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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
5章 冒険者

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139話 後始末だぞっと

 芳烈の言葉に皆は静かとなる。おかわりを持ってきたみーちゃんが、トレイをひっくり返した音ぐらいしか部屋内には響かなかった。


「ふむ……芳烈殿、その提案とやらを聞こうじゃねぇか」


 猛獣が笑うように口元を歪めて、面白そうな顔で燕楽が口を開く。


「はい。それでは人払いをお願いします。ここにいる面子だけで共有したいのです」


「わかりました。人払いをしましょう」


 新城が他の人々を食堂から追い出すと、穏やかな笑みを崩さずに、パパは小さく頷き提案を話し始める。みーちゃんは、散らばった食器に涙目になる。


「さて、今回のことは残念でした。ここで帰還すれば、皇帝陛下の支持は下がり、政界は大混乱となる。そう思いませんか?」


 人差し指を立てて、パパは自分を見ている者たちへと問いかける。


「そうですな。このままでは、多少厄介なことになるでしょう」


「多少とは控え目なセリフだな、古城提督? 皇帝陛下は一人負けだ。裏切り者により部隊に損害を出し、忠臣の嫡男を危うく失うところだったんだからな」


 背もたれに体を預けて、古城提督の発言を揶揄する燕楽。


「………たしかに粟国公爵の仰るとおりでしょう。もしも真白殿が死んでいたら、帝城侯爵との溝ができてしまうでしょう」


「僕が死んでいたら、周りの目もありますし、皇帝陛下は父を側においておくことはできないでしょうしね」


 古城が難しい顔となり、真白も眉根を顰めて同意する。


 それだけ詰んでいた状況だったのだ。改めて言葉にすると、危うい状況だったということがわかる。


 武士団のトップである王牙が皇帝から距離をとるだけで、勢力基盤は危うくなるだろう。


 みーちゃんも、散らばったおかずや食器から距離をとって、これは危ういと困った顔になっちゃう。雑巾はどこかな?


「そのとおりです。しかしながらどう考えても、もはやカバーできない所もある」


 言外で長政のことを言うパパに、反論の声はない。


「そのため、皇帝陛下の支持を下げないためにも、ここは一つ提案があります」


 皆が黙ったままであるので、聞き入れる気持ちがあるのだろうと、パパは話を続ける。


「まず、美羽の功績のほとんどを聖奈皇女に受けていただきたい。美羽は聖奈皇女のフォローとして頑張った、ほとんどの人たちは聖奈皇女が癒やしたということにしたいのです」


「おいおい、実の娘の功績を無かったことにするのか?」


「先程も伝えたとおり、鷹野家は完全に掌握しておらず、家門内で護衛となる信頼でき、腕の立つ者がいないのです。恥ずかしながら、外にて雇っている護衛が一番信頼できる状況です。美羽の力が知られると、これは極めて危険なことと言えるでしょう」


 パパのセリフに燕楽が片眉をあげて、難しい顔で非難するが、かぶりを振ってパパは現状を伝える。


 か弱い美羽は簡単に攫われちゃうのだ。散らばった食器も自分一人では片付けられないか弱さなのだ。


「たしかに……聖奈皇女の護衛は精鋭が揃っていますが……。当主の護衛の主たる者たちが冒険者頼りなのは危険だと思っておりました」


 新城のセリフに、金剛お姉さんたちは良い人たちだよと反論したいが、提案を飲ませるためとわかっているので、みーちゃんは闇夜と玉藻と一緒に黙って食器を片付け始める。ありがとうみんな。


「そうです。そのため、しばらく鷹野家は時間が必要なのです。なので目立ちたくない。これは皇帝陛下にとって利益のある話であり、私たちにも利益があります」


「しかし、いかに皇帝陛下への忠誠心厚い大隊でも、全員に口止めするのは不可能ですぞ? きっと鷹野伯爵の活躍を吹聴する者たちがいるでしょう」


 人の口に戸はたてられない。なので、絶対にみーちゃんの噂は広がる。しかし、パパはわかっていますと頷き返す。


「そうでしょう。ですが、癒やされた当人は殊更大袈裟に自分を癒やしてくれた回復魔法使いのことをよく言うものです。聖奈皇女と一緒に回復をした。美羽も聖奈皇女のフォローとしてよく頑張ったという噂にて上書きすれば、誰にも真偽はわからなくなるでしょう」


「なるほどな………。真実と嘘を混ぜるわけか。この大隊は帝城家と皇帝陛下の股肱の臣が多い。うまくいくかもしれねぇな」


 うぅむと唸りながらも、燕楽のおっさんはこの話がたしかに上手くいくだろうと考える。嘘で塗り固めるわけではない。少しだけストーリーを変えるのだ。


「聖奈皇女がこの話をご了承頂ければですが……?」


「この話を受けると……長政お兄様の裏切りで下がる皇族の支持率への影響を最小限に抑えることができるのですね? ならばお受けします」


「ありがとうございます。この話は2つの意味があります。美羽の力をごまかせること。真実を知る者たちには、鷹野家は皇帝派だと、遠回しに伝えることができることです」


 青白い顔をしながらも、決意の表情で聖奈はパパの提案を受けることにした。これで聖女の人気は上がるだろうし、皇族へのダメージも減らすことができるだろう。


 あくまでも少しではあるが。長政のしたことをなかったことにするのは不可能であるので、仕方ない。


 しかし、鷹野家が功績を譲ることにより、裏で皇帝派だと知らしめれば、皇帝の支持の低下を抑えることができるであろう。


「長政を捕らえたことにより、救援部隊の面子も立ちます。被害も少なかったようですしね? 今浜が裏切ったことに対しての新城さんの管理責任も、ある程度は問われないかと」


「むっ……たしかに今浜が裏切ったことは予想外でした。彼を先遣隊として認めたのは最終的には私ですから」


 今浜は長政の一派であったとはいえ、最終的に選抜隊を選んだのは新城なのだ。いかに上手く根回しされていたとはいえ、見抜けなかった新城が悪いということになる。


 損害は出したが、美羽の回復魔法により負傷者はゼロだ。


「古城提督は大隊の責任を取る必要がありましたが、聖奈皇女と美羽により救われています」


 新城と古城は既に美羽への強い借りがあると、遠回しに伝えるパパに、苦笑気味に二人は頷く。


「おいおい、そこに俺が入ってないぞ? 俺の利益はどこにあるんだ芳烈殿? 今回の遠征では、粟国家は功績を上げたし、『エリクシール』を始めとして、かなりの貴重な魔道具を使っちまった。それに、救世主たるドルイドの爺さんもいる」


「そこは普通に皇帝陛下に功績を求めても良いかと。ですが、あまり欲張らない方がよろしいでしょう。ここは皇帝陛下からの信頼を報奨として、長政の裏切りを幇助した者たちが捕縛されたあとの、抜けたポストに家門の人間を入れるようにすれば良いと愚考しますよ?」


 長政は子供だ。今回の事件を起こせるほど頭も良くない。誰かが裏で絵図を描いたのは確実であり、宮廷には裏切り者がいるはずなのである。


 調査をすれば浮かび上がる者たちがいるだろうし、少なからず高い地位の者も関わっているのは間違いないのだ。


「ふむ……今回の報奨としては、少し少ないが……まぁ、手堅いな。分かった。芳烈殿の提案に俺は乗ろう。だが、ドルイドの爺さんはどうする?」


「話には聞いていますが、そこはわかりません。こちらの内情には無関心かと思いますので、別段気にすることもないでしょう」


 肩をすくめてみせるパパに、それもそうかと皆は納得する。ドルイドの老人がこちらの内情に口を出すとは思えない。


「それ、あたしにはなんにも関係ないわよねっ? ニニー様に利益はあるのかしら?」


 ただ一人、完全に部外者であるニニーが、フンスと胸を張って口を挟む。たしかにまったく利益はない。


 ……ように見えるが違う。


「ニニー嬢、貴女は真白さんを助け出すために国境を越えてきたのでは? 鷹野家が自由裁量権を持っていなければ、この遠征隊に加わることもできなかったのですよ? 既に鷹野家には多大なる借りがあるのでは?」


「う、うぐっ……。たしかに、そ、そのとおりね。ごめんなさいっ!」


 厳しめに少し怒った素振りを見せるパパに、威圧されたニニーは、身を引いて素直に頭を下げる。


「それじゃあ、全て丸くおさまるのか、芳烈殿? 鷹野美羽は、今回の遠征では聖奈皇女のフォローとして活躍した、そこそこ腕の良い回復魔法使い。そういうことで良いんだな?」


 燕楽の言葉に、誰も異論は出すことはなく、話は終わった。みーちゃんもようやくお片付けを終えた。


「あの、みー様の報奨はゼロなのですか? それは酷いです」


 話は終わったと、空気が緩んだことに、闇夜がプクッと頬を膨らませて意見を言う。


 たしかに今回の提案で、美羽は目立たないという報奨はあれど、それはこの遠征隊を助けたからであって、本来の報奨がまったくないのはおかしい。


「そうですね、闇夜さんの仰るとおりです。なら、美羽には皇族の宝石コレクションを――」


「あー、闇夜ちゃん。私は、ここの土地が良いな! お花たくさん咲かせるの! 花畑を作りたい!」


 最後までパパのセリフを言わせる前に、言葉をかぶせる。


 両手をバンザーイとあげて、無邪気なみーちゃんだ。事前に話しておいた内容と変えるなよ。


 小柄な体を、うーんとめいっぱい背伸びをして、愛らしい顔を笑顔に変えて、ワクワクみーちゃんだ。


「みー様、それは良い考えですね! お花畑を作りましょう!」


「ちょっと危険じゃないかな? ガウ〜って、魔物が襲ってきそうだよ?」


 みーちゃんの言うことなら、全肯定してくれる闇夜と、常識的な言葉を口にする玉藻。


「美羽らしいな。しかし、宝石の方が――」


「おーはーなーばーたーけー」


 お花畑が欲しいんだ。花畑が欲しいんだよ。みーちゃんテレパシー発動! いい加減にしなさい。


 床に転がって、ちっこい手足をバタバタとさせて、駄々っ子みーちゃんを見せるが、頭の中身がお花畑だから、もう花畑はいらないだろとは誰もツッコむことはなかった。


「では、鎌倉の一部を安価で買い取れないか、皇帝陛下へと連絡して頂いてよろしいでしょうか、聖奈皇女?」


「わかりました。根回しはさせていただきます。恐らくは皇帝陛下は無料にて下賜なさると思いますよ」


 聖奈が胸に手を添えて、誓うように言う。


「では、よろしくお願いします。それと今回の話はどこにも漏れないように、お互いに口にしないことにしましょう。たとえこの話を知っている者たちだけとなっても、この話をのぼらせないこと。そのようにお願いします。私も今回の会合は今後、決して口にしません。素知らぬふりをします」


「分かった。用心深いことはいいことだからな」


 そうして、この秘密の話し合いは終わるのであった。



 ………もちろん、このパパは偽物だ。『機械支配マシンドミネーターⅤ』で通信機を支配して変装したフリッグお姉さんである。


 パパには偽王牙からの連絡を入れる予定だ。みーちゃんが危険にならないように、王牙が手を回したと今回の話を伝えて、あとは素知らぬふりをしましょうとね。


 なので、パパは今回の真実は知ることはない。ちょっぴり悪いことをしたけど、みーちゃんを守るため、ひいては家族を守るためなのだ。


 ちょっぴり悪い子なみーちゃんを許してほしい。


 優しいパパなら、きっと許してくれるよね。


 後日、今孔明の評価がまた上がり、誰もがその智謀に注目し始めるが、それはまた別の話である。きっとパパがかっこいいからだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地味にみーちゃん食器ひっくり返してて爆笑した
[一言] パパが宝石をと言ったところで、あっフリッグ姐さんか!と気付きました(笑)パパの策謀は鰻登り⤴本人はくしゃみでもしてるのかしらん??
[良い点] おでん屋さんかと思ってたら女スパイだった
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