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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第五章 災禍、血煙、乱れ厄災
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五 思いと想い、フレてフルえて

***前回のあらすじ***

 コアイは単身馬を駆り、人間達が集う城塞都市タフカウへ向かった。やがて辿り着いたタフカウらしき場所で、コアイは人間達の襲撃を退ける……

 そうしているうちに、騒ぎを聞きつけた『神の僕』たちが駆けつけ、コアイと対峙した。

 『リュシア』…………


 コアイは以前にも聞いたその名を、理解できないでいる。

 しかし、その名を聞いたおかげで……馬を進め向かってくる黒髪の女が、先日ソルカ村で出くわした女だということに気付いた。



「そっか……やっぱり、知らないって顔するんだ」

「何かあったんスか?」

「ああ、大丈夫。私も、もう決めたから」

 やや気の抜けた様子で語りかけた男に対し、女は自らの黒く短い前髪を触りながら答えている。

 彼等の乗る馬はその間にも歩を進め、いつしかコアイとの間合いは十分に詰まっていた。


「あの女の人を信じていいのか迷ってたけど、そんなことより……私も、一緒に帰りたい」

 女の視線は鋭く刺し込むかのように、それでいて揺れながら足元へ落とされている。


「それでね、帰ったら、いつか……私の部屋から一緒に」

「ちょっ、人前で言っちゃダメなんじゃなかったんスか」

「あ……う、うっさい」



 二人は辺りに横たわる人間達を一瞥するでもなく、掛け合いを続けている。


 まるで無防備という訳ではないのだろうが、どこかコアイを見ていないような、二人だけで語り合うような彼等の言動はコアイに不快感を与えた。


「何時まで喋っているのだ、私と闘う覚悟はできたのか?」

 コアイには、不意を突く気はさらさら無い。それで殺しても、面白くないだろうから。


「はぁ……そういうことね、冷たくてせっかちで、自己中なくせに戦うときは正々堂々と戦いたい」

 正々堂々? そんな風を口にした覚えは無いが……

 話が噛み合わない、面倒な奴。


 コアイは少し不愉快に感じる。



「そんなに殺し合いが好き? こんのクソ野郎」


 女も不快に感じたのだろうか。そう吐き捨てた女の側から、魔力の昂ぶりが伝わってきた!

 にわかに足下の土塊が突き上げられる、それはコアイに突き刺さるどころか触れもしなかったが、瞬く間に巨大な尖塔を象っていた。

 コアイは視界を塞がれた格好になり、塔を回り込もうと左に跳ぶ。するとそれに合わせたかのように別の巨塔が突き上がる!


「左!」

「オラぁッ!」

 二本目の塔を目にしたコアイの右、剣を手にした男が飛び掛かっている!


「叩き潰す! 『両断(スパーダ)』!!」

 しかし男の打ち下ろしはコアイに届かない。


「ちっ、浅いかよ」



 コアイの興味は、慌てた様子で飛び退いた男ではなく……土塊の向こうにいる女へと向いている。


 詠唱はしていなかった……この女、人間ではないのか?

 しかしそれとしても、感じ取れる魔力に比べ発現した変化の程度が大きいように思う。どういうことだろうか?

 何にせよ、なかなか楽しめそうだ。



「いや、私は人間のはず……ってか結局楽しんでるとか、あなたやっぱりおかしいよ」

 コアイは心地好い闘争を予感していたが、女は気味悪そうに顔をしかめている。


 此奴は、何を嫌がっているのだ……



「力を持ち、それを己とその男のためだけに振るおうとする者が」

 コアイは諭すように女に語りかけながら、顔が綻ぶのを感じている。


「どうして取り繕うのだ」

 ……コアイはそこまで言い切ったところで、自らの言葉に違和感を覚えた。



 私は何故、この女をそういう手合いだと……理解したのだろうか。


 ただ……女の()()は、きっと私と似ている。


 そしておそらく私は、それを楽しんでいる。

 私は、闘争だけでなく……彼女のために生きられることを、楽しんでいる。



 コアイは心のどこかで、女を自分と似た者と見なし……また別個の障害と見なした。

 ただ、女に対し何故そのようなことを思い巡らせたのか、それは分からない。



「私も、己が力を(ふる)おう」

 コアイは詠唱を始める。


「三相に分かたれし水よ、和合せよ」

撹拌(こうはん)されし雫よ、風を補え」

「気液の妙を讃え、湛えよ 『祝祭(クンブ・メーラ)』」

 コアイの魔力が詠唱に応え、その周囲に水紋を纏わせた。


「我が護りを破ってみせよ、うぬ等に力在るなら」

 コアイは波紋の奥から、真っ直ぐに人間達を睨めつける。


「また()()か……けど、俺も強くなったんだぜ? ナメんなよ」

「ヒサくん、知ってるの? 攻撃しても大丈夫なやつ?」

 二人は寄り添うように肩を触れさせ、囁き合う。


「大丈夫っス、前もあれはバリアだけだったス」

「わかった、じゃあアレで攻めてみよっか?」

「あれ……あのあれスか?」

 女は、顔を見合わせた男にうなずいて見せた。


「しゃあっ!」

 すると男は間髪置かずコアイへ飛びついてきた、しかし男は鋭い声だけを残し直ぐに姿を消す!


 コアイは突然、土塊に囲まれた!

 それは前方だけでなく、コアイの真後ろまですべてを囲っていた。


 やはり、詠唱はない……何者だ?

 しかし今は、それを思案すべき時ではない。


「ああああああああああ!! 『瀑布(カスタータ)』!!」

 男の声がコアイの頭上から響き、極めて強い圧力を伴って土塊の上から落ちてきた!

 しかし四方八方を囲まれたコアイには、それを正面から受け止める他に策がない。否、他の策を打つつもりもない。



 来い。

 私の護り、破ってみせろ。



 圧力と斥力のぶつかり合いが、轟音と揺動をもたらし────



 周囲の土塊を砕きながら落ちてきた男の剣は中空に刺さったように、その身体は浮ついたように宙を佇んでいる。

 

 対してコアイは、両足を膝の辺りまで地に埋もれさせながら……ただ、男を睨みつけていた。

 今なお己の肌に届かぬ男を、じっと睨みつけていた。



「それで終わりか? その程度の刃で、私を除こうてか」

「いんや、俺らはこっからなんだぜ」

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