151話 クリスマスプレゼントだぞっと
パーティーが始まり、みーちゃんはパパと一緒にご挨拶だ。ママは無理をして体調を崩すと怖いので退出した。
まずは、みーちゃんがご招待したお友だちから挨拶だ。
「玉藻ちゃん、玉藻ちゃんのパパさん、ママさん、春くん、よーこそいらっしゃいました! ローストビーフは食べましたか?」
金色の髪をサイドテールで纏めていて、着物姿が似合っている可愛い玉藻ちゃんを発見した。今日は狐っ娘になっておらず、頭の上にコンちゃんを乗せている。
ローストビーフは凄い美味しそうなので、みんなで食べに行こうと、遠回しの言い方をする。
みーちゃんも策士になったものだ。きっと食べていないから、今から行きましょうと答えてくれるはず。
くふふとほくそ笑んで、謀略を仕掛ける神算鬼謀のみーちゃんだ。
「うん、もう食べたよ。ホーンベアカウのローストビーフ、分厚かったよ〜、こーんなだったよ」
「コンコンッ」
「ガーン!」
ふんふんと興奮気味に、玉藻ちゃんが両手を広げて、肉の分厚さを笑顔で教えてくれる。頭の上のコンちゃんも美味しかったよと、小さく鳴く。
え〜、もう食べちゃったの? くっ……完璧な計画が崩れちゃったよ。がっかりと肩を落として落胆するみーちゃんである。熊なのだか、牛だかわからない謎肉であるホーンベアカウのローストビーフ、とっても食べてみたい。
「鷹野さん、今日はご招待ありがとうございます。家族でパーティーを楽しんでおります」
「是非楽しんでいってください。珍しい食べ物もたくさんありますので」
「はい。ありがとうございます。来年からは『聖花』や『魔法花コスモ』を使用した魔道具も開発に着手しますし、長いおつきあいになると思います」
パパと玉藻父がニコニコと笑顔で握手をする。仲の良い二人アピールだ。実際、とっても仲が良いんだけどね。
これは周りへのアピールである。魔道具のシェアを持つ油気家と、『ウルハラ』の投資者であり、運送業のシェアを持つ鷹野家が手を組んでいるとのね。
獣のように周りの人たちは、パパたちの会話を耳をそばだてて聞いている。獣の中でも象なのかな?
油気家と手を組んだのには理由がある。『聖花』と『魔法花』を組み合わせた簡易防毒結界なのだが、重大な欠陥があることが判明した。
それが何かというとだ。
ドルイドたちが作る魔道具は、出来がバラバラであったのだ。
個人的に使用することを前提にしていたので、販売するには不向きであった。美味しいと評判だからと、ママの手作りクッキーを市場で大規模に売り出すようなものである。
この世界の知識を着々と集めているオーディーンのお爺ちゃんは、ゲーム仕様に頼らない製作方法などを開発し始めたけど、量産化技術にはまったく興味を持ってくれないので、量産化のノウハウがさっぱりないのだ。
ちなみにオーディーンのお爺ちゃんは自分では作れないので、設計のみだ。魔法の神と呼ばれるだけはあると感心したよ。
なので量産化のノウハウを持つ魔道具の油気家と組んだ。それにより、独占からの妬みを防ぎ、仲間も増やすこともできて一石二鳥であるしね。
それでも利益だけの付き合いに見えて、こういうのは嫌だなぁと思っていると、玉藻ちゃんがニシシと楽しそうに笑いかけてきた。
「ねぇねぇ、エンちゃん。玉藻はプレゼント持ってきたんだよ。ほいっと」
『木の葉変化』
いつの間にか手にしている木の葉を、宙へとほいっと投げる。ポムと煙をたてて、木の葉はコンちゃんへと変身した。
「おぉっ! 変化の術?」
「うん、あらかじめプレゼントを木の葉に変化させておいたんだ。コンコンってね」
「反対の使い方かぁ、凄いよ玉藻ちゃん!」
木の葉を他の物体に変化させる妖術を、他の物体を木の葉に変化させるのは考えなかったよ。なるほど、反対も可能なのか。
「えへへ〜。これ、プレゼント! 玉藻が作ったんだよ〜」
照れながら、木の葉から変化したコンちゃんを玉藻は手渡してくれる。よく見ると、コンちゃんにそっくりな縫いぐるみだ。
本物そっくりで、見分けがつかない。凄いクオリティである。これを玉藻ちゃんが作ったのか。まだ子供なのに器用なものだ。さすがは魔道具の権威である油気家だよね。
サワサワと触ると、滑らかなシルクのような感触が気持ち良い。やったね、みーちゃんの縫いぐるみコレクションがまた増えたよ。
お友だちの手作り縫いぐるみなんて、賢者の石よりも希少だ。縫いぐるみを手に持って、満面の笑みを向ける。
「ありがとう、玉藻ちゃん。大事にするね!」
「ニシシ〜。闇夜ちゃんも来れればよかったのにね〜」
頬を赤くして、ぴょこぴょことサイドテールを尻尾のように振って、嬉しそうに笑う玉藻。でも、闇夜ちゃんが来れなくて残念だねと、少し寂しそうにもする。
「帝城家もパーティーをしているから、仕方ないよ」
日本魔導帝国に強大な力を持つ36家門。それぞれクリスマスパーティーを開いており、自身の派閥と仲の良い家門を招待している。
なので、元服を終えた闇夜がうちのクリスマスパーティーに出席するのは不可能だったのだ。こういうところは、貴族って本当に嫌だよね。
「闇夜ちゃんには後で渡すけど、玉藻ちゃんに私からもプレゼント! ジャッジャーン!」
へい、蘭子さんへ手を振ると、楚々と後ろをついてきていた蘭子さんが、手に持つリボンで飾られた箱を手渡してくれる。
受け取ると、はいどうぞと玉藻へと渡す。ちゃんと春くんにも渡したよ。
「わーい、ありがとう! 開けても良い?」
「ありがとう、美羽おねーちゃん!」
「うん、良いよ!」
玉藻は綺麗に包装を取ると、興味津々に目を光らせて箱を開ける。春は開けずに大事に抱えたので、性格がわかるというものだ。
「わあっ! お花のクッキー?」
「うん! この間貰った『神聖花』を使ったクッキーだよ。手作りしたの!」
箱の中に並ぶ花びら型のクッキーに、玉藻は嬉しそうに顔を向けてくるので、フンスと得意げに胸を張っちゃう。
ゲルズ戦を終えた後に、宝箱が残っていないかなと、こっそりとゲルズの植物園跡地を調べた所で見つけた花だ。というか、ゲームではあったセーブポイントに咲いていた魔物を寄せ付けない花である。
ゲームでは錬金にも料理にも使えたので、劣化版の『聖花』として栽培する反面、今回は料理に使用した。
それが『神聖花』のクッキーだ。
「食べてみても良い?」
「うん、食べてみて!」
自信の逸品なんだよと、目を輝かせて頷くと、玉藻はクッキーをサクリと齧る。
モキュモキュと味見をして、クワッと目を見開くと、サクサクと齧ってあっという間に食べてしまった。
「美味しい! なにこれ、口の中で綿菓子みたいに、溶けちゃった。さっくりとした良い歯触りのあとに、すうっと消えちゃった感じだよ!」
ぴょこぴょことサイドテールを激しく振って、食べたことのない味だよと大喜びの玉藻と、頭の上で合わせるように身体を揺らすコンちゃん。プレゼントをして良かったとみーちゃんも笑顔を浮かべる。
そうして、喜ぶ玉藻の身体が一瞬仄かに輝いた。
「あれれ、なんか身体が一瞬光ったよ!」
「うん! 魔法耐性が少し上がったんだね!」
『神聖花』のクッキーは食べると付与効果があるんだ。
『神聖花のクッキー:レベル50。食べると半日間、魔法ダメージ3%軽減』
まぁ、気休めの付与効果だ。これを作った理由は他にある。ずばりフレーバーテキストの内容だ。
『神聖花のクッキー:一人前の料理人が作れるクッキー。とても美味しいので、作った端から、あっという間に食べてしまう代物』
とっても美味しいと書いてあったのだ。フレーバーテキストで記載されていた内容は信じられる。とっても美味しいクッキーなのだ。味見しなかったから、よくわからんけど。
味見したら、全部食べちゃうらしいからね。それに『料理』で作成された物は絶対に成功するから、味見しなくても問題はない。
お友だちに渡しても、これなら食べてしまうから、ゲーム仕様でも問題ないしね。
「これ、とっても美味しいよ。サクサク〜」
ひょいぱくひょいぱくと、物凄い勢いでクッキーを食べていき、そのたびに身体がピカピカと光る玉藻ちゃん。
クリスマスだしね。ツリーに飾られているライトみたいに光っても問題ないよね? だから、みんなは注目しなくて良いよ? 玉藻ちゃん、夢中になって食べすぎじゃないかな?
「雲みたい! 口に残らないのに、最上級の蜂蜜を舌で味わう感じ! クッキーの香ばしさがはっきりとわかるよ!」
グルメ玉藻は、クッキーの欠片を口元につけて、24枚全てを数分で食べ終えた。
なるほど、フレーバーテキストは正しい。作っている端から食べてしまう美味しさ……なるほどね。
たらりと冷や汗をかいてしまうが、身体には良いから大丈夫。なんならカロリーすらゼロの可能性があるクッキーだから。
「みーちゃん……いつの間にそんなのを作ったのかな?」
周りが騒がしくなる中で、パパがジト目でみーちゃんに尋ねてくる。
「んとね〜、寒くなってきて戻ってきたおでん屋のお爺ちゃんからレシピを貰って作ったの! おでんよりもクッキーが良いかなって思ったんだよ。クリスマスに相応しい面白いエフェクトだよね! ちゃんと作る時には蘭子さんもいたよ」
「はい、お嬢様はとても手際よく作りました。『神聖花』は高級食材としても使われますし、問題はないかと思います」
ググッとちっこい拳を握りしめて、問題ないとアピールする美少女である。蘭子さんもフォローしてくれたので安心だ。
もはや魔法の効果はお爺ちゃんのレシピのせいにするしかない。みーちゃんは悪くないよ。フレーバーテキストを見て作っただけなんだ。美味しいって記載があったから作っただけなんだ。味見すればよかった。
「また夜に抜け出したのか……駄目って言ったろう?」
「フレキが護衛してくれたから大丈夫!」
「後でそのおでん屋のお爺ちゃんを紹介してもらうからね?」
「恥ずかしがり屋さんだから、お手紙貰ってるよ! 後で一緒に見ようね!」
これは本当だ。これからのことを考えて、オーディーンからの手紙を用意してある。まぁ、書いたのはフリッグお姉さんだけど。
「次からは、パパに最初に言うこと……というか、もしかして袋に入れていたお菓子は全部これかい?」
「うん! 他のみんなには12枚入りのクッキーをプレゼントする予定だよ!」
「没収」
「え〜!」
せっかく作ったのに。まぁ『料理人Ⅲ』の知識に従って作っただけだけど、頑張ったんだよ。
「まぁまぁ、鷹野さん。『神聖花』は身体に良いと言われてますし、美羽ちゃんが夢中になりすぎて、マナを込めてしまったのでしょう。時折、そのようなことはありますよ」
今までの経験から、玉藻父親がフォローをしてくれる。
「う〜ん……しかしですね」
「今の光り方は聖なるものですしね。クリスマスに相応しいと思いますよ?」
「そうですね。今度からはしっかりと報告するんだぞ?」
「はぁい」
少し考えなしだったかもしれない。ごめんなさい。
ゲーム仕様だから安全だとみーちゃんは知ってるけど、他の人にはわからないもんね。みーちゃん反省。
「まったく騒がしいな、芳烈よ」
クッキーについて、騒がしくなってしまったので、落ち着きを取り戻すためにも、雑談を続けようとしたが、嗄れた老人の声がかけられた。
「………! どうもお父さん」
「あぁ、メリークリスマスだな、芳烈よ」
目を細めて僅かに警戒をするパパ。振り向くとそこには背筋をピンと伸ばし、鋭い目つきのお爺さんが立っていた。即ち、美羽のお爺ちゃんである鷹野風道、だ。
んん? 仲が悪いんじゃなかったっけ?




