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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
1章 幼稚園時代

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10話 本当の悪意は笑顔を伴っている

 美羽の父親として芳烈は、父親と病院の談話室にあるソファに対面に座り対決をすることとした。芳烈は対決だと考えている。


 なぜならば、父親である風道かぜみちは兄であるあらしよりもその性格は独善的で横暴だ。自分の言うことが絶対であり、そこに疑問をもたない鷹野伯爵家の帝王として君臨していた。


 12歳の時に、縁切り代として金を貰い放逐された後は連絡の一本もなかったのに、今回急に連絡があったことに芳烈は内心で驚いてもいた。こんなに早く美羽の情報が伝わるとは予想していなかったのである。


「父さん、いえ、風道さん、なんでこんなに早く美羽の情報を?」


 まったく興味を持たなかったはずだ。12歳で『マナ』を発現しない者は、奇跡でもない限り『マナ』を覚醒しない。魔力を持たない者だと判断される。それまでは魔力は計測できなくとも、奥底に眠っており、突如として魔力を表に出して『マナ』に覚醒するパターンが多いために、様子を見られていた。


 芳烈は覚えている。あの蔑みの瞳を。『マナ』が覚醒しない者は風使いの名門である鷹野家には必要ない。ゴミと同じだと罵られて捨てられた。人聞きが悪いので、以降は分家で育てられたが、そこでも虐められて芳烈は子供時代を過ごした。


 芳烈の人格が歪まなかったのは、分家に出入りしていた商人の娘である美麗に出会ったからだ。彼女は活発的で明るく、それでいて優しかった。美麗の一族はマナに覚醒した者はおらず、昔から平民。芳烈の境遇に同情したことと、長女である美麗と仲の良いことから、色々と教わった。


 芳烈は有能であり、また、少なからず縁切り代として持っていた金があったために、商人の勧めた投資先を若いながらに考えて、的確な投資を行い大金を稼いだ。


 今は公務員試験に合格し、危険手当がある魔導省に勤めている。危険手当があるのは、テロリストに狙われたり、ダンジョンの確認時に魔物に攻撃される可能性が高いからである。


 今は平民としては裕福な暮らしをしており、優しい妻を持ち、可愛い娘がいる幸せな家族の暮らしをしていた。


 このまま、穏やかで幸せな生活を過ごしていくと信じていた。美羽が聖属性に覚醒しなければ。美羽を責めるつもりはない。美羽のせいではないし、友だちを救おうとしたその心根は誇りに思う。正直に言うと、あまり危ないことはしてほしくなかったが。


 鷹野伯爵家にいつかは伝わるとは思っていたが、早すぎると芳烈は疑問に思う。


「お前からの連絡があれば良かったのだが、この病院には鷹野家の分家が勤めていてな。美羽のことを聞いて、気を利かせて連絡してくれたのだよ」


 病院は個人情報を秘匿する守秘義務があるのではなかったかと、私は苦々しい思いに囚われるが、納得はいった。きっと点数稼ぎに喜々として父親に連絡したに違いない。


「もう縁は切れたはずです、風道さん。貴方が過去に私に言った言葉ですよね?」


 睨みつけるように私は父親を見るが、私の強烈な視線に気づいているだろうに、どこ吹く風と冷笑で父親は答える。


「そう意地をはるな。お前が苦労したのは知っている。私の持つ会社の一つを任せよう。聞くところによるとお前は中々才能があるようだからな」


 無能と罵ったその口で、才能があると褒める父親の面の厚さに苛立ちを覚えてしまう。よく、そんなことを言えるものだ。魔力を持たなければ鷹野家にはいらないと怒鳴ったではないか。涙と共に私はその記憶をしっかりと頭に刻んでいた。


「父さんっ! こいつに会社を任せるのかよっ!」


 父親の予想外の言葉に、兄が声を荒らげるが


「黙れっ! お前が経営している会社は最近赤字続きではないか! 商才のある芳烈に任せようと思う」


 父が兄を一喝し、睨みつけると気まずそうに顔を逸らす。よほど酷い経営をしているようだ。


「風道さん、申し訳ないけど、私は妻の父に勧められた投資先に乗っただけです。今だって、魔導省に勤めています。会社経営などできません」


「この馬鹿よりまともな経営をしてくれれば良い。なに、大丈夫だ。私も手伝おう」


 朗らかに言ってくる父親。子供時代にその優しいセリフを聞かされていたら騙されていただろう。だが、私は大人となり、これまでの人生で悪意に晒され続けていた。


 この男の目的は美羽なのだ。だからこそ譲ることはない。


「お断りします」


 きっぱりと断る私の態度に、父は僅かに目を開き驚くが、スッと目を細めて先程の態度が嘘のように、恐ろしい威圧感を醸し出す。その身体からは微風が吹いてくる。


「我儘を言うなよ、芳烈。貴様もわかっているだろう? 聖属性の貴重さを」


「……知っています。日本の誇る魔法使いの36家門。それぞれ1家門100人程度の属性使いがいますが、その中で聖属性は僅かに30人ですからね」


 ビリビリと肌が威圧により痺れを感じる中で、私は影響を受けていることを隠すように伝える。


 だが、父はハッと私の言葉を聞いて笑い


「グッ!」


 ダンと強い音がしたと思った時には私の頬はテーブルに強く押し付けられていた。


「上手い言い回しだな、芳烈。それだと希少と言っても大したことがなさそうに聞こえる。だがな、この日本魔導帝国には2億人の人口だ。そのうち『マナ』に覚醒するのは20万人、魔物と戦えるレベルの魔力持ちは2万人。だいたい36家に属しておる」


 ギリギリと頭を父に押さえつけられており、段々その圧力は高まり息苦しくなってくる。


「魔法使いの中には自己回復をできる者はおる。だが他人を癒やすことのできるものは何人だ? んん? この私に教えてくれないか、芳烈?」


 その口調には怒りが混じっている。私が逆らい拒絶したことに怒っているのだ。


「たった30人だ! 回復魔法の使い手はたった30人! 20万からの魔法使いがいる中で、たったの30人! 皇族や公爵、侯爵、それぞれ高位貴族が囲っている。人々を治癒でき、高位ダンジョンの攻略に必須である回復魔法使い! どれだけ希少か理解しているか? 我が家に待望の回復魔法使いが生まれたのだ! 一族揃って守らねばならん!」


「み、美羽は私たちの子供です! 貴方たちの道具ではありませんっ!」


「我儘を言うなっ! これからのことを考えよっ! 平民の貴様が美羽を守れると言うのか? 貴族の後ろ盾なく? 美羽だって、金持ちの暮らしが良いに決まっている! このまま平民暮らしで育ってみろ! 甲斐性のない両親を恨むに決まっている!」


「美羽をダシにしないでくださいっ! あの子は良い子です。必ずわかってくれると信じています」


「そんなわけがあるかっ! それに後ろ盾なく美羽を守れるのか? んんっ? 答えてみよ!」


「くっ。そ、それは……」


 痛いところをついてくる。日本は法治国家だ。国民は法律に守られている。………それは建前だとも知っている。貴族たちの横暴は稀に聞く。美羽が回復魔法使いだと知れれば、必ずなんとしても手に入れようとする者はいるに違いない。平民の自分にはそれを防ぐ術は無い。


 答えられないことに父は嘲笑う。


「ふんっ。その理想論だけを求める頭でも理解できたようだな。理解できたなら引っ越しの準備を始めろ。なに、美羽は大切に、ムッ!」


 突如として頭を押さえつけていた圧力が消えて軽くなる。咳き込みながら頭を上げると、ソファを飛び越えて父は険しい顔で身構えていた。


「………帝城さん、なんのつもりですかな?」


「念の為に護衛を置いていたのです。報告を聞いて、再度訪れたところ、娘の恩人の親が酷い目にあっているのを見ましてな。助けるのは当たり前だと思いますが?」


 後ろを振り向くと、着物を着た猛獣にも見える帝城王牙が冷ややかな顔で立っていた。何かをしたのだろう。その手には半透明の黒いオーラが渦巻いている。


「これは家族の話です。申し訳ないが、遠慮をして頂けませんか?」


 熱するような怒りを隠して、父が王牙へと伝える。


「縁は切れたと聞いておりますぞ。鷹野伯爵家は芳烈さんとの関係はないはず」


「復縁したのです。よくある話だと思いますが?」


「ほう……。それは本当ですかな、芳烈さん」


 二人が対峙し、空間がゆがむ程の威圧感を醸し出している。その中でも気にすることなく王牙は私に聞いてきた。


「いえ………。鷹野伯爵家とはもう縁は切れています。まったく関係はありません」


 この騒ぎを聞いて、看護師や患者が顔を覗かせるが、貴族同士の、魔法使い同士の争いだと気づき、すぐに顔を引っ込める。それだけ魔法使い同士の争いは危険なのだ。


「てめえっ! 何言ってやがんだ、こらぁっ! 不満ばかり口にしてやがって!」


 兄が私の言葉に激昂して、顔を真っ赤にすると掴みかかってくる。魔法使いの身体能力は一般人とは比べ物にならない。たった一歩で数メートルは離れていたにもかかわらず、一瞬の間で詰めてくる。


 気づいたときには兄の手が私の首元まで伸びており、そして王牙さんの腕が兄の腕を掴んでいた。


「ぐっ。こいつ!」


 兄は怒りの表情でその手に緑色のオーラを纏わせて、渦巻く風を作り出す。風が髪を吹き上げて、服を靡かせる。


「風よ、がっ!」


 しかし、一般人には危険すぎる魔法を放とうとするが、王牙がクンと手を動かすと、顔を仰け反らせて鼻がへこみ身体を揺るがし、ぺたんと床に座り込む。


「このくそがっ………」


 ボタボタと鼻血を出して、痛みで顔を歪めて憎々しげに兄は王牙を睨みつけるが、王牙は平然としていた。格が違うというのは、こういうことを言うのだろう。


「どうだろう、芳烈さん。私が、いや帝城家が美羽さんの後ろ盾になりましょう。後ろ盾と言っても、何も美羽さんを束縛はしません。闇夜を助けてくれたお礼です」


「帝城さんっ! 他家の者を奪うつもりかっ!」


 父は倒れ込んだ兄には目もくれず、怒気を纏い声を荒らげる。


「芳烈! 美味い話などないぞ。他家のことを信用するな! 回復魔法使いが欲しいだけだ!」


 たしかにそのとおりかもしれない。正義感のあるヒーローのように現れても、現実はそう簡単な話ではない。たとえ、親切から美羽を保護してくれても、第三者から見たらどう見えるか?


 他家からうまいこと回復魔法使いを引き抜いた辣腕の持ち主。それか格下の貴族から無理矢理奪った酷い人間、美羽の力を使う時もあるだろう。束縛せずとも、ダンジョンの攻略をするといえば、魔物退治に行くとなれば、親切を受けたお返しに美羽は同行する可能性は高い。


 だが、芳烈は2つの選択肢を前に迷うことはなかった。


「そうですね、お願いできますか、帝城さん」


 自分を放逐した家族に大切な我が子を誰が任せるというのか。


「任せてくれ。美羽ちゃんに誰もちょっかいを出させないようにしよう」


 王牙さんが僅かに笑みを浮かべて頷き、美羽は帝城侯爵家の後ろ盾を得ることになった。


「芳烈っ! きっと後悔するぞ! 帝城さん、このまま我が家が黙っているとは思わないことですな!」


 そして、鷹野伯爵家は敵となった。


 この選択がどうなるかはわからない。しかし、芳烈の気持ちは変わらない。美羽を守ると決めているのだから。

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― 新着の感想 ―
愛情に溢れた親の立派な姿をじっくり冒頭で描いている、素晴らしい作品に感動しました。
[良い点] うーん、いいテンポ感。返信でも言ってるけど悪役が馬鹿じゃないらしいから嬉しいですね
[良い点] も少しあとでも良かったきもしますが、微ざまぁ展開を早めに片付けて状況整理か
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