196話 カミングアウトするんだぞっと
「実は私は闇夜ちゃんたちにナイショにしていたことがあるの!」
旅館のお布団の上に正座して、みーちゃんは声をあげた。寝る前にお話ししたいと。
アイスブルーの瞳に決意を込めて、小柄なる身体をピシッと伸ばして、真剣な表情でみーちゃんは闇夜と玉藻に話す。
聖奈はなんか恋人に連絡をしにいくと言って、席を外しているので、今のうちだと思って、二人にカミングアウトすることにしたみーちゃんだ。聖奈は信用できないからね。
「なんでしょうか、みー様?」
「なになに〜?」
珍しく真剣な表情のみーちゃんに、重要な話だと気づいて、同じく真剣な顔で対面に座ってくれる。
なので、ゴクリとつばを飲み込み、キリリと幼い表情を凛々しく変えて告白する。
皇帝に目をつけられた以上、今までよりも活発に動くことにした。だからこそ、二人にはカミングアウトしておきたい。
「私、鷹野家の当主だったんだ!」
「あ、はい」
「知ってるよ〜?」
しまった。そうじゃないや。
「鷹野家のエースでピッチャーをしてるの!」
「では、私はゴールキーパーをしますね」
「闇夜ちゃん、それはサッカー」
やばい、漫才になっちゃう。
カミングアウトをするのが、こんなにも緊張するとは思っていなかった。二人に嫌われたらかなり落ち込む自信があるんだもん。
距離をとられた場合は、幼い頃の友だちは大人になった時には付き合いはないと思って、部屋に引きこもろう。
「私、頭いいの!」
「この間の小テストも満点でしたものね。さすがはみー様です」
「今度、一緒に勉強しよ〜」
「………」
どう説明すれば良いんだろうか? よし、一から説明しよう。
フンスと息を吐くと、親友たちに始まりから説明をすることにした。
「家族とお友だちを守るために、色々とやってるんだ……。皇帝陛下にお花畑が欲しいとお強請りしたり、傷ついた人を治してお菓子をあげたり! 誰にもわからないようにこっそりとかくれんぼしてたの!」
手を震わせて一大決心の下でカミングアウトした。嫌われちゃうかなと、恐る恐る二人の様子を見ると、うーんと首を傾げさせて、戸惑っていた。
やはり隠れて、裏で汚いことをしていたみーちゃんを嫌いになるかなと、小柄な身体を震わせてビクビクしていたが、二人は顔を見合わせると、コクリと頷く。
「要は当主として家門の利益に、いいえ、家族を守るために動いていたということでしょうか?」
「貸しを作って、勢力を拡大しているってことだよね〜? キラキラって回復魔法を使って」
「うん、そのとおりなんだ。それでね、ガオーッて狂暴な時があるの」
みーちゃんの暗号に近い言動を理解する二人である。
さらにカミングアウトをしなくちゃと、両手を招き猫のように折り曲げて、ライオンさんの真似をするみーちゃん。
「知ってましたよ? みー様の瞳の奥にワイルドな素敵な光があることには、幼稚園の時に助けられた時から気づいてました」
なぜかうっとりとした表情で、手を添えた頬を赤らめる闇夜。
「コンちゃんが油揚げを前にするみたいに、時折怖い顔になるんだよね! ガオーッて」
コンちゃんが唸るのは怖いんだよと、玉藻がみーちゃんの手を握って、楽しげにブンブンと振る。
なんと気づいていたらしい。子供は純真な心があるから、みーちゃんの中に獣がいると知ってたのか。
それよりも自身の説明の仕方が下手くそなところに驚かないといけないみーちゃんであるが、自分の台詞を顧みないので仕方ない。
鷹野美羽検定一級の二人でなければ、みーちゃんの言いたいことは伝わらなかったことは間違いない。
「でも、勇気を出して告白してくださったんですね。わかりました、みー様。誓約書を後で書きましょう」
「うん、玉藻も一生一緒だよ! 闇夜ちゃんと一緒に将来どうにかできる魔道具探しているんだ!」
「ありがとう、闇夜ちゃん、玉藻ちゃん!」
感極まって二人にぎゅうと抱きつく。こんなに嬉しいことはない。みーちゃんも二人と一生お友だちだよ。
二人ともみーちゃんの頭を優しく撫でてくれる。温かい気持ちを感じて心がぽかぽかする。
良かったよ、カミングアウトして。
これからは二人にはなるべく隠し事はしないことにしよう。ゲーム仕様の身体や仲間の神様たち、前世のことはナイショにしておくけどね。
「それでね、今回カミングアウトしたのには理由があるんだよ」
明日のことを説明する。襲撃があることと、敢えて敵に襲撃させて、犯人の尻尾を掴む作戦があること。
「危険だから、二人は旅館で待っていて?」
後藤隊長がフラグを立ててくれたからね。金剛お姉さんやマティーニのおっさんたちは護衛なので連れていくけど、闇夜たちは安全な場所で待っていてほしいんだ。
大友伯爵の自作自演。原作に準拠すれば、大友伯爵は間抜けで魔物に襲われるので、助けておしまいである。
しかし、その先を後藤隊長は狙っている。原作でも、カレンが裏切って魔物をシンたちにけしかけた際によく調べれば『ソロモン』が隠れていたことに気づけたかもしれない。
表には出ない裏設定を探そうとしている。
「いいえ、みー様。私たちもお友だちが危険なら戦います」
「そうだよ! 玉藻たちも戦えるからね!」
フンスと二人は強い決意の目をして宣言する。たしかに二人は強い。下手な大人の魔法使いよりも強い。
しかし幼い少女だ。この先にいるのは魔物だけとは限らない。人間も敵として現れる可能性が高い。
殺さなければいけないことがあるかもしれない。トラウマになったりするかもしれない。回復魔法を使えば回復できるだろうけど、気分的に嫌なんだ。
でも、この二人が引かないことは知っている。
「わかったよ。それじゃ、3人で戦おう!」
ならば、人の相手は俺がしよう。罪悪感を持たず、ゲームの敵でも倒すかのように戦える鷹野美羽が。
「明日はフル装備で行きましょう!」
「魔道具も用意しておくよ〜! 即席の魔道具もコンコンッて作っておくね」
「頑張ろうね!」
3人でハイタッチして、明日の戦いに覚悟を決める。
「それじゃ、寝ましょう、みー様」
「川の字だね、コンちゃんは枕元で寝てね」
「コンちゃん撫でて良い?」
もうオネムのお時間なのだ。まだまだ夜ふかしはできない3人だからね。
「あ~っ! なんでもう寝てるんですか。私も一緒に寝ます!」
部屋に戻ってきた聖奈がぷっくりと頬を膨らませて抗議してきた。ごめん、忘れていた。
ちなみに聖奈はみーちゃんにカレンとのやりとりなどを尋ねてこなかったため、後藤隊長からなにも聞いていないらしい。
どうやら美羽の秘密は皇帝だけで秘匿するつもりらしいね。お菓子が欲しいんだろうなぁ。
次の日、出発前にみーちゃんの魔導鎧は持ち込まれてきた。
「いやぁ、良かった。ちょうど私共が製作した最新型がありまして。試作型ですが既に製品化を待つだけの完成品です。鷹野様に使ってもらえるとなれば、この機体も喜んでもらえるでしょう」
部屋に魔導鎧を持ち込んだ新興兵器会社『ウルハラ』のメガネをかけた痩せぎすの営業マンが笑顔で言ってくる。
偶然にも鎌倉で魔導鎧の戦闘テストを行なっていたらしい。
「我社の誇る『ウォータン』です。アタッチメントを変更することにより、様々な環境での戦闘を可能にする汎用機です」
「最初から量産型として製作されているんですか?」
みーちゃんは魔導鎧を着ながら、営業マンへと尋ねる。
薄手のぴっちりスーツを着込んで、装甲を取り付ける。灰色の装甲とスーツで見た目はあまり良くない。装甲自体は角ばっており、小さなボックスを組み合わせたような感じだ。
胸の中心に魔石を加工したマナドライブエンジンが搭載されている。マナドライブエンジンから光のラインが装甲まで繋がっている。
「そのとおりです。フレーム自体は馬力のあるマナドライブと魔法障壁のみを搭載。そして、アタッチメントを統括するための魔法回路を張り巡らせております。アタッチメントにも小型マナドライブを搭載させて、高価なアタッチメントを付けることにより、専用機にもなる次第でして、ハイ」
「私にぴったりだよ!」
「単純な機構のために、スーツのサイズも比較的簡単に変更できることが売りなのです。ハイ」
おぉ〜、と感心しちゃう。これならいくら壊しても大丈夫そうだ。スーツのサイズを変更するのって、結構大変なんだよね。
「鷹野様のご希望どおりに、肩や背部、脚のアタッチメントは全てスラスターが搭載されている高機動タイプにさせて頂きました。ハイ」
ボックスに付いている各種宝石は意思でマナを吹き出す模様。かっこいい。早く使いたい。
「了解だよ! それじゃこれを貰います!」
ゲーム仕様ではないが、性能テストと宣伝にはちょうど良いだろう。
「お買い上げありがとうございます。『白猫15式』は一度の戦闘で駄目になったとか。我社の最新型魔導鎧『ウォータン』ならば、簡単には壊れませんので、存分に使ってください」
意味ありげに営業マンは笑うと、一礼して去っていった。『猫の子猫』商会がこれを聞いたら大変なことになるかも……。
まぁ、シェア争いに入り込む新興会社は少し頑張らないといけないから見逃してほしい。
「では、準備は完了ですね、みー様」
「こっちもオーケーだよ、コンコンッ」
「私も万全です」
闇夜、玉藻、聖奈も準備はオーケーか。金剛お姉さんたちも、戦闘があると聞いて顔を顰めて真剣な表情だ。
「それじゃ、カレンさんは大丈夫ですか?」
「はひっ。既に大友伯爵は配置についています。こちらの合図を確認したら、魔物を男爵たちがけしかけます。少し後に大友伯爵たちが助けに来る予定です」
エヘヘと揉み手をしながら、カレンが答えてくれる。
後藤隊長たちは既にいない。後方の敵を炙り出すために先行しているのだ。今は副隊長が近衛兵の指揮をとっている。
「それじゃ、悪いことをするセコい奴らを、サクッと倒しにいこ〜!」
「帝城家に手を出すことの意味を教えてあげましょう」
「お〜! 頑張っちゃうぞ〜」
「どうも想定と違いましたが、結果は同じだったようですね」
闇夜たちが手をあげて、声を揃えて気合いの声をあげる。
これが終わったら、グレーターホーンベアカウを倒しに行こうねと口にしようとしたが、我慢する。
フラグになっちゃうからね。
みーちゃんはそういうフラグは立てないのだ。




