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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
裏面 私は、いつでもヒトの為に
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4 Missing Persons(No re-turn no?)

***「裏面」あらすじ***

 「最果て」に住む金髪の女の姿があった。その者は人間のみを愛し、人間のみに与する者であった。またその者はコアイを知っており、同時に強く憎んでもいた。

 コアイの動きによって多くの人間が死んでいく、それを防ごうと女は尽力する……ときおり、人間の愛情に萌えながら。

「チクショー! もう一回くらい、会いたかったなあ! 会いたかったよ、ビル」


「けど大丈夫、きっともう……遠くま……で…………」

 人間の身体は冷たい風刃に引き千切られていた。

 人間の半身は血を吐きながら空を見て、何かを願うように言葉を発しようとして……動かなくなった。


 そしてそこから、少しだけ……女の身にちからが届いた。




 うーん……途中まではいい感じだったんだけど。



 女が人間に授けた魔術も、女の『祝福』により増幅され強化された魔力も、「魔王」コアイの生命には届かなかった。


 『聖域』……あの女の、まるで世界のすべてを拒むかのような護りの壁……やっぱり、アレが破れない。

 今回、相性バツグンとまではいかなかったけど、あの女魔術士の魔力はかなり高かった。十分に力を移し、引き出し、共振させ、さらに高められていたはずなのに。


 今生きているヒトの中に、あの魔術士以上の力を出せる適合者はいないかもしれない……

 とは言え、次の適合者を探す他に手は無いかな。



 はあ……なんか言うこと聞かなそうな王族? あのヒトはちょっとめんどくさそうだな……まあとりあえず争いは収まったようだし、少し休んどこうか。


 女はしばしの休息のため、一時意識を手放した…………




「ミリア……ミリアや…………」

 いつしか女にとってひどく懐かしい声が聞こえ、その意識を取り戻させる。


「ミリア、ミリアや……パパだよ。この声が届くということは、ずいぶん悩んでいるんだろうねえ」

 女の意識に、父の面影が浮かぶ……


「そう、パパだよ。そしてこれはパンフ」

 父の優しく柔らかな微笑みが、女の意識に語りかけてくる。



 …………えっ?


 えっちょっと待って、どういうこと?

 いつものアレ? にしては、「パ」しか合ってないじゃない……

 それなのに、父さん……


 その言葉には困惑しながらも、女は父の気遣いに感じ入る。

 それに応えたのかは分からないが、意識に映る父の笑顔は小冊子のような表象に切り替わっていた。


 女はその表象に触れ、開いてみる。

 すると何らかの知識が、激流のように力強く女に流れ込んでくる。




 父さんが遺したこの秘術、父さんがくれたこの想い。


 女は概ね理解した、おそらくは有事の際を慮って父が編み出しておいてくれた、遺しておいてくれた秘儀。

 女は詠唱してみた、おそらくは父の最期の業、温もりと気遣いに満ちた父がくれた秘儀を。


「Summonitores……」

「Officium」

「『Red ransom』」

「Nomen」


 「血の贖罪なる名の責務」……かな? なんだか物騒な物言いね。

 そう感じた女の目の前に、人の姿が横たわっていた。それはヒトに見えるが、アマレを感じない……おそらく、女が慈しむ「ヒト」とは別種の人間なのだろう。


 なるほど、()()を使ってやれば、わざわざヒトを危険な目にあわせる必要もないのか。


 そう判断した女は早速、コアイの居所を探るため小鳥に「繋ぐ」。



 どうやらコアイは既に、居城とするタラス城に帰還しているらしい。城壁の内側でコアイの存在を感知した女は、そこに先程の人間を送り込もうと考えた。

 地形を確認してから一旦小鳥との連繋を弱め、本来の居場所から人間をそこへ飛ばす……


「生けるもの、飛んでいけ。飛んでいけ。 『空航(アヴィオン)』」


 女の詠唱が城市に赤い光の柱を突き立て、そこに人間を送り込む……

 しかし詠唱を終えてから、女はちょっとした失敗に気付いた。


 送るより先に説明しておくべきだったかな……まあいっか、今回はしょうがないからダメ元で『伝言』してみよう。



「そこな者よ、聞こえますか? あなたの使命は、魔王コアイの抹殺です……」

 女が『伝言』を与えると、意外にも人間はすぐに起き上がり反応した。


「な、なんだこれ……? なんだよ使命って!? ていうか、お前誰だよ!」

 人間の態度は反抗的だった。


「うるさいですね……言うことを聞いてくれたら、あなたの望みをかなえてあげます。元の世界に帰るもよし、ここで王となるもよし」

 女は不快感をこらえて、適当な提案で人間を懐柔しようとした。


「魔王コアイ……それは美しい女の姿をした、人類の敵。どうか、あなたの力で殺してください」

「あぁん!? その、こあい? って女を殺せって、そういうことか?」

 人間の粗暴な物言いは気に食わないが、協力はしてくれそうだ。

 女はひとまず満足し、様子を見ていると……魔力の膨張を感じて、のち人間が斬られていた。


 えっ……この人間、弱すぎ……?



 人間は力なく崩れ落ちた、そしてそこにコアイが近寄ってくる。

 女はコアイに気取られぬよう、気配を殺して小鳥を隠れさせる。そうしてから、コアイの動向を覗く。



「あ、あんたが、こあい? あんたを殺せば、元の世界に帰してやるって、声が……」

「それは、女の声だったか?」


「ああ、そうだと思う……それより、助けてくれよ…………」

「その女の声は、他にどのようなことを言っていた」


 ろくに使えないくせに、簡単に私を売ろうというのか。


 女は舌打ちし、早めに人間を消したいと欲した。すると先に受け止めた知識の、まだ意識していなかった部分が呼び起こされる。


「『Red ransom』」

 力一杯に眉を寄せて縦じわを作っていた女は、小声だが強い調子で呟いた。


「ああ、ほか……アッッ!?」

 すると人間の身体が突然発光し、輝きとそれに伴う微かな熱を放つ……

 女には人間の苦痛が伝達され、女はそれに少しだけ満たされる。



 うーん、いまいちだなあ……

 けど父さんがわざわざ遺してくれた魔術が、役に立たないはずがない。

 何かコツや見落としがあるのかもしれない、もう少し試してみよう。


 女は小鳥との連繋を切り、一度休むことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 「父さん」....何者? 人間を裏から操る存在気になりますね
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