171話 オーディーンの考察なんだぞっと
「さて、今回の事だが、その前に長政の黄金の戦士になった姿に心当たりはあるのではないか?」
ジロリと見てくるオーディーンに、もちろんだよと頷いて口を開く。黄金の戦士モード『真覚醒』モードには覚えがある。
ワーッと、細っこい両腕を掲げると、美羽は説明を始める。
「ラストバトル前のイベントだね。『ラストバトルに入ります。後戻りできませんが、良いですか?』って、出るんだよ」
「あ、あぁ、よくあるシステムですね。その後にセーブすると詰むやつです」
何個目かわからないお餅をぱくつきながら、フレイヤがウンウンと頷く。たしかに、そういうゲームあるよな。
「で、イベントが始まるんだ。ラストバトル前のパーティーの会話イベント」
今まで仲間にしてきたメインキャラたちが集合して、しみじみと語り始めるんだ。
ずらりと現れた仲間に、一人一人に話しかけるんだ。全員が集まるのは壮観だった。
これまでの戦いを思い出して、大変だったと懐かしむ者。
戦いが終わったあとのことを考えて、報奨を期待してはしゃぐ者。
シンとの思い出を語り、頰を染めて惚気る者。
画面にも映し出されず、セリフも一言もないハブられているプレイヤーキャラ。
そして、シンと聖奈が告白しあって、恋人になる重要なシーンだ。
「酷くない? なんで最後まで俺は出ないんだよ? ハブられ度が徹底しているんだ。もうパーティーを追放してくれよって感じだよ。せめて一言でいいから喋らせてよ!」
皆が決戦を前に話し合っている中で、俺だけどこにいったんだよと、ムキーと口を尖らせて、テーブルをバンバンと叩く。
残念ながら愛らしい顔立ちと、小柄で幼い体躯の美少女なので、ほんわかする空気しか醸し出さない。
「それはどうでも良い。で、『真覚醒』になるのだな?」
まぁ、ゲームの話だからね。でもあれは、敵の将軍と結婚したヒロイン王女のゲームの次に酷いゲームだと記憶しているよ。まぁ、ゲームだから別に良いけどさ。
オーディーンの素っ気無い反応に、むぅと口を尖らせながらも、記憶していることを話す。その後も酷かったんだ。
「うん。ラストバトルにしか使えないけどね。シンと聖奈の全ステータスが200増えて、特別な武技や魔法が使えるようになった。そのバトルだけだけどね。クリアしても、クリア後データから始めると、ラストバトル前だから、その力は使えないんだけど」
「へー、それは凄いじゃない」
「推定レベル90にはなるんだよ。たしかに強力だったと思う」
腕輪の中に入り込み満足そうだけど、なんか悲しい光景だから、フリッグお姉さん、そこからそろそろ出ない?
「え、えっと、その時のみーたんのレベルは?」
おずおずと尋ねてくるフレイヤに、サッと顔をそむけて、会話を続ける。
「で、それで?」
フレイヤさんや、聞かなくても良いことは聞かなくて良いんだよ? その時の俺のレベルは150だったかな? 一人で無双してたよ。
「どうやって『真覚醒』モードとやらにはなったのだ? 長政は変身したのか?」
「ううん、たしかね〜……。そうそう、『生命の樹』から採れた『生命の実』の力だよ。食べると初代皇帝の血を強く継承している者は『真覚醒』モードになれるとか、そんな設定だった」
指をすかっと鳴らして、ふんすと得意げになる。指を鳴らすの難しいね。
「公爵家なら、もちろん皇帝の血を引いているというわけだな」
公爵家とは、皇族が臣下となった時の地位だ。皇帝の血をシンは引いていた。だから『真覚醒』モードになれたんだよね。
ふむふむと、何かを考えながら話を聞くオーディーンのお爺ちゃん。
「思い出してきたよ。たしか神無大和が最初に『生命の実』を使うんだ。それで『真覚醒』モードになった神無大和とのボス戦が終わると、都合良く『生命の実』の副作用である猛毒により、死んじゃうんだよね。ボス戦中には毒の効果なんかさっぱりなかったのに。テンプレだけどさ」
話し始めると、記憶が鮮明になっていく。ゲームの展開だけどさ。原作とあんまり変わらないだろ。
「で、『生命の実』の効果はわかったんだけど、危険だと封印してたんだ。だけど、最終決戦前に、危険を承知で使うことをシンが決意して、聖奈の愛の回復魔法の力で『真覚醒』モードになって、毒の効果も癒やされるわけ」
そこで、フト気づく。あれってシンがゲルズとの戦闘後に東京で手に入れた『生命の樹』だよな。
今は『マイルーム』のお庭ですくすく育っているやつ。
あ、違う違う。『マイルーム』の『生命の樹』は、ドロップアイテムだ。なので、本物はまだ東京にあるはず。
あれぇ? 誰かが持っていったのか? というか、長政が盗んだ? どうやって牢屋から逃げたんだ? 『ニーズヘッグ』が手伝ったんだろうけど……。『生命の樹』も『ニーズヘッグ』の手元にあるのか。
「……シンが『生命の樹』を手に入れていないとまずいかも。『真覚醒』モードになれないから魔神に勝てない…………けど、まぁ、いっか。裏モードで魔神倒すつもりだし」
シンが『真覚醒』モードになれなくても良いだろ。そもそも『生命の実』って、3個しか採れなかったような? 長政が使用して、残り2個。神無大和が使用しないと、その力をシンたちが知るわけがないから、そこでストーリーは頓挫しちゃうだろう。
でも、元々俺が倒すつもりだし、問題はないか。あれぇ? とすると神無大和は死なないのか……? あのおっさんは死ななければ、いくらでも勢力を復活させそうな感じがする。
「『生命の実』って、あの庭に生えている木が実を付けるの?」
「んにゃ。劣化版の『黄金の実』しか生らないよ」
「そうなの、で、いつ実をつけるのかしら」
「フリッグお姉さんには教えません」
フレイヤと一緒にお餅を食べているアリさんを見て、後で警備を任せようと考えておく。
「では、原作と展開が大きく変わったのだな?」
「だね〜。『ニーズヘッグ』なら、『生命の実』の力を知っていてもおかしくない」
「わかった。『生命の実』は本来は猛毒なだけなのだな?」
オーディーンのお爺ちゃんの言いたいことを理解して、身体を斜めに傾げて、ソファにぽすんと寝っ転がる。
「うん、なんで長政がナーガラージャになったんだろうね?」
「そこだ。儂の推測を補完する情報が得られたと言えよう。恐らく本来の『生命の実』の使用方法は『神の器』を創るものだったのだろう。だからこそ、強大な力を得ていたのだ」
「神無大和は毒で死んじゃったよ?」
「……推測に過ぎぬが、猛毒とは人から見た現象であり、その本質は『神の器』への変貌に耐えきれずに死んだだけなのだ。それが毒として伝わったのだろう」
ボサボサ白髭を扱きつつ、隻眼を爛々と輝かすオーディーンのお爺ちゃん。こういう謎解きは大好きな模様。
「耐えられるのは、『次元を超えてこの世界に転生した者』だけに違いない」
「元々神様降臨のアイテムだったわけかぁ………。えげつない果物だったんだね。原作者が設定しそうな感じだなぁ」
ウゲぇと、舌を出して『生命の実』の効果にうんざりする。しかし、少し変なことにも気づいた。
「長政はあれだけ馬鹿なことをしていたのに、転生者だったわけ? 普通の転生者は幸せになろうと行動するもんじゃないの?」
「そうね。あの男の行動に、転生者らしいところはまったく見えなかったわね」
あいつ、殺し屋にまで落ちぶれていたぞ。しかも原作通りに行動していた。おかしくないか? フリッグお姉さんも同意してくれる。
「い、いえ、わかりました。た、たしかに『次元を超えた転生者』だと、私は理解しました」
「根拠は?」
しかし、フレイヤはわかったらしい。どこらへんで? 不思議がる美羽とフリッグに、オーディーンが伝えてくる。
「『神鎧』を使っていたであろう? あれは、まさしくこの世界ではチートな力というやつだ」
「た、正しく使っていれば、多分長政は全属性を使いこなす最強となっていたと思われます。多分最初に『神鎧』で細胞レベルで身体を覆ってしまったから、魔法の力を阻害してしまい、他の属性が使えなかったんです。自分自身で自らの力を封印しちゃったんですよ」
「マジかよ。長政が最強だったの? ……たしかに普通なら倒せない敵だもんね。でも、それだけで長政が転生者だっていうの?」
長政がアホだったことは理解したよ。たしかにナーガラージャはうまく『神鎧』を使っていた。でも、転生者?
「あれだけ強い力と、神の器となったことを考えるとこれは確定だな。そして、お嬢はピンと来ておらぬようだが、転生者ではない。『次元を超えた転生者』だ」
「り、輪廻転生というやつですね。この世界に訪れたのは現代ではなく、遥かな過去なのかもしれません。思いあたる人って、い、いませんか?」
オーディーンのお爺ちゃんと、フレイヤの真剣極まる視線を受けて理解した。
いたな、明らかにチートな奴。
前世とは違う、この世界の独自の歴史。
足利幕府までは魔法はあっても、前世と同じ歴史の流れだったのに、そこで急に変わっている。
感心するほどの大魔法を使用していた人間が一人いる。
「この世界の『織田信長』が『次元を超えた転生者』? そこからはこの世界で輪廻転生をしていて、長政の魂となっていたのか!」
「そうだ。お嬢の推察は的を射ている。弦神長政は『織田信長』の、いや、他の世界から『次元を超えてきた転生者』だったのだ。だからこそ、あれだけの力を発揮できたのだろう」
「に、人間が次元を超えるには強靭な魂が必要です。強靭な魂は強力な魔法を使えることが多いんです」
「本来は『神の器』として召喚された可能性が高い。長政は輪廻転生で記憶を消去されたので、自分が『次元を超えた転生者』だなどとは欠片も意識をしていなかったのだろう」
「なるほどね〜。と、すると、今回のことはイレギュラーだったのか」
納得したよ。説の一つとして、なかなか説得力あるしな。
「あのような場所で神を降臨させても、良いことなど一つもないからな。敵の狙いも長政を強化させるだけだったに違いない」
「それが予想外の結果となったわけか………」
「儂らの戦闘であの地は一時的に魔の力に満ちた。監視系の魔法は使えなかっただろうし、機械での監視もログに表示されなかったから、相手も何が起こったか理解していない可能性が高いだろう」
ログ最強。ちょっとずるい感じするけどね。そうか、予想外だったのか。
そりゃ、そうか。神の降臨イベントって、あんな寂れた倉庫で行うことじゃないもんな。
「神の降臨の目的は、ナーガラージャの言った通りに、管理者を求めている可能性が高い」
「俺を管理者呼ばわりしてたね」
一神教にでもしたいのかね? コテンと小首を傾げる美羽に、貫くような鋭い視線をオーディーンは向けてきた。
「そもそも『魔導の夜』とはどういった意味なのだ?」
「そりゃあ、シンが魔神を倒して、ハーレムを築いて、世界を平和にする王道テンプレ小説……」
ありゃ? 『魔導の夜』って、全然関係ないな。どこらへんが題名に絡んでるんだろ?




