表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
5章 冒険者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/380

133話 ゲルズと戦闘なんだぞっと

 砕いた『鉄塊蔦』が石灰化して、地面へと落ちてゆく。行く手を阻んでいた『強化茨姫』も全て片付けた。


 小物の雑魚がわらわらとやってきたが、オーディーンのおじいちゃんとフリッグお姉さんと一緒のパーティーは強力だ。まったく相手にならず、熟練度稼ぎのボーナスステージとなった。


 数十メートルある洞窟を進んでいき、壁となっている蔦をオーディーンが破壊して、隠されている機械的なセンサーを停止させ、ゲルズのいる研究室へと辿り着いたのであった。


 ゲームと同じ攻略をして、ゲームと同じ光景が目に入る。


 しかしながら、ゲームと同じ終わり方にするつもりはないけどな。


 どうやって、ここまであっさりと辿り着いたかというとだ。


 鷹野美羽はゲーム仕様の力を持つ。中ボスを倒せば、そこへとテレポートできるというわけなのである。


 最近のゲームは、ダンジョン攻略でライトユーザーにストレスを与えないために、攻略したポイントにショートカットできる通路ができるか、テレポートできるようになる。


 昔のように高い塔を攻略させて、さらに異世界の四天王を倒したら、ラスボスと戦うといった長いダンジョンで、セーブ場所一つないという厳しい道程はないのだ。


 『魔導の夜』ゲーム版ではどのパターンかというと、後者である。『茨姫』を倒した部屋までテレポートできるのだ。たとえ、その時にオーディーンはいなくてもパーティーに入っているために、美羽が移動した場所へ転移できる。

  

 転移を使用する本人ではなくとも、パーティーの誰かがポイントに辿り着けば問題ないのだ。


『ゲルズの植物園・茨姫の間』


 表示される一覧から、苦笑しながら、オーディーンはポチリと選択して転移をしてくれた。後はゲルズの研究室まで一直線でした。


 研究室に入ると、ゲルズが驚愕の表情で聞いてくる。ゲームと違い、待ち構えていたわけではなかったので、動揺を露わにしている。


「な、何者? 妾の植物園になんのようかしらん?」


 俺は一歩前に出ると、すうっと片手をあげる。


「俺の名前は『ロキ』。この植物園を見学しに来たんだ」


「『ロキ?』」


「あぁ、この植物園は違法施設の可能性があるんでな。悪いが見学させてもらうぜ」


 見た目からしてアウトだからなと、ニヤリと凶暴なる笑みにて告げてやる。


「『ロキ』……貴女、鷹野美羽でしょぉ〜?」


 小柄な体躯で、先程まで聞いていた少女の声音だ。ゲルズはどう考えても鷹野美羽としか考えられなく、戸惑った様子だ。


「そう見えるなら、それで良いぜ」

 

 フッと、口から犬歯を覗かせて、獲物を見つけた猛禽のように凶暴なる笑みを見せる。


 ゲルズは俺の笑みを見て、口を噤み押し黙る。自分の知る鷹野美羽とは、まったく違う強烈な力を感じたのだ。


「………なるほど、違うわねぇ。貴女の纏う空気……。少女の纏う空気じゃないわぁ。少なくとも、妾が観察していた回復魔法使いの少女とは違うようね。『ロキ』……本物の『ロキ』?」


「本物なのかは、自分で判断すれば良いだろ。趣味の悪い植物園の所長さん?」


 ゲルズの所長室は、巨大な木の根本に作られていた。何本もの木が捻れ絡まり合っているような幹であり、高層ビルと同じぐらいの太さ、生い茂った木の枝がドームのように、天井を覆っている。暗闇の中で、木の枝に絡みついている蔦から咲く『光花』がその全容を朧気に教えてくれていた。


 何よりも、目の前の巨木は絡まりあった幹の隙間から、赤い怪しい光を放っていた。


 そして、木の枝には多数の花が咲き誇り、実が生っている。


 ゲルズは動揺していた表情をすぐにおさめて、ボスに相応しく哄笑し始めた。


「クハハハ、そうでしょう? この土地は『邪悪なる生命の樹』にちょうど良い土壌だったみたいなのぉ。短い間にこーんなに大きく育ったわん」


 両手で自分の身体を抱きしめて、恍惚の表情でゲルズは言ってくる。俺の皮肉はまったく効かなかったようだ。


「ふーん、趣味の悪い植物園ね」


「あの樹木。栄養をたっぷりともらっているのだな」


 フリッグはつまらなそうに、オーディーンは多少の興味を持った模様。二人とも嫌悪感とかは、さっぱり見せていない。まぁ、神様らしい反応だ。


「素晴らしいでしょぉ? 見て、あの花なんてあれだけ綺麗な花はそうは見ないでしょ」


「怒りを買おうとしても無駄だ、ゲルズ。俺たちは冷静沈着なのが売りなんでね」


 多数の花は、苦悶の表情で顔を歪める人の顔がその中心に張り付いていた。いや、張り付いているのではない。花の中から顔を出しているのだ。


 『邪悪なる生命の樹』に吸収された人々の末路だ。死してなお、魂を『邪悪なる生命の樹』に囚われている。


「あら、そうなのん? でも、貴女からは怒りの空気を感じるけどぉ? 花は楽しんでもらえなかったかしらん?」


「たしかに激怒しているかもな。その花は違法だぜ」


 俺は怒っている。吐き気がしそうな光景だ。


「それじゃあ、実はどうかしら? 美味しそうな実をとってあげるわよん?」


 樹を指で指しながら、ゲルズはからかってくる。こちらを怒らせて、冷静な行動をさせないつもりなのだろうことは明らかだ。


 でも、ムカつくな。間延びした口調で、こちらを観察してくるゲルズの全てに頭がくる。


「その実は禁忌だぜ、ゲルズ」


「そおん? よく熟れていると思うのだけどぉ」


 『邪悪なる生命の樹』に生っている実。その実は人間の脳だ。木の枝から脊髄が伸びており、生きていることの証明に、脳からは血がぴちょんぴちょんと滴り落ちて、地面へと血溜まりを作っている。


 何よりも、脳には目玉がついており、忙しなく動いていた。まだ意識があるのだ。


「ふむ、趣味の悪いシステムだが……。人の精神を繋ごうとしたな? なるほどな、精神の『不老』を人の精神を繋げることで、達成しようとしていた、というところか」


「な! これを見ただけでわかるとは……。あんた何者ぉ?」


 オーディーンは、脳に這っている蔦を見て、その使い道を即座に看破した。そのことに、ゲルズは瞠目するが、オーディーンにとっては簡単なことであった。


「古くから、人の意識を一つにまとめて神になろうと考える愚か者は数えることも馬鹿らしい程にいるからな」


 つまらなそうに肩をすくめるオーディーンだが、簡単にこの『邪悪なる生命の樹』の用途を見抜ける者を見たのは、ゲルズは初めてであった。


「は、ハハッ、貴方たち何者? ロキ? ロキのお仲間? 随分頭の良い魔法使いを連れているのねぇ? そのとおりよ。これは人の意識を繋ぎ合わせて、『不老』を達成しようとした失敗作。でも、他の使い道も見つけたのよ」


 パチリと指を鳴らすゲルズ。その合図で9個の実が地面に落ちてくる。地上に落ちる瞬間に、その実から枝葉が生まれ身体を覆うと、人型となり足を地につける。


「昔から妾が使っている選びぬいた実よぉ。貴方たちは勝てるかしら?」


 ゆらりと身体を揺らせて、こちらへとぎょろりと目玉を向けてくる。


 その体は蔦と枝葉で覆われているが、隙間だらけで、内部の脳や脊髄などが見えている。血走った目玉がこちらを見てくる姿には恐怖しかなく、その不気味な姿は化け物と表現するしかない。


 哀れなる異形の怪物がそこには現れるのであった。


『ブレイントレント:レベル52、弱点 火』


「この9体はそれぞれかつては、その道のエキスパートと呼ばれた強力な魔法使いよぉ。貴方たちは倒すことができるかしら? クハハハ、貴方たちを加えれば、12体になるわねぇ」


 ゲルズは得意げにブレイントレントを自慢してくる。


 ゲームとここは同じだ。古くから使っている魔法使いの脳を使った9体の魔法使い。様々な属性や固有魔法を使う敵だ。


 少し違うのはゲルズ戦が始まると、順番に一体ずつ喚びだすのだが、現実では全員喚びだすらしい。


「妾に指一本触れることもできないと思うわよん。さらにこの攻撃があるからねぇ」


 続けて指を鳴らすゲルズだが、だいたいゲームと同じだ。


「さあ、まずはこれよん」


『万花の毒』


 天井や壁、地面を這っている蔦が一斉に棘を生やす。ギラリと生えた棘は30センチはあり、これだけの攻撃を受ければ、何発かは魔法障壁を越えてくるだろう。俺たちは魔法障壁がないから、直に食らうけどな。


 蔦が震えると、棘が発射されて、一定ターンごとに『猛毒Ⅲ』を付与するダメージを与えてくる。


「その始まりは遠慮するわね。あまりセンスのないお誘いはお断りしてるの」


地形支配フィールドドミネーター


 フリッグが黄金の小手を付けた腕を軽く振るう。

 

 辺り一帯が黄金の輝きに染まり、蔦を震わし、今にも発射しそうであった棘はピタリと止まりおとなしくなった。


 溶岩地帯や氷雪地帯と同じ地形ダメージ。それが『万花の毒』だ。即ち、地形ダメージ無効化の支援魔法『地形支配フィールドドミネーター』を使用すれば、発動しなくなる。


 全ての支援魔法を使える女神フリッグにとっては容易いことだ。


「な、『万花の毒』! 『万花の毒』! 私の魔法が! 貴女何をしたのよぉ!」


 信じられないと顔色を変えて、ゲルズはお得意の植物魔法を使用するが、いつもは反応するのだろう辺り一面に敷き詰めた蔦はまったく反応しなかった。


「人生って、思い通りにはいかないわよね」


「キィィィ! どんな手品かは知らないけどぉ、それなら正攻法よ! 殺れ、お前ら!」


 憤怒の表情でゲルズが命令を出すと、ブレイントレントたちは、それぞれ木の枝でできている手を向けて、マナを集め始める。


 炎や氷、雷など使おうとしている魔法は様々だ。


「では、片付けていけば良いのだな?」


 オーディーンが前に一歩前に出ると、その手にヒノキの槍を持つ。


 腰だめにオーディーンは槍を構えると横薙ぎに振り抜いた。その一撃は風のように速く、軌道はゆらぎを見せることもない。


『地竜岩石衝』


 振りぬかれた一撃は、見た目は何も起こさなかった。


 だが、ブレイントレントの足元に三日月の溝が走り、地面から岩石が槍のように突き出す。ブレイントレントたちはその一撃によろけるが、たいしたダメージを負っていないように見えた。


 だが、2体のブレイントレントが岩石の槍を受けた後に石へと変わっていた。


「な、『石化』! まさかその魔法を使える魔法使いがいるなんて………!」


 自慢のブレイントレントを早くも2体倒されたゲルズは息を呑む。


 『石化』は槍使いⅣで使える高度な武技だ。現実では使える術者と会ったことはないのだろうか。それとも、あっさりと石化されたことに驚いているのだろうか。


 どちらでもいい。結果が全てだ。


「ブレイントレントは、全ての抵抗力が脆弱なんだ。知らなかったのかゲルズ?」


 ボスの取り巻きとして現れるブレイントレント。その火力は高いが、HPは極めて低く、火力だけが高い切り捨て前提の魔物なのだ。


「ちょっと時間はかかるが、夜会パーティを楽しんでくれゲルズ!」


「小生意気な小娘ね!」


 久しぶりの強力なボスだ。


『戦う』


 コマンドを選択すると、先程の怒りは消えていき、瞳からは殺意は消えて、冷静沈着な機械のような精神へと変わる。


「さて、オーディーン、フリッグ、ブレインたちは任せた! 俺はゲルズを倒す!」


 動揺をして混乱するゲルズへと武器を構えて突進する。


 もしも闇夜達がこの光景を見たら、トラウマ必至だ。少女達の教育に悪すぎる。


 シンには悪いけど、先回りして倒させてもらうぜ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
四天王倒したら全回復するゲームはかなりマシなんだよなぁ
[一言] 槍を極めるだけで石化が使えるのか...火○斬りどころかブ○イクブレイドができちゃうと
[一言] 『魔導の夜』ゲーム版ではどのパターンかというと、後者である。『茨姫』を倒した部屋までテレポートできるのだ。たとえ、その時にオーディーンはいなくてもパーティーに入っているために、美羽が移動した…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ