101話 名探偵闇夜だぞっと
結局、世間話をして帰宅の途についた。月とは連絡先を交換したから、成果は充分だ。シンとは連絡先を交換できなかった。たぶんモブの運命修正力が働いたのだろう。
不思議なことにシンと連絡先を交換する直前に、スマフォのバッテリーが切れちゃったのだ。まだ80%は残っていたのに不思議だよね? セイちゃんが眉を顰めて、何故かスマフォに向けて、手を翳していたけど、どうしたんかな。
で、冒険者は今度という話となり、今日は私のおうちで遊ぼうよと誘って、鷹野家で遊ぶことになった。明日は土曜日なので、お泊まりもしてくれることになって嬉しい美羽です。
広々とした美羽の子供部屋、どでかいモニターの前で、6人でゲーム中だ。ふかふかの毛足の長い絨毯は眠気を誘う気持ちよさを与えてくれる。もちろん土足厳禁だよ。屋敷の移動もスリッパです。日本に生まれて良かったと思う一つだよね。
「神無シンは怪しいの?」
攻撃で相手を異界に落とすゲームを皆でやりながら、俺は闇夜の言った内容を反芻する。
「えぇ、彼は『マナ』に目覚めていない一般人であるはずなのに、冒険者ギルドにいました。これは極めておかしいんです」
闇夜は素早いコントローラー捌きで剣士を操り、セイちゃんの操るドラゴンを攻撃して、異界に落としながら頷く。
たしかにそうだよね。神無シンは12歳で放逐された後に、『マナ』に覚醒するはずだ。魔物が徘徊する放棄地区に捨てられて、テンプレで魔物に襲われる。命の危機になって、『マナ』に覚醒して魔物を倒すんだ。そうして、力尽きて倒れ込んだところを、魔女が通りかかって、助けるわけ。『今の魔法は……』とか、ありきたりのセリフと共にね。
追放された主人公は、実は強かったというテンプレ王道パターンだ。それなのに、覚醒してもいないのに、冒険者ギルドにいた? しかも『簡易魔導鎧』を着込んでいた。これはおかしいことだ。
「もう『マナ』に覚醒したんじゃないのかな?」
「神無公爵の嫡男が『マナ』に覚醒したら、盛大なお祝いをするはずです。ですが、そんな噂は欠片も聞いたことはありません」
「それに、バーベキュー大会なんて、わかりやすいナンパだよね〜、ナンパナンパ〜。玉藻たちの会話を盗み聞きしてたんだよ」
むぅぅと、玉藻が目を険しくさせて、コントローラーを操作する。キャラの動きと合わせて、身体を右に左にと動かすのが微笑ましい。というか、あれはナンパだったのか。たしかにタイミングよくバーベキュー大会があるなぁと思ってたんだよ。皆、頭良いな。
「そろそろ女として、周りを意識しないと駄目よって、ママが言ってたよ〜、あっ、その攻撃はなし!」
「私たちも可愛くなってきたからね〜、ふふふ、必殺技!」
「ジュースおかわり良い?」
ホクちゃんたちも注意を促してくる。まだ10歳なのに、おしゃまさんだ。男子よりも女子の方が早熟するというのは前世と同じらしい。あ、俺の蛇もやられた。皆、このゲーム上手いね。クラッシュシスターズと言うらしいよ。
「だけど、『マナ』に覚醒していない、か……」
ふむぅと、ちっこい手を顎に添えて考える。たしかに原作通りだ。この時点で、シンが『マナ』に覚醒していることはない。………んん? これ、おかしくないか? ぱっちりおめめに疑問を乗せて、俺はバシバシ敵を倒して、今は玉藻と一騎打ちをしている闇夜に尋ねる。
「闇夜ちゃん、『魔眼』って『マナ』に覚醒しなくても使えるの?」
『魔眼』。その名の通り魔法の瞳だ。パッシブでもマナは瞳に巡っているんじゃないのかな?
「私は『魔眼』使いの知り合いはおりませんので、詳しくは知りませんが……」
「使えないよ」
「え?」
闇夜が知らないと答えようとして、闇夜のキャラを撃ち落とした玉藻があっけらかんと教えてくれた。え? 使えないの?
「玉藻のおうちに『魔眼』の魔道具があるもん。マナを込めないと使用できないやつ」
マジかよ。予想外の答えだ。グレーなのかと思いきや、答えを持っているお友だちが目の前にいたよ。
「『魔眼』は少しのマナしか使わないけど、それでも魔法使いじゃないと使えないよ。『マナ』に覚醒する前に、玉藻はこっそりと『睡眠の魔眼』を使おうとしたことがあるけど、使えなかったんだ〜」
悪戯に使おうと思ってたんだと、テヘヘとはにかむ可愛らしい狐っ娘だが、重要な情報を口にした。
「……とすると、あの方は信用できませんね。なぜ神無公爵は嫡男が『マナ』に覚醒していることを隠しているのでしょうか?」
「冒険者ギルドを訪れている点で、『マナ』に覚醒していますって、表明しているようなものだけど……」
3人揃えば文殊の知恵が浮かぶはずだが、意味がわからずに、考え込んでしまう。チクタクポーン。スキンヘッドにならないと駄目かね。
「たぶん系統外なんだよぅ。微量の『マナ』しか使えなくて、覚醒したとは言い切れないんだと思う。だから、ダンジョンの魔物を倒して、『マナ』の扱いに慣れようとしているんじゃないかなぁ」
のんびり屋のセイちゃんが、クピクピとジュースを飲みながら、なんでもないかのように口を開く。なにそれ、みーちゃんは知らないんだけど。皆詳しすぎない? 美羽はニコニコと微笑んで、会議の隅っこにいる無口な人間になっちゃうよ?
「よく知ってるね、セイちゃん」
「パパは学者なのぅ。ジュースおかわり良い?」
「お腹がタプタプになっちゃうから、だめ〜。それにしても系統外かぁ。系統外って弱いの?」
「うぅ〜んと、ジュースをおかわりして良いかなぁ?」
「私のわけたげる。夕飯食べられなくても知らないよ?」
まだ飲んでいない俺のジュースを手渡すと、ほにゃあと顔を緩めて、セイちゃんはコップを受け取ると、話の続きを口にする。
「ありがとうぅ〜、だから、エンちゃん大好き〜。んとね〜、系統外っていうのはね、ほとんど弱い魔法なんだって。『着火』や『鷹の目』だよぅ。他の属性も使えないと戦闘には不向きな力なんだって、パパ言ってたぁ」
ジュースを飲み終わり、コリコリと中の氷を齧り始めるリスのセイちゃん。そうなのかと、絨毯にダイブして、コロコロと転がる。系統外か、『虚空』は系統外のために、弱いと。いや、『虚空』だとはバレていないはず。
とすると、シンの弱点ばかりが表になっていて、立場が危ういのか。たしかにシンの弱点は酷すぎる。公爵家であれば捨てられても、仕方ない能力だ。でも本当かなぁ……。
神無大和は頭の良い悪人だった。嫡男の使い道を考えるはずだけど……。原作ストーリーでは、大きな権力を持っていたからなぁ。よくわからん魔法を使う嫡男はいらないと捨てるぐらいに余裕があった。もしくは周りからの圧力が強かったか。
今はどれくらい権力を持っているんだろ? 原作と同じぐらいかな? よくわからないな。なんかとにかく、権力はあった。そんなイメージだったんだよな。
「頭の良い方です。私の兄が帰国するのは、まだ少数しか知りませんのに、あの男は知っていました。なにか企んでいてもおかしくないですわ」
「そう言えば、闇夜ちゃんのお兄さんには会ったことないや」
何回もみーちゃんは闇夜のおうちにお泊まりに行っている。でも、兄の姿をちらりとも見たことはない。留学しているとはいえ、帰省する時はあったんじゃないかな。
「お兄様は私が5歳の時から、イギリスの魔塔に留学に行ってますの。あそこは一度留学したら、卒業まで長期休暇はありません。だから、私がイギリスに旅行に行く時しか会えなかったのです。本来は魔導学院に入学するはずでしたのに、魔法の最先端を学びたいと、イギリスに行ったらしいですわ。今、日本から魔塔に留学しているのは、お兄様だけです」
「へー、魔塔かぁ。お兄さん凄いんだね!」
しかも、日本でたった一人か。有能だなぁ。
「魔塔って、強い魔法使いばかりなんだよね!」
「お兄さんに会ってみたい!」
魔塔は覚えている。たしか最高の魔法使いたちが集まる世界最高の魔法研究所にして、学院という触れ込みだ。たしか、あの塔からもヒロインがやってきたよな。三角帽子にローブを着込み、箒に跨って空を飛ぶ魔法少女だった。いつもはタクトを振って魔法を使うんだよ。……なんで日本に来たんだっけか。
まぁ、とにかく闇夜のお兄さんは凄いということだ。少しだけ気になったが、まぁ、思い出すかもしれないし、気にすることはないか。
ワイワイと皆でお喋りをして、その後は夕食を食べて、お風呂に入り、特大ベッドの上で寝ちゃう美羽たちだった。
そして、次の日である。冒険者見習いの申請書に父親の判子を貰い、他の面々も帰ってから判子を貰って、冒険者ギルドで合流だと、今度こそ冒険者をしようと、期待に胸を膨らませて、朝食を食べ終えた後である。
無駄に広い食堂にて、両親と、闇夜たちお友だちと冒険者ギルドでの登録後は何をしようと、笑顔で話し合っている時に、メイドさんが扉を開けて報告してきた。
「旦那様。帝城家のご長男がいらっしゃいました。闇夜様をお迎えに来たとのことです」
「ん? 帝城家のご長男?」
「はい、帝城真白様と名乗っております。いかが致しましょうか?」
恭しく頭を下げるメイドさんの言葉に不思議そうな顔になる父親だが、闇夜がおずおずと手を挙げる。
「あ、私の兄だと思います。たぶん……」
「お兄さんの名前は真白さん?」
闇夜と対になる名前だこと。小説の世界だよねぇ。
「はい。迎えに来るなんて、少し恥ずかしいです」
恥ずかしがりながらも、嬉しそうに頬を染める闇夜。仲が良さそうだね、家族は仲が良いのが一番だ。うんうん。
「そうなんだね、それでは、応接間にご案内をしてください」
微笑ましそうに闇夜を見て、父親がメイドさんに告げる。
「いえ、そんな申し訳ありませんわ。皆さん、まだお食事中の方もいますし、ここで大丈夫です」
慌てて、両手を振りながら遠慮を口にする闇夜。その隣でナンちゃんが、口にいっぱい頬張って、おかわりとご飯茶碗を突き出していた。まだ食べてたんだ、ナンちゃん。食いしん坊だなぁ。お口にご飯粒がついているよ。
闇夜ちゃんがそう言うならと、父親は指示を変更して、食堂に案内するように告げる。
そうして、しばらくすると食堂へと一人の青年が入ってきた。
「朝食中でしたか。急に押し掛けてしまい、大変申し訳ありません」
優雅に頭を下げて、挨拶をしてくる青年。
「帝城真白といいます。お見知りおきを」
パチリとウィンクをしてお茶目な感じもする青年だった。童顔というか、女顔というか、いや、現実ではあり得ない程に中性的な、いやいや、この人、男性だよね?
化粧もなんもせず、喉仏も見えないし、骨格も男性のものではない。手術とかではなく、元からこうなんだとわかる。
小説の中で時折いる、なぜか女の子にしか見えないキャラクター。ニコリと花咲くように微笑む真白は、どう見ても女性にしか見えなかった。
え、この人はモブ?




