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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
7章 謀略

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200/380

200話 ぺしぺし叩いちゃうぞっと

 鷹野美羽の前には魔物の大群が迫っていた。森林内から砂煙と多くの魔物の足音が響いてくる。その光景を見ただけで、一般人であれば恐慌するだろう。


 迫る魔物を迎撃するために、更地となって見通しの良い場所に皆は移動して、陣形を組んでいる。


 装甲車の屋根では緊張気味に機銃を構えている近衛兵。その周囲で近衛兵と護衛、そして美羽たちが武器を構えて、迎撃の準備を終えていた。


 対する森林内からぞろぞろと姿を現すのは、様々な凶悪な魔物たち。


 ギロチンよりも尖そうな顎を持ち、熊よりも巨大な体躯を持つギロチンクワガタや、マナの光を宿し簡単に人を貫けるだろう凶悪な鋭き角を持つ豪槍カブトムシ。虫であるのに牙を生やすファングバッタに、地を這うように障害となる木々をなぎ倒して突き進むアーマーセンチピード。


 昆虫系統の魔物を中心に操っているのだろう。操られている証拠に、周りに見向きもせずに、美羽たちへと近づいてくる。


「ヘヘッ。奴ら見ろよ、なんて数だ」


 地上を埋め尽くさんばかりの魔物の数にマティーニのおっさんはゴクリとつばを呑み込み、手に持つタワーシールドに力を入れる。


「そうさね。想定の数のざっと10倍ってところさね。稼ぎ時ってやつさ」


「倒しがいがあって、なによりだよな。まさか俺がこんな大群と戦うような場にいるとはなぁ」


 金剛お姉さんが強気な表情をして、それを見たマティーニのおっさんは合わせるように不敵に笑う。


 轟音が響き、嫌でも激戦となる空気を肌に感じる。


「なぁ、この戦いが終わったら、酒でも飲みに行こうぜ」


「ふんっ。あんたの奢りならいいさね」


 爆発音と魔物の鳴き声が聞こえる中で、二人は通じ合うように視線を交わす。


 ここから先は、命があるかもわからない。決死の戦闘が始まる………


「いや、お二人さん、前方見て? 現実逃避しないでよ」


 半眼の燕さんが、つんつんと二人の肩をつついて、前へと視線を向ける。


 マティーニのおっさんと金剛お姉さんも、半眼となってため息を吐く。


「だってよぉ……。こりゃ、命懸けだと思ったんだぜ?」


「死ぬかと思ったさね……」


 目の前を目が眩むような極光が通り過ぎていく。更地をその極光は砕き削りとりながら、迫る魔物たちへと命中する。


「きゃー、薙ぎ払え!」


 みーちゃんが銀色に似た灰色髪を風に靡かせて、深い蒼色の瞳を爛々と輝かせて、フンスフンスと鼻息荒くちっこい人差し指を前方に向けていた。


 その足元には、SFアニメの宇宙戦艦に取り付けられているビーム砲のような大砲に変形したダイヤモンドの身体を持つポヨリンがいる。


「ポヨポヨ〜っ」


『ダイヤモンドブレス』


 極光の中に、最高の硬度を持つダイヤモンドの欠片を無数に混ぜて、ポヨリンがブレスを放つ。


 5メートル大の砲口から放たれるブレスというか、もはやビーム砲は迫る敵へと命中すると横へとスライドし薙ぎ払っていくのである。


「キィ〜ッ」

「ギギッ」

「ゲウッ」


 魔物たちは光のブレスを受けて、中に混ざっているダイヤモンドに貫かれて、次々と倒れていく。


「キャーキャー、ポヨリンかっこいい!」


 大喜びの表情でみーちゃんは紅葉のようなおててで、ペチペチとポヨリンを叩いて褒める。


「ポヨポヨ〜」


 喜ぶようにみーちゃんの足元のビーム砲がポヨンと弾む。


 さらなる魔物が現れても、ポヨリンのブレスは止むことなく、駆逐していった。


 その様子を決死の覚悟でいた面々は呆然として見ていた。


「なんだ、あのポヨポヨは……」

「あれだけの力を持っていたのか」

「あれ一匹で、戦況が変わるぞ?!」


 機銃を構えている近衛兵や、決死の表情をしていた護衛たちは口をぽかんと開けて、その力に驚愕していた。威力もそこそこあり、なにより広範囲に攻撃を連続で放てる魔物など、高難易度のダンジョンボスでしか見たことがないからだ。


 だが、みーちゃんは油断していなかった。まだ後方にいる『丘巨人ヒルジャイアント』は様子を見ているようで接近してこないし、反対側から迫る不死の軍団も未だに姿を現さない。


 波状攻撃をするつもりであり、こちらの損耗を狙っているのは明らかだった。


 なにより、このブレスは見た目と違い、そこまで威力は無い。ブレスは広範囲攻撃可能であるだけだ。


 それは目の前に映し出されるログがしっかりと表している。


『ダイヤモンドブレスにより、ギロチンクワガタに86のダメージを与えた!』

『ダイヤモンドブレスにより、豪槍カブトムシに79のダメージを与えた!』

『ダイヤモンドブレスにより、ファングバッタに81のダメージを与えた!』

『ダイヤモンドブレスにより、アーマーセンチピートに75のダメージを与えた!』

『ダイヤモンドブレスにより、フリッグは83のダイヤを喰らった!』


 目の前を埋め尽くすかのようなログの多さ。しかし、そこには殺したとの表記がない。


 こっそりとムニンに解析させたところ、敵の平均レベルは20〜22。ならばHPは120はあるだろう。


 即ち、一匹も倒せていないのだ。


 ただダイヤモンドブレスで、ド派手に吹き飛んだように見えるだけなんだ。


「皆、油断しないでっ! 敵のHPはまだ残っているから、すぐに態勢を立て直して攻めてくるはずだからね!」


 バッと細っこい手を横に振って周りへと注意を促す。残念ながら『ダイヤモンドブレス』では、この程度のダメージしか与えられない。


 悔しいが、ここからが命懸けの戦闘となるだろうと、可愛らしい顔をキリリと引き締めて警戒する。


「いやいや、あの状態でまだ戦えると思ってんのかい?」


 なぜか金剛お姉さんが呆れた声をあげるが、当たり前だ。


 前方の敵を再度確認する。


 脚が半分吹き飛んだギロチンクワガタ。角が折れている豪槍カブトムシ、頭にでっかいダイヤモンドが突き刺さっているファングバッタに、体の半分が吹き飛んだアーマーセンチピード。


「かすり傷だよ! あの程度ならまだまだ魔物は戦えるから、油断しないで倒そう!」


「鬼畜っ!」


 気合を入れて叫ぶと、なぜかマティーニのおっさんがツッコミを入れてくるけど、戦えるんだって。


 ゲームではHPがゼロになるまでは攻撃力変わらなかったから。それどころか、死にそうになると強くなるパターンも多いから。


 現実でも魔物はそれぐらいのガッツはあると思うんだ。なんか痙攣し始めて動きを止める奴もいるけど、継続ダメージはないはずなんだけどなぁ。


「ま、まぁ、いいさね。ボーナスが貰えると考えようかね。ローンの支払いもあるし」


「それもそうだなぁ。あれはかなりの稼ぎになるぞ」


「ん、お札が転がっている」


 なぜか疲れたような表情で、ため息を吐く金剛お姉さん。早くも戦場の空気にやられて疲れてきたか。マティーニのおっさんと燕は目を輝かせはじめた。


「お待ちください、皆さん。まだ不死の軍団が反対側から接近してきています。もはや戦闘不能の昆虫軍団は放置しましょう」


「そのとおりですね。不死の軍団は耐久力が普通の魔物の倍はありますから、気をつけてください」


 闇夜が黒髪をフワサとかきあげて、刀を一振りすると、聖奈も篭手を付けた両手をガチンと合わせて注意を促す。聖奈は聖女に見えないから、杖とか、もっとお淑やかな装備にすればいいのになぁ。


 でも確かにそのとおりだ。たぶん昆虫軍団、不死の軍団、そして『丘巨人ヒルジャイアント』戦の流れだろうと、みーちゃんも思うんだ。


「来ましたっ!」


 反対側を警戒していた近衛兵が鋭い声をあげて、皆は昆虫軍団を無視して振り返る。昆虫軍団は倒しておいた方が良いと思うんだけどなぁ。


 なぜか、どんどん死んでいくログが表記され始めたから、ダイヤモンドブレスには継続ダメージ効果もあったのかな。


 ダイヤモンドポヨポヨを仲間に入れたのは初めてだから、効果知らないんだ。テキストフレーバー? 困ったら読めば良いと思います。フレーバーテキストだっけ?


 反対側から、みーちゃんの目にもはっきりと映る、不気味なる禍々しい闇のオーラを放つ不死の軍団が姿を現してきた。


「『魔骸騎士リッチナイト』?」


 それは整然と並びながら現れた。黒曜石より美しくも不吉なる闇の輝きを宿す人骨が、黄金の魔導鎧を身に着けて、宝石の嵌った強力な魔法剣や杖、弓を持ち歩いてくる。


 中には虚ろなる幽霊馬に騎乗する骸骨もいた。一際身体が大きい骸骨もいる。


 その数は1000匹はいるだろう。


「この軍団……とんでもない魔力を感じるよ〜、ブルブルって背筋がしちゃうよ!」


 玉藻が集団から放たれる危険なる闇のオーラに当てられて、身体を僅かに震わす。


「い、一匹、一匹がとてつもない魔力を纏っているぞ!」


 敵の魔力を見抜くことができる近衛兵たちが動揺と恐怖の声をあげる。


 闇夜や聖奈、金剛お姉さんたちも青褪めている。


 もちろんみーちゃんも、ワナワナと口元を震わせちゃう。不死の軍団と聞いていたけど、こいつらとは思わなかった。予想外にも程がある。


「この軍団……まさか……」


 厳しい目つきで聖奈が呟く。


 どうやら見覚えがあるらしい。わかるわかる。みーちゃんも記憶にあるもん。


 皆が不死の軍団を前に、恐怖と畏れとワクワクドキドキを持つ中で、さらに強力な闇のオーラを持つ者が地上から僅かに浮いて、滑るように姿を現す。


「これは……重畳……更地なれば、逃げること能わず」


 金のローブに銀糸の意匠、魔法の籠もった大粒の宝石を裾や胸に付けている者だ。


 男か女かはわからない。


 なぜならば、人骨だからだ。まっしろな人骨に僅かに腐った筋肉繊維がへばりついている。フードを被る頭蓋骨の目には青白い炎が宿っており、骨と歯しかない口からは冷気が吹き出されている。


 ギロリと青白い炎の瞳をこちらへと向けてきて、カチカチと歯音を立てると、ローブを翻して堂々たる態度にて告げてきた。


「我こそは『ニーズヘッグ』が『死海のエーギル』。永遠なる命を持つエルダーリッチにして、深淵なる叡智を持つ者よ」


 宣言と同時にその身体から禍々しいオーラが突風となって吹き荒れる。

 

 風によりバタつく髪を押さえて、エーギルを見ると、面白そうにカタカタと歯を鳴らし、手に持つ小さな鉛色の箱を見せつけるように掲げた。


「『クロウリーの箱』の力を試させてもらおう。汝らは感謝でむせび泣くと良い。我の実験体になることをな!」


 嘲笑うエーギルの持つ箱を見て、チッと舌打ちしちゃう。


 魔神を封印している6個の神器の一つ『クロウリーの箱』だ。


 なぜかは知らないが、原作が始まる前に奪われていたらしい。ちくしょーめ、誰か神器のある場所を教えた奴がいるな。転生者だろ。


 まぁ、良いや。ここでエーギルを倒して、『クロウリーの箱』を回収すれば良い。ある意味ラッキーだったよね。


「くくく、この不死の軍団はA級の魔物たちで編成されて――」


「ポヨリン、薙ぎ払って!」


『ダイヤモンドブレス』


 エーギルがなにやら語ろうとするが、その間に先制攻撃をしちゃうみーちゃんでした。


 ポヨリンから、極光が発射されて、『魔骸騎士リッチナイト』へと向かう。そうして大爆発と閃光の中で、戦闘が開始されるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] みーちゃん鬼畜すぎる…お約束をぶったぎって即攻撃とか、風情がないって相手の人?に怒られちゃうよ。
[良い点] よく見たらダイヤモンドブレス、フリッグ姉さんが喰ってるやん!読み返して良かった(笑)
[良い点] フリッグさんは今後先頭があると聞いたら喜んでる参戦してくれそう [一言] プラチナキングじゃなかった、ダイヤモンドポヨリン欲しい
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