、みーちゃんもグーちゃんから飛び降りる。セイちゃんだけは力尽きたように、グーちゃんの背中に寝そべり、完全に寝てしまった。


「来ました!」


「オーケー!」


 闇夜とホクちゃんが前衛となり、前方から姿を現したゴーレムを迎え撃たんとする。


 ギギィと擦るような耳障りな金属音をたてて現れたのは、鉛色の体皮を持つ魔物、アイアンゴーレムだった。


 背丈は5メートル程、ブロックを重ね合わせたような胴体で、鉄で形成されているために硬そうだ。その拳を受けたら、ただではすまないだろう。


 計三体。その全身こそが武器だとでも言うように、猛然と突進してくる。


「アイアンゴーレムは斬撃が効きにくいために気をつけて戦いましょう!」


「雷魔法の出番だよ、セイちゃん!」


『アイアンゴーレム:レベル29、物理耐性、弱点雷』


「むにゃー」


『しかし、セイちゃんはぐっすりと寝ている!』


 雷魔法を得意とするセイちゃんは、それ以上に得意とするお昼寝のスキルを使っていた。現実でも『寝る』というスキルがあるとどうなるか教えてくれる少女である。


 仕方ないので、普通に皆は戦闘を開始する。ググッと鉄柱のような腕を振り上げて、勢いよく振り下ろすアイアンゴーレム。


 しかし、闇夜は余裕の笑みを浮かべて、ひらりとその豪撃を躱して、カウンターの一撃を入れる。

 

 カチンと金属音が響き、鉄の表皮に傷がつくが気にせずにアイアンゴーレムは攻撃をしてくる。


 ドカンドカンと地面に掘削されるように穴が作られて、土埃が舞い上がるがそれだけであった。闇夜には掠りもせずに扇風機のように虚しく回転するだけだ。


「てやぁっ!」


「やっちゃうよ〜」


「えーい」


 玉藻が扇で叩き込み、ホクちゃんが剣での攻撃を繰り出す。ナンちゃんが土槍を打ち出して、ジワジワとダメージを与えていく。


「たぁたぁっ!」


 もちろんみーちゃんも参戦だ。うおぉぉとメイスを振り上げて、接敵するとアイアンゴーレムを叩いていく。


『採掘』

『採掘』

『採掘』


 久しぶりの『採掘』だ。メイスをカキンカキンとぶつけて『採掘』をしていく。


 たしか、アイアンゴーレムは5回叩けば壊れたはず。前世で秘境グンマーで『採掘』をしていた腕を見せちゃうよ。


 5回攻撃が当たると、ヒビだらけとなってアイアンゴーレムは鉄くずとなって崩れ落ちる。


「アイアンゴーレムは、物凄く硬いのに簡単に砕いちゃった!」


「鉱山ゴーレムだからね」


 後ろで鈴たちが驚きの声をあげるが、ゴーレムなんだから当たり前でしょ。決められた回数の『採掘』で、ゴーレムは必ず砕けちゃうのだ。


『魔石D、石ころ、石ころを手に入れた!』


「………他のゴーレムも任せて! 皆は陽動をよろしく」


「わかりました!」


 ここはみーちゃんの出番だろう。間違いない。なので、任せてほしい。


 アイアンゴーレムはアダマンタイトを稀にドロップするんだよ。


 アイアンゴーレムがみーちゃんを敵と見て拳を叩きつけてくる。『採掘』モードのみーちゃんはバトルモードではないので、防御力はあるが素早さはない。


 ゴチンと音がして、みーちゃんに鉄の塊が落ち、轟音が響き、地面がへこみヒビが入る。


 ぷにぷにお肌にペチペチとアイアンゴーレムの攻撃が命中してしまう。


「みー様!」


 皆がその光景に青褪めて、闇夜が悲痛の叫びをあげる。


「大丈夫! 防御力重視の『ウォータン』にしてきたし、マトモには攻撃を受けてないから、ダメージはほとんどないから安心して!」


 土埃が舞う中で、危ないところだったよと、少女型の穴から這い出て、ニパッと微笑む。


『鷹野美羽は0ダメージを受けた』


 あまりダメージは受けていないようなので、気にせずに叩いていく。皆では苦戦するから、痛くてもみーちゃんが倒さないといけないのだ。


 それ以外に他意はない。


 ないったら、ない。


「うおぉぉ!」


 カキンカキン。


『魔石D、石ころを手に入れた』


「とりゃぁ!」


 カキンカキン。


『魔石D、石ころ、石ころ、石ころを手に入れた』


「ふんぬー!」


 カキンカキン。


『魔石Dを手に入れた』


 遂に石ころもドロップしなくなった! というか、普通にドロップするはずの魔鉄すら落とさない!


「ムキャー! アイアンゴーレムはどこー!」


 メイスをぶんぶん振りながら突撃する。


 もはやドロップは関係ない。ゲーマーの誇りというやつだ。せめて魔鉄ぐらい落としてよ!


 ぽてぽてと坑道を走り、目につくゴーレムを全て破壊していく。


 アイアンゴーレム、ストーンゴーレム、ストーンゴーレム、アイアンゴーレム、スチールゴーレム、なんか変なゴーレム。


 なぜか石ころしか落とさない。運営、運営はどこ? ドロップ率をこっそりと下げただろ!


「待ってください、みー様。さすがに倒しすぎです。皆さんが困ってます」


 なぜか闇夜が羽交い締めして、止めてきた。


 んん?


「あれれ? あれれ、ここはどこ?」


 なんか気づいたら、だだっ広い地下洞窟にいた。周りにはゴーレムの残骸が山となっているよ?


「みー様は夢中になって、ゴーレムを片端から倒していったんです。かなり奥まで進んだのですが、片端から倒していくので、クラスメイトの皆様も困り顔ですよ」


 なぜか周囲に一年生たちもいた。ゴーレム退治に来たんじゃないの? え? みーちゃんがゴーレムを独占したの?


「大声をあげて、エンちゃんがゴーレムをぜーんぶトレインしたから、皆が倒せずに困ってついてきたんだよ〜」


「それと、なんか魔導兵器っぽいゴーレムも倒したみたい」


 玉藻が困り顔の一年生たちを手を振って示し、ホクちゃんが指差す先には、メカっぽいゴーレムも、バチバチと火花を散らしてバラバラとなり、スクラップとなって転がっていた。


「夢中になっちゃって、気づかなかったや」


 採掘をしていると時間が溶けるんだよね。ネトゲーでも軽く数時間籠もっていたことがあるんだ。


「凶悪なマナを内包していた魔導兵器に見えたのですが……」


「事故だよ、きっと事故」


 魔導兵器? たしかにメカっぽいゴーレムだけど、ここのボスだったのかな? もしかして倒しちゃった? 


 まさかのイベント破壊かなと、冷や汗をかいてしまう。ダンジョンが消えないから、ボスではないよね?


「安心するが良い。貴様の無茶苦茶振りは想定済みだ」


 カタカタとおどろおどろしい声音が広間に響く。


「どなたでしょうかっ?」


 素早く刀を構えて、警戒する闇夜、それに続き武器を構える皆、ドロップを確認するみーちゃん。


魔力吸収陣マナドレインフィールド


 広間全体の地面が光り輝き魔法陣が描かれ、皆をその光で照らすのであった。

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― 新着の感想 ―
前から気になっていたのだけれど、冬のトウちゃんは居ないのだろうか。名前が父ちゃんぽくなるから駄目かー
[良い点] 引きがカッコいい! つぎけらギャグパートになると最後の見せ場まである! [一言] 守りたい、その寝顔!!
[一言] ゴーレム乱獲をうやむやにしてくれる敵さん!やさしい!
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