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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
裏面 私は、いつでもヒトの為に
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5 OH!! SUMMON QUEEN 〜Sの女神様〜

***「裏面」あらすじ***

 「最果て」に住む金髪の女の姿があった。その者は人間のみを愛し、人間のみに与する者であった。またその者はコアイを知っており、同時に強く憎んでもいた。

 女は父と呼ぶ存在から思念を受け取り、そこで教えられた魔術によって自身の愛する「ヒト」とは異なる人間を召喚し始める……

 ふざけんな、あんのクソ男! ふっざけやがって!!

 ……アイツが「この声の女より信用できそう」……私より信用できそうって? ふざけんな、ふざけんなっ!!


 嫌な奴、やな奴! 私の手で生まれておいて!!

 逆らうならとっとと死ねっっ! ……まぁ、もう殺したんだけどさ。



 前回の襲撃から数日後、女は二人の人間をコアイの許へ送り込んでいた。

 二人とも、前回の人間より明らかに強い……それだけではない、そのうち一人は過去に例を見ないほどの魔力の増幅を示していた。


 しかし……人間は女への協力、服従を拒んで死んでいった。



 あの男には少なくとも五倍以上の魔力増幅(エネルギーゲイン)があった、あんなに強く『祝福』が効くのは初めてだったのに……あのクソ男が馬鹿なせいで、満足に力試し(テスト)もできなかった!



 ……そうか、父さんはきっと()()を危惧してたんだ。


 女は、激しい怒りを収め切れないでいる。しかし意外にも、そこに焦りの色は混じっていない。

 何故ならば、女は……既に別の人間たちを何人も、無作為に降臨させていたのだ。

 そしてその時の心身の変調から、おそらく主力となるのは彼らなのだろうと予感していたから。




 前日に遡る……

 女は二人の人間を出現させ、自身のそばに横たえさせていた。


 微かだけど、この男には引き付けられるような魔力を感じる。心身ともに触れていなくてもそれを感じられるということは、相当に和合性が高い。つまり、魔力の相性が極めて良いということ。

 こいつを送り込めば、コアイを倒せるかもしれない。


 そう期待を膨らませていた女の意識に、ふと声が届く。


「ミリアや……」

 柔らかく優しい声、父の声。


「ミリアや、『導術』は使ってみたかの? 優しいパパが、コツを伝授しておこうぞ」


 ふふ、父さん……自分で「優しい」なんて言っちゃってさ。

 あの頃と、同じ。


 過去を思い出し少し感傷的な心地になった女の意識に、知識が湧き立つ。



 曰く、不確定性の拡大。

 曰く、不確定性の拡散による閾値の拡張。

 曰く、確定すべき層別の絞り込み。


 それらを満たす魔術の知見が、女の知識へと染み出してくる……



 女は思わず呟いていた。


「Sigillum……」

「Officium」

「『Red ransom』」

「Nomen」


 その詠唱は、以前と少しだけ違っていた。


「そう。精神、思考と魔力の相性……それらの和合だけを高い領域(プラトー)に固定する。それ以外は制御しないことで、なるべく揺らぎを極大化……」

 詠唱後、女は意識を乱されて父の声を認識しづらくなっていた。

 何かが全身に圧し掛かる、あるいは四肢を引き下ろされる重力のようなものを感じながら……何故か心が激しく高揚する。


「そう、多分その感覚だよミリア。現象にも感じ方にも個人差がありそうだが……それを伴った時、大きな増幅(ゲイン)が生まれるのだ」

 多分? いや多分て父さん、あのさあ……


 それより、誰もここに来ていないことを説明してほしいんだけど……ん、ああ、そうか。そういうことか。

 所在地……発生すべき場も制御されていないのだ。だから今生み出した人間は、既に世界のどこかで現れているのだろう。


 女が疑問を抱くとすぐに、無意識下にあった知識が思い浮かび疑問を解く…………



 女は心身を落ち着けた後、何度か詠唱を繰り返してみる。すると何回目かの詠唱で、先ほどと似た感覚に襲われた。


「それだよ、ミリア……巨大な増幅や付与を生んだ時ほど、巨大な負荷が術者にかかる原則(プロセス)だ。覚えておきなさい」



 どことなく楽しくなってきた女は、また何度か詠唱を繰り返してみる。

 すると……


 !? んんッ……

 突然身体の内がキュッと痛み、思わず呻き声が出た。痛みは四肢にゾクゾクと、寒気のような痺れを走らせる。のち全身でそれが和らぐのを感じて、どこか放心したように吐息を漏らした。

 まるで吐く息と共に抜けてしまったかのように、意識はどこかぼんやりとしている。


「そうだミリア、慣れるまでは『導法』を一日に何度も繰り返さないようにね。反動の質も量も一定ではないからね」


 お、遅いよ、父さん…………苛立つ間もなく、女は微睡んでいた。




 それから……

 女は世界の各地を探し回ってみた。すると確かな力を感じられる男女が一人ずつ、すぐに見つかった。別々の土地にいた彼らに、『伝言』で声をかけてみる。


「俺? 俺、久志(ひさし)ってんだ。アンタは?」

「私はミリア、この世界で神と崇められる者です。あなたに、「魔王」の抹殺をお願いしたいのです」

「魔法の万札?」

「え? いやあなたの力で、この世界を壊そうとしている女、「魔王」コアイを討伐……要は殺してほしいのです。もちろんタダでとは言いません」

「なんか、ゲームみたいだな? 悪人相手ならやってもいいぜ」

「今しばらくは、先程のように人助けをしながら力を蓄えていてください……またお話ししましょう」



「教えて。ここは……異世界ってやつ?」

「そう、だと思います。ここは私、ミリアが統べる世界です」

「そう……ゲームも漫画も途中だし早く帰りたいんだけど」

「一人だけ殺してくれたら、すぐにでも叶えましょう」

「こ、殺す!? そんなこと、か弱い帰宅部女子に求めないでよ」

「大丈夫、あなたなら「魔王」コアイを殺すための強さも、この世界の人々に協力させる力も、すぐに身につくはずです。それに、別の場所にあなたの仲間がいます……一緒にあの女、コアイを討ち取り元の世界へ帰りましょう。ところであなたの名は?」

荒岩(あらいわ)……」

「よろしくね、アライアさん」

「いや、あらいわ……」




 二人とも、奇妙なほど素直に私の話を聞いてくれた。おそらく、『導法』の変更……思考の和合というものの影響なのだろう。

 もう一人いるはずの強者がどこにいるのか分からないけど、この二人をうまく使えば、なんとか…………



 女は彼ら二人を導き、助力し、時には生命の危機から救出し……力を高めさせていった。

 しかしすべてが順調というわけではなかった。もう一人いると思しき、強者らしき人間を確保できなかったのだ。

 それらしき人間はいた、しかしその者は自身の魔力を活かす術を知らぬままコアイと対峙し、「ヒサシ」を緊急避難させた魔術『私に、還りなさい(レランセル)』の効力を受けずに死んでいった。



 あの時、『私に、還りなさい』で手許に取り寄せることができなかった、ならばあの人間は私が生み出し降臨させた者ではなかったのだろう。

 女は父からの知識で、そう判断していた。




 女は知らなかった。

 その時死んだはずの人間の女に酷似した者が、後日コアイと見え生還していたことを。


 しかしそれを知っていたところで、行く先に待つ惨禍の前には……瑣末。

本投稿をもって、『裏面』を終え本編に戻ります……次話からは、第五章となります。

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