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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
8章 中学生

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219話 放逐されなかったんだぞっと

 神無シンは誰をも魅了するような爽やかな笑みを浮かべて、みーちゃんたちの方へ近づいてきた。後ろには義妹さんの月と、婚約者の瑪瑙エリザベートを連れている。


 神無月はセミロングまで伸ばしている紫色の髪に、紫水晶のような綺麗な瞳。小柄な体躯で小動物のようだ。


 瑪瑙エリザベートは、金髪ドリルの古き良きプライドの高い少女だ。犬耳と尻尾を生やしている狼っ娘である。


「きゃぁ〜、シン様よ!」

「ほとんどの属性魔法を使えるそうよ」

「素敵ね、まだ婚約者は決まってないんでしょ?」

「勝利様のことよね。私は押せば落ちそうな勝利様が良いわ」


 婚約者が隣にいるのに騒ぐ生徒たち。かなり図太い性格なのだろう。それか集団心理かな? 勝利も騒がれているな。


 シンはにこやかに周りへと軽く手を振り、勝利はムスッとした顔で生徒たちを無視していた。対照的な二人だ。


 聖奈の恋人は死ななかった。これからイベントで死んじゃうのかな? もう原作は崩壊しているから、さっぱりわからないや。


 エリザベートは騒ぐ生徒たちを威嚇するのかと思っていたら、なぜかみーちゃんを親の敵のように、眉を顰めてガルルと睨んでいた。


「私、おやつ用にホーンベアカウのジャーキー貰ってるよ」


 なので、お腹が空いているんだねと、こっそりとホーンベアカウジャーキーをエリザベートに手渡す。


 おやつ用にジャーキーを持ってくる、極めて少女らしくなったみーちゃんである。まだ前世の呪いが残っているのかもしれない。


「なっ! 馬鹿にしないでくれます? 鷹野家はライバルでモガッ」


「まぁまぁ、食べて」


 無理矢理開いたお口に放り込む。憎々しそうに睨むと、むしゃむしゃと食べて、またすぐに怒りだそうとするが


「クッ、な、なんですのこれ?」


 縦ロールがビヨーンと立つと、ジャーキーなのにとっても肉々しいですわと、むしゃむしゃと食べ続けた。


「エンちゃん、私にもちょうだい〜」


「たくさんあるから、あげるね」


 ナンちゃんが、みーちゃんにだらーっとしがみついてきたので、とっても美味しいよと分けてあげる。


「うぬぬ……わたくしにも、もっとお寄越しなさい」


 悔しい顔をしながらも手を伸ばしてくるエリザベート。あっという間に食べたらしい。


「尻尾をモフモフさせてくれたら、あげるよ!」


「………クッ、わかりましたわ。さぁ、お寄越しなさい」


「ありがとう。もふ……玉藻ちゃん?」


 わーいと、エリザベートから生える尻尾をモフモフしようとすると、玉藻が襟首を掴んできた。犬の尻尾をモフモフしたいのに、なにかな?


「大丈夫。玉藻の尻尾があるよ〜」


 ドロンとコンちゃんと同化して、目の前でゆらゆらとモフモフな狐の尻尾を揺らしてくるので、ジャーキーをエリザベートに渡すと、玉藻の尻尾にしがみつく。


 モフモフ最高〜。何回モフモフしても、玉藻ちゃんの狐の尻尾は最高だねと、顔を緩ませちゃう。


「クッ、美味しい……今までの中で一番美味しいですわ!」


 受け取った傍から、ガジガジと齧るエリザベート。美味しすぎて口が止まらないようだ。


 そうだろう、そうだろう。『料理人Ⅳ』で製作したホーンベアカウジャーキーだからね。ちなみに体力が8時間の間20%上がるよ。


「ちょっとエリザベート! 文句を言うって言ってたじゃないっ!」


「クッ。このジャーキーがいけないのですわ。口が止まりませんの!」


 月がジャーキーに夢中なエリザベートに文句を言うが、もはやジャーキーの虜となっている。


「くっころか………」


 なぜかフンフンと興奮する勝利。なるほど、座布団を一枚あげてもいいよ。


「まぁ、エリザベートは少し気性が激しいからね。皆さんと一緒のクラスになれて良かったです」


 月に激しく体を揺さぶられても気にせずに、ガジガジとホーンベアカウジャーキーを食べるエリザベートを見て、シンは軽く肩をすくめたあとに笑いかけてくる。


 主人公らしく爽やかな笑みで、その顔には含みがなさそうに見えるので、反対に凄い。まだ中学生なのに、こんな演技ができるのは神無シンぐらいだろう。狡猾な主人公だよ、まったく。


「うん、シン君たちと一緒で嬉しいよ! これからよろしくね」


 なので、みーちゃんは嬉しいよと、ニパッと無邪気な笑顔で答えてあげる。


「これからよろしくお願いします」


「よろしくね〜」


 闇夜と玉藻も挨拶を返し、ホクちゃんたちも同じように挨拶をする。


「『マナ』の覚醒おめでとうございます。シンさんは信長お兄様と同様に、複数の属性を扱えるとお聞きしました」


 小首を僅かに傾げさせて、パムと両手を合わせてニコリと微笑みお祝いを口にする聖奈。流石はメインヒロインだ。とっても可愛らしい。


「……おめでとう、シン。お前どうやって覚醒したわけ?」


 勝利が微妙な顔でお祝いを口にするが、その顔はなぜか納得いかなそうだ。複数の属性に覚醒したシンが妬ましいのかな?


「幸運の女神に愛されているようでね。年齢ぎりぎりだったから焦ったよ」


「………弟は事故死したらしいな? お悔やみを申し上げるぜ」


「うん、とっても悲しかったよ。魔物が急に現れてね。魔法の練習をしていた弟はそこで……。魔物というのは本当に怖いよね」


 悲しげに顔を俯けるシン。


 そうなのだ。シンの弟は死んだ。


 2年の間の嫌がらせにより神無家は勢力を削られた。


 今、一番勢いのある派閥は皇帝派。その中でも帝城家だ。なにしろ『須佐之男』部隊と、『武士団』のトップである。


 軍のトップを神無家は譲ってはいないが、その勢力は削られている。神無家の大きな支援者である瑪瑙家の経営する『犬の子犬』商会は地味に売り上げが下がっており、配下の貴族も減っている。


 そのために、次に力があるのが鷹野家で、三番手は皇帝派でありながら、争いには介入しない龍水家。粟国家は派閥を持たずに、あっちに顔を出したと思ったら、こっちにと節操がないので派閥がない。


 なので、神無家の勢力は4番手まで落ち込んでしまったのである。


 『ウルハラ』の魔導鎧が軍にも採用されるとなれば、ますます神無家は追い込まれる。


 事ここに至って、神無公爵は皇帝を狙う茶番を諦めたらしい。このままでは皇帝を狙うどころか、没落しちゃうからだ。


 シンは『マナ』に目覚め、弟は用無しとなって事故死となった。


 シンは悲しそうな顔をしているが、エリザベートに文句を言っている月は、まったく動揺も悲しい姿も見せていない。ちょっと中途半端だよ。周りの仲間を気にしないとね。


 予定通りだが、実はシンは『虚空』属性に覚醒したのではなく、神聖以外の通常の属性に覚醒したと発表している。なぜ『虚空』を隠しているのか疑問だ。


 不可解だが、なにか理由があるのだろう。警戒するなにかだ。たぶん逆転するための手段の一つにしていると思われる。


「これからは信長お兄様のもとで、ご活躍を期待していますね、シンさん。なにせ、未来を作るのは、これからは私たちなんですから」


 ムンとサムズアップをして、小動物のような可愛らしい姿を見せる聖奈。


 その言葉を受けて、ニコニコとシンは答える。


「はい、これからは一層頑張りたいと思います。信長様にも神無シンがお支えしますと、お伝えください」


「はい、もちろんです」


 穏やかな空気を醸し出して見つめ合う聖奈とシン。推定で二人は未来の記憶があるはずなのに、よくこれだけの演技ができるものであると感心しちゃうよ。


 可愛らしくて無邪気なみーちゃんにはこんな演技は不可能だよ。


「友だちだしな。よろしくな、シン」


 ウッキーと勝利が見つめ合う二人の間に入り込む。邪魔をするらしいが、どうでも良いや。


「皆さん、そろそろ入学式です。体育館に向かいましょう」


 闇夜の言葉に、そうだねと頷くと、みーちゃんたちは入学式に向かうのであった。


「挨拶は試験でトップをとったシン君だっけ」


「そうですね、全て満点だったらしいですよ。学院設立以来、初の点数だとか」


 はい、小説のテンプレ頂きました。闇夜のセリフって、いろいろな学園物でよく聞くセリフだよね。


 魔法学とか、チートなゲームキャラのみーちゃんでも満点はとれなかったよ。というか、大人であっても、受験で全科目満点は無理だから。


 どんな挨拶をするのか、楽しみだね。



「でだ、明日から早速魔法の練習を行う」


 なぜかクラスの担当となった先生が説明をしていた。


 みーちゃんは席に座って、聞いている。


 あれぇ? 入学式は?


 体育館に到着して、椅子に座って……校長のながーいお話があって……。その後の記憶がない!


「大変だよ、闇夜ちゃん。入学式の記憶がないの」


 隣の席に座る闇夜へと小声で尋ねる。もしや魔法攻撃?


「みー様はすぐに眠りましたよ。すよすよと可愛らしい寝姿でしたので、ここまで運んできました」


 ほわぁと頬を手で押さえて、幸せそうな顔になる闇夜。


「寝ちゃった?」


「はい。気持ち良さそうに」


「そうか……校長の『呪歌』の力だね」


 校長め、どういう顔かも覚えていないけど、凄腕の魔法使いだね。なかなかやるじゃん。状態異常をほとんど防ぐみーちゃんを寝かせるなんてね。


 でも、そうするとだ。問題があるよ。


「生徒会長の挨拶は? シン君のお話は?」


 なにか意味有りげな視線を向けてくる生徒会長や、含みのあるセリフを挨拶に混ぜるシン。


 そんなイベントがあると思ってたんだけど?


「そういえば、生徒会長は聖奈さんを見ていました。神無さんも同じですね」


「へー」


 どうやらモブなみーちゃんはスルーされたようだ。


 なにこれ、世界の運命なの? みーちゃんは中学生でも空気なようだね。


 寝ているみーちゃんに注意しないなんて、先生も酷いなぁ。


 鷹野家に手を出すと痛い目にあう? こういうので、恐れられても困るんだけど。後で遠慮なく怒るようにパパを通してお願いをしておこう。


 パパには怒られちゃうけど、仕方ないや。これからは睡眠無効のアクセサリーを装備しておこうかな。


「全員、班を作っておけよ〜。来週にはダンジョンに潜るんだから、装備もきちんとしておけよ〜」


 先生が注意してくるので、皆ははーいと返す。よくわからないけど、みーちゃんも頷いておく。


 オリエンテーションで、ダンジョン探索かぁ………。


『メインストーリー:波乱のオリエンテーリング』


 原作だと、高校生になってからなんだけどなぁ……。


 まぁ、モブなみーちゃんが暗躍するかな。


 目の前に映し出されたログを見て、フワァとあくびをする。


 あんまり夜更しをしないようにしようかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] それこそ神たる勝利やシンからすれば誰が特異点かは解りそうなものだが、 そこはモブ補正力に隠されてるのか
[一言] 勝利ってホント運がイイネ 原作イベントだと2週目シンにボッコボコにされてるはずだったし おまけに犬耳娘のくっころが見れた
[一言] 神無月はなかなかに可哀想な名付けw
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