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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
6章 魔神

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175話 勝利の三が日

「へぇ〜、鷹野家ではそんな騒ぎがあったのか」


 そろそろ顔つきが凛々しくなり、ワイルドな美少年になっていると固く信じている男、粟国勝利は皇城の新年会にいた。


 髪をオールバックにして、スーツ姿の赤毛の少年は、召使いたちにまるで七五三みたいですと拍手で褒められたので、得意満面で出席していた。


 殴る蹴るをやめたらフレンドリーすぎる召使いたちと、最近仲が良いので間違いなくかっこいいはずだ。


 誰も彼もが彼を放ってはおかない。優しく強くそして金があり、権力もある次期公爵である粟国勝利は、モテモテだった。


 モテモテなので、シンの側にいた。なぜかというと、会話の繋ぎに苦労していたからだ。


 とりあえず、「はい」「そうですね」「それは少し違うんじゃないのかな」と言えば、話は続くが押せ押せの少女たちにそんなことを言うと、いつの間にか婚約者になっているからだ。


 同じ歳の男よりも、遥かに女は大人びているということを、嫌というほど教えられた。訂正するのに恐ろしい苦労をしたものだ。


 なぜ、大勢の婚約者ができるのだと、不思議で仕方ない。親父には笑われるし、男たちは女ばかりと遊びやがってと離れていく。


 モテモテな勝利は、なので友達が少なかった。


 卒なくこなすシンは、男も女も友達が多い。僕だって友達は多くなる予定だが、とりあえずは知り合いにならないといけない。そのために、パーティー会場で、楽しげなシンを見つけて誘蛾灯に釣られる蛾のようにフラフラと近づいたのであった。


 そこで話を聞いたのが、鷹野家の当主である鷹野美羽の話であった。怪しい動きをする分家を見事に叩き潰して、再度手綱を強く握ったらしい。


「あの娘がそんなに頭が良いってか?」


 少し離れた場所で、大勢の同世代の子供たちに囲まれている灰色髪ちゃんを見て、疑問形で尋ね返す。


 カリスマ性は高いために、皆に大人気らしい。寂しげな娘には声をかけて仲間に入れて、料理を皆で楽しげに食べて、明るい笑顔で会話をしている。


 無邪気な笑顔で、テーブルの上に皆でグラスを重ねてみようと言っている。


「シャンパンタワーを作ろうとしているんだけど?」


 ろくでもないことをパーティーでする少女である。可愛らしい顔で一見おとなしそうだが、ぶっ飛んだ思考をしているらしい。普通、パーティー会場でシャンパンタワーを作ろうとするか?


 せっせと皆がシャンパングラスを集めて、積み重ねていく。かなりの高さのシャンパンタワーを作るようだ。その姿からはまったく頭が良さそうには見えない。


「た、たしかに。凄いね、彼女は。でも、だからこそ怖いと考える人は多いよ。そうでないなら、断罪劇で、表に出る必要はないからね」


 シンは、シャンパンタワーにグレープジュースを注ごうとする灰色髪ちゃんを見て、苦笑する。苦笑する姿もかっこいい男である。


 たしかにそのとおりだ。あのようにアホな姿を見せる灰色髪ちゃんが頭が良いとは思わないだろう。しかし、実際は分家を潰している。


 権謀術数に長けた高位貴族ならば、あのアホな姿は演技ではと絶対に疑うに違いない。一瞬のチャンスをものにするために、何年も昼行灯を演じたり、韜晦する輩は貴族の中ではいくらでもいるのだ。


 鷲津家とやらも、それに騙されて潰されたのだろう。………本当かぁ? いや、そう思うことこそが、罠なのかもしれない。


 なるほど、これは厄介だ。親父なら最低限の警戒はするだろう。


 あ、灰色髪ちゃんが流石に怒られてる。何やっているんだ、楽しそうだけどさ。


 だが、その光景を見て、真剣な顔へと変えてシンは言う。


「彼女はドルイドの魔法使いの弟子らしい。ドルイドの魔法使いは彼女のために高弟を護衛に送り込んでいるらしいよ。あの魔法使いが育てている謂わばエリートだね」


「ドルイドの魔法使いに! マジかよ、弟子イベントはそっちにいったのかよぉ〜」


 おのれ、これだから原作で死んでいたはずのキャラは困る。そのポテンシャルが高すぎる。きっと原作者は、どうせ死ぬんだしと、パラメータを適当に決めたに違いない。


 歯軋りをする勝利。転生者の闇夜のせいだ。余計なことをしやがってと、恨みを覚える。


 本来はドルイドの魔法使いの弟子は僕だったのだ。そしてシンを上回る魔法使いとなって活躍する予定であった。


 小説のモブに転生したけど、主人公たちよりも強いんだけどとか、題名をつけて活躍するテンプレが待っていたはずなのだ。


 まったく根拠はないが、勝利は明るい未来があったのにと、歯噛みをする。


「彼女のあの姿は欺瞞じゃないのかと、疑い始めている人も現れるだろうね。まぁ……欺瞞には見えないけどさ」


 シャンパンタワーが崩れそうになり、子供たちは皆で魔法の力を使い維持している。その後ろで疲れてきた子供に回復魔法を使い始めている灰色髪ちゃん。回復魔法の無駄遣いである。


 呆れてしまう光景で、アホにしか見えない少女だ。


 本当かよと半眼になる勝利に、肩をすくめるシン。


「昨日の話からだけどね。まぁ、半信半疑といったところかな」


「昨日の他家の話をなんで知ってんだよ……。そっちの方が怖いけどな」


「神無家には知り合いが多いんだ。父に喜んでもらおうと考える人がね」


 神無家の情報網はかなりのものらしい。粟国家にも、その手が届いていそうだ。


 これのたちの悪いところは、はっきりとしたスパイではないということだろう。それならば捕まえることもできるし、排除も可能である。


 しかし、こんな情報を手に入れたのでと、手にした情報を流すだけの奴らは警戒するのは難しい。恩を受けたからと、受動的に動くだけで、こちらを調べようとする者たちではないからだ。


 中身もいずれ広まるだろう情報だ。なので、問題はないといえばない。ただ神無家がその情報を手にする速度が異様に早いだけということ。


 最近、後継者教育を受け始めている勝利は、そこまで考えて苦々しく思う。


 こんなことを考えないと生きていけない貴族めんどくせーと。しかし、後継者から逃れるつもりはない。


 なぜならばこの世界の魔法使いの立場から考えて、ニートにはなれないからだ。きっと後継者から外れたら、魔物退治の最前線に送られる未来が予想できる。


 何というニートに厳しい世界なのだろうか。


 下級貴族とかになって、高位貴族の顔色を窺う生活もしたくない。


 自由気ままには生きられなくとも、我儘がとおり、贅沢に暮らすには、公爵の地位を継ぐ以外に選択肢はないのであった。


 こうして、自分に鷹野家の情報を流すことも、何かしらの思惑があるのではと疑ってしまうが、たぶん思惑があるので間違いはない。


 鷹野家に気をつけるように警戒心を高めるためなのだろうか。勝利以外にもこの場には大勢の人間はいる。彼らも今の話を親に伝えることだろう。


「神無家はそこまで勢力を押されてるってことかよ」


「なんのことかはわからないけど、あの集団はそのまま鷹野家の派閥ということになるだろうね。親皇帝派が増えて、この国も安泰だと思うよ」


 にっこりと微笑むシンに、原作ではこんな描写はなかったなぁと、内心で嘆息する。こんな描写はハーレム王道俺つええ主人公に相応しくないと原作者がカットしたに違いない。


 公爵家の後継者として、育てられているのだ。しかもシンは優秀である。こういう行動がとれるのはよくよく考えれば当たり前だったのだ。


「あまり力が集中するのは、良くないことですわ。粟国さんも考えた方がよろしくてよ?」


「あぁ、はいはい。わかりました」


 上から目線の高慢な少女の声に、うんざりとして答える。シンの隣に立つ少女が言ってきたのだ。


 金髪をドリルのようにパーマをかけて、古き良き高慢なプライド高い少女が目の前にいた。わかりやすいテンプレ少女だ。


 少し変化球なのは、彼女の頭に狼の耳がピンと立っており、ふさふさの尻尾がぶんぶんと機嫌よく振られている。


「エリザベートさんは、鷹野家に油断してはいけないと? あれですよ、あれ」


 今度はチョコフォンデュの滝に、様々な料理をつけて、どんな味をするのか試している灰色髪ちゃん。周りの子供たちはそれぞれ違う料理を手にしてワクワクしている。闇鍋だろうか? 寿司をチョコフォンデュにつけるのはお勧めしないぞ。


「シン様の心を推し量るのが親友というものではなくて? まったく仕方のない方ですこと」


 ドリルロールをふわさとかきあげて、フンと鼻を鳴らす嫌味な美少女の名前は、瑪瑙エリザベート。ハーフの少女だ。


 3家しかない侯爵家の一つ、『犬の子犬武器商会』を営む瑪瑙侯爵家の長女にして、シンの婚約者だ。その盲目的なシンへの好意から、魔物から命を助けられるイベントがあったのだろうと予想する。


 たしか、魔法の使えない婚約者に、自身の魔法の凄さを見せつけようとダンジョンに潜って、護衛たちから離れたところを魔物に狙われる。そこをシンの機転で助けられて惚れるというテンプレ展開だ。


「そうです。お兄様が貴方のことを思って伝えているんですから、もう少し真面目に聞いてください」


 シンの義妹の月も、エリザベートの台詞に乗っかって非難してくる。なるほど、モブ視点だと、こんなにムカつくのかと、勝利は改めてシンのモテっぷりを理解した。


 なんであいつばかりと涙を流して悔しがるモブを馬鹿にしていたが、たしかにこれは苛つく。


 だが、シンの周りにいる子供たちはウンウンと頷いて同意していた。でも、こいつらシンが放逐されたら、手のひらを返すのだ。そう思うと、この光景も嘘くさく感じる。


 特にシンの双子の弟の姿がさっぱり見えないことから、神無家の深い闇も感じていた。


 貴族のドロドロした世界が垣間見えてうんざりしている勝利だが、涼やかな優しい声が聞こえてきた。


「さすがは神無公爵家の跡継ぎですね。皇城のパーティーで、そのようなことを仰るとは、その胆力に感心してしまいます」


「聖奈さん、今日もお綺麗ですね!」


 聖奈さんレーダーがその声に反応して、振り向くとすぐに褒め称える。素晴らしい、ビューティーホー、世界の至宝、聖女の聖奈さんと言おうとして止める。


 桜色の着物を着た銀髪紅眼の聖奈さんは、とっても似合っており、さすがはメインヒロインと、その可愛さに見惚れそうになったが、眼が怖かったのだ。


「これは聖奈さん、お会いできて光栄です。その春色の着物は、ミスリルパウダーを使用してオリハルコンをキングシルクに混ぜ合わせている最高の物だとお見受けします。その美しい着物に負けない聖奈さんのお姿はよく似合っており、婚約者が隣にいるのに、思わず目を奪われましたよ」


 シンが軽く頭を下げて、聖奈さんを褒める。主人公め、いちいちセリフが凝っているぞ。


 語彙で負けている勝利は、ちくしょーと歯噛みして、負けないように褒め称えようとする。


「えっと、その着物高いんですね、流石は聖奈さん」


 どこらへんが、褒めているのかわからない勝利の台詞である。これでは着物が高いとしか褒めていない。


「それはどうもありがとうございます」


 そっけなく硬い口調で返す聖奈さんに、機嫌が悪いのかと慌てる。


「それよりも、なにか不穏な言葉が聞こえたような気がするのですが?」


「いえ、皇帝陛下の威光が眩しくなるほどだと、これからも日本は安泰だと話していたのです」


 しれっと答えるシンに舌を巻く。小説でもシンが敵対する相手に言い逃れをするシーンがあったが、こんな感じだったのか。


 ニコニコと微笑む二人に、なぜか火花が散っているように感じる勝利だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 聖奈「うちの忠犬くんは相変わらず鈍いけど靡くことはなさそうで安心です」
[気になる点] >今度はチョコフォンデュの滝に、様々な料理をつけて、どんな味をするのか試している灰色髪ちゃん。 >闇鍋だろうか? 寿司をチョコフォンデュにつけるのはお勧めしないぞ。  インコをかたど…
[一言] 高貴な人の集まるパーティ会場で、みーさま何やってんすかw しかし勝利くん……キミも割と周囲から同じ目で見られてるんだよ……
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