23話 現代ファンタジーの遊び道具だぞっと
現代ファンタジー。科学と魔法と学園モノ。そんなゲームが一本作れそうな名前だが、実際に現実となるとどうなるかって話だ。
これが中世ファンタジーなら、科学の力は凄いよと、ドヤ顔知識で元素周期表など見せたりして、酸素を混ぜると炎の威力が上がるんだ、とか知識無双ができるよな? 正直、魔法がある時点で物理法則は違うのではと俺は考えているが、そんな感じ。
だが、現代ファンタジーに転生したらどうなる? 科学の知識を持つ魔法使いが、魔導機械を作るんだ。テレビを作ることが転生者にできるか? 知識無双できるか? 青色の方が炎の熱は高いぜ、なーんて子供でも知っていることをドヤ顔で説明しても、誰も感心してくれない。
と、なると転生者はどうするか?
簡単な話だ。
テレビはリモコンのボタンを押せば使えるのさ。前世では、リモコンもゴテゴテボタンが増えて、使いこなすことはできなかったが。
まぁ、何を言いたいかというとだ。
「『浮遊板』楽しみだね、玉藻ちゃん!」
何も考えずに遊ぶことにするんだ。現代ファンタジーのこの世界。小説の世界に存在する魔導技術は、前世の科学技術を超えている。なにせ、物理法則を飛び越えることができるんだからな。
遊び道具も、それはまぁ面白い物があるわけ。デンドロビウムに乗って未来に行った主人公が見た遊び道具のような物があるんだぜ。タイムマシンの車の名前、デンドロビウムだったよな?
下校して、てくてくと歩く事暫し。灰色の髪を靡かせて、美羽はニコニコとご機嫌で目的地まで歩いていた。
一緒に来ているのは、玉藻と他3名の少女たちだ。闇夜は訓練があるからと、帰っちゃった。最近、付き合い悪いんだよな。子供時代はたくさん遊ばないと、大人の時に反動が来るから、今度は無理にでも誘うつもりだ。
「とうちゃーく」
子狐を胸に抱えた玉藻が笑顔で言う。俺たちの目の前には、魔導児童アミューズメントパーク『神無』と看板がドテンと飾られている巨大な施設があった。
ゲームセンターじゃないぜ。まぁ、同じようなもんだけどな。
「玉藻がいちばーん」
玉藻が子狐を肩に乗せて、楽しげに笑いながら中に入っていく。他の子供たちも、きゃあきゃあと声をあげながら後に続く。もちろん、精神的に大人な俺は、そんな友だちを温かい目で、見守りながらゆっくりと入る。
「負けないもん! 待ってー!」
そう思ってたんだが、身体に引きずられて、美羽も灰色髪を靡かせて、走って追いかけてしまうのだった。
中はエアコン完備で、涼しい風が肌を撫でてくる。少し汗をかいていたが、すぐに汗は引っ込む。風邪を引くかも知れないから、気をつけないとな。
中は天井は高く、吹き抜けの5階建てだ。敷地はかなり広くサッカーグラウンドが2面は取れるだろう。
ワイワイと多くの子供たちで賑わっている。ここらへんの学校の子供たちが集まっているのだ。自動改札機があって、ランドセルから年間パスポートを取り出すと、皆はピッと通して中に入る。本来は500円の入場料が必要だが、皆は年間パスポートを所持していた。年間パスポート2万円なり。ゲームを遊ぶのに、別途お金がかかる。
うちの学校は良家の息女ばかりで、皆はこの程度の金額なら親はポンと買ってくれるのだ。運動系アミューズメントパークで、子供たちの遊びにはちょうど良いとの考えもある。
前世の俺の親なら絶対に無駄だと買ってくれなかっただろう。だが、うちはそこそこ裕福だ。この学校は闇夜に強く勧められたんだけどな。俺も実は稼いでいる。と思う。時折、怪我人を治してほしいと、帝城家からお願いされて、回復魔法を使っているのだよ。
この歳で働いているのだから、偉いねと褒めてくれても良いんだぜ。両親は褒めて頭を撫でてくれる。幾ら稼いだかは聞かない。両親に育てられているんだ。生活費の足しにしてくれ。どうせ、12歳を超えたら冒険者になって、ぶいぶい稼ぐしな。
というか、俺に怪我人を回してくるのは、回復魔法の練習をさせようとの思惑もあるんだろう。まさかのゲーム仕様なので、失敗はしませんとは言えないしな。失敗する時はスタン攻撃を受けるか、魔法封印を受けるときだけだ。
というわけで、俺もランドセルから年間パスポートを取り出すと、自動改札機を通して、皆に追いつくのであった。
美羽は未だに勘違いしていた。回復魔法使いはそこらにゴロゴロいると。それは、美羽に特別な人間と幼い時から思わせて、性格が歪まないようにと、そのため、密かに隠れて護衛がいると知られたくなかったからである。帝城家の凄腕が隠れて常に護衛をしていたが、常にそんな状況にあると知れば、大きなストレスになるだろうからとの配慮からであった。
中に入ると、カウンターがいくつもあって、魔導具を使った様々なゲームの受付となっていた。柱にはホログラムで、今日の予約状況や、空いているゲームが表示され、イベントの開催日時もある。
基本的にお金持ちの子息息女をターゲットにしているために、軽食を売っているフードコーナーも設置されている。
「わかりやすいほどの格差だよなぁ」
子供たちは身なりが良いし、メイドや執事を伴っている子もいる。貴族なのだろうと思う。俺の友だちは貴族も平民もいるが、やはり上流階級だ。
「たしか、反対にスラム街もあるんだよな。明日の飯も食えない奴らや、裏の組織、たちの悪い集団がいたりするんだ」
貴族、平民、貧民と格差があるのが、この世界だ。格差があった方が、ストーリー作りに困らないと『魔導の夜』の作者は考えたに違いない。光の暮らしある所に、闇の暮らしがあるとかな。
まぁ、考えても仕方ない。俺は小学3年生。できることはない。やることは家族仲を守るのと、強くなることだけだ。闇夜たちも守るのは当然だぜ。
玉藻は『浮遊板』のカウンターで既に手続きをしている。手慣れているので、ポチポチとタッチモニターに必要なことを入力していた。
「エンちゃん、とーろく完了!」
コンッと肩に乗っているコンちゃんも胸をそらし、玉藻がえへへと自慢げに伝えてくる。
「わーい、楽しみ!」
「うん、今日は玉藻ちゃんに勝つよ」
「後でフードコーナーに行こうね」
友だちたちも、わぁいと無邪気に手を掲げて喜ぶ。ちなみに、ナンちゃん、セイちゃん、ホクちゃんという可愛らしい少女ズだ。
「ありがとう、玉藻ちゃん! それじゃあ、レッツゴー!」
玉藻が俺たちに使用カードを渡してくれるので笑顔で答えると、てててと更衣室に走るのであった。
更衣室では、特に照れることはない。もう俺も女の子になって9年。慣れたもんだ。少し罪悪感と背徳感を覚えるけどな。心は男なので、妙齢の女性には照れちゃうけど。
皆、ぴっちりとしたメカニカルなレオタードのような衝撃を吸収するマイスーツに着替えると、『浮遊板』の幼年部コーナーに移動した。ぴっちりとしすぎて、この服は恥ずかしいが、仕方ない。なんというか、もう少し歳を重ねたら、目のやり場に困っちゃうだろう。
『浮遊板』はその名のとおり、浮遊するボードに乗って楽しむ遊びだ。前世よりも遥かに技術が優れていることが、子供の玩具でわかると思う。
広々とした体育館のようなホールと、レース用の空に設置されたチューブがある。床はスライムのようにぷにぷにで、落ちても怪我をすることはない。チューブは透明で、シャボンチューブと呼ばれており、やはり激突しても、泡に当たった感触で怪我を負わない。
時速20キロ程度ならという注釈はつくけどな。
「玉藻は小回りが利くこのボードにする〜」
壁に立て掛けられている『浮遊板』。まぁ、タイヤのないスケボーなんだが、そのひとつを掴んで、玉藻はぴょんぴょんと飛び跳ねて、ホールに向かう。
『浮遊板』をえらぶのは性格が出るよな。他の友だちもそれぞれ選んで、きゃあきゃあと笑いながらホールに向かう。
俺は立て掛けられているボードを見て、何にしようか迷う。加速、旋回速度が平均的なボードは一番人気らしく、一枚もない。代わりに一つも減ってないボードもある。
「これにしよっと!」
ちっこい手で、一枚も減ってないボードを手にとって、とてちたと駆け寄って友だちに合流する。他の子供は板が薄くてカラフルな絵が描いてあり可愛らしいが、俺のだけ板が分厚く、そっけない地味なボードだ。
「あ〜、また魔王ボードにしてる〜」
「これ、お気に入りなんだ!」
不満そうに、プクッと頬を膨らませる玉藻。他の子供たちもまたへんてこなボードを選んでいると笑っているので、ニパッと快活な笑みを浮かべ返す。
「それじゃあ、遊ぼ!」
ヘルメット脇のボタンを押すと、シャボンが俺の顔を包む。これで完全、怪我を負うことはない。『浮遊板』は低空を飛ぶ遊びなので、最大限の安全を考慮されているのだ。
「おっけー。それじゃあ、『浮遊板152起動』」
ホクちゃんが最初に『浮遊板』が青く不思議な光を宿し、ふわりと浮く。魔導の板の力だ。
スケボーと違う所は、地上から1メートル程宙に浮くこと。そして、ボードに乗って念じるとまるでエンジンがついているかのように動き出すことだ。
幼年用のは時速20キロまで出せるが、ホールは練習用なので、のろのろ徐行運転。『浮遊板』に慣れたら、チューブに入ってレースをするのだ。
「てや~」
早速セイちゃんがボードに乗って、ホールを走る。俺たちは何度も遊んでいるので慣れたものだ。
周りの友だちも乗って、ホールに滑るように入っていく。宙を飛行して遊ぶなんてファンタジー、俺はこの遊びをすぐに気に入った。前世の記憶がある分、興奮しちゃうのは仕方ないよな。
「私も〜」
俺も『浮遊板』を起動させて、ホールに入ろうとするが、皆が滑るように入っていく中で、俺だけのろのろ運転だ。このボードは加速性能が極めて遅いんだ。
セイちゃんたち一般人が『浮遊板』を起動できたように、これは魔法使いでなくとも使用できる。
魔法使いが危険な存在だと排斥の声がかからないのは、ここにある。いや、『浮遊板』のことだけじゃねぇよ?
魔石をエネルギー源として、一般人も起動できるんだよ。なので、この世界に魔導は浸透している。なら、魔法使いでなくても、戦えるじゃんと言われそうだが、魔石を使用すると、魔石の持つ魔力値しか使用できない。
例えると魔力値10で固定される。魔法使いの魔力値は遥かに高い。なので、消耗する魔石よりも、遥かに魔法使いの方が戦闘では良いのである。もちろん例外はあるぜ? 高ランクの魔石をドカドカと装備した機動兵器とかな。
だが生活では低い魔力値の魔石でも、こんな楽しいことができる。他にも重量軽減のパレットとか、浮遊できるベルトとかな。前者は運搬に、後者は工事に使えるので便利極まりない。
なので、魔法を使えなくとも、人々は身近に魔導があるために、魔法使いに忌避感を抱かない。もちろん例外はいるぜ? それは前世でも同じだろ? 全員が賛同するようなシステムは無理だ。
ようは大多数の人間に魔法は身近な物として存在しているということと、魔物を倒してくれるために、魔法使いは社会の一員として、普通の職業として認められているということだ。
魔導システムって、常に俺にワクワクを与えてくれるから大好きだ。
のろのろとホールを飛んでいく。あんまり爽快感は無いが楽しい。スライムの床にわざと落ちて、ぷにぷにの感触を楽しんでいる子もいる。
「ぷーっ、見ろよあいつ。赤ん坊が歩くよりも遅いぞ」
「初めてなんだろ、あんな遅いボード選ぶなよな」
「もう少し別のボードを選んだ方が良いぜ〜」
おっとっとと、俺が落ちないように頑張りながら計測不能ののろのろ運転で飛んでいると、それを見た悪ガキ共が、からかってくる。まぁ、のろのろ運転だからな。美少女だから、からかいたいんだろ?
アイスブルーの瞳を悪ガキたちに向けて、にっこりと優しく微笑むと、うぅと悪ガキたちは顔を紅くして照れ始めた。わかるわかる。美羽は美少女だからね。
俺はそれだけで黙り込む悪ガキたちに満足して、またのろのろと飛ぼうとしたが、シュインと音を立てて、玉藻が俺に横付けしてきた。
「ねぇ、エンちゃん、レースしよっか?」
可愛らしい狐っ娘の玉藻だが、その性格は結構好戦的だ。馬鹿にされた俺を思って、悪ガキたちを見返したいのだろう。友だち思いなんだ玉藻は。
その瞳が肉食動物のような危険な光を見せるので、俺もニカリと笑う。
「良いよ。レースしよっか」
レースは俺も大好きだ。その話、乗ったぜ。




