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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
6章 魔神

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152話 クリスマスの親子なんだぞっと

 なんで、お爺さんが来ているのだろうか? 玉藻から貰ったコンちゃん縫いぐるみを頭の上に乗せて、きりりと真剣な顔でみーちゃんは考え込む。


 コンちゃんを頭の上に乗せるの夢だったんだ。似合ってるかな? コンコンって、玉藻ちゃんと一緒にダンスしようかな。


 斜め上の思考へと、みーちゃんは飛んでいったが、パパと風道お爺さんはシリアスな雰囲気を纏って話し始めた。


「お父さん、元気そうで安心しました」


「うむ、芳烈よ。私はまだまだピンピンとしておる。安心しろ」


 厳しい目つきを一瞬するが、すぐに柔和な笑みに変えるパパに、口端を僅かに吊り上げて、風道お爺さんは堂々とした態度で答える。


 その様子に違和感を覚えた。なんとなく風道お爺さんは得意げだ。なぜなんだろうと思ったが、すぐに答えを教えてくれた。


「私への招待状が遅れていたようなのでな。気を利かせて手に入れておいた」


「……それは申し訳ありませんでした。誤配は時折ありますから」


「そうだな。芳烈も勉強になったであろう?」


 意味不明だが、何やら火花が散っているのがわかる。言葉に含みがありそうだけど、なんだろう?


 疑問に思うみーちゃんに、風道お爺さんは顔を向けると、その厳しい顔をへニャリと崩した。


「おぉ、美羽や。今日はお姫様だのぅ。随分と可愛らしいぞ」


「えへへ、ありがとう風道お爺さん!」


「そんな良い子の美羽にプレゼントだ」


 そう言うと、後ろにいる執事がリボンで結ばれているプレゼント用の包装がしてあるどでかい箱を持ってきてくれた。なんだろう、これ? みーちゃんの背丈よりもおっきいぞ。


「開けてご覧?」


「うん!」


 飛びついて、箱のリボンの結び目を解くと、包装紙を丁寧に破いて、箱を開ける。


「ライオンさんだ!」


 なんと中にはライオンの縫いぐるみが入っていたので、花咲く笑顔になり飛びつく。本物そっくりのライオンさんは、なんとみーちゃんが乗っても大丈夫だ。


「ありがとうございます、風道お爺さん!」


 パパとの仲はあんまり良くないようだけど、縫いぐるみに罪はないもんね。コンちゃん縫いぐるみをライオンさんの頭に乗せて、がおーっ。


「喜んでもらえて良かったよ。美羽は縫いぐるみが大好きだと聞いておったのでな」


「大好きだよ! やったぁ」


 大はしゃぎしちゃうみーちゃんを他所に、パパはというと、少し困惑している顔だった。なにか変なところあったのかなぁ?


「美羽の好みをよく知ってましたね、お父さん」


「ふ、当然だ。芳烈よ、良い勉強になったのではないか?」


「………」


 なぜだが黙り込むパパ。悔しそうだなぁ……。


『それは、風道と芳烈の違いね』


 ライオンさんに頭をこすりつけて、ご満悦なみーちゃんに、唐突にフリッグお姉さんの思念が飛んできた。宙にみーちゃんしか見えないホログラムが浮き出てくる。


 パーティー会場に潜り込んでいるのは知ってたが、狙ったようなナイスタイミングだ。さては、そばにいるな。まぁ、いっか。


『どういう意味?』


『風道のお爺さんに、クリスマスパーティーの招待状は出されていないわ。これまでの伝手と金で手に入れたのよ。お嬢様の好みを知ったのも、同様の方法で使用人から手に入れた情報の一つね。ふふっ、意味がわかるでしょう?』


『人の使い方というわけだね』


 貴族的な人の使い方ってわけだろ。パパにはできない方法だ。


 ニコニコ笑顔でライオンさんに、玉藻ちゃんを乗せながら、フリッグお姉さんに答える。


『そうよ。お嬢様が回復魔法に目覚めた時も、恐ろしく早く情報を手に入れていたでしょう? 風道の情報網は侮れないわよ』


『当主を降りても、その力はまだまだ健在なのか。まぁ、まだ一年経ってないし、当然か』


 着物の玉藻ちゃんは、横座りになり、みーちゃんの腰にしがみついて、凄いねとキャッキャッと喜ぶので、みーちゃんもポンポンと飛び跳ねて楽しんじゃう。


『このタイミングで現れたのは………みーちゃんのせいかぁ』


『ふふっ。話が早いから、お嬢様は好きよ。そのとおり、要は急速に鷹野家は手を広げすぎたわ。誰かさんのお陰で、用意した人材は枯渇したの。東京に手を出したのがトドメだったわね』


『戦略シミュレーションゲームでもあったよ。最初の領地は小さいから内政80以上の武将たちに管理は任せるけど、領地が広くなりすぎて、武将が足りなくなって、誰でもいいから、とにかく武将が必要になるパターン』


 その場合、内政30とかの武将でも仕方ないので任せたのだ。それと同じことが起きたというわけかぁ。


 機を見るに敏だな。人材が枯渇した時を狙うとは。


 風道お爺さんが、パパへと近寄り、ぼそぼそと耳元で囁く姿が目に入る。


 みーちゃんハイパーイヤー発動! 風道お爺さんに、『戦う』を選択。すると、色々全部聞こえるようになった。


「芳烈。貴様は金を稼ぐ能力は極めて高い。それは認めよう。だが、貴族との付き合いはどうだ? これまでは自身との付き合いを大事にする貴族たちとばかり付き合ってきたのではないか?」


「なにが言いたいのですか?」


「以前の言葉を繰り返そう。困った貴族たちとの付き合い方を教えてやる。最近はとくに嫌がらせと圧力が増えてきたであろう? 嫌がらせを防ぐ根回しと、圧力を躱す方法は貴族の思考でなくてはならない。貴様の増えた富を齧ろうとするハイエナは無数にいるのだ」


「そのために来た、と?」


「あぁ、貴様なら私の性格はよく知っているはずだ」


「家のため……貴方は変わりませんね」


「だからこそ、この状況では私が味方であることもわかるはずだ。どうするのだ、芳烈? ここで私を退去させるか?」


 僅かに含み笑いをする風道お爺さんに、躊躇いの顔になるパパ。だけれども、ぎゅっと手を握って自身の答えを口にする。


「わかりました。貴方が今日ここに来たということは、頼らないといけない場面があるということでしょう。今までのことを水に流すことはできませんが、家族のため、ひいては雇用している者たちのためです。お父さん」


「ふん、少しは己の立ち位置を理解したのだな。褒めてやる。ここで断るつもりなら、私はお前を見損なっていた」


「昔にその言葉は嫌というほど聞きましたよ」


 小声でのやり取りを終えると、二人は仲良さそうには見えないが、それでも協力体制を結んだようで、次々にくる分家や他の貴族たちとあいさつを交わし始める。


 意外そうな顔の貴族には、風道が微笑みながら、芳烈をよろしくとフォローする。分家にはこれからの鷹野家の未来は息子にかかっていると親しげにアピールだ。


 妬んでいた貴族は油断できないと思っただろうし、広間に入ってきた時には蔑みの表情や、敵意を含む顔を浮かべていた一部の分家も、風道お爺さんが隣にいるのならばと、態度を緩和させていた。


 もちろん好意的な貴族や分家は多かったけど、どうしても付き合い上、招待をしないといけない仕方のない嫌な相手もいるのだ。


 風道お爺さんの力は大きい。


 あの歳になるまで広めた勢力と人脈。鷹野家を支配していた辣腕ぶりは、一目置かれていたらしい。


 パパはお金をたくさん稼いだけど、貴族的な態度をとらない。風道お爺さんは、その点をフォローできる人材であったのだ。


『むぅ、パパを虐める貴族は排除するのに』


 ぷっくりと頬を膨らませて、ご不満みーちゃんだ。


『お嬢様がそれで良いなら反対はしないわ。ただ年がら年中、父親のフォローをしていくつもり? ヨチヨチ歩きの赤ん坊ではないのよ。これからは一層他の貴族の謀略や陰険な妨害は入るし、その全てを排除するわけにはいかないと思うけど? どうかしら? 話し相手も全てお嬢様が決めるつもり?』


 からかうように妖艶な笑みで試してくるフリッグお姉さん。


『パパはかっこいいから、そんな必要ないもん! みーちゃんは、かっこいいパパを見て育つよ!』


 パパなら、こんな逆境チョチョイのチョイだもんね。ムキーと怒っちゃう。


 きっと貴族的な振る舞いを身に着けつつ、優しいパパとなるに決まっているもんね。


『それなら、邪魔はしないようお勧めするわ。父親との確執よりも、遥かに貴族たちの方が問題だもの。精神的にも物理的にも危険よ』


 危険かぁ。フリッグお姉さんの言うとおりだろう。少し手を広げすぎたかもしれない。


 いや、遅かれ早かれ、火星人がめちゃくちゃにした鷹野家を立て直したパパは同じことになっただろう。元から鷹野家の力は大きいのだから。


『フリッグお姉さんは良い人だね。神様なのに』


『鷹野芳烈が潰れると、これからの事業の展開が困るもの』


『まぁ、そうだとは思ったけどね』


 ケロリとした顔で答えてくるので、そうだよね、人間のことなんか気にしないよねと、ケロケロと鳴くみーちゃんだった。


 子供時代に酷い目に遭わされた父親と組むのは、凄いストレスになると思うんだ。ぐっと耐えるパパには、後で肩たたきをするぞ。


『風道が今日のクリスマスパーティーに無理に出席したのは、新年会には自分も参加するためと、もう一つはあれよ』


『あれ? あのおっさん?』


 視線の先には、遅れてやってきたのだろう。取り巻きを何人も連れた男が入ってきた。角刈りで、体も四角い厳ついおっさんだ。 


 キョロキョロと辺りを見渡し、パパに気づくとズカズカと近づいてきた。その後ろから威圧するように、取り巻きが鋭い眼光を見せている。


 歩き方一つとっても、粗暴さが見て取れるおっさんだ。誰だ、あれ?


鷲津わしづ嘉隆よしたかね。海運業の一角を占める鷹野家の分家よ。武闘派で、力こそ全てという時代錯誤の人間。海運業の内容も怪しいわ』


『力こそ全て? 海運業の社長が?』


 今の世の中でそんな奴が……いたな、火星人が。


『そうよ。ちなみに鷹野家の当主を虎視眈々と狙っている分家筆頭ね。最近は落ちぶれ始めた鷹野家を隙と見て、他の貴族たちのバックアップを受けて、当主の座を手に入れようとしていたようね』


『面倒くさい相手だね。捕まえることはできないの?』


『脳筋の割に、証拠を隠滅するのが得意なようよ。それに逮捕させて良いのかしら? 海運業は結構な利益を出しているのよ?』


『むぅ……それは困るね。今も昔も貿易業は美味しいカードだし。そうか……ここぞとばかりに瑕疵をつかれて、他の家門が海運業をかっさらっていっちゃうと』


『海運業をしているのは、水魔法の家門の方が専門なのよ、お嬢様。風の家門が海運業の一角を占めることができたのは、ひとえに昔の当主の力と、魔物を撃退する武力があったからこそよ』


『いつもの追い込みはできないのか。厄介だなぁ』


 こいつの対処は困るなぁ。証拠を突き出して、はい逮捕というわけにはいかないというわけなのか。


 むぅ、と悩んで玉藻と一緒にライオンさんに抱きつく。そろそろ他のお友だちにもプレゼントを渡さないといけない。


 だが、鷲津は気になると眉をちょっぴり顰めて様子を見る。パパへと近づくと、ニヤリと顔を笑みに変えて、鷲津は口を開く。


「ご招待して頂きありがとうございます。今世間を騒がす有名な『魔法の使えぬ魔法使い』であらせられる鷹野家当主代行にお会いできて光栄です」


 光栄と言いながらも、その目はパパを見下していた。セリフも明らかに悪意がある。


「ようこそ鷲津さん。クリスマスパーティーを楽しんでください」


 眉をピクリと動かして反応を示すが、パパは笑みを崩さなかった。


「ありがとうございます。それで、当主代行は早くも風道様に泣きついたのですかな? 金は稼げても、力はありませんからな。おっと失礼」


 風道お爺さんへと目をちらりとむけると、ガハハと豪快に笑い蔑みの目と馬鹿にした台詞を吐く鷲津。


 後ろの取り巻きも笑うので、うちの分家ではないのは明らかだ。いや、分家か。分家なのにこの態度かよ。


 なるほどね。風道お爺さんが無理を承知で出席したのは、こいつが原因か。


 周りが鷲津の態度に明らかに凍りついているが、まったく気にする様子はない。


「結局は最後にものを言うのは金と力。その一つを手にしているのだから、羨ましい。おっと、もう風道様に泣きついたのですな、失礼」


 お前はオットセイかと思う程に無礼極まりないおっさんだった。ボールでも投げつけてあげようかな。おっととと遊んでほしい。


 当主の開催したパーティーで、これだけ馬鹿にした台詞を吐くとは、かなり自身の力と金に自信があるようだね。


 だが、優しいパパは言われたままにはしなかった。


「鷲津さん、お帰りはあちらです」


 口籠るわけでも、風道お爺さんに頼るわけでもなく、不愉快ですと顔をしかめて、出口を指し示す。パパかっこいい!


「なにっ! ……言い過ぎましたな。申し訳ない、少し酔っているようです」


 パパの毅然とした態度に驚く鷲津だが、すぐに謝罪を口にする。隣で風道お爺さんが睨んだからだ。なるほど、当主代行を当主代行と思わないこの態度。風道お爺さんが出張ってきた理由を理解したよ。


 新年会を前にこの態度、強い態度をとらなければ、こちらが低く見られてしまっただろう。


 だが、あっさりと謝罪を口にしてきたので、そんな素直な態度に出られたら矛を収めるのが、パパなのである。強引に退去はさせなかった。


 その後はギスギスした空気で挨拶を終えて、鷲津はその場を離れていく。


 ここまで傍若無人なのか………。鷲津家ねぇ。パパはどうするのかな。


 どこかで聞き覚えがあるような名前の気がするな。なんだっけ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 風道おじいちゃんは良くも悪くもお家至上主義というか、現状だと味方になるだろうなと思ってました。 パパが今後も表面的には有能であり続けていればの話ですが。 ただこういう目的がハッキリしている人…
[一言] みーちゃんブチ切れ案件にはならずにすんだのかな?分かりやすい悪役登場ですが、本当に単純な悪党なのか気になりますねー。
[良い点] 風道翁と一応和解できてパパさん陣営も強化できましたね。パパさんは今後も成長が期待できますね。 [気になる点] みーちゃんの『どこかで聞き覚えがあるような名前』というのもありますし、鷲津は今…
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