14話 ジョブについて、考証するんだぞっと
鷹野 美羽
レベル3
神官Ⅰ:☆☆☆
HP:18
MP:6
力:7
体力:7
素早さ:7
魔力:7
運:7
魔法:初級神聖魔法Ⅰ、初級神聖範囲魔法Ⅰ
しばらく戦闘をした。3時間は戦闘しただろうか。俺のレベルは3になり、熟練度も3だ。ステータスは上がり、スキルも増えた。
今は荒れ地に座り、お昼休憩中だ。なかなかスパルタな感じだ。初の実戦で3時間とはな。
パクパクとお弁当を食べている。母親の作ったお弁当だ。タコさんウインナーに甘い卵焼き、別の箱にリンゴも入っている。たぶん、このダンジョンで断トツにレアなアイテムに違いない。
「美味しいね、闇夜ちゃん!」
パクリと卵焼きを口に入れると、仄かに甘い。甘すぎないのが、また美味しい。んん? この唐揚げは冷凍食品ではないぞ!
お弁当の唐揚げの味に気づいて、驚き夢中になって頬張っちゃう。そんな美羽の微笑ましい姿に闇夜は癒やされて、緩んだ顔をする。
「みー様はお母様のお弁当が大好きですわね?」
「うん、ママのお弁当大好き!」
無邪気な笑顔で答える灰色髪の美少女に、ふふっと微笑むと闇夜は自分の重箱から分厚い肉を摘むと、差し出してくる。
「これはホーンベアーカウのステーキですわ。どうぞみー様、あーん」
「あーん」
牛なのか、熊なのか分からないネーミングだが、高そうだ。なので、パクりと食べる。
「美味しいっ! はにこれ?」
多少噛みながら、驚きの声をあげてしまう。食べられる魔物の肉は美味しいと聞くけど、脂がたっぷりとのりながらも、あっさりとした赤身の味と相性が良く、食べたこともない程美味しい。値段を聞くのが怖い美味さだ。
「美味しそうに食べてもらって、良かったですわ」
「私のタコさんウインナーもお返しにあーん」
「あーん」
美少女たちの癒やされる光景がお昼ご飯の最中に展開されて、皆は癒やされるのであった。
キャッキャッとお昼ご飯を楽しく食べながら考える。
『魔導の夜』のゲーム版はゲーマーもそこそこやったRPGだ。このシステム。大手の有名ゲームの良いところを集めたという噂というか、真実なのだろうゲームだ。
基本レベル。ジョブ熟練度がある。戦闘回数が一定に達すると、熟練度はレベルアップする。格下の魔物との戦闘でも良い。ただし魔物に限るが。
奇数の熟練度レベルで魔法、偶数の熟練度レベルで身体能力をプラスできる。
例を上げるとこんな感じだ。ちなみに神官の身体能力プラスはMPアップである。
☆ 魔法Ⅰか武技Ⅰ
☆☆ 身体能力+
☆☆☆ 範囲魔法Ⅰか特殊スキルⅠ
☆☆☆☆ 身体能力+
☆☆☆☆☆ 魔法Ⅱか武技Ⅱ
☆☆☆☆☆☆ 身体能力+
☆☆☆☆☆☆☆ 範囲魔法Ⅱか特殊スキルⅡ
☆☆☆☆☆☆☆☆ 身体能力+
☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 魔法Ⅲか武技Ⅲ
おわかりだろうか? 全てのジョブがこの規則に従っている。熟練度は☆9まで。これ、見たことあるぜとゲーマーなら言うかもしれない。魔法の名前もⅠ〜Ⅲが普通だ。
これ、原作破壊だと、ヘビーなファンからは文句が出たらしい。たしかにⅠとかⅢ魔法なんて無かった。
でも俺はこういうゲーム好きなのでやり込んだ。面白ければ原作破壊でも構わないだろうと俺は考えたのだ。そもそも、小説のキャラが使用する魔法は皆それぞれバラバラだし、ゲームにはできなかったんだろう。ゲームでも小説のキャラしか、そういう特殊な名前の魔法は使えなかった。
固有スキルはというとだ。神官Ⅰだとこんな感じだな。
神官Ⅰ 打撃武器50%アップ、ターンアンデッド、聖、闇耐性。聖魔法100%アップ
即ち、装備品の攻撃力アップ。特殊固有スキル。属性だ。そして専用武技か魔法の威力アップ。
属性は12種類。万能属性以外は無効、吸収、反射ができる。万能属性は耐性のみ。万能属性は魔法防御不可だ。
属性
斬打突 火風水雷土聖闇無 万能
12種の基本戦闘ジョブ。
4種類の生産ジョブ。
5種類の複合ジョブ
3種類の隠しジョブ
1種類の課金ジョブ
後はジョブの上位アップか。基本ジョブだけはジョブの位階がある。熟練度がマスターになれば、さらに上位になれる。ⅠからⅣの4段階。
一度、魔法やスキルを手に入れれば、他に転職しても使用可能。使えないのは固有スキルだけだ。
この仕様を第三者が見れば、皆思うだろう。手抜きだってな。うん、俺もそう思うよ。
だが、もっと酷いのはだ。
そもそも『魔導の夜』は古典的ファンタジー。ジョブ制はまだ一般的ではなかった頃の作品だ。
即ち、ジョブもレベルもない。最高の複合ジョブ『勇者』なんていないのだ。主人公は間違っても勇者なんかではなかった。12歳で神殿に行って、ジョブを神から貰える、なーんてことはないわけ。
闇夜で言うと、闇属性に目覚めた魔法使い。以上。
刀を使っているが、棍棒だって、槍だって使える。持つ武器によって攻撃力が変わるなんてこともない。小説にありがちな専用装備はあるが、装備できないものなんてないし、魔法だって、強力なのが使える。
うん、わかるわかる。わかるぜ。
実はゲーム版は原作破壊なんだわ。大破壊と言えよう。まったく小説に準拠していない。無理矢理既存のRPGに合わせた感じ。これが合ってはいないが、間違ってはいなさそうな設定だったから、尚の事たちが悪かった。グレーな感じの設定だったんだ。
しかも地味にオープンワールドや、様々なイベントに多種多様な武装があった。セカンドジョブが50になってから手に入るとか、レベル99以上は課金でレベル制限をとっぱらったりな。
ゲーマーにも売ろうという考えで制作会社は恥も外聞もなく、小説のゲーム化だからという言い訳を大義名分にして、他のゲームからシステムをパクリまくって作りあげた。しかも、古いシステムだ。リアルタイム制って、何十年前のシステムだよって感じだ。
このことについては、流行りのソロで戦うアクションゲームにしていたら詰んでたので、制作会社を褒めても良い。俺はレトロなRPGが好きだったからな。当然やり込んだわけ。
当時はファイナルドラゴン転生だろって、ゲーマーたちは揶揄してたのを覚えている。でも良いところをつまみ食いしたように作られていたゲームだったんで、ネーミングセンスに手抜きはあったが面白かったんだよ。
原作の大ファンは怒り狂ったらしいけどな。まぁ、無理もない。しかも原作よりも強力な武器やジョブも出したし。ゲーム化あるあると言えよう。
という訳で、俺は『魔導の夜』の小説の世界に原作破壊のゲームプレイヤーとして生きることになったわけだ。
ゲームにない魔法は使用できず、戦闘も『戦う』コマンドを選ばなければマナも使えないパターンだ。この先、小説の魔法が使えるか頑張ってみるが、絶望そうだなぁとも、心の片隅にある。まぁ、強くなるデメリットと考えれば、許容しても良いかもしれないが残念だ。……いや、諦めねーぞ。同じマナだもんな。俺のはMP表記だけどな。
まさかと思うが、『マナポイント』だよな? 俺だけ『マジックポイント』じゃねーよな? 俺だけ別世界の仕様じゃないよな? いや、『魔導鎧』を起動できるからマナのはずだ、うんうん。
小説準拠であるので、色々とわかることもある。例えば、回復魔法。
神官なら使える『小治癒Ⅰ』はHPを8〜12ぐらい回復できる。これは一般人なら全快する効果だ。
ただ魔法使いにはほとんど通じない。それはなぜか? 魔法使いは魔法に耐性あるんだわ。それは攻撃魔法に限らない。なので、『小治癒Ⅰ』はかすり傷程度しか治せない。
わかるか? 即ちHPの回復量がこういう形で表されているんだ。ゲームでは強い魔法使いはHP100あるとする。現実になるとそんなの変だよな? 一般人と同じHPでもおかしくない。『小治癒Ⅰ』で全快できてもおかしくないんだ。
でも、ここで耐性の考えが加わると、強力な魔法使いほど耐性があるから、強力な回復魔法を使わないと回復できないわけ。それによりHPの最大値が大きいと計算されているのだ。よく考えられているよ、まったく。
なので、魔法使いである闇夜たちはかすり傷程度しか今は回復できない。これは以前に怪我をした闇夜を治そうとして判明した。訓練中にわかって良かったよ。実戦時に判明していたらパニックになっていただろう。
「みー様、疲れましたか?」
闇夜がぼんやりとジョブの考証について考えていた俺の頬をつんつんとつつき、優しい笑顔で聞いてくる。
「ううん。まだ大丈夫! 私ももう小学3年生だしね」
ニコリと笑い、腕を曲げてサムズアップする。その可愛らしい光景に、闇夜は楽しそうにクスクスと笑った。他の人たちも微笑ましそうに俺を見てきていた。
「あと、35回は戦闘できると思うよ!」
「やけに具体的な数字ですわね?」
闇夜が不思議そうに首を傾げるが、敵の数ではなく、熟練度は回数なんだ。群れを倒しても一回。単体を倒しても一回なんだ。あと35回戦って、熟練度を5に上げておきたい。
「あと、みー様。なんであんなへんてこな戦闘をしますの?」
「へんてこ?」
なんのことだろう。いや、なんとなくわかるけどさ。
「敵を一体倒したら、離れることですわ。『魔導鎧』も停止させますし、ふざけていると、教官に怒られますわよ」
耳元で小声でこっそりと闇夜は注意をしてくれる。闇夜の吐く息がかかってこそばゆい。
「うんとね、『魔導鎧』をずっと起動状態にできるか練習してるんだ。教官には説明してあるよ」
「なるほどですわ。みー様は魔物が近くにいないと、本気になれないから『魔導鎧』を起動できませんものね」
「そうなの。だから、練習あるのみ!」
フンスと息を吐いて答えるが、嘘である。
敵のヘイトが他の冒険者に向かうと、戦闘終了になるんだわ。その際に一匹でも魔物を倒しておけば、熟練度の回数に数えられる。現実世界だからこそ行える裏技だな。
3匹現れれば、できればバラバラの戦闘としてカウントされて、3回の戦闘として数えられたいんだ。護衛の冒険者には悪いけど、効率的にやりたいんだ。そんなに魔物も出てこないしな。
この裏技、戦闘中に護衛に敵が流れていったら、敵が逃げた扱いになり、戦闘終了となったから気づいたんだ。なので、熟練度をあっさりと3にできたわけ。
現実では、闇夜と敵を分けていることもあり、一時間に3回程度しか戦闘できないからな。この裏技に気付かなかったら15回も戦うのは無理だったろうよ。
「たくさん戦って、護衛の皆のお礼にもするんだ!」
魔石やドロップ品というか、死体から採れる素材はお金になる。ここの素材は安いけど、せめてものお礼だ。俺は闇夜に便乗する形で、ダンジョンに来ているしな。全部お礼としてあげる予定だ。
アイテムボックスの中身はあげないけどな。
不思議仕様。敵を倒すと、死体から魔石や素材が採れます。でも、俺のアイテムボックスにも魔石や素材が自動的に入っているんだ。即ち、俺は2倍のドロップ品があるということになるのか? まぁ、決められたドロップ品しかアイテムボックスには入らないようだけど。
アイテムボックスはさり気なく聞いたら、使用できる人などいないらしい。そりゃそうか。亜空間を作るって、どれほどの高位魔法使いかって、話になるもんな。そういう魔道具もないらしい。
なので、秘密秘密、秘密秘密、秘密の美羽ちゃんなのだ。アイテムボックスは最高機密の一つとなりました。
装備品が亜空間に仕舞われており、腕輪状態とかから、光と共に現れて展開するというパターンはないのだ。なぜならば、更衣室で女性キャラが着替えるシーンは大事だから。一瞬の変身シーンよりも女性キャラたちが下着姿で延々と会話をするシーンをとったらしい。
つくづく、『魔導の夜』の作者は人気をどう取れるのかを考えていたと思うよ、まったく。
「あと30分で休憩を終えます。その後は3時間程戦闘を開始しますよ」
「は〜い」
「わかりましたわ」
教官がパンパンと手を打ち、俺たちは午後も戦闘をするのであった。
そして、俺の熟練度が5になった時に、そいつは現れたのだった。




