202話 出落ちはそろそろおしまいなんだぞっと
エーギルが逃げて、ボーナスイベントが終わっちゃったので、しょんぼりみーちゃんだが、気を取り直して、味方へと身体を向ける。
まぁ、エーギルと直接戦闘にならなかったのは、喜ぶところだろう。あいつは軍団を召喚しないで、ソロで戦闘する方が遥かに強い。
だから、逃げてくれて幸運だったとも言える。マナが尽きたと言っていたので、倒すチャンスだったかもしれないけどさ。
エーギルのことは、とりあえずおいておいて、闇夜たちの様子を見ると、森林内から新たに現れた魔物たちと激戦を繰り広げていた。
今度は4本の腕を持つフォレストベアーや、2つの頭をもつヘルハウンド、針金のような毛皮を持つフォレストゴリラだ。
さっきの魔物よりもレベルは高く強そうだ。精鋭なのだろう。約300匹はいそうだ。解析したら平均レベル30ぐらい。
そして更に後ろから、『丘巨人』が3体。本命の敵である。
戦闘ヘリはというと、近衛兵たちが空を飛び戦っていた。互角の戦闘をしているので問題はなさそうだ。戦闘ヘリと互角とは、さすがは精鋭たる近衛兵たちだ。
「乱戦になってるね。これだとブレスは使えないか……」
金剛お姉さんたちや、マティーニのおっさんパーティーたちも必死になって戦闘をしており、装甲車の機銃が火を吹き、魔法弾を掃射している。
聖奈は皆の動きを見つつ、大怪我を負った味方へと回復魔法を使っていた。
ニムエが、防衛線を破られそうな場所に、水の蛇を撃ち、敵を倒して援護している。主にマティーニのおっさんパーティーの場所だけど。
数では圧倒的に下回るし、レベル的にも互角に近い敵なのに、味方は善戦している。
魔物は連携を組んでいないから、そこが弱点となり、味方はなんとか抑えているっぽい。
さて、どうしようかな。
範囲攻撃が使えない今は、聖奈と同じく後方支援に徹しようかと考え込んでいると、得意げな声がしてきた。
「義を見てせざるは勇なきなりという。偶然に通りかかったところ、危機と見て駆け参じました!」
カァとカラスの鳴き声が聞こえてきて、声をかけてきた者を解析する。
『大友宗麟:レベル51、大型魔導鎧『鉄甲11式』装備。弱点雷』
魔導兵器に近い、手足が生えたモーターボートのような形をした大型魔導鎧『鉄甲11式』を装備した男と、その後ろに魔導鎧を着込む者たちが空を飛んでやってきた。
大友伯爵たちだ。そういや、いたな。型落ちの大型魔導鎧を着ているのが、哀愁を誘うよ。
それに船体の船首に合体しているから、敵からの攻撃がとっても当たりそう。
というか、偶然に通りかかっただけで、整備も持ち運びも大変な大型魔導鎧を装備しているって、無理がありすぎるだろ。
みーちゃんたちは呆れた目を向けてしまうが、大型魔導鎧は型落ちでも、その火力は高かった。
大型魔導鎧の船首にちょこんと乗っているような形となっている大友伯爵は、身体を傾けて魔導鎧のスラスターを吹かせると、戦闘ヘリへと接近する。
「曲者めっ! この大友宗麟が相手をしよう!」
『風刃翔破弾』
大型魔導鎧の肩の部分が開くと、丸い水晶玉を撃ち出す。敵ヘリに水晶玉は向かい、寸前迄迫ると魔法陣を複数発生させた。
魔法陣は光り輝くと、爆発するかのように、無数の風の刃を生み出して、近くにいる戦闘ヘリの装甲を切り刻む。
金属が歪む嫌な音がして、戦闘ヘリは飛行能力を失い墜落していく。
「下郎めっ! どうだ、この大友伯爵の力は!」
モーターボートみたいな魔導鎧を纏った大友伯爵は、次に船体脇に取り付けられていた長大な剣を抜き放つと、振りかぶる。
「喰らえっ! 正義の剣!」
『ブレードバニッシャー』
刀身が赤熱で真っ赤になり、大友伯爵は機体を回転させて、次の戦闘ヘリに横付けすると、刀を突き刺し勢いよく通り過ぎていく。
ギャリギャリと音を立てて、大きく機体を切られた戦闘ヘリは錐揉みをして墜落していった。
大友伯爵の近くを飛行していた戦闘ヘリが旋回して、機銃を向けると、掃射してくる。
タララと機銃音が響き、弾丸が大友伯爵に襲いかかるが、回避行動すらとらずに、まともに弾丸を受ける。
しかし、弾丸が命中する瞬間に、ハニカム構造で形成された何層もの魔法障壁が発生し、その全てを受け止めてしまう。
「ふっ、この『鉄甲11式』は、『竜鱗式魔法障壁』が搭載されている。生半可な攻撃では傷もつけられぬと思え!」
決め顔で大友伯爵は笑うと、機体のスラスターを全開にして、急上昇する。そして、機体上部を開くと、搭載されていたミサイル群が現れた。
「必殺のミサイルだ。受け取れっ!」
『烈火集塵』
ミサイル群が発射されて、噴煙を跡に残し、周囲の戦闘ヘリへと向かっていく。追尾式のミサイルは回避行動に移る戦闘ヘリを追いかけて、先端に魔法陣を発生させて維持しながら、機体に命中した。
爆発と共に、激しい炎が戦闘ヘリを包み込み、魔法障壁を破壊して、装甲を溶かしていく。燃えながらも戦闘ヘリはなおも体勢を立て直そうとするが、大友伯爵の部下が剣を叩き込み、撃墜していくのであった。
強い。旧型でも大型魔導鎧はかなりの強さだ。恐らくは改修もされている。
たぶん旧型なのは、手に入れる時に足がつかないようにだろう。最新型を手に入れようとすると、どうしても足がつくからね。
そして、どうして大友伯爵がこの作戦に自信満々なのかも理解した。
金だ。あの大型魔導鎧はかなりの金がかかっている。生半可な金額ではない。大金だ。
鉄蜘蛛の活躍を見て興味を持ち、以前に魔導兵器の金額を調べたことがある。
大友伯爵の撃ったミサイル。戦闘ヘリにダメージを与えたが、撃墜まではいかなかった。とすると、推定ミサイルのレベルは30前後。金額は1発2億円はするに違いない。
他の魔導兵器もそうだけど、たぶんあの短時間の戦闘で、大友伯爵は50億円を超える消費をしている。
大型魔導兵器が流行らない理由の一つだ。魔導兵器は馬鹿高い。
そして、魔導兵器は固定された魔力のため、あのミサイルはレベル30固定だろう。
即ち、強者には効かず、弱者を殲滅するための金食い虫兵器。それが大型魔導兵器なのである。
そのような下手をすれば、破産確実の大型魔導兵器を大友伯爵が揃えられるわけがない。
黒幕が支援したのだ。そして、かけてきた金額の大きさから、大友伯爵はまさか黒幕が自分を使い捨てにするつもりなどと欠片も思っていないに違いない。
かけられた金額こそが、信頼のバロメーターとなるとは、昔のみーちゃんが言ったかもしれないがそのとおりだ。
消耗品だけで50億円もかけてくる相手が、自分を捨てごまにするつもりなど到底想像できなかっただろう。
大友伯爵のお陰で、戦闘ヘリはほとんど倒せて、残りの魔物も駆逐し始めている。残るは『丘巨人』だけだ。
『先にメインストーリーを見ておこうかな』
ステータスボードを開き、クエスト内容を確認する。今更と言われれば、フィーリングでクリアできるから、いつもは読まないのがみーちゃんスタイルですと答えます。
『メインストーリー:プロローグ【新たなる夜の帳が舞い降りる】』
『ある日のこと、弦神聖奈は親友である武門の名家帝城闇夜と、魔道具の一門である油気玉藻と、ダンジョンに遊びに行く。しかし、突然正体不明の無数の敵に襲われるのであった。彼女は知らない。新たなる夜が訪れたことを………』
「へー」
なるほどね。プロローグかぁ。『魔導の夜』が訪れたと。へー、ほー、ふーん。
で、みーちゃんの名前はどこかな? ねー、ねー、美少女みーちゃん、鷹野美羽の名前はどこにあるのかな?
ペチペチとステータスボードを叩くが、表記は変わらない。たぶんバクだ。モブの夢を食べる不具合だ。運営に連絡する方法って何だっけかな。
ペチペチ、ペチペチとなおも叩くが、表記は変わらなかった。みーちゃんの名前がどこにもない。
「ふざけてるでしょ! なんで、みーちゃんの名前がないわけ? ここでも空気なの!」
プンスコと地団駄を踏むが、それでも表記は変わらなかった。
………どうやらこの世界でもモブは空気らしい。
愕然として、肩を落としちゃうみーちゃんであった。ちょっと酷くないかな?
がっかりして、半眼となって、戦闘の光景を見守る。
残りは少し残った魔物と、『丘巨人』だけでしょ。
みーちゃんの出番はいらないよね? いや、別にいじけてないよ? ちょっとお座りして、一人でお砂遊びでもしてようかな。
「フハハハ。そこのデカブツよ。貴様で終わりだ!」
ほとんどの戦闘ヘリを撃墜し、推定100億円近くの魔導兵器を消耗した大友伯爵は、森林内に残っている『丘巨人』に目をつけて、最後の獲物だと喜び勇んで飛んでいく。
「我が大友家に伝わる奥義にて、消滅せよ!」
カシンと音がして、機体下部がウィンと開いていく。そして中から長大な砲身が姿を現した。海を表すのか、さざ波の形の意匠がまるで本物のように凝っており、宿すマナの力も大きいようで、オーラを纏っているのがはっきりと見える。
「これが無属性最高にして最強の奥義だ!」
なんだか主人公のような叫びをあげる大友伯爵。どうやらプロローグなどでよく出てくるチュートリアル的な強い援軍キャラなのかなと、空気なみーちゃんはやる気をなくして、ぼんやりと見ていた。
森林から、『丘巨人』が姿を現す。身長は約10メートル。のっぺりとしたネアンデルタール人のような顎が突き出し猿と人の間の顔つきをして、半裸であり腰蓑をつけている魔物であった。
『丘巨人』は体力馬鹿の愚鈍な魔物だと知っているので、雑魚だと思いながら、ふと思う。どこか違和感がある。
チリリと頭の片隅が警告を発している。ゲームの知識がおかしい流れだと告げてきている。
去ることが前提だったとはいえ、エーギルが現れた後に、雑魚ボスを出すだろうか?
もしかして………。
「まずい! 大友のおっさん逃げて!」
慌てて叫ぶが、遅かった。既に大友伯爵は魔法を発動させていた。
「これで終わりだ!」
『暴龍翔破』
砲身が輝き、マナのオーラを放つと槍のようにエネルギーが形成される。機体が半透明のオーラに覆われると、龍へ姿を変えた。
そうして、勝利を確信した表情で猛然と突進を仕掛ける大友伯爵。
『丘巨人』はのっそりと歩くだけで、躱すこともなく棒立ちのまま、龍へと変わった攻撃を身に受ける。
バリバリとマナによる暴風が巻き起こり、巨人の皮膚が剥がれていき、身体が崩れていく。
だが、『丘巨人』は痛痒を感じぬようで、身体の崩壊を気にせず両手を突き出すと龍を掴み取る。
「な、なに?」
驚く大友伯爵だが、さらなる驚愕が襲う。
ピシリピシリと機体に霜が降り始めて白くなっていくと凍っていく。
「こ、こんな馬鹿なことが……離せっ、このデカブツが……」
自身が凍りついていくのを見て、慌てて大友伯爵は腕を振って暴れるが、巨人の腕はビクともしない。
「だぁめ」
『極氷崩山』
巨人から少女の声が聞こえてきて、大友伯爵の機体は完全に凍りつき、爆発するかのように握りつぶされてしまうのであった。
キラキラと美しくも残酷な氷の破片が地上へと落ちていき、巨人が一歩前に出る。
それだけで踏み込んだ地面は真っ白に凍りつき、巨人の周囲の空気は極低温となって、白き世界へと変わっていく。
「キャハッ。どう? これが魔導兵器『霜巨人』。まだぁ、プロトタイプだけど、強いっしょ?」
からかうように告げてくる巨人は、いつの間にか氷の装甲を持つ金属製の巨人へと姿を変えていたのであった。




