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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
8章 中学生

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230/380

230話 悪役モブなんだぞっと

 カポーンとコケ脅しの音がお風呂場に響く。鹿威しだったかもしれないけど、どうでもいいかなと気にせずに、みーちゃんはお湯に浸かりながら、フニャアと欠伸をした。


 その豊満な肢体から艶かしくお湯が滴り落ちる。豊満なところは自己評価だけど間違いないよね。


 疲れた身体に、温泉は心地よい。足の先からじんわりと温かさが広がって、その気持ちよさにぐんにゃりみーちゃんだ。


「オリエンテーリングって、なんだっけ………」


 空に輝く星空を仰ぎながら、遠い目をして鈴がパシャリとお湯を掬う。


 美味しいご飯。気持ちの良い温泉。旅館と変わらないお布団の敷かれた部屋。


 なにか、思うところがあるらしい。みーちゃんにはさっぱりわからないけど。


「最近のキャンプ場は、コテージやお風呂場もあるらしいよ。温泉で露天風呂は当たり前なんだって」


 サワサワとそよ風が吹き、木の葉の葉擦れが奏でている。


「あぁ〜。そういうの聞いたことあるぅ〜。もう考えるの面倒だから、別にいっかぁ」


 猫娘も温泉パワーに魅了されて、考えるのを止めると、四肢を伸ばして目を瞑ってしまう。


 温泉なのだ。そのパワーに負けるのは当然だろう。


 なんと玉藻は汚れきって使えない温泉も見つけて、修復したのだ。さすがは玉藻だよね。


 しっかりとした露天風呂として作られており、外から覗けないようにと、魔物が入り込まないように、結界も張られている。


 広々とした露天風呂は解放感があり、泳げるぐらいだ。紳士諸君は泣き叫ぶかもしれないけど、お湯は白く濁っているので、入っていてもその裸は見えない。


 あれからお夕飯を食べたみーちゃんたちは、また温泉に入ろうよと再度温泉に入っていた。うむぅ、温泉サイコー。


「出たら、枕投げやろうよ〜」

「……私、ここに住む」

「またカレー作らない?」


 ホクちゃんはまだまだ元気そうで、枕投げの練習なのか手をぶんぶん振っている。セイちゃんはウトウトして寝ちゃいそうで、ナンちゃんは20合以上のご飯を食べたはずなのに、ぺたんこなお腹なので不思議だ。


 そして鈴を始めとした先輩たちは遠い目をして、ハハハと空笑いをしている。


 闇夜はというと、お湯の影響なのか頬を真っ赤にしながら、みーちゃんに近づいて笑顔で口を開く。


「みー様。背中の洗いっこをしませんか? 髪の毛も丁寧に洗います」


「コンちゃんもワシャワシャ〜って、洗っちゃうね〜」


「コンコンッ」


 シャンプーでコンちゃんを洗っている玉藻。いいなぁ、みーちゃんもモコモコ泡だらけコンちゃんを洗いたい。


 玉藻はアワアワ〜と鼻歌を歌いながらコンちゃんを泡だらけにしている。なぜか玉藻の肢体も泡で覆われているのは、魔法の神秘的な力だろう。


 クラスメイトたちものんびりとして、お湯に浸かっている。早くも二回目の入浴となる皆が大好き温泉です。


「それにしても、ここに来る間大変だったみたいだね」


「そうねっ! なぜかそこそこ強い魔物がちらほらと現れて、倒すのに時間を消費したわっ」


 お風呂内で泳いでいるニニーが、半眼となって話に加わる。体が浮いているのは、きっと得意の浮遊魔法の力だろう。


「それをシンさんが、助けに入っていました。正直助けに入らなくても、教員が助けるので余計なお世話なのではとは思いましたが」


 銀髪をお湯の中でゆらゆらと広げて、聖奈がみーちゃんを見てきた。温泉に髪の毛を入れると傷むんだけど、後で回復魔法を使うつもりに違いない。


 そして今回のイベントでは、やはりシンが助けに入っていたらしい。実に主人公らしい行動だ。


「減点されちゃうところだったから、助かったんじゃないの?」


「自分の力を自覚するには、早ければ早いほど良いと私は思います。ここで減点された方が、注意深くなったかもしれませんよ?」


 シンの行動は、聖奈的には反対らしい。たしかにそういう考えもあるよね。痛い目に遭わないとわからないことってあるのだ。


「まぁ、皆仲良くなったし、良いんじゃない?」


 シンの人気が上がって、みーちゃんは悪役として人気が下がった感じかな?


「そうそう。エン様のお陰で旅行になったし」

「後で恋バナしない?」

「私、お菓子を持ってきたよ」


 なぜか女子たちがニコニコ笑顔で、褒めてくれる。みーちゃんも人気が上がったのかも。


 まぁ、お風呂に入る前は疲れ切っており、身体も汚れていたからね。無理ないかもしれないや。


 美少女たちがキャッキャッウフフと、露天風呂に入っている、楽園がここにはあった。


 なぜか星灯りがビームのように、少女たちの身体を隠したり、コンちゃんがぴょんぴょんと跳ね回り、少女たちの身体が見えないようにしているので、全年齢バージョンだと言えよう。


 みーちゃんに取り憑いている悪霊は封印しているので、皆を見ても特に何も思わない。重装甲の少女に、どこで装甲買ったのと尋ねるぐらいだよ。


 エリザベートと月は不満そうに怒った表情で、早々とお風呂から出ていったのでいない。本当に72億円かけて修復したことを理解して、驚きで目を剥いていたからね。


 男子の覗きイベントもどうやらないらしい。犯罪に繋がる行為はしないのが当たり前なんだけど。


 皆が寛ぐ中で、本題に入ることにして、蕩けた顔で湯船に浸かる聖奈へと向き直る。


「せーちゃん、なんでシン君のパーティーに入ったの?」


 コテリと小首を傾げて、不思議そうな顔で気になっていたことを尋ねる。


 疑問だったんだよ。シンのことを聖奈は嫌っているから。


 聖奈がお湯に濡れた銀髪をかきあげて、みーちゃんへと教えてくれる。


「勝利さんが『須佐之男』に所属してますから、一緒に行動するようにと上から指示があったんです」


「おぉ、それで恋人と一緒にいたいから、せーちゃんも一緒のパーティーに入ったんだ!」


「婚約者候補ではありますよ」


「好きなんでしょ?」


 恋バナ、恋バナだよと、ふんすふんすと興奮気味に確認すると、聖奈は苦笑して口端を僅かに悲しそうに歪める。


 なんだか変な反応だ。勝利のことが好きではないのかな。


「もちろん好きですよ。下心が丸見えで、迂闊な行動しかとりませんし、下種なところもありますが」


「………どこらへんが好きなわけ?」


 どう考えても酷い男にしか聞こえない。冷めたジト目となってしまうと、それを見た聖奈はクスリと笑う。


「性格はアレですけど、どんどん良い方向に変わっていっていますからね。何度も助けてくれましたし、力のない人々のために行動できる人です。この先の未来が楽しみな人です」


「おぉ、ラブラブ?」


「でも、恋には発展していないと思うんです。それに勝利さんをこき使っているので、罪悪感がありますし」


「あの男子はご褒美だと思っているよ?」


 きっと馬車馬のように働かせても、「働きなさい、おほほ」と聖奈が鞭を入れてあげれば、ご褒美だと興奮して喜ぶ未来しか見えないよ?


「それは否定できないですね……勝利さんですから」


 やはり認識はしている模様。まぁ、頭突きを受けて喜ぶ相手だからなぁ……。以前は聖奈の突進を無防備に受けてたし。


「でも………酷いのは私なので、きっとこの罪悪感が消えない限り、本当に好きになることはないでしょう」


 夜空を仰ぎながら、遠い目をして聖奈は語る。


 ふむ……他にも理由がありそうだね。なにがあったのかなぁ? 小説のイベントかな?


 もっと聞いてみたいけど、聞いたら悪いかなと、ソワソワみーちゃんになっていると、聖奈がポツリと呟くように言う。


「もしも……結末が決まっていて、何度やっても同じ運命を辿るしかないとしたら……みーちゃんはどうします?」


「うん? それはどういう」


 意味ありげなセリフだねと、身を乗り出して聖奈に尋ね返そうとするが、ふよんと背中に柔らかい感触が当たってきた。


「コンちゃん、綺麗になったよ〜」


 お風呂に飛び込んできて、バシャリとお湯を跳ねさせて、玉藻がニヒヒと背中に張り付いてきた。


 むむ、玉藻はだいぶ重装甲になっているようだね。むむむ、悔しくなんかないもん。


「そういえば、シンさんの様子が変ではありませんでしたか?」


 闇夜がパシャパシャと泳いで近づいてくる。


「シン君が変だった?」


 たしかに変な感じがした。どことなく変な感じ。それを闇夜も感じとったのだろう。


「なんというか……。纏う空気が変わっています」


「たしかに空気が違ったよね。なんか嫌味な感じがなかったよ〜」


 不思議そうな顔をして、玉藻も闇夜の言葉に同意する。


 人と言うのは微かな仕草や言葉の口調などで、イメージが変わる。


 シンとはたびたび会話をしているし、その行動は目立つので、以前のイメージは覚えている。


 闇夜たちの観察眼はかなりのものだ。今日のシンを見て、僅かな違和感を覚えたのだろう。


「そうですね。今日のシンさんはいつもとは違いました……。危機に陥ったクラスメイトたちを躊躇なく助けていましたし」


 コクリと聖奈も同意する。やっぱり聖奈もおかしいと感じていたのだ。


 空気を読まずに助けに入る正義の人。今日のシンは原作の主人公のようだった。


 いつもなら遠まわしに自分の利益にしようとするように持ってくるからね。


 まったく狡猾な男なのである。酷いよね、純真無垢なみーちゃんにはできないことだよ。


「なにかがあって、心を入れ替えたのかなぁ?」


 玉藻がみーちゃんを抱きしめながら、シンになにがあったのか首を傾げる。


「公爵家の嫡男としては、まずいかもしれませんよ。それにそれだけの演技力を手に入れたのかもしれません」


 なぜか闇夜もみーちゃんに抱きついてくる。裸だから少し恥ずかしいんだけど。


「闇夜ちゃんは辛辣だね。でも心を入れ替えたか……」


 たしかにそうなのかもしれない。文字通り心を入れ換えたのかも……。


 オーディーンのお爺ちゃんの仮説の一つでもある。原作どおりの主人公か………。


「心を入れ替えたのかはわかりませんが、あの性格なら変なことは考えないと思いますよ」


 聖奈のセリフはもっともだ。原作の主人公ならば人を陥れたり、汚いことはしないだろう。そういったあくどい行動は主人公らしくない。


 清廉潔白、勧善懲悪、正義感の厚い主人公が神無シンなのだ。


 だが、主人公は汚れ仕事をせずとも………周囲の人間が準備をしていれば、話は別だよね。


 聖奈も同じことを考えているのだろう。その目つきは鋭かった。


 明日の鉱山ダンジョンの攻略。やっぱり波乱となりそうだ。


 それはともかく、闇夜ちゃん、玉藻ちゃん。そろそろ離れてくれないかな? くすぐったいんだけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読ませて頂いてます。 一気に纏めて読む派なので、暫くぶりに閲覧しております。 良い点?……全部? [気になる点] 8章 中学生 230話 悪役モブなんだぞっと  カポーンとコケ…
[一言] さらっとループ示唆w 一体何がどうなってるのか楽しみすぎる
[一言] いつか成長した勝利くんが聖奈のモヤモヤを晴らしてくれる日が来ると良いね!
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