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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
6章 魔神

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172話 考察は続くんだぞっと

 『魔導の夜』の意味。勝手に権力者の陰謀とか、格差のある世界だから、『魔導の夜』っていう夜の世界を表しているのだろうと思っていた。


 でも、最終巻のエピローグでも、夜が明けたなどとの表現はなかったな。全然違う意味だったのか?


 ふむぅと、ソファに顎をつけて考える。眠たくなってきた。みーちゃん活動限界時間が近いのかも。


 少しウトウトしながらも、最終巻をよーく思い出す。……えーと、こんな感じだった。


「魔神を倒したシンは、皇城のバルコニーにて地上の人々へと笑顔で手を振り、新たなる皇帝として名乗りをあげる。周りの仲間は笑顔で祝福し、地上の人々は喝采する。テンプレなエンドだったんだけど……」


「なにか、変なことが書いてあったのかしら?」


 口籠る美羽に気づき、フレイヤお姉さんが尋ねてくる。欠伸をふわぁとしながら頷く。少し気になる表現が最後にあったんだ。


「んにゃ……。ハーレムメンバーは押し合いへし合いシンにしがみついて、好きですアピールをしていたんだけどね、全員の記念写真みたいなバルコニーの挿絵に聖奈が載ってなかったんだ。最後の一行も変だったよ。『幸せそうに微笑むシンを聖奈は眺めるのであった』なんだ。それで終わり」


「な、なるほど……。気になるといえば気になりますね、その表現」


 餅の入った袋を空にしたフレイヤが、モキュモキュと咀嚼しながら言ってくる。


「だよね。なんだか表現が変じゃないかな? 普通は挿絵でメインヒロインは主人公の隣にいるものだよ。それに最後の一行も気になるよね」


 それ24個入りじゃなかったっけ? 今はそっちの方が気になるよ? 全部食べたの?


「含みのある書き方だな……。そのような絵画などは必ず違う意味が込められていたものだ」


 オーディーンのお爺ちゃんはまったく気にしないようで、ソファから立ち上がると、ウロウロと歩き回り、難しい顔をしてエピローグの意味を考え始めた。


「たしかに変だけど、イラストレーターがミスったんじゃないの? ヒロインが多すぎたから、忘れたんだよ」


 当時はやっちまったな作者とイラストレーターと、読者に大笑いされたものだ。だから、はっきりと覚えていたんだよ。


「その可能性もあるが……。その小説の世界にお嬢は召喚されたのだぞ?」


「たしかに……」


 そう単純な話ではないのだろうか? 絵画に含まれた意味で一番有名なのが、『最後の晩餐』だ。他にも、絵画では皇帝の肖像画に影を落としたり、平和な城内にネズミを入れて、違う意味をこめるものは多い。


 ラノベの挿絵にそんな深い意味が込められていた?


「そうなると、聖奈が描かれなかった意味があるはずね。でも裏切り者? もうエピローグなのに? 続刊はなかったんでしょ?」


 フリッグお姉さんが、鋭い指摘をしてくる。そうなんだ、最終巻なのに変な話だ。


「うん、噂すらのぼらなかったよ。外伝もなかった」


 真剣に考えてみるが、さっぱりわからない。聖奈が裏切りシンを殺すという展開も考えにくい。魔神を倒して、国民の圧倒的な支持を受けているし、強さも人類最強だ。


 そこからひっくり返すのは不可能だ。そもそも聖奈は穏やかで優しい聖女だった。そんなことをするわけがない。


「お嬢、再確認するが、魔導の夜が明けたとの表現はなかったのだな?」


「言われてみると、なかったなぁ。勝手に平和になったから、夜は明けたのだと思っていたよ」


 名探偵オーディーンは、白髭を撫でながら、ソファにドスンと座る。


「そうか。そうなるとだ。やはりこの世界の夜は明けなかったのだ。闇の帳の下に沈んでしまっている」


「『魔導の夜』の意味は?」


 ワトソン美羽が、オーディーンに尋ねるよ。どういう意味?


「いくつか仮説はある」


「ハリーハリー、眠いんだよ………」


 もったいぶった言い回しは、今度にしてくれよと、ペチペチと力なくソファを叩く。眠いんだ。


「まずナーガラージャがお嬢をこの世界の管理者、いや、仕事を放棄した管理者と言っていたが、それは間違いだ」


「手を翳しても、世界を変えられないしね」


 ナーガラージャは一瞬世界を変貌させた。同じことを意図的に行うのは不可能だもんね。ゲーム仕様に従うだけだ。


「ナーガラージャが勘違いをした理由は明確だ。ゲーム仕様のお嬢はこの世界に神域を作り出しているからな。ナーガラージャはそれを感じ取り、お嬢を見てこの世界の管理者だと勘違いしたわけだ」


「管理なんかしてないよ?」


「そう見えたのだろう」


 たしかにぽんぽんと必殺技とかで、神域を作ってたからね。ゲーム仕様恐るべし。


「この世界は魔に満ちている。即ち魔法の力に満ちておる。その魔法の力を自分のルール上のものへと変えているのが、即ち鷹野美羽という存在だ」


「照れるなぁ」


「だが、ゲーム仕様という自分のルールで活動できても、世界そのものを管理できる程ではない」


 ふむふむと、コロンとソファの上を転がる。でも、ナーガラージャから見たら、美羽は真っ黒だったのね。


 でも、美羽は運営側ではなくて、プレイヤーだ。そこが違うところなんだよ。


「お嬢の力は大したものだが、世界全体に比べると微々たるものだ」


 だよね。オーディーンの話が本当ならば、大海の水をちっこい手で掬って、真水に変えて使っている程度だろう。そんなことで、世界全体を変えることなんかできないに決まってる。


 でも、そうなるとだ。次の疑問が浮かんでくる。


「本来の神様はどこにいるわけ?」


 みーちゃんは、勝手に他人の庭で遊ぶ不法侵入者になっちゃうじゃん。なんで放置しているわけ? 職務怠慢だろ。


「……それはわからぬ。しかし生きているのはたしかだ。自分の魔法の力を使われてルールを変えられていても、気にしないことから眠りに入っているか、封印されているか……ただの概念となっているかはわからぬ」


「ふーん……なら問題はないじゃん。これまでどおりに生きていくので良いんだよね?」


 パパとママ、生まれてくる妹か弟、そして闇夜たちと、仲良く暮らしていくのだ。


「『夜』と表現されているだろう?」


「意味がわからないな。夜はどんな意味なの?」


「暗喩だ。魔に満ちている世界のな。夜との表現。そして、ナーガラージャが一瞬とはいえ行なった世界改変。儂らが簡単に神域を作り出せる理由。仮説の中でこれが一番高い」


「ふむふむ?」


 間をおいて、面白そうな顔になるオーディーン。叡智を望む神様らしい姿だ。


 フリッグもフレイヤも同様に固唾を飲み、オーディーンの発言を待つ。


「誰が思いついたかはわからぬが、役立たずの神ではなく、代わりの管理者を求めているということだ。なので、長政のような器を作り出して、かつては神様を召喚しようとしていたのだろう」


「みーちゃんはパスしまーす。神様じゃないしね」


 世界の管理者なんて、冗談じゃない。面倒くさい。


「まぁ、同意する。そんなものは、やりたいものにやらせれば良いとは思う。しかし管理者にどこかの神がなれば、この世界はめちゃくちゃになるに違いない」


「えー! それは困るよ! そうだ、アリさんは? アリじゃないかな? 蟻だけに」


 のほほんと餅を食べていたアリさんを指差す。ちょうど良くないかな? 蟻だよね?


「アリは神ではないから駄目だ」


 アリさんががっかりしたように頭を下げて落ち込む。容赦なくバッサリと切って捨てるな、オーディーン。ナイスジョークにもスルーしたな。


 とはいえ、理解したよ。神様っぽいのが現れたら倒せば良いんだろ。そして、心当たりもあるよ。


「魔神退治をしないといけない?」


「そのとおりだな。推察するに魔神とは神の器だ。他にも色々気になることはあるが、倒しておいた方が良い」


「完全に復活させて、た、倒すんですか?」


 不安げな顔で、フレイヤがちょこんと手を挙げる。


「魔神を復活させられて、転生者の魂を使われれば、また神の魂が降臨することになる。倒しておいた方が安心できる」


「魔法の力に満ちている世界。そうか、何でも魔法で解決する世界なのか。『ニーズヘッグ』の世界新生はここにきて、意味を持つと」


 『ニーズヘッグ』は世界の新生を望んでいた。ナーガラージャのように、世界を改変する力がある神様ならば、新たなる世界を創ることができちゃうのだろう。


「まぁ、ナーガラージャは世界を改変できなかった。恐らくは他の条件もあるのだろうよ」


 そういや、そうだった。一瞬世界が変わったけど、元に戻ったもんね。ナーガラージャはそれを美羽のせいだと考えたけど、実際は違うのだ。


「他の条件って、推測できる?」


「わからぬ。情報がないからな」


 あっさりとわからないと答えるオーディーン。


「わからないのかよ!」


「そうだ。あくまでも仮説と言ったであろうが。どのような条件かはわからぬ。しかしヒントはある。『魔導の夜』の原作だ。必ずそこにヒントはあるだろう」


「ということは、目下の目的は魔神退治だね」


 予定通り残りの神器を集めていくわけね。


「封印よりも倒した方が良いだろう。そうしなければ、後で何かが起こるのかもしれぬ」


「アグレッシブだなぁ。でも、たしかにテンプレだと、こっそりと復活とかされそうだもんね」


「そうだな。中途半端に復活も駄目に違いない。残った力があれば回復するしぶとさを見せるだろうからな」


「了解、それじゃ、これまで通りにするよ。それと気になったんだけどさ」


 最後に一つだけ確認したいんだ。


「みーちゃんも狙われる? 『次元を超えた転生者』だもんね」


 その場合は、警備をもっと固めて、『ニーズヘッグ』を滅ぼすように頑張らないといけない。


 ゲームでの強さを考慮すると、今は戦いたくないんだよね。それでも無理をしないといけないだろう。家族に害を及ぼすかもしれないし。


「転生者などとは、見かけではわからぬ。なにか確証を掴むことがない限りな。それに『生命の実』の使い方が失伝していることから、転生者の魂が必要とも認識しておるまい?」


「なるほど。たしかに、ゲームでもそんな描写はなかったや。とすると、小説でもなかったと思うから、現状は大丈夫だね」


「………そうだな。いたとしても、神の降臨の内容がバレていなければ問題はない。それにどのような力を持っているかが気にもなる。他者と使える魔法は違うのか? なぜ次元を超えることができたのか?」


 途中からマッドサイエンティストのように、怪しい光を瞳に宿すオーディーンのお爺ちゃん。


「みーちゃんはお爺ちゃんの実験体にならないからね?」


 方針が決まったよ。それじゃ、そろそろ寝まーす。


「やることは変わらない。神器を集めて、魔神を完全復活させた後に倒す。なんとかして『生命の実』を奪取して破壊。転生者だとバレないようにする!」


「それを行えば、とりあえずは大丈夫だろう」


「あ、あまりやることは変わらないですね」


 オーディーンの太鼓判を貰えれば安心だ。フレイヤの言うとおり、少しだけ目標が増えた感じだ。


「まぁ、神器を4つ集めてるから、アドバンテージはこっちにあるんだよ。だから、焦る必要は全然ない。まだ原作も始まってないし。でも『生命の実』を誰が持っているか、フリッグお姉さん確認よろしく……フリッグお姉さん?」


 途中から、会話に加わっていないと思ったら、ナーガラージャの巨大腕輪を掛け布団に、フリッグお姉さんはすやすやと幸せそうに気持ち良さそうに寝ていた。


 もぉ〜。みーちゃんも寝よっと。おやすみ〜。


 なんで、美羽だけゲーム仕様なのかの答えはなかったけど、まぁ、いっか。それもいずれわかるかもしれないし、わからなくても別に良いや。


 モブらしく、メインストーリーの裏方をやっていこうかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 直前の感想、大変失礼しました。 みーちゃんは原作1〜10巻と最終25巻を読んでると言われてましたね。。(・_・;
[気になる点] あれ?みーちゃんって原作小説は10巻までしか読んで無いと思ってたんですが、最終巻のエピローグまで記憶されてるんですね。。?
[気になる点] >「なにか、変なことが書いてあったのかしら?」 > 口籠る美羽に気づき、フレイヤお姉さんが尋ねてくる。 この会話の流れとセリフだと 美羽に尋ねたのは『フリッグ』お姉さん だと思われ…
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