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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
裏面 私は、いつでもヒトの為に
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2 I AM YOUR MASTER

本章は少し時系列をさかのぼった、別視点で描写した部分となります。

 な、なんて事なの……


 ヒトの城が、先住民(エルフ)に奪われた。いや……あの女に奪われた。


 どれだけのヒトが、犠牲になったのだろう……まさかアイツが、こんなに早く動くなんて?

 けど、アイツは……ただヒトを襲うために忙しく動くような女じゃなかったはず。

 何が目当てなんだろうか……?



 エルフ達の居住地である大森林の主要地を抑えるアルマリック伯領、その主城タラス城の上空で一羽の小鳥が舞っている。


 小鳥が踊る空には、脂と肉が焼けた匂いを伴う香ばしい煙が穏やかに立ち上っていた。

 煙の立つ根元では十数名の人影が円形に集っており、その中心では積まれた(たきぎ)が赤い炎を輝かせている……



 いい匂い……だけど、悲しくなる匂い。


 この痛み、悲しみは、まさか生きたまま……? そしてあそこで焼かれているのは……



 そこで焼かれていたのは、領主アルマリック伯……言うまでも無くヒトである。

 ()()を察した小鳥はひと粒の涙を零した……小鳥を操る女の意識がそうさせていた。その水滴は、赤い炎の傍に落ちて……ヒトだったものを癒やすこともなく乾いていった。

 それに気付いた者もいない。



 先住民(エルフ)ども、私たちのヒトを玩具みたいに扱いやがって……汚らわしい、汚らわしい!!


 女は、火炙りにされているアルマリック伯がエルフ達にどのような悪事を働いてきたかを知らない。いや、知ったところで……それに義憤も、哀悼も、いや興味すら持たないだろう。

 女にとっては、この世界に棲まう生物、ヒト以外の生物は、全て……ヒトのために存在するのだから。



 小鳥は少しの間顔を上げて雲を追ってから、再び地上の人だかりに目をやる。

 円形に集う人影から少し離れたところに、別の人影があった。それに少しずつ近付いて姿かたちを確認すると、人影の一つは目を引く美しさを有していた。


 相変わらず、澄ました顔していやがる。

 それにしても、コイツがエルフと協力……いや、それは別におかしくないか。


 できればすぐにでもブチ殺してやりたいけれど……ここにはヒトがいない、私が『祝福(オラト)』できる相手がいない。もちろん今の私……この身体では力不足。

 見つかる前に、立ち去っておこう。


 小鳥は誰に感付かれることもなく去って行った。



 あの頃と、同じ。アイツは相変わらず、出来損ないなのだ。




 それから世界では半月ほど過ぎただろうか、小鳥は先日の城より北の、別の場所を漂っていた。

 そこでは人間の戦士たちが、「魔王」を討つべく戦端を開かんとしている。



 おやめなさい、貴方達では「魔王」には勝てない……無為に生命を捨てるのは、やめて……


 おやめなさい、早くお逃げなさい…………



 小鳥は何とか戦士たちに思いを伝えようとしていたが、彼らにそれを感知した様子はまるで見られなかった。



 ダメか……ここの連中、『祝福』どころか『伝言(ベル)』も出来ないなんて。ついてない。

 この人数なら、たいてい二、三人くらいは『伝言』できる程度の共鳴があるはずなのに。


 いや信仰心溢れる歌まで歌ってくれて、お蔭で濃密なアマレが私に届いてて……それはまあありがたいんだけど。


 けれど。

 ヒトが傷つき苦しみ、死んでいくところなんて見たくない。



 そんな女の願いは届かず、戦士たちの大半が……「魔王」が生み出した無尽の狂風と石礫に蹂躙され、多くの血を流してしまった。


 そして死の嵐を生き残った者たちも、やがて……



 小鳥はそれを見て、涙を零しながら飛び去った。



 クソっ……アイツを討つ力を貸すどころか、助けることもできなかった。

 私がいながら、(ヒト)たちに何もしてやれなかった。


 多くのヒトを、死なせてしまった。

 悔しい。悲しい。  悔しい。



 けれど、ただ悔やんでいても始まらない。


 それに、アイツの活動範囲が拡がってきている。

 昔のアイツは、ただヒトを襲うために動き回るような女じゃなかったはずなのに。

 相応の強者との戦闘でもなければ、自分から動き出すことも少なかったはずなのに。


 けれど、今のアイツは……何か、私の知らない目的があるのだろうか?



 ……まずは、ヒトたちに広く私の声を『伝言』して、アイツの脅威を伝えよう。

 そして私も、アイツを殺すために……


 今の私の力は、どのくらい蓄えられているのだろうか。

 ヒトたちから受けるアマレの量は、十分なはずだけど……時間が足りていない気がする。


 『祝福』を試す機会があればいいのだけれど。

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